「そうですね。シアがさっき見た花は、薬草としても使いますが、私達魔導師にとっても大切な草なのですよ。」 馬の背で手綱をとりながら、サライは落ち着いた深い声で前に乗せている少女に語りかける。アリシアは頬を紅潮させて自分よりずっと年嵩の魔導師の話に聞き入り、時折首を斜め後ろに向け、穏やかなサライの表情を確認しては目を細めている。 …………そんな二人の様子を前方に見ていたクライスは、不機嫌そうに口を尖らせた。 「何であんなに楽しそうなんだよ。……あの魔導師って一体誰なのさ。どうしてシアはあいつと仲がいいんだ？」 王子の声を背後に聞いたメイシアは、剣帯をぎゅっと握っているクライスにきびきびと、はっきりとした発音で答える。 「アリシア様は神聖魔法に長じておられ、魔道の知識もブライ様より教授されていらっしゃいますから、サライ殿の魔道に関する話をとても興味深く聞いているのでしょう。それから、サライ殿は、非常に優秀な成績で魔道学校を卒業した方ですよ。むろん主席で。……王子が彼を知らないということのほうが私にとっては非常な驚きです。」 クライスはますます不機嫌そうに口を尖らせる。 「…………あんなに嬉しそうな顔しちゃってさ。……僕なんて、さっきからメイシアにお説教されてばっかりだってのに。」 「……お説教されなければいけないようなことを量産なさっているのはどこのどなたですか。……ああ、乗馬をしっかりやって下さっていれば、私の後ろにお乗せしなくともよかったんですけれどねえ。乗馬の稽古をさぼってばかりいた報いが今頃やってきたんですよ。私だって王子を後ろに乗せたいわけじゃありません！なんでしたら、今からでもアリシア様と交代なさいますか？私も王子と口喧嘩しているより、アリシア様と楽しくお喋りしながら旅をしたいです。」 クライスは想像してみた……シアと交代して向こうの馬に乗ったとして……シアがあいつと話さないのはいいと思うけど、あの魔導師と何をどう話せっていうんだ？サライが面白いと思うもの(例えば、魔道)はクライスには興味がなく、クライスが面白いと思うもの(例えば、武道)は向こうは興味を持たないだろう。 クライスは、つまらなそうな顔をしつつ、メイシアの剣帯を掴んだ手に力を入れた。 四人は一度サランの街に寄り、双子の兄弟が経営し、彼らが後見人となっている溌剌とした若い兄妹の店員がはたらく、『百貨店』で旅装を整え、一路テンペへと向かっていた。街道はよく整備され、天気は穏やかで、絶好の旅日和。しかしクライスは気詰まりで仕方なかった。 城を飛び出し、エンドールの武闘大会で優勝し、意気揚々と城に凱旋する。……そんな自分の姿を夢見ていたのに、これではあんまりではないか。自分は馬を操ることもできないダメ王子で、幼い頃からのお目付け役の女性騎士の後ろに乗せて貰い、さっきから叱られまくりだ。 でも、メイシアとはいつだってこんな感じだ。いつもお説教を食らっているのがクライスの日常である。だから、今自分が気分がよくないのは、あの、わけのわからないサライとかいう魔導師のせいなのだ。そう、クライスは結論する。 背が自分より高くて、自分よりずっと落ち着いていて、自分よりずっと大人で、魔法の使い手で……おまけに顔もわりかしいい。……気づくとクライスはいつの間にか『サライの短所』を探していた。そして、ぼそり、と呟いた。 「あの人、きっと机に向かって魔法ばっかり勉強してたに違いない。……すごい猫背だもん。ちゃんと運動してこなかったんだ。猫背っていうより、なんか瘤があるように見えるくらい背中が丸いじゃないか。……ああいうのを“せむし”っていうんだ。」 メイシアが馬を止めた。そのまま無言で体を捻り、クライスを見る。その顔は騎士らしく凛、としていたが、眉はわずかに端が下がり、悲しそうだった。……それはクライスが大嫌いなメイシアの表情であった。……小さな頃から、王子が『極端にいけないこと』をしたり言ったりするたび、このそば仕えの女性はこの顔をした。 そして、言ってしまったクライスも、言い終わった途端に、自分がいけないことを言ってしまったことを認識し、両手で口を押さえた。 