| 9 汝、罪人(つみびと)ら |
「せいやっ！」 膝を深く沈めてからクライスは軽々とジャンプする。対戦相手の大男は、ポカン、と口をあけて空を見上げる。高くまで跳び上がったクライスは、大男の脳天を靴底でぐい、と踏みつけるようにして蹴った。男は持っていた無骨な棍棒をポロリと落とし、そのままだらしなく土の上に巨体を横たえる。クライスは、というと、男の頭を蹴った反動で再び上空へと舞いあがり、膝をかかえてくるくるくると三回転してから両腕を斜め上にあげてしゅたっと着地してみせた。見物していた観客から、歓声と拍手が沸き起こる。クライスは四方へ手を振りお辞儀してからにまにまにまっと歯を見せて笑った。 ここはエンドールの大闘技場、コロシアム……の裏手にあるサブ・アリーナである。ここは正規の参加登録をしていない飛び入りの腕自慢達が、本戦目指して戦う場所になっていた。そして、クライスは今の対戦で５連勝して望み通りに本戦への出場資格を獲得したのだ。腕章をつけた兵士に導かれて控室に入ると、すぐにサライとアリシアがやってきた。クライスは大きく腕を振る。 「アリィ、サライ！見ててくれてたよね！これで本選に出られるんだー！一回戦の最後の試合だから……明日だな！あとは、どんどん勝ちあがって、優勝するだけだ。」 サライは、おめでとう、と微笑んだが、アリアシアはつかつかつか、と兄の至近まで歩いて行くと、肩に手を置き、部屋に備え付けの木のベンチまで連れて行って、ぐいと兄の肩を押し下げてやや強引に座らせた。 「アリィ？」 「……兄さまったら！左足を挫いてるでしょっ！治療するから靴を脱いで！」 クライスはぽりぽりと頭を掻いてから素直に靴を脱いだ。 「……アリィにはわかっちゃうんだ？」 「……そりゃあ、生まれたときからずっと兄さまの妹をやっているのですもの。わからないはずないでしょう？……着地のときに一瞬だけれどへんな向きに足首が曲がっているのがはっきり見えたわ。……試合に関係のないところで怪我してどうするの？技をかけて勝負を決めた後にあんなに高く跳んだり、まして三回転したりなんて、必要なかったでしょうッ？」 「…………だってさ、相手があんまり弱っちい奴だったから……少しは楽しもうと思って……あ、痛！」 アリシアは、呪文を唱えてクライスの足首に手をかざしてから、睨みつける。 「恰好つけるからいけないのよ。」 「……だってだって、これくらい、ほら、アリィがこうしてすぐに治してくれるし……」 「私の回復魔法は兄さまの恰好を付けさせるためにあるのじゃありません！」 まあまあまあ、とサライが割って入る。彼の手には小さな紙袋があった。 「クライス。さっきそこで三人組の小さな男の子たちにこれを貰いました。クライスのことを応援しているそうですよ。これからも頑張らなくてはいけませんね。」 クライスが紙袋を受け取り、中を見ると、飴玉がいくつか入っていた。早速一つを自分で舐め、おずおずと一つをアリシアに差し出す。アリシアはつーん、としていたが、くすっと笑ってつまんで口に入れた。 「ねえ、兄さま、そろそろコロシアムの方にいきましょう。メイ姉さまの試合が始まるわ。」 え、もう、そんな時間？何しているのさ、急ごうよ、とクライスは靴を履きながら移動を開始する。 エンドール武術大会は、昨日開幕した。リック王の臨席のもとで行われた開会式で、正式にエントリーした戦士たちは一人一人紹介され、その後に式典とエンドール近衛部隊による試技が披露された。二日目の今日からが試合開始だ。この大会は非常に大きな規模を誇っている。そのため、会期が非常に長い。一回戦だけでも一日半にわたって繰り広げられる。最終日には超満員となる観客席も、初日の今はまだ空席が目立ち、クライス達は、端に近いが最前列の席に陣取ることができた。 ５試合ほどを観戦し、メイシアの番となった。メイシアの名が呼ばれ、彼女が東のゲートから姿を現すと、うおおおおお、と歓声があがる。その大きさに、サントハイムの双子は目を丸くする。西のゲートからは、ボンモールから来たという大柄な戦士。また歓声があがったが、メイシアのときほどではない。二人は進み出、一礼し、剣を構える。