サンタとケーキとバイキング(前編) |
宇宙戦艦(本当に戦艦なのか、管理人も疑わしくなってきています)ギャラクティックジョーズ。 副官の朝は早い。 いや、だが、早い、といってもこれは早すぎるのではないだろうか…… 彼は午前４時半に起床し、身支度を整え、そして、５時からコーナーの壁にもたれてこうやって待機している。誰に命じられたわけでもない、ここで彼がこうしていなければ、艦内の業務に支障をきたすわけでもない。ただ、艦の平和を維持するには、自ら動いた方がよい……そう判断して彼はここにいる。 ５時10分。もうすぐだ。彼の者はほとんど同じ時間にこの艦へとやってくる。ほら、自転車の音がする。そして、止まった。スタンドを立てる音。そして足音が聞こえてきた。タッタッタッタ…… 「しんぶんで〜す！」 ジンベエ自らが設計した新聞受けに朝刊がパサッと小気味よい音と共に投げ込まれた。ブルーは新聞を掴むべくダッシュしたが…… この艦の司令官、ジンベエ＝フォン＝シャークスコッチその人が、テレポートして現れたではないか！一分の隙もなく、紫紺の服を着、今日は何故か紫紺の毛糸マフラーとマントを同時にはたはたと翻したジンベエは、優雅な動作で新聞を拾い、エアロックの向こうへと声をかけた。 「毎朝ご苦労である。近頃随分と冷え込む故、体には注意するのだぞ！」 扉の向こうから、はい、有難うございます！という爽やかな新聞少年の声が聞こえ、タッタッタという足音が今度は遠ざかっていった。ジンベエは満足げに一つ頷き、今気づいたというようにブルーに向き直り、すっと絹の白手袋を嵌めた右手をあげた。 「おはよう、ブルー。いや、今時感心な少年ではないか！家業の工場経営が立ち行かなくなり、少しでも家計の足しになるようにと早朝から新聞配達に精を出していると聞く。あの少年だけではなく、兄も深夜のアルバイトに携わり、中学生の妹も、総菜屋で手伝いをしているという！あの少年とその家族に幸あれ！」 この宇宙船のエアロックに、何故新聞少年が走ってくることができるのか、などと考えてはいけない。クロネコやペリカンや某0123と同じく、新聞少年はどのような場所にもやってくるのだ。 ブルーは“おはようございます”と敬礼し、しかし、その視線はジンベエの掴んだ新聞に釘付けになっていた。 ジンベエが『新聞なるものを購読してみたい』と言ったとき、ブルーは特に危機感を持たなかった。特殊な新聞ならばともかく、発行部数の多い日刊紙ならば、怪しい記事はあまりないことだし、むしろ、新聞に目を通すことは、ジンベエにこの世界の現実を客観的に捕らえ、(奇矯な行動に走ることなく)情報収集するのには良いアイテムの一つに思えたのだ。 しかし、それは甘かった。 いや、ジンベエは熱心に新聞を読んだ。一面からテレビ欄まで一字一句省略することなく読んだ。それについては全く問題はなかった。 問題は、ジンベエが新聞そのものよりもそこにはさまっている折りこみ広告に嵌ってしまったことだった。車の売り出し、塾の無料模擬テストのお知らせ、墓地販売、スーパー安売りチラシ、なんだか怪しい健康食品宣伝……そういったものを、ジンベエは新聞と同じく一字一句省略することなく読みふけったのだった！先日、ジンベエの執務室に行ったときには、壁面に分譲開始の新しいマンションの美麗なチラシが数枚貼り付けられていた。何ごとかとブルーが顎を落としているとジンベエは言った。 「うむ、貴殿もこの間取りには興味があるか。……この真正面のチラシの物件は実に素晴らしいと感じるのだｖ見よ！このウォークインクローゼットの配置を！そしてこのポーチのデザインを！居住性を犠牲にすることなく、装飾をこらしたこの設計者に乾杯！……右隣の物件は惜しい！実に惜しい！どうみても価格が設計に釣り合わぬではないか！しかしながら、この立地でこの金額というのは、破格なのだそうだ。旭が丘囲碁将棋クラブ会員の不動産屋のご隠居が非常にわかりやすく教えてくれたのだぞｖ」 ブルーはすぐに行動を開始した。ジンベエの副官としての一番の責務は、ジンベエの暴走を未然に阻止することである。