しゅん、として下を向いたクライスはおずおずと顔をあげ、メイシアを真っ直ぐに見る。 「ごめんなさい。……絶対に言っちゃいけないことを僕はさっき言っちゃった。……母上がここに居たら、かかと落としを頭の天辺に叩き込まれていたよね。…………人の外見のことを悪くいうなんて…………ご免なさい。」 メイシアは黙っていた。黙っていたが、嬉しくもあった。この腕白坊主は考えなしのところも多いが、根は優しく、また、間違っていたら自分の非をきちんと認めることができる。 「そうだ、メイシア、僕を殴ってよ！反省だけじゃ足りないよ！」 「は？」 「だから、殴ってよ。母上のかかと落としの代わりにさ！」 メイシアは一度天を仰ぎ、しかし、“それでは失礼します”と断ってから拳骨をつくり、ゴチン、とクライスの脳天を叩いた。……無論、加減はしたが。すると、王子は嬉しそうににかあっと笑い、馬から飛び降りると走っていった。 「反省のために、暫く僕は馬に乗らずに走ることにするよ！修行にもなるしさ！！」 そう叫ぶ声が聞こえたが、次の瞬間、物凄い速さで地平線へ向かって駆け出していった王子をメイシアは見送る。……そう、いつだって王子はこうなのだ。こういう子だからこそ、苦労は感じていても傍仕えの役目から逃げ出すことをしなかったのだ。 走っていくクライスをサライは目を丸くして見送り、アリシアは、またか、というように苦笑した。 初日は水場から程近い気持ちのよい草地を野営地に選んだ。子供達が王子と王女だとは知らないサライは、当然の如く、宿代を節約するために野宿をすることを提案したのだ。むろん、自分もメイシアも野宿に慣れているということで、屋外でも子供達を守ることができると判断しての選択だった。クライスもアリシアも、その提案を諸手をあげて受け容れた。活発なクライスはもちろん、普段淑やかで物静かなアリシアも、実のところはちょっとわくわくすることが大好きだったのだ。 馬を木に繋いで休ませ、川から水を汲み、クライスは林に入って焚き木となりそうな小枝を拾い、メイシアに教わりながら火を起こした。アリシアは、サライに習いながら干し肉と打ち豆を使ってスープを作った。メイシアとサライは、得意分野は違ってもそれぞれ屋外での生活のすべを心得た大人であった。四人は夕食をとったあと、全員で後片付けをし、アリシアとクライスは毛布を折って作った寝床に入った。 「兄さま、起きてる？」 アリシアが小声でたずねると、クライスが眠そうに答えた。 「うん……」 それから少しだけしっかりした声になって尋ね返す。 「アリィ、一緒に来てよかったのか？」 するとアリシアはくすくすと声をたてて笑った。 「勿論！…………お城を出てから、初めてのことばかり。正直、随分疲れたし、今だってベッドに比べればずっと寝心地悪いけれど、旅をしていればそれはあたりまえのことですもの。私、不自由なことも含めてなにもかも楽しむつもり。メイ姉さまも、サライさんも、旅慣れていて頼もしいし、安心して旅ができるわ。……私なんて正直足手まといだけど、、自分にできることは頑張ってお手伝いしなくちゃと思うの。お兄さまもそこのところは肝に銘じておいてね。……お城ではねえさまに迷惑をかけてばかりだけれど、気をひきしめて頂戴。」 「うん。僕だってそのくらいは判ってるさ。もしも、魔物が出たら、直ぐに飛び出していって僕の一撃で……ぐえ。」 アリシアは毛布の傍に置いていた杖でもってパコ、と兄の頭を殴った。 「……だから、そういう無鉄砲なことはやめて、ってことよ！……」 「でもさ、僕は武闘会に出るために旅に出たんだ、体を動かさないとなまっちまう。……そろそろ寝よう。それこそ、朝稽古しなけりゃ。」 「私も一緒に起きるわ。……旅をしていても、礼拝堂でしているのと同じように朝のお祈りをしたいもの。……お兄さま……」 「ん……？」 「私ね、……お兄様と一緒に旅に来られたこと、とっても嬉しい。」 「………………そっか。