| 宇宙警察スペースＲ 番外激闘編 ６人目のレンジャー（前編） |
「はあああああああああ」 ・・・・・・・・・・・・・ 「はあああああああああああああああああああ」 水島大学旧学生会館跡地地下、教授いうところの“地球防衛本部”で、この部屋の主、吉岡長官は今日何度目かの長々しいため息をついた。白衣姿でソファーに座り、膝にひじをつけ、苦悩の表情を浮かべて頭を抱えるその姿は悲壮感に溢れていたが、スプリングがびょんびょんと飛び出したクッションといい、抱えた頭の前に置かれているまだインスタントラーメンの残りがはいったどんぶり（←因みに大学生協の食器を不法に持ち出し）といい、総合的に見ると「すごぉく怪しげ」以外の何者でもない。 「はあああああああああああああああああああああああああああ！」 教授は今度は最後に感嘆符をつけてみせた。 「諸君！わしは何回『あ』といったかおわかりぢゃろうか？」 ・・・・・何遊んでるんですか。先を続けて下さい。 「因みに正解は55回ぢゃ！『５』は今日のわしのラッキーナンバーなのぢゃぞ！朝のテレビで占いお姉さんが教えてくれたのぢゃｖｖ」 ・・・・・・・だから続けて下さいってば！ 「むぅ・・・・若いモンは人生をゆったり楽しむ姿勢にかけるのぉ・・・わかったわかった」 腕時計に目をやる。・・・・・・・もうそろそろ開演の時間だ。 「何でくるみ君がフェスティバルに参加できて、地球防衛隊長官たるわしが駄目なんじゃぁーッ！」 フェスティバル・・・・それは、子供向け戦隊番組「宇宙警察スペースＲ」の武道館を借り切って行われる特別フェスティバルのことである。たかが子供向け番組とバカにしてはいけない。俳優たちは吹き替えなしでバトルシーンを演じるほどアクションの技術が高く、演技もなかなかのものである。本来の視聴者層として想定されたちびっこはもとより、作品にラブコールを送る人々の数はたいへんなものだ。若い俳優人気も想像を絶するほどで、特に「ブルー」こと蒼井 氷河は人気大爆発で女子高生から世の奥様までを巻き込んでファンクラブ会員数は5000人を越えるという。もちろんくるみも会員だ。更に、小さな頃から戦隊ものが大好きで、オトナになってからも好きで好きで仕方がない人々もまたファン層の一角を占めている。もちろん教授はこの層に入る。（もっとも教授には小さな頃の体験はないが）おもちゃからブロマイドに到るまで、グッズの売れ行きも良く、スペースＲは某テレビ局のドル箱番組なのである。 今回の特別フェスティバルでは、５人の若者を演じる役者が一同に会し、大規模なワイヤーワークなども用いた１時間半に及ぶ劇を上演する。もちろんスタントマンを使った吹き替えはない。彼ら自身が一流のスタントマンとしての教育を受けていたのだから。そして彼らに指令を伝える白石 純香役、清純派として将来有望な新進女優と、性格俳優として渋い演技で以前から定評があり、この番組への出演で子供番組の新境地を開いたと専らの評判の灰谷 警悟役の俳優もフル出演する。劇のあとはトークショー、歌、チャリティーオークションなどが続く。さらに！このフェスティバルで『幻の６人目のレンジャー：情報初公開！』などといわれれば、ファンが騒がぬわけはない。 当然チケットは予約開始と同時に完売。くるみはファンクラブの特別枠に当選してめでたく１枚をゲットしたが、教授は電話の前で懸命に頑張っても予約が取れなかったのだ。しかし教授はあきらめなかった。「スペースＲソーセージ｣を朝となく昼となく夜となく食べ続け、バーコードを３枚集めて葉書きに貼って、１等の「フェスティバルチケット」目指し実に２0口以上を応募したのだ。（凄いよ！ソーセージ60箱だ！）・・・・・結果は・・・・・スペースＲ缶バッジセットがあたったのみ・・・・（いや、それでも嬉しいは嬉しいのだが）・・・・・もうすぐフェスティバルが始まる時間になって教授の嘆きは最高点に達していたのだ！ 「なぜぢゃ！スペースＲに注ぐ愛の深さなら、誰にも負けぬ自信があるというのに!!!」 ・・・・・・・・愛の深さでチケットが取れたらある意味怖いです。 「なぜぢゃなぜぢゃなぜぢゃ!!!」 