今までブルーは非常に苦労してジンベエの周囲から「嵌ったらあぶなそうなもの」を遠ざけてきた。今までジンベエが何かに嵌ると碌なことは起こらない。今年の夏、ホラー映画に嵌ったときも、その前に「壺振りお竜」に嵌ったときも、いや、数えれば枚挙にいとまがない。絶対に遠ざけなければいけないものは数多くある。例えば激辛食品(艦内で激辛ブームが起こること必至)、例えばネットゲーム(嵌りすぎて艦内をコスプレして歩く乗員が出没することは必至)。例えばM-1(艦内で漫才ブームが起こったときどのような事態が発生するかブルーは想像したくもなかった)。そして、ブルーは非常によく働いていたのである。 さて、諸君、ジンベエがなぜ戦隊モノに嵌らないか疑問に思ったことはないだろうか。あの教授、あのくるみ、そしてあのナナちゃんが傍にいて、何故に戦隊モノに興味を示さずにここまできたのか非常に不思議ではないか？ それはすべて副官の尽力によるものなのだ。ギャラクティックジョーズ艦内で戦隊モノが流行ったら……色とりどりの煙が出る爆薬があちこちで炸裂し、『新必殺技』の研究で捻挫だの骨折だのする者が出、ジンベエ自身は『宇宙の平和を乱す悪のアジト』を探しにお忍びで(ルンルンと)放浪の旅に出てしまうだろう。もしかしたら巨大ロボだって作ってしまうかもしれない。 危険すぎる、危険すぎる、危険すぎる!!(>_<) 今までそうならなかったのは副官が絶妙のタイミングでジンベエの関心を他にそらしてきたからなのだ!! であるからして、ブルーとしては、ジンベエが目にする前に、新聞の折り込み広告に先に目を通し、危険な匂いがするものは抜いておきたかったのだが…… 眉間に皺をよせるブルーを他所に、ジンベエはうきうきとして新聞本体を傍らの棚に置くと折りこみ広告の束を手にして早速目を通し始めた。その端正な顔に困惑の表情が浮かんだ。 「む……」 「ど、どうされました？」 「ブルーよ。バイキング、というのはどのようなものか。」 「はッ、バイキングとは、過去、この惑星の現在は北欧といわれている地域で、船団を組み、他国へと攻め入った勇猛果敢な……」 「む？その勇猛果敢な諸氏とこの写真はどのような関連があるのであるか？」 ジンベエが手にしていたのは、地域のミニコミ紙だった。載っているのは水島グランドホテル最上階の展望レストランでの「クリスマス特集ケーキバイキング」のイメージ写真。 「ああ、そちらのバイキングですか。それは食事の形式で、並べられているものを好きなだけ取ってきて食すというものだそうです。」 ジンベエは切れ長の紫紺の瞳を丸くした。 「このようにたくさんの甘味がひとところに一度に並べられるというのか？」 「はい。この場合、ケーキに特化したもののようですから、種類が多いのでしょう。」 「好きなだけ、本当に満足の行くまで食してよいのか？」 「はい。時間制限が存在する場合もありますが、一律の料金で、好きなだけ、というのがバイキングの標準形式ではないかと。」 ジンベエは一度ミニコミ紙を抱きしめ、次に両手で空に向かってかざし、ついで膝を折って何者かに祈りを捧げた。 「感謝を！“ばいきんぐ”と我の出会い、偶然を必然と成した運命に感謝を！」 そして、次の瞬間、ジンベエはシャキーンと背筋を伸ばして立ち上がった。 「時にブルーよ、貴殿、ここに書かれている期間ではいつが暇であるか？」 「は？私の予定をお聞きになってどうなさるのですか。」 「いや、ここに『ペア』ならば割引、と書いてある。」 「折角ですが、私は甘味の方は苦手で……」 これは本当のことである。……もっとも普通の甘味ならば、ある程度は嗜む。しかし、ジンベエの場合、紅茶には６杯以上(もちろん大匙でだ！)砂糖をいれるのが常、そのジンベエが「甘味」と表現するもの……それは副官にとって地獄の責め苦に等しい。 「そうか……貴殿、忙しいのであろ。引き止めてすまなかった。では。」 右手に広告の束、左手に新聞を持ち、心底悲しそうに去っていくジンベエを見送りながら、ブルーは複雑な思いだった。 