…………うん…………僕も、そうかな……」 眠そうに欠伸をし、目を閉じたクライスに、アリシアはおやすみなさい、と言い、目を閉じた。 子供達が目を閉じたあと、年長の二人は焚き火の前で語らっていた。 「そうですか。メイシアさんは、シアたち兄妹と子供の頃からの知り合いなのですね。」 「ええ。……アリシアは私のことを姉のように思ってくれていて、私もアリシアを妹のように思っています。が、クライスは見ての通りの考えなしの猪突猛進、走っていったが最後、連れ戻すまで行ったっきりのような子で……正直、相手をしていて疲れます。」 サライは目を細める。 「私にはクライス君があなたを信頼しているのがとてもよく判ります。あなたの前でいろいろ子供っぽいことをやるのは、あなたに甘えているのでしょう。」 「…………ええ、まあ……でもですね！ものには限度というものがありまして！…………ああ、もう、こんな愚痴、サライ殿に言っても仕方がないですけど、でもッ！」 メイシアはひとしきりクライスに対する罵詈雑言を言ってしまうと、気が済んだのか、ふうっと息をついた。そして、さすがに大人気ないと思ったのかコホンと咳払いをし、申し訳ありません、とサライに小さく頭を下げる。サライは、というと、ゆったりと微笑んだままで楽しげである。 「別に構いませんよ。思ったことを口にしていただけるのは私にとっては嬉しいことですよ。これから長い旅になるわけですし。……むしろ安心しました。メイシアさんはまだお若いのに王宮に仕える騎士様ということですから、こうしたお話などできないのではないかと少々心細く思っていたので。」 「……いえ、それは私の方も同じです。私は剣の道を歩んでいますが、学術の方は苦手です。魔道学校の主席もとられたサライ殿に呆れられてしまうかもしれません。…………あ、二人とも眠ってしまったようですね。」 「そうですね……慣れないうちは馬にのっているだけでも疲れるのでしょう。私にも経験がありますよ。」 「……ええ。でも、少し慣れたら、夜の焚き火番もやってもらいましょう。」 「おやおや、メイシアさんは厳しいですね。」 「……できることは年が若くてもやる。あの子達の親御さんもそれは徹底的に指導してきたことですから。……大丈夫。………人は一人では生きていけないこと、周囲への気遣いを怠らず、進んで力になろうとこと……それがいかに大切なことかは同じ年頃の子たちよりよくわかっています。」 サライは頷く。 「優しい子たちですよね。」 そして、紺色をした魔導師のローブを前で止めているフックを外すと勢い良く脱ぎ捨てた。 何を？と訝るメイシアの前で、チュニック姿になったサライは自分の背中にそっと手を触れた。フードつきのゆったりしたローブを着ているとあまり目立たなかったが、サライの背は随分と丸くなっていた。 「……知っていていただいた方がいいかと思いまして。余計な気を使わせてもいけませんしね。……シア……アリシアはこの私の瘤のことを知っています。最初は随分驚いたようですが、だからといって奇異の目をむけ続けることはありませんでした。……そして、さっき、クライス君がこの瘤のことを聞いてきたんです。……興味本位でないことはすぐにわかりました。彼は言葉を選んで、痛くないのか、痛いのだったら力仕事は僕が引き受ける。だって男なんだし、毎日体を鍛えているのだから、と言ってくれましたよ。驚かれるのには慣れています。ひそひそ話をされるのも。逆に過剰に気を使われることにも……あたりまえです。私は普通の人と姿が違うのですからね。…………でもあの子は、私が大丈夫ですよ、痛くありませんといったらそうか、だったらいいや、とそれだけ言ってあとはごく普通に会話してくれました……それは殆どないことなんです。……この瘤は赤ん坊の頃からあったそうです。私は捨て子だったのですが、この瘤のせいで捨てられたのかもしれません。それでも子供の頃はまだ小さかったのですが、成長するにしたがって大きくなってしまい……このようになってしまいました。しかし、痛みはありません。仰向けに寝ることだけはできませんが……」 そこまで話すと、サライはローブを着込んだ。 