どんどんどんと握りこぶしで膝の高さのテーブルを叩くと、どんぶりにはいったラーメン汁の飛沫が飛んだ。 「賢者様ー！そんなにばたばたしないで下さいー！」 すこぉし間延びした可愛らしい声がした。そう！彼女こそは・・・・・・・って・・・・・あんた誰？ 「賢者様。ご自分が不幸などと思ってはいけませんですー。」 だ、か、ら、・・・・・あんた誰？ 説明しよう!! バクロマン本編の中でちらっとだけ登場し、そういえばあの子はどうなったんだろう、と心配して下さる方すらいなかった影の薄いあの子！そう！今明らかになるあの子の素顔！「あのひとは今！」 「俺を呼んだか？」 いや、フィリア、君のことは呼んでいない。第一、おまえさんの影は副官のおかげでかなり濃くなった。（そして副官は更に不幸になったよ。）ほら、帰った帰った。私が言いたいのは・・・・・・・・って・・・・・まだ名前も決まっていなかったッ！・・・・・・ 教授はラーメン丼のふちに掴まって立ち、中に残っていた麺をちゅる、とすすりこんでいる妖精に向かって情けなさそうな顔をした。 「いや、ナナちゃん。わしは不幸なのじゃよ。」 どうやら妖精はナナという名らしい。実は本名を“ナナ＝シー”という。 ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 突っ込むなり顎を落とすなりして下さい！ それはともかく・・・・ 「悲しいのじゃよ。不幸なのじゃよ・・・・・ああああ！わしもフェスティバルに行きたかったのぢゃよ。よよよよよ。」 そう！あの！光太郎に「バクロマンバトルスーツ使用マニュアル」などをニコニコと解説していたあのお団子頭のキャピルン妖精である。 いじいじと人差し指でソファーに「の」の字を書く教授を見、ナナは小さな小さなため息をついた。 「不幸なのはナナのほうですー。・・・・・・あっちの世界に居た時には『可愛いちっちゃな妖精さん、君は何を食べているの？』、なんて訊かれたら、『花の香りと朝露ですｖ』って胸を張って答えられましたのに、この頃は『主食：ラーメンとコーラ』になってしまったではないですかー！それも・・・・・アレほどナナは細めんが好きだと申し上げていますのに、賢者さまったら太麺をご購入なさるし、ナナは醤油味が好きなのに、安売りしてたからって味噌味を大量購入なさるし、コーラだって、あの不可思議な青い奴を買ってきて、ご自分が気に入らないと私に全部押し付けるしー!!」 まあまあ、と手をひらひらさせる教授にナナは手近にあったローン業者が配ったティッシュを一枚引っ張り出すとチン！と一度鼻をかんだ。 「かつて“黒森の賢者”と謳われ魔道士の方々から尊敬を集めていらした方が今はこの体たらく。ああ、亡くなった奥様がこのご様子を見られたらどんなにお嘆きになることか・・・・・（涙）・・・・・聡明で美しくお優しかった奥様がご病気でお亡くなりになるとき、奥様は守護妖精だったナナに向かっておっしゃいましたっけ、『夫と娘のことを頼むわ。あなたの力で二人に幸福を呼んであげて』・・・って。だからこそナナは賢者様と一緒にこんなに遠い世界まで参りましたのにー！あああ、ナナ、ここじゃなくてシーマお嬢様のところに居るべきだったのだわー！」 「・・・・・・・・んなこといって・・・お前さんはシーマの前ではアレのビシバシとした言動にわしと同じくらいびびっとっただろうが・・・・・・第一、帰りたいんならこの間シーマと一緒に行けばよかったじゃろうが。行かなかったのはやっぱりアレが怖かったんじゃろう？ぶつぶつぶつ・・・」 「何かおっしゃいましたかー？」 「うんにゃ。」 教授は改めて妖精を見た。茶々を入れてはみたが、教授とてこの小さな同胞のことを心配していないわけではない。妖精は本来森に住むもの。気配を消して大学の雑木林の中を飛んでストレス発散させてもいるが、徐々にストレスがたまって来ているように見える（ストレスの元凶が何を言うか！）それに・・・・こうなんというか、あっちの世界にいるときには楚々とした雰囲気を持っていたのに、なんというかこの・・・・「ラーメン顔」になってきたように見えるのは気のせいだろうか？ 「ああああ！私、死ぬまでこっちの世界に居なきゃいけないのでしょうかぁ?