……二十年ほど前にアリーナがここに立ったときには、武器は刃を落としたものを使っていたが、今は安全を考慮し、木刀が使われている。ただし、普段金属製の武器を使用している戦士たちは、軽すぎる剣では実力が出せないため、内部に鉛などの重い金属を仕込むことは許可されている。 自分の力を示すようにぶんぶんと大剣を素振りしてみせるボンモールの剣士を見つつ、クライスは呟く。 「あんなの、少しでも当たったらすっごく痛そう……」 確かに当たれば痛いだろう。だが、メイシアの体にはかすりもしなかった。彼女は細身の木剣の柄に手をやったまま相手に向かって走り、大剣の一旋を難なく避けると向き直る。それが何度か繰り返された時には、女騎士は相手の動きを完全に掴んでいた。素早く動き回るメイシアにいらついた相手が大きく剣を振りかぶったとき、メイシアは突進し、すれ違いざまに抜剣すると剣士が体の向きを変える前に喉のところに切っ先を突きつけた。審判の右手が上がり、メイシアの勝利が宣言される。うおおおおおおう、と歓声があがり、メイシアの名が呼ばれる。そして、コロシアムには多くの花が投げ込まれていた。 サントハイムの双子はパチパチと拍手し、メイシアの勝利を称え……しかし、歓声のあまりの大きさに戸惑っても居た。今日はまだ初日ではないか。初日でこれでは、決勝の日になったらどんなことになってしまうのか。……そのときに、あの謎の天空人たちがやってきたら……不安に表情を曇らせてアリシアが小声で言うと、サライは微笑んだ。 「メイシアさんは特別ですよ。……ほら、試合前に名前が呼ばれたときに、メイシアさんへの歓声は非常に大きかったですが、対戦された相手の方への歓声はさほどでもなかったでしょう？」 コクリ、と二人が頷くと、サライは続けた。 「昨日の開会式で、紹介があったときからメイシアさんはとても注目されていましたからね。」 するとアリシアは嬉しそうに頷いた。 「メイ姉さまは凛としてとても綺麗ですもの。」 と、クライスは首を捻った。 「……お兄さま。どうなさったの。」 「…………メイシアって綺麗なの？」 サライはきょとん、とし、アリシアは何を今更、というように兄を見る。 「メイ姉さまは、お城の中でも凛として気品があって綺麗だと評判よ？騎士団の方も、お城務めの人たちにも。女の人も男の人も、皆そう言うわ。私だってそう思う。お兄さまはそう思わないの？」 クライスはしかめっつらをして考え込んでいる。 「……凛としているっていうのは確かにそうだと思う。でも、……綺麗かなあ？」 「じゃあ、どうだっていうの？？」 「………………おっかない。」 腰に手をやり眉を上げ、時に眉間に皺をよせ、青筋をたてることすらあり、アイスブルーの瞳でクライスを叱責するメイシア。“王子、聞いていますか！”“王子、もっと自分を厳しく律して下さい!!”“王子、何度同じことを言わせるんですか!!!”ごまかしたり逃げたりしようとすれば、容赦なく(加減はされているが)脳天に拳骨が落とされる。おっかない以外の何者だというのだろう。 そう言うと、腹にアリシアから魔道士の杖の一撃がお見舞いされ、ぐえっとクライスは呻く。 「それは、兄さまが姉さまにいちいち迷惑をかけているからでしょう!?」 「そうかも、だけどさぁ。…………」 クライスは、観客席のへりにある石積みに頬杖をついた。 「何だか嫌だなあ。メイシアが綺麗だとしても、それだけで騒いだり花を投げたりするのっておかしいよ。礼儀正しさとか、試合の運びとか、そういうのを見て好きになるのだったらわかるけど。」 すると、サライが二人の後ろから、メイシアさんは確かにとても美しい方ですけれど、彼女の本当の良さを知っているのは、ここではお二人だけですよ、と優しく言ったので、王子と王女は揃って頷いた。 その後、控室にメイシアを迎えに行き、一同は揃って観戦を続けた。なりゆきで出場したメイシアであったが、彼女もクライスと同様に勝ちぬくことを目指していた。何かが起こるとすれば、最終日であろうと、エンドール王も先王も考えている。そして、それはこの競技場である可能性が高い。ならば、エンドールに仕えるものの枠組みに捕らわれずに行動できる者として、出場選手としてコロシアムに存在するものがあった方がよい。