ジンベエがケーキバイキングにいったからといって、それほど大きな騒ぎにはなるまいというのはは楽観論である。ジンベエは不可能を可能にする男。火のないところでも煙をたたせる男。侮ってはならないのだ。しかし、あのように意気消沈した姿を見ると可哀想にも思えてくる。 一方、ジンベエはあれやこれやと考えていた。 (ふむ、他に誰もいなければ一人でも行くのだが……甘味を愛する友と“ばいきんぐ”を堪能する喜びを分かちあいたいものであるな。) 首に巻かれた紫紺のマフラーをじっと見る。紫紺と、それより少し明るい紫の極細の毛糸で目の揃った千鳥格子に編まれたマフラーは、“少し早いけれどクリスマスプレゼントですよ”と紫乃さんから渡されたものだった。彼女はあんみつを初めとして甘いものが大好きであるが、彼の人は、今頃彼女の屋敷に間借りする植物学の学徒と共に箱根に温泉旅行に行っているはずだ。 (他には……) ジンベエは、くるみの顔を思い浮かべた。彼女もまた甘味を愛する者の一人である。 （いや、くるみは今、死にそうなほどに忙しいのだといっていたな) かねてよりくるみから、落ちる、だの、割り増し、だの、コピー誌、だの、搬入、だの、その道のギョーカイ系修羅場トークを聞かされていたジンベエは、くるみもまた誘えない、と結論した。 （ああ、こんなときに、我が愛しの乙女がいてくれたら！) 時空を越えた某所で光太郎が盛大なくしゃみをしたが、彼の場合、近くにいなくて正解だろう。 そもそも乙女じゃないし。(でも、ハートは乙女だと思うんだけどね…) (あとは……そうだ！） 一瞬にして、ジンベエは地上へと転移した。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「は？ケーキバイキング？」 旧学館地下、教授言うところの“地球防衛本部”で、歯ブラシに歯磨き粉をつけようとしていた石黒慎一は突如現れたジンベエから、ケーキバイキングの話を持ちかけられて聞き返した。 「嫌であるか？」 「いや、朝一で聞く話題としては珍しいな、と思った。しかし、わざわざ俺を探して来たのか。ここにいるってよくわかったなあ。」 そもそもジンベエは慎一と特に親しいわけではない。一緒に旅行にいったことが一度あるくらいだ。 「アパートにも寄ってみたのであるが、貴公がいなかったので、貴公の飼い犬に訊いてここに来たのだｖ」 ケルビー、喋ったんかい？ま、ジンベエに対しては生き物だったら音声でなくとも皆何か言いそうな気がするが。 「で、どうなのだ？」 慎一は歯ブラシを持ったまま首を巡らせた。 「……吉岡先生、明日の昼、ちょっと外に出ていいですか？」 スプリングが飛び出たソファーに横になっていた教授は頷いた。 「だから、何度もいってるじゃろうが。ここでは“教授”ではなく“長官”と呼べとな。むう、外出か。かまわんぞい。明日の夜は“スペースRスペシャル 救え！みんなのクリスマス”があるから研究開発は一時中断ぢゃｖ」 「……昼のことを聞いているんですが。」 「ぢゃから、夜に備えて、昼からスペースRのDVDを一気に鑑賞せにゃらなん。これこそファンの正しい姿、ぢゃ！」 教授の頭の周りを、金色の粉を周囲に振りまきながら可憐な妖精が飛び回った。 「ナナも賢者様と一緒にDVDを見るです〜昨日発売されたvol12には、15分間の特典映像があるですよ〜」 「そうぢゃｖ♪今からたのしみじゃのぉ。」 慎一はふうっとため息をついた。 「……ってことだ。」 ジンベエは一度慎一の手を熱烈にぎゅっとにぎってからつま先回転してみせた。一緒にワルツを踊ろうとするジンベエの肩に手を置き、慎一はトントン、と二度叩いた。 「ジンベエ、落ち着け。水島グランドホテルのケーキは美味いから、俺も大歓迎だが……ホテルに迷惑かけないように、食べる量をセーブしなけりゃいかんな。ところで、費用は大丈夫か。」 「そこらへん、ぬかりはない。こんなこともあろうかと、新宿でケンちゃんに頼み込んで短期アルバイトさせてもらっていたのだｖｖ」 あんた、またあそこで○ストやってたんかい!? 