正直言っちゃうとお嬢様のことはとっても怖いです。の〜んびり昼寝してると 「世界の夢を司る妖精がよだれ流して昼寝なんて姿を晒すなんて罪ですわッ！」 ってお怒りになるし、お部屋の中をゆったり飛んで遊んでいると 「掃除の邪魔ですわッ！」 ってはたきで叩かれるし、魔法のアイテムをちょっといじっただけで 「素人が魔法のアイテムを触っては危険ですのよッ！」 ってグーで頭をこつんってやられました。そしてそして、話す言葉の語尾を延ばすなって何度も言われて〜。でも、ナナはお嬢様みたいに“ッ！”なんて語尾でははなせないんですー。・・・・・でも、でも・・・・いっくらお嬢様のことが怖くってもやっぱりもう一度ナナはあっちの森が見たいです〜！風の匂いを嗅ぎたいですぅ！」 泣き真似ではなく本当にポロポロ涙をこぼす妖精に、教授もさすがに眉を下げて、指の先で今日はポニーテールに結い上げている妖精の桃色の髪をそっと撫でてやった。 「よし！泣くな泣くな。いいものを見せてやろうｖとっておきぢゃぞ!!」 ええ!?、と驚くナナの前で立ち上がると、教授は傍らの金属製のドアの1つをあけ、芝居がかった様子で中を指差した。妖精が半透明の翠の羽をはばたかせて部屋に入ると、そこには何かよくわからないメカメカしい黒い塊が鎮座していた。 「こ、これは!?」 「うむ。跳躍機械、ぢゃな。平たく言えばこっちの世界と別の世界を結ぶっちゅう・・・。」 ナナは教授の後頭部を蹴っ飛ばした。 「なななな、なんでこんな素敵なものが出来ているのに使わせてくれなかったんですのぉ〜!?」 「いやー、シーマがあっちに帰ったあとの時空の歪みを観測しておってひらめいたんじゃが、どうにもやる気がいまいち起こらなくってなー。それにプロトタイプじゃから十中八九正常には機能せん。しかし、使いみちがないわけではない！でじゃ、ナナちゃんｖ」 妖精は教授の目に危険な光が浮かんでいるのに気づき、たじっとなって後方へ飛びのいた。 「あっちの世界には戻れない。しかぁし！ここではないどこかには出る自信がある！とても楽しいと思わんかの？」 教授は胸をどん、と叩いてみせた。・・・・・叩くようなことではないと思うが。 「で、ものは相談だがｖ」 「いやですーーーッ！」 おお、“ッ！”が入っている！こののんびり語尾延ばし妖精の会話でも非常時には挟まることがあるのだな！ 「？？？？？楽しげじゃろうが？」 「楽しくありませんーーーー！そんな、そんな、楽しいと思われるのなら賢者様がその機械を使ったらいいじゃありませんかあ！」 「うーむ。そうしたいのは山々なのじゃが・・・・試運転の際にはデータをとっておきたいしの。だからー。ナナちゃん、守護妖精の強運と根性でどうか協力してくれたまい！」 「いやですーーーー！」 「駅前“三楽園”の手作りチャーシュー特盛り麺・・・・・」 ナナの耳がぴくっと動いたが、すぐにふるふると首を振った。 「横浜中華街ご招待・・・・」 ナナはごくっとつばを飲み込んだ。 「あつあつのスープの入った小籠包・・・・・」 「あ、ナナは、ナナは、桃まんも欲しいですー。」 「よかろうｖ」 交渉成立、とばかり、教授は妖精の手をかるく握って上下に振った。そしてさっそく機械についたボタンを操作し始める。 「ナナちゃん、よいかな。行きたい世界のことをしっかりと思い浮かべるのじゃぞ！こーんな森、とか、あーんな花、とかな。イメージが強ければ強いほど似た空間に出るはずだからな。帰り方は気にせんでいい。何せプロトタイプじゃ。無理矢理空間を歪ませて送ったものは、空間の修復力が働いて自動的に元に戻る。“戻りたいー！”と強く思えば思うほど早く帰れるからな！」 パコパコとボタンを叩きまくる教授の横でナナは装置の上に上がり、キャッキャッとはしゃぎつつあちこちを珍しそうにペタペタとさわっていた。 「？このレバーは何ですのー？」 ガコン ガコン？ 「わわわわわ！ななななな！何を触ったんじゃ？」 「レバーですー！」 「ぎゃーッ！それはメインスイッチじゃッ！うわわわわわわ！」 妖精と教授の二人は白い光に包まれてその場からいずこかへと飛ばされたのであった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「んん？」 