更に、自分達はあの天空人のことも、エリシアのことも見知っている。……渦中の真中にいるべき人間なのは確かだ。 日が落ちたあと、四人は目立たぬように気を配りながら裏手から城内に入り小部屋に導かれた。そこでは、アレクとアルマが待っていた。四人から事情を聞いていたエンドールの兵士達がエンドールに到着した彼ら見つけ、城へと案内したのだ。大柄なアレクの後ろに隠れるようにしてアルマは青い顔をして立っていたが、兵が扉を閉めると、アレクに並んで俯いたままごめんなさい、ごめんなさい、サライさん、メイシアさん、クライスさん、アリシアさん、ごめんなさい、と消え入るような声で繰り返した。 魔族の翼を見て怯えていたとはいえ、無抵抗なサライを魔法で傷つけたアルマの行動に憤る気持ちはあるが、その逆に何か優しい言葉をかけてあげなくては、とも思い、結果として動きが取れなくなっているアリシアの横で、クライスはしゃがみ、泣き出しそうになっているアルマの顔を見上げた。 「アルマさん、それ、おかしいよ。」 怒った声ではなく、そう言われ、アルマはぎゅっと瞑っていた瞼を開ける。 「だってさ。メイシアもアリシアも僕も、アルマさんから何もされていない。だから、僕らにアルマさんが謝ることはない。そして、サライには前にも謝って、サライは許してくれたんでしょう？ね、サライ。」 魔道士の青年にちょっと目をやり、クライスは続ける。 「だったらさ、アルマさんは謝らないほうがいいよ。そんな風にに謝られたら僕なんかどうしていいかわからなくなっちゃうよ。会うたびに『ごめんなさい』から始まるのって、楽しくないよね？」 その横にアリシアが並ぶ。兄が兄らしくあっけらかんと気持ちを伝えたことによって、アリシアは落ち着くことができた。 「昔、私が悪いことをして、礼拝堂でずっと泣いていた時、サントハイムの司教様がおっしゃったことがあるの。『初めにあなたが謝ったときに、神様はあなたを赦していらっしゃるのですよ。神様は、私達が罪をおかしたときに罰を与えるのではなく、その罪を自らの身に背負って私達を赦し、見守って下さるのです。あなたが成すべきことは、あなたがしたことを命ある限りずっと覚え、しかし罪をおかしたことに怯えることなく、神様のみこころに叶うような生き方をすることです。』って。あの……だから……上手く言えませんけれど……泣かないで笑って下さい。神様は私たちの涙よりも笑顔がお好きだと思います。」 二人の後ろではメイシアとサライがアリシアに同調するように頷いている。アレクは大きな手のひらをぽすん、とアルマの頭に置き、自分は深々と一礼した。 「気遣いを有難うございます。……心から感謝します。」 すると、クライスが目を輝かせた。 「そうそう！『ごめんなさい』より『有難う』の方が、言われてずっと嬉しいや！」 そこに、大臣や将軍たちを従えたリック王がやってきた。アルマは大臣の一人に促され、机の上に夜の色の布を広げ、水晶玉を置く。まだ年若いアルマであるが、『八勇士』の一人のミネアから資質を受け継いだ人物であり、その占いに皆が注目していた。四方から視線を受け、椅子に掛けたアルマは身を固くする。 「私は未熟者であり、また、占いは未来のすべてを予言するものではありません。……未来は変転するものであり、不変ではないのです……それをどうかご承知おき下さいませ。」 分厚いカーテンがひかれ、部屋が暗くなる……水晶玉に映るすべてを見逃すまいとアルマは呼吸を整え目を見開く。彼女が何事かとなえると、水晶玉全体がほの明るくなる。やがてあるところは更に明るさを増し、あるところは暗くなり…………六つの小さな光が現れる。……そして離れたところに弱々しい一つの光。その弱い光を取り巻く三つの闇。 “あれは……きっと……” メイシアが凝視する。あの弱い光はおそらくエリシア。彼女の周りにあるのは……敵。……待て、以前、アルマが占った時には光は八個あったという。その光は……？ と、中央に純白に輝く強い光が現れた。部屋は水晶玉によって昼のように照らされる。皆が一歩下がる中、アルマは占いを続け……水晶玉に縋りつくようにして前にガクリ、とつっぷした。