以前、ブライ老がサライのことを『よくできた若者』といっていたが、その一端をメイシアは垣間見たような気がした。普通なら隠せるものは隠そうとするだろう。それを、彼は堂々と曝け出す。随分苦労もしてきたろうに、そんなことはおくびにも出さない。 「だからお気遣いの必要はありませんよ。さて……メイシアさん、先に休んで下さい。シアから聞いています。メイシアさんは毎日朝稽古をしていらっしゃると。ならば早朝の見張りの方が宜しいでしょう？私は宵っ張りの癖がありまして、逆に朝は弱いんですよ。途中で起こしますから。」 メイシアは素直に頷き、寝支度をした。長剣を外し、枕元に置き……寝支度といっても、魔物の襲来に即座に対応できるよう、服は脱がずに緩めるだけだ。 「おやすみなさい、メイシアさん。」 「おやすみなさい……あの、サライ殿、私はあなたより年下ですし、呼び捨てで結構ですよ。それこそ道中かしこまった呼び方をしていると、街中などで妙な連中の注意をひくかもしれません。」 「……そうですか。でしたら、あなたも『殿』はやめて下さいね。なんだかくすぐったくて仕方ありません。」 「ええ……そうします。それではおやすみなさい、サライさん。」 「はい、おやすみなさい、メイシア。」 メイシアは毛布を被り、目を閉じた。サライから『メイシア』と呼ばれたとき、不思議な感じがした (これがサライ殿が先程いっていた『くすぐったい』ということなのだろうか) その感情の正体が判らぬまま、サントハイムの女性騎士はうつらうつらと眠りに落ちていった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「ひゃっほー！魔物みーっけ！」 メイシアが手綱を操る馬の背からポーンとクライスが飛び降りた。そのまま嬉しそうにとんぼを一つ切ると、前方目掛けて走っていく。と、兄に触発されたようにアリシアも馬から飛び降り、杖を片手に走っていった。 双子の走る先には巨大なバッタの姿をしたモンスター。 「よーし、ここは気合を入れて、会心の一撃でッ！うげッ！」 足蹴りを繰り出そうとしたクライスの腹を、アリシアの杖の一撃が見舞った。 「何するんだよッ！折角魔物が出たのに！」 怒鳴られてもアリシアは怯まない。 「どうしてお兄様はいつもそうなの！モンスターの中には、お城に住んでいる『スライム』みたいにいい魔物だっているのよ。確かめもしないうちからすぐにやっつけようとするなんて、神様の御心にだって反するわ！」 「…………あのなあ、いちいち確かめている暇なんてないってば。」 ……と、双子が言い合っている間に、バッタの魔物は心配してやってきたサライに向かって突進し、彼をポーンと後方へ跳ね飛ばした。 「！」 アリシアはとって返す。母譲りの俊足でバッタに追いつくと華麗なフォームで杖を振りかぶり、スィングするとバッタは遠くに飛ばされて命からがら逃げていった。 隣にやってきたクライスが呟く。 「……すぐにやっつけてるのはアリシアの方じゃないか。」 「……今のは悪い魔物よ。だって、サライさんを突き飛ばしたじゃない。」 サライは既に起き上がっており、パンパンとローブをはたいて土ぼこりを払い、怪我はないですよ、シア、ありがとう、と微笑んだ。 「…………あとさ……前々から思ってたんだけど、アリシアってシスターの勉強してんのに、なんで魔導士の杖を持ってるんだ？」 アリシアはくるり、と魔導師の杖を回した。 「これは、ブライ様が下さったの。杖があると精神を集中するとき便利だし、護身用に使えるからって」 護身用……いや、さっきのを見る限り護身用ではなくあからさまに攻撃用だと思うが。 「ちぇ……折角魔物を倒す機会だったのに……まあ、シアの言うこともわかんないじゃないけど。……っていうか、それ、父上が言ったことだよな。」 ええ、そうよ、と微笑んだアリシアが凍りつく。彼女の視線の先には、犬のような魔物が一頭。 「えーっと、犬っぽい魔物？」 じっと観察するクライスの袖をアリシアはひく。 「犬じゃないわ。