「そうか。なら、いい。じゃ、俺が予約をいれておこう。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ そして、決戦の日がやってきた！ 「慎一殿！迎えに来たぞ!!」 いつもどおり、紫紺のマントをバサリと翻す。紫乃さんからのプレゼントのマフラーもしっかり首に巻かれている。手にしたチェックの紙袋はクィー○ズ伊○丹のものに相違ない。 「ああ、随分早いな。ちょっと待ってくれ。今、したくする」 ……ジンベエの格好を見て、“その格好で行くのか”という問いを発しない男、慎一。お主、以前に輪をかけて肝が据わってきているねぇ。 さて、白衣を着たまま工具をケースにしまい、汚れた手を石鹸で洗い……と支度をしている慎一の横で、ジンベエはうずうずしていた。 （まず、初めはショートケーキであろ？前菜としては基本的なものこそが相応しいｖ) ケーキバイキングに前菜も何もないと思うが…… (飲み物は……未知の場所ゆえ如何なる飲料があるかわからぬが、クレーム・ド・カシスはあるであろうか？) そんなだだ甘のものをケーキと一緒に飲む、と？ (記事によれば、30種類以上のケーキがあるとのことであった。一皿に何個ものケーキを置くのは美しくない！しかし、一種を一個ずつとって30回、三個ずつでも90回席を立たねばならぬ。そちらの方が動作として醜悪ではないか。) あんた、何個喰うつもりなんだね？ (今から心を騒がせてどうする。ジンベエよ、落ち着け。落ち着くのだ。……ケーキに足が生えて逃げることはないのだぞ。) あんたが行けば、ケーキに足の10本や20本生えてもおかしくないと思うぞ。 念入りに手を洗う慎一を視界の端に捕らえ、ジンベエは彼が先程までいじっていた機械に目をとめた。 これはなんであろうか。 何かよくわからないメカメカしい黒い塊が鎮座している。 おい、これは、やばいよ？昔あの『番外激闘編』(←リンクはっときますね)で出てきた…… そう！これこそが悪名高い(←としか今は言いようがない)『跳躍機械』である!! 「ん？このレバーは何であるか？まるで引いてくれ、と私を呼んでいるようだ。むむ、おお、この金属ケースにひっかかっているではないか。ふふん、このようなものは容易く外せるぞｖ」 「おい！ジンベエ！それは物騒だから、安全のために付けたカバーで…」 「んｖｖｖｖｖどうした？そんなに慌ててｖｖｖｖｖ」 ガコン。 うわぁぁ、今、ガコンっていったよ？ ガコンっていったよね!? 助けて下さい！！私は今世界の中心で助けを求めています!!神様仏様、こっくりさんにアフラマズダ！おいそこの宗教関係者の皆さん方、どうにかできませんか!! クリフト・ディルト・コープル・サウル・キルロイ・シェンス「「「「「「ジャンルが違うからダメです」」」」」」 ケチ〜〜ッ！と、悪態をついている間はない。(それに彼らが祈っても、こういう事態はもやは回避不能) 作動する跳躍機械、次元の転移が始まり、既にジンベエの姿は朧になっている。機械を止めようと文字通り飛び込んできた慎一もレバーに手を届かせる前に転移の歪みに捕らえられてしまった!! 二人の姿は白い光に包まれてその場からいずこかへと飛ばされたのであった。 いずこかっていっても……予想はつくんですが。 つくからこそ、超絶怖いんですけど。 多分、あの、赤とか青とか黄色とか緑とかピンクとかの「えいやぁッ！」って世界なんですけど!! ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「クシュン！」 呉内 焔(くれない ほむら)は盛大にくしゃみをした。 ……やっぱりあんたらの世界かい。 「やっぺぇ。風邪ひいちゃったかな？」 12月23日、ここ、レンジャーベースでは、ちょっと早いクリスマス会(これアップしてるのはクリスマスが終わったあとなんですが、一応クリスマスなんですクリスマス更新なんです！((涙目))が開かれていた。