アレクが逞しい腕で抱きかかえると、アルマは大丈夫、というように微笑み、リック王に一礼すると告げた。 「……陛下の懸念の通り、この地に危険が迫っています。水晶玉に映った三つの闇は、おそらく三人の天空人でしょう。……エリシアさんは彼らの手中にありますが、生きています。だたし、危険の種類やそれがいつなのかを読み取ることはできませんでした。……そう遠くない未来、としか。明日、ではないでしょう。しかし、十日も先ではありません。」 武術大会の最終日は５日後である。……それは占いの結果と合致した。 「八つの光のうち最後の強い光が何者なのかはわかりません。ただ………あの明るさ、眩しさは、きっと最も罪なき汚れなき者なのだと私は思います……例えば天使様のような。」 ざわ、とどよめきが起こる。クライスはパチンと指を鳴らす。 「誰にせよ、強い人が味方になってくれるっていうのはいいことだよ！相手は三人。こっちは、その最後の味方も合わせて八人。エンドールの騎士団だっている。大丈夫、大丈夫！」 結局、どのように備えればよいのかははっきりしなかったが、エンドール騎士団は、考え得る限りの警戒態勢を敷いた。城下の警戒を厚くし、武術大会最終日には、死角がどこにもないよう警備兵を配置するようにし、異常があった場合の連絡系統や部隊配備の計画を練りあげた。既に到着したブランカとボンモールの兵もエンドール指揮下に入り、待機中である。 クライスたち６人は遊撃隊としての役目を負い、異変があれば駆けつける。そうでない場合は王宮かコロシアム周辺で待機することになっていた。 武術大会は三日目の午後を迎えていた。メイシアもクライスも順調に勝ち上がり、クライスはかつての母親と同じ『小さな旋風』というニックネームを貰い、特に小さな子供たちやおかみさん連中から大きな声援を送られていた。ニックネームを貰うことは、武闘家としては嬉しいことだ。だが、コロシアム控室で、クライスはそのニックネームに不服を呟いていた。居合わせたメイシアが、理由を問うと、『小さな』というのが嫌なのだという。メイシアは声を立てて笑った。 「嫌だといっても、王子は本当に小さいのですから仕方ないではありませんか。不当な名前を付けられたのならばともかく、私は王子にぴったりの名前かと思いますが。」 すると、クライスは、今に見ていろ、メイシアよりもずっとずっとでっかく、見下ろすくらいに背が高くなってやるんだ、とぶーたれた。 「メイシアは自分につけられた名前、気にいってる？」 「…………呼ばれるのは嫌ですね。でも、私の場合は明らかに不当です。」 メイシアは勝ち進むごとに投げ入れられる花の量が増え、何を血迷っているのか愛の言葉を叫ぶ輩まで現れた。付けられたニックネームが『金の髪の戦姫』である。 「私は一介の騎士。姫、などとは畏れ多い。」 「ふぅん。……あのさぁ、メイシアは、自分のこと、綺麗だって思う？」 「はあ？」 「あ、やっぱり思わないんだ？……うんうん、そうだよねえ、アリィは綺麗だっていうし、サライも美しいっていったけど、僕は何か違うって思うんだ。」 メイシアは顎を落としそうになった。この格闘バカの腕白王子と容姿についてのことなど未だかつて話題にしたことなどない。いや……あるか？王子がほんの子供の頃、『人の価値は容姿によって決まるものではありません。見かけに捕らわれることなど言語道断』と説いて聞かせたことはある。であるが、この物言いは……いくらなんでも失礼だろう。 「……王子……では、私はいったい王子の眼にはどのように映っているのでしょうか。」 ピクピク、とこめかみのあたりを痙攣させつつ、返答によっては雷を落とす所存で身構える。 「………………」 王子はとても真剣に考えていた。アリシアには『おっかない』と言ったが、自分のふるまいがメイシアをおっかなくさせているのは確からしい。第一、『綺麗』と『おっかない』は対義語ではない。『綺麗でおっかない』というのもあるではないか。そして、クライスはポンと手を打つ。 「多分、なんだけどさ。生まれてこのかた、僕の傍にはずっとメイシアがいてくれたから、容姿もメイシアが基準なんだよ。いちばん僕にとっては自然なんだ。