ナナは起き上がった。傍らでは教授が自動車に轢かれた蛙のようにべたんとのびている。 「賢者様ぁ、賢者様ってばぁ！」 揺り動かすと白目をむいていた教授は意識を取り戻した。 「おおお！・・・・・まだ生きておる・・・・・なんたる幸せ！」 「ナナは幸運を運ぶ妖精ですからー！でも、ここはどこなんでしょう。ナナ、一生懸命、森やお花のことを思いましたのにー。森もお花もここにはありませんですー。」 そこは水島大学近隣の住宅街の雰囲気とよく似た場所だった。二階建てで外階段がついたアパートがあり、電柱があり・・・・・ 教授は見回していたが、電柱に巻かれた住居表示を見て目を大きく見開いた。 「こ、こ、これは・・・この住居表示は!?・・・うむ、だとしたら、あの道を出て右に行くと商店街がある！」 ズダダダダ、と走っていって右に曲がって更にズダダダと走ると果たして商店街があった。 「う、う、うむ、うむ、うむ、うむｖ・・・・・・おおおおお！素晴らしい！すると・・・・あああああ！」 すーいと飛んできたナナをぐっと片手で引っ掴み、教授は上下にがくがくと振った。 「ななななななな何ですの〜？？？？？」 「こ、こ、こ、こ、こ」 「・・・・・・・・にわとりさんですかぁ？」 「こ、この場所が第３話で幼稚園バスが乗っ取られた場所ぢゃ！」 ・・・・・・・・・・・実際に起こったなら、それは凶悪な犯罪であり、頻繁に起こっては、いや、一度でも起こってはいけない事件であるが、幼稚園バスジャックはある特定のぎょーかいでは異常にシバシバ起こっているものである。 「そして！！！！！！！」 教授はナナを引っ掴んだまま走った。カンカンカンという昔ながらの路面電車の踏み切りの音が聞こえる。そこから少し離れた場所に『三丁目交番』とはっきり書かれた灰色の建物があった。交番には２人の人物。大柄なお巡りさんが一人机に座り、それに向かい合って赤いジャケットを着た少年が座ってなにやら話している。 「こここここここここここここここここ！」 「・・・・・・・・・・・にわとりさんがたくさんですかぁ？」 教授は一度息を大きく吸い込み目をキラキラさせて嬉しそうに言った。 「ここは“宇宙警察スペースＲ”の世界ぢゃ！」 妖精はあっけにとられて目をパチパチさせる。 「どうしてですの？ナナは森とお花のある場所のことを一生懸命考えましたのに〜？」 「いやー、わしの頭の中がスペースＲのことでいっぱいだったからなんぢゃろうなｖ」 どげしっ！ ナナは渾身の力を振り絞って教授の後頭部を蹴った。 「ナナちゃん・・・・・痛いぞ・・・・・・」 「痛くなるように蹴ったんですー！ああああああああ、奥様がご存命でしたら何と仰られるか・・・・なんだってそういうことで頭を一杯にしちゃうんですかー！第一スペースＲって、あれはテレビの中のお話ではないのですか〜？」 「うむ。ナナちゃんも“思念”というものがエネルギーだということは知っておろう？スペースＲ世界の実在を強く願う全世界のよい子の想いがこういうハイパースペースを実体化させたのぢゃろうなｖ」 ・・・・・・・・よい子の想いならいいが、大人の妄想だったらちょっと嫌かもしれない。 「ナナちゃんもアレを見て信じないわけにはいくまい？!ほーれほーれ！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 交番の中で黄田 太陽（こうだ たいよう）巡査は、同僚にほうじ茶を注いでやりながらちょっと困った顔をした。 向き合って座った赤ジャケットの少年・・・・いや、よく見れば青年なのだが・・・・・・彼はむっとして椅子の上であぐらをかいた。 「俺は、ひったくり犯をおっかけてただけなのにさ！どうして捕まえられなくちゃいけないんだよ！」 「・・・・・・・しかたないですよ。先回りしようとしてフェンス乗り越えて線路に入ったところを目撃されたのでしょう？あの辺りは最近置石被害があったところですし、我々の所轄ではありませんし。自分が焔（ほむら）先輩を見たとしても捕らえていましたよ。第一、どうして警察手帳を携帯していなかったんです？」 