アレはあばれ狛犬よ……とても危険な魔物だわ。」 「でも、もしかしていい奴かも……」 「そんなことあり得ない！あっ！傍に小さな子供が……ああっ！飛び掛った！ああ、ダメ！」 そのときにメイシアは既に行動を起こしていた。馬の腹を蹴り、疾走させる。サライも馬に跨りあとを追う。 犬の魔物はまだ成獣ではなさそうであったが、図抜けた足の筋力で地上高くに飛び上がる。そして、少年に飛び掛り、そのままゴロゴロと地面に転がった。 後方からサライが呪文を唱える。 「万物の理を統べる大いなる力よ……我に一時道を譲れ。邪悪なるものの守りの力を取り去りたまえ」 魔物の体がぼうっと光った。馬から下りたメイシアはすぐに伐剣し下段に構えて一直線に魔物に向かって突き進む。と、魔物に飛び掛られていたはずの少年ががば、と起き上がってメイシアと魔物の間に入った。 「？？？？」 メイシアはは目を見開いた。少年の後ろであばれ狛犬は嬉しそうにちぎれんばかりに尾を振っている。 「うちのペトロは魔物だけど悪い犬じゃないよ！だから剣なんかしまって！」 信じられない、というように立ち尽くすメイシアの前で少年はおいで、と魔物を呼ぶとその太い首をぐりぐりと撫でた。 「さっきはじゃれてただけなんだ。旅人さんたちは皆びっくりするけど、ペトロはとっても利口でいい犬なんだよ。ペトロ！お手！」 魔物は差し出された少年の手にちょん、と前足を乗せた。 「おかわり！」 魔物は反対側の手を乗せる。 「おまわり！」 ぐるぐるまわって…… 「ちんちん！」 後ろ足で立って…… 「よぉし！一回転！」 その場でぴょんと飛び上がって空中回転！！ 「凄い凄い！」 追いついたクライスが拍手する。 「すっごいな！君、すっごい友達がいるんだな！」 少年は嬉しそうに頷く。 「僕が教えたんだ。他にもいろいろできるんだよ、ペトロは。それにとってもおとなしいよ。よかったら撫でてやって。ペトロは撫でて貰うのが好きなんだ。」 クライスはさっそくぐりぐりと撫で回し、メイシアは検分するように、サライはそっと優しく、そしてアリシアは……中々手が出せなかったが、ぺろり、とペトロに指の先を舐められて、やっと背中を撫でることができた。 「アリシア、どこが『危険な魔物』なんだよ？すっごくいい魔物じゃないか。」 「…………本にはそう載っていたんですもの……どうしてこんなに人に慣れているのかわからないわ。あら……ちょっと擦りむいているわ。坊や、ちょっとじっとしていて……この世界を統べたもう全能なる神よ。その力もて小さき者の傷、癒し給え。」 アリシアが少年の膝にできた傷に手をあてて祈ると傷は綺麗に塞がった。すると少年の顔がぱあっと明るくなる。 「お姉ちゃんは怪我が治せるんだね。病気は？」 「え？……なんでも、というわけにはいかないけれど……」 「あのね、父さんがずっと咳をしていて、この頃苦しそうなんだ……お姉ちゃんお父さんのこと治せる？」 アリシアはサライを見る。サライは頷き、メイシアに了解をとるとアリシアの代わりに答えた。 「今ははっきり治せるかどうかわかりませんが、お父さんに会ってみましょう。力になれるかもしれません。」 少年はよかったぁ、と大声で言い、それじゃあ早速案内するね、と、一同の先に立って歩き出す。少年の周りをペトロはぐるぐる楽しそうにまわりながらついていく。……暫く行くと、平原に小さな一軒家が現れた。 「あそこだよ！僕、先に言って父さんに知らせてくるね！父さん、父さーん、お客さんだよ！」 こうしてクライスたちは、平原の小さな家に一夜の宿をとることになった。 |
以前、99999ＨＩＴでキリリクをいただいて書いた「アリーナとクリフトの子供達が出てくる話」の続編です。オリジナキャラクターばかりが出てくる話で申し訳ありませんが、あの話をアップした後妄想逞しく子供達と二人の同行者の設定を細かく決めているうちに、「この四人に冒険させたい！」という気持ちが抑えられなくなっての連載開始です。
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