だからさ、僕にはメイシアが綺麗とか美しいとかそういう風には思えないんだと思う！うん、あ、なんか納得できた。うんうん。」 メイシアは怒ろうとしたが笑ってしまった。この王子に悪意などない。ただ、思ったことを思うままに口にしてしまうだけなのだ。 係員が声をあげ、勝ち残った16名を招集する。一列に並んでコロシアムに出、夕陽の中で一人ずつくじをひく。結果は集約され、明日、最終日の組み合わせが高らかに読み上げられた。メイシアは、クライスとは決勝戦になるまでは対戦しないことになった。 「メイシア、勝ちあがってね。決勝で戦おう。」 「はい、クライスこそ。良い試合をしましょう。」 二人は短く言葉を交わし、観客席のサライとアリシアに手を振った。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 深い声が罪人に告げた。 “汝、罪を負いし者よ” 純白の翼をその背に負いし美しい青年は、跪き、頭を垂れている。 “俯くことはない。顔をあげなさい。” 言われて、青年は金色の巨大な竜をまっすぐに紺碧の色の瞳で見上げた。 「マスター。私は確かに罪を犯しました。今はそれを悔いております。しかし、私は唆されたのです……それだけは信じて下さい。」 風が吹き抜けた。或いはそれは竜のためいきであったかもしれない。 青年は跪いたまま続ける。 「どうか私に罰をお与え下さい。」 天空上の主、マスタードラゴンは、その金色の瞳を青年に向ける。 “罪人よ、まずは一人となるのだ。……一人となって己を顧み、そこで待つがよい” 「マスター。仰せのままに。……私を唆し、罪へとひきいれた者はどうなったのでしょうか。」 “それを聞いてどうするのか” 「……彼の者もまた、罪を悔い改めて欲しいと願い……」 “安心せよ。彼の者もまた汝と同じく一人となり、そこで待っている。” 「私と全く同じように……ですか？」 ナゼ、アイツガオレトオナジナノカ。ダンザイサレルベキハアイツタダヒトリ。オレハソソノカサレタダケダ。スベテノツミハアイツニアル。オレハダマサレタダケナノダ。 彼は一人になり、彼の罪について深く考えるよう命じられた。……しかし、見守り役が様子を見に行ったとき、隙をついて、彼と二人の仲間は牢から逃亡した。いかずちが彼らに放たれたが、三人は逃げおおせ、地上界へと堕天していった。……彼らの魔力は既に竜の神に取り上げられていたが、十年、二十年と地上で暮らすうちに、不思議なことに彼らの体には魔力が戻り、いつしか以前は使えなかった強力な攻撃魔法魔法すら操ることができるようになっていた。 天空人であることを隠して下を向いてみじめに暮らすだけであった彼らは、天を……彼らを罪人として追った天空を見上げるようになった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「エリシア様、参りましょう」 人が登れない険しい山稜の中腹にある緑豊かな花畑に、四人の翼ある人々がいた。 三人の青年のうちの一人が、純白の羽をもった少女の手を優しくとって、空を指さす。 「人間とは矮小で流されやすいもの。しかし、手をとってやれば、善き道を辿れるはずです。……彼らの罪を赦し、私たちは、導き手となり、この地上界に光をもたらすのです……。さあ！」 エリシアは、サライが彼女の為に縫ってくれた紺のローブは身につけていなかった。代わりに纏った光沢のある純白のドレスは彼女の姿を翼があるだけではなく、何か人間離れしたものにみせていた。彼女の頬は白く、瞳にはそれがガラスでできているといってもいいくらいに表情がなかった。…………ただ………… ただ、うす紅色の小さなサクラソウのブローチだけが“希望”のように彼女の胸にあたたかな色を灯らせていた。 |
| 「東京ばけもの同人」はいつもいつもいつも「お約束」ですべてのお話をお送りしております<(_ _)> 次回、最終回。 本編(長編)の設定延長上に敷いた伏線をなんとか回収できるよう気合いを入れて参ります。 |
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