「う・・・・・いや、もってたはもってたんだが・・・・・・バトルスーツ転送用の奴だけで・・・・アレをえいやッ！って出すわけにはいけないだろ？それにだな、捕らえるっていってもどうして逮捕じゃなくて補導なんだよ！俺、とっくに二十歳すぎてるぞ！」 赤ジャケットの青年はぐび、と茶を飲み干した。黄田は笑っておかわりを注ぐ。 「焔先輩ははそこに頭に来ているんですね。いいじゃないですか。自分は図体がでかいせいで中学のときから大学生に見られたりしていましたけれど、全然いいことはありませんでしたよ。若く見られるって別に悪いことじゃないですよ。」 「うーん。俺は気にしてるんだけどな。お前も、茶、飲めよ。」 「いや、自分は勤務時間中ですから。喉が渇いたら水を飲みます。」 「・・・・・・・・太陽は真面目すぎるよ。・・・・・」 ふっと外を見た焔の目に、教授の姿が目に入った。 「・・・・・・・・怪しい・・・・・・・・すっげえ怪しい・・・・・・・俺、ちょっと職質（職務質問）してくるわ。」 立ち上がる焔を黄田が止める。 「やめておいたほうがいいと思います。」 「どーしてだ？白衣着て街を歩いているだけでも怪しいのに、女の子の人形をぎゅっと握って話しかけてるんだぞ？」 「・・・・・・世の中いろんな趣味のひとがいるんだし・・・・・・」 「とにかくちょっと話してくるぜ！」 先輩、待ってください！と黄田も立ち上がり焔のあとを追う。交番に設置された秘密ボタンを押すことは忘れない。スペースＲとしての活動中は所轄から応援の巡査が配置されることになっているのだ。 一方教授は二人が近づいてきて小躍りしていた。・・・・・・・満面に笑みを浮かべナナちゃん掴んで踊っているのって怪しさ全開である。 「おおおおおおおお！」 教授は右手の人差し指でびしびしびし、と代わる代わるに黄田と焔を指差した。 「おおおおおおお！黄田 太陽君！この間のオリンピックでは柔道無差別級金メダルおめでとう!!わしゃあ、テレビにかぶりついて感動の瞬間を見ておったぞ！全試合一本勝ち！特に決勝戦の一本背負いは感動の嵐吹き荒れ、わしゃあ涙で前が見えなくなってしまったほどじゃ！」 黄田はきょとんとしたあと制帽をとって会釈した。 「いえ、自分一人の力だけではありません。周囲の方々に支えていただいたからこそ頂けたメダルでした。」 教授は右手をばたばたさせ、ナナに言った。 「ほーれ、ナナちゃん、本物の黄田君じゃぞ！あの低くて優しい声、礼儀正しい言葉遣い、がっしりとした体躯、間違いはなかろう？うわぁ、わし、色紙をもってくるんじゃった！ナナちゃん、聞いておるか？」 ・・・・・・・・・・・・・黄田も焔も目を点にした。やはりこの男性、タダモノではなさそうだ。 「あのー、おじさん。・・・・・・・そのナナちゃんっていう人形は・・・・」 すると教授の手の中から抜け出てナナは怒鳴った。 「ナナはお人形さんではありませんー！」 反射的に焔はナナを手に乗せた。 「！？すげえよく出来てる・・・・腹話術か？・・・・・この羽なんてホンモノそっくり！」 ・・・・・・・・君は土浦梁太郎か・・・・!?（←知らない方、すみません<(_ _)>） 「ナナは、ナナは、ナナは妖精なのです〜！」 教授はごほんと咳払いした。 「信じられないのも無理はない。しかしわしは妖精がごく普通に生きている世界から来たのぢゃよ。レッド、イエロー。」 と、二人の顔色が変わった。焔も黄田も身構えて戦闘姿勢だ。 「俺たちがスペースＲだと知っているとは、お前はアック＝ダーマの手のものか!?」 すんません。顎、落として下さい・・・・・ （いや・・・・・戦隊モノの敵の名前ってこんなものが多いのでして・・・・） 「うんにゃ。アック＝ダーマは宇宙の平和を乱す憎い敵、スペースクリミナルの元締めではないか！正義を愛する心をもったわしのような人間が奴なぞの配下になるはずがなかろう！臨戦態勢をとくのじゃ！わしはレッドのファスティストダッシュキックやイエローの風雲巴投げをくらいたくはないぞ！おまえさんたちを知っているのにはちーっとばかしわけがあってのことなのぢゃ！」 