箱からティッシュを一枚取り、ちーんと鼻をかむ焔に蒼井がやれやれ、といった目を向ける。 「珍しいな。○カは風邪をひかない、というが」 「いや、ホント、俺が風邪ひくなんで珍しい。バ○は風邪を……おい、蒼井！何言うんだよ、は、は、ハークション！」 オペレーターとしてスペースRをバックアップする白石 純香が心配そうに焔を見た。 「呉内君、大丈夫？空調、ちょっと寒いかしら？」 焔は途端にしゃきっと姿勢を正した。 「いやいや、大丈夫。ほら、純香さんに貰ったこの赤いマフラーしてれば、無茶苦茶あったかいから平気平気！」 そういって首にきゅっと巻かれた赤い手編みのマフラーに大切そうに手をやった。……焔の純香への恋が実ったわけではない。クリスマスプレゼントとして全てのメンバーが純香お手製のマフラーを貰ったのだ。勿論、色は蒼井…アイスブルー 黄田…黄色 リヒト…緑 園子…ピンク マゼンタ…マゼンタだったりする。(灰谷司令にはグレーの素敵な奴を事前に贈ってある。ご心配なく)でもって、全員に手編みマフラーを贈ったのは、ただ一人の意中の人に手渡すのがひたすら恥ずかしかったからというダミーだったりする。(そして、その意中の人のマフラーには、他より精緻な編みこみ模様が施してあるのだが、今のところ誰もそれに気付いた様子はない) と、緊急連絡が入った。手近に居た蒼井がスイッチを押す。 「こちら休憩室だ。何？そうか。うむ、ああ、頼む。」 スイッチをオフにし、蒼井はリヒトの前に行った。 「リヒト。黒崎君がレンジャーベース内で倒れていたそうだ。意識を失っているが、外傷はないということだ。彼は我々の秘密を知る人間。ここに運んで貰うことにした。」 金髪翠眼の貴公子は驚きの色を浮かべた。 「クロが？……何故ここに。彼はドイツに帰ったものとばかり思っていたけど。」 説明しよう！黒崎 漸(ゼン)はドイツ警察でリヒトの同僚だった人物であり、リヒトの『あんなこと』や『こんなこと』を知っているらしい。リヒトとは腐れ縁で、リヒトは彼を『クロ』という愛称で呼ぶ。黒崎は医師免許を持ち、検死を含めた科学捜査のプロであるが、銃の名手でもある。クールでどことなく影があり、ありとあらゆる伏線やらヒミツやらを背負っていそうな彼は、そのテのキャラが大好きな層に大受けし、サブキャラでありながら人気急上昇中である。でもって、実は裏設定として、悪の総帥アック＝ダーマ一族から逃亡した女性を母に持っているという。彼は味方か、それともダーマ一族の手のものか、という議論がファンの中で今も起こっているが、それは彼の名を見れば明らかである。 だって、彼の名前は漸(ゼン)だから え？わからない？ もっと言おう。彼の本来の苗字は“ダーマ”だから!! そこ！これくらいで顎を落としたりしないッ！こんなことで顎が落ちているようじゃ、東京ドームシティで“僕と握手”できないゾ ひとまず、その冷静沈着な黒崎が倒れているというのは尋常ではない。 「黒崎さん、何かに巻き込まれたのかもね。マゼンタ、何か感じる？」 「いいえ、今のところ、私のテレパシー網には何もひっかかってきませんわ。」 「とにかく、ここで手当てをしなけりゃ。自分、黒崎さんを運ぶのを手伝ってきましょうか。」 「ああ、そうしてくれ。」 「おい、あのさあ、リーダーは俺なんだけど、俺！何で蒼井がみんな仕切っちゃうのかなあ。ムカつく〜」 「んなもの、焔が頼りないからに決まってるでしょ！」 その通り!! とかなんとか言ってるうちに、黒崎さんが運ばれてきたようですぜ。 白衣姿の黒崎は、簡易ベッドに寝かされ、少々は医術の心得があるリヒトが脈をとっている。と、黒崎が眼を細くあけた。 「クロ！一体何が起こったんだ！」 黒崎はポリ、と頭を掻き、目の前の人々を見、一度大きく息を吸い、吐き、胸に右手を当てるとリヒトに尋ねた。 「あなたは、リヒト＝グリュネルフラッスさん……ですか。ええと、ここはレンジャーベースっていうところなんでしょうか。」 「どうしたクロ！記憶に混乱があるのか？」 「いや、参ったな……どうやって説明したものか。……うーん、クロはクロでも、俺は石黒。