と、背後から捕虫網、いや、捕虫網にそっくりの光でできたネットがギュワーンと飛んできて焔からナナをかっさらった！ キャーッ！ 三人が振り向くとそこには黒いフードを被った『いかにも私はあやしげなものです。敵だよ〜ん』オーラ放出全開の怪人がもがくナナが入った光の網を手に持って立っていた。 「おおおおお！本編未放映の新怪人じゃ！」 「賢者様〜！変なところで感動してないで助けて下さいー！」 焔が叫ぶ。 「おのれッ！貴様は誰だ！」 ・・・・・・・ここで名乗りを上げるのがお約束である。 「ふふふ、私はダーマ様の配下、13翼将の一人、（ああ、そういえばアルスラーン戦記はいつになったら続きが出るのだろうか・・・・・）宇宙一の魔術師、シーターと申します。」 教授はシーターを睨んでいたが、ふっと頭に浮かんだことがどうしても聞きたくなって怪人に尋ねた。 「ムゥ・・・・・シーターよ。まさか、お主のファーストネームは『サン』というのではあるまいな？」 「むむッ!?なぜそれをッ!?」 ・・・すいません、顎、落としてやって下さい・・・・・・・ 「まぁいいでしょう、これで私が捕らえた妖精は100人になりました。宇宙で100の星から100人の妖精を捕らえれば、宇宙で最強の究極魔法を手に入れることができるのですよ。ふふふふふ・・・」 「・・・・・・・・・・・ナナちゃん、そういうことがあるのか？」 教授に言われ、網の中で喚いていたナナもきょとんとした。 「わかりませんですー。第一、ナナ、宇宙に妖精がいるところが沢山あるなんて初耳ですー。」 「うーむ。ここではそういうことになっとるんじゃろうな・・・・・ありがちな設定ぢゃが。うむうむそう来たか。」 「おっさん！なにほのぼのしてるんだよ！ここは俺たちに任せて下がってろ！」 焔が警察手帳を空に向かって高々と掲げた。 上空の静止衛星からバトルスーツが転送される。スペースＲは１ナノ秒で変身を完了するのだ！その変身プロセスを見てみよう！ 「レッドＲ！バトルスーツ転送！ジャスティス！ピース！・・・・・チェンジ!!!」 「おおおおおおおお！転送変身プロセスを間近に見られるとはッ！そうじゃ！その腕の角度！その足裁き！おおおおおおお！」 教授が感動に打ち震えているとき、黄田も変身していた。 「おおお！やはりイエローの変身ポーズは力強い!!・・・・・・もう少し大声ならば100点満点ぢゃぞ!!!」 教授の言葉なんぞ聞いちゃいない二人は戦闘を開始した。 「レッド！フレイミングラン！」 加速ユニットの力を引き出した焔が炎の様に駆け抜け、ナナを奪取した。 「は、速いッ！こ、これがレッドの速さなのかッ！うおおッ！」 次の瞬間シーターはイエローに軽々と頭の上まで持ち上げられていた。 「必殺！肩車岩石落としぃぃぃぃッ！」 ジャンプした上空から派手に地面に叩きつけられたシーターは、素早く起き上がった。 「むむむ・・・・・今回は私が油断していたようですね。しかし私はあきらめませんよ。その妖精を捕まえ、宇宙最高の魔法を手に入れてみせましょう。そのときがあなた方の最後のときですからね。よく覚えていてくださいよ。ふふふふふふ」 シーターは笑いながら消えていった。 焔は変身を解くと教授に言った。 「おっさん。ここにいちゃ危険だ。俺たちの基地“レンジャーベース”に行こう。」 黄田も重々しく頷いた。 二人の後から“レンジャーベース”に行ける嬉しさでややスキップ気味の足取りで教授はついていく。 「おおッ！すると蒼井君やリヒトやオソノちゃんやマゼンタに会えるのじゃな！」 「わあ、ナナも蒼井さんやリヒトおにいちゃんに会いたいですぅ！」 「そして麗しの純香さんにもな！で、灰・・・・」 「ん？灰・・・・ってなんだよ？」 「いやいや、これはお主たちには極秘事項の一つじゃった。ほーれほれ、さあ、行くぞ！」 「おい、おっさん！俺たちの前に出てどうするんだよ！道、わかってないだろ!?」 レッドとイエローは13翼将の一人、シーターを撃退した。しかし、シーターは究極魔法を手にするため、再びナナちゃんを狙って現れるだろう。可憐な妖精の運命は？そして今度こそ彼らはシーターを逮捕できるのか。 次週を待て!! |
| ・・・って、来週更新できなかったらどうしましょう。 |