石黒慎一という者で、水島大学の大学院生で……」 「？？？？？？何冗談言ってるのさ。僕をリヒトだって知っていて、しかもここがレンジャーベースだと知っている君は黒崎以外の何者でもないだろう？」 「弱ったなあ。皆さんのことはくるみからいろいろ聞いて(←その実、くるみが一方的にしゃべくりまくり)いたので知っているんですが……」 「くるみ？そんな人物はレンジャーベースにはいないよ。外部にここの情報が漏れているはずもない。」 「うう、……とにかく、俺はくるみのいっていたように、その黒崎って人に異様に似ているらしいな。」 関連短編にリンクはっときますね→こちら 埒があかない、と見たのか、蒼井が割って入った。 「黒崎さん、いや、石黒君、といったかな。リヒトも言ったが、ここの情報が部外者に漏れることなど考えられないのだ。君が黒崎さんでないというのなら、それを証明して貰いたい。」 「証明……。ああ、例えば俺は黒崎って人みたいに銃の名手じゃあない。」 リヒトが顔色を変える。 「クロが銃の名手だってことは、ドイツ警察でも数人、日本じゃレンジャーベースの人間しか知らないことだぞ！」 園子がうんうん、と頷く。 「それに、射撃をして外したからっていって証明にはならないわ。わざと外してるのかもしれないし。」 慎一は口を引き結んだままアレコレ考えた。 おいおい、その冷静なところが一番疑われてるんじゃないかい？普通、異空間にとばされて、お前さんみたく落ち着いている奴ってばあり得ないからさ。お、何か思いついたかい。 (つまり、『黒崎に出来て自分にはできない』ことではなく、『黒崎が出来なくて自分にできること』を探さなければいけない、ということだ。) それは何か？黒崎は医師であり、銃の名手であり、リヒトの親友であり……慎一にないスキルをいろいろと持っている。さあ、石黒慎一の持つ特殊スキルは一体何なのか。 「あの、こんなことが証明になるかわからないですが。……メシ、喰わせてくれませんか。丁度腹も減ってきたし……」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ それと同じ頃、ジンベエは硬いベッドの上に寝かされていた。ちょっと見、人体改造用の手術台に見えなくもない。ダーマ13翼将の一人、武闘派の将、『カーン＝シャーク』は眠るジンベエの脇腹を、トンファーで小突いた。 「こんな奴が役に立つというのか？俺にはただのド派手な優男にしか見えん。」 傍で、頭脳派(と自分では認識している)『カクーシ』が含み笑いをした。 「私もこの男が倒れているのに遭遇したときにはそう思いました。しかし、こ奴から湧き出る正体不明のオーラ！このオーラを利用すれば、今回の私達の作戦の成功率が増すことは確実。第一、このような破格の魔力を持つものは、地球という惑星には存在しないはず。ならば、こ奴は我らと同じく、惑星征服を目指してこの地に来たのだと私は思いますよ。カーン様。」 「う、うむ。しかし、しかしだな。今回のお前の『偽サンタ作戦』(←お約束。脱力して笑ったりしてはいけない)そのものにちょっと無理があるのではあるまいか？」 カクーシはまた笑った。 「無理、などではありませんよ。」 そうそう、そして、行事ネタは戦隊モノにはとっても大切だよ。 カクーシの傍の椅子にはサンタが一人ゆったりと座っていた。しかし、その青い眼は、慈しみ深い赤いご老人の瞳とは似ても似つかぬものであったのだ。 |
| クリスマスは過ぎてしまいましたが、クリスマスを舞台にしたバクロマン短編です。ジンベエや慎一へのコメントをいただきましたので、今回、メインをこの二人にしてみました。寒い冬に寒いギャグが吹き荒れておりますが、後編(１月に更新予定)ではますます寒くなる予定。そして、ジンベエはそのつもりがないにも関わらず、悪の結社の一員になってしまうのか？(…コスチュームからして悪役ですよね、ジンベエ) |
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