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「おいら達はあの日、ププルと一緒に遊んでいたんだ。」 小走りに森の中の道を進みながらミャッケが言う。 「・・・・居なくなったときはかくれんぼをしてた。ププル、最後まで見つからなくて、みんなでそこいらじゅう探したら、ププルの悲鳴が聞こえたんだ。急いで出ていったら、靴だけ落ちていて。・・・・靴だけで、あいつの影も形も見えなかった。恐くなって街道まで走っていったらアレクスさんに出会ったんだ。ププルのことを話したら、あの人、自分の荷物をうっちゃって走ってきてくれた。でも、途中で空から魔物が襲ってきて・・・・アレクスさんは俺達の上にかぶさってかばってくれた。だから俺達は無事だったけど・・・・アレクスさんは怪我した。怪我をしたけどそのあとププルのことが心配だからって、おいらたちに村に戻るように言って森の奥に一人で入っだんだ・・・・」 重い鎧を鳴らし、早足で歩くライアンは歩みを止め、ミャッケたちを自分の後ろに下がらせた。 「ど、どうしたのさ。」 王宮戦士は剣の柄に右手をかける。 「・・・・どうやら、魔物たちは、何者かに大人を襲うよう命じられているらしい・・・・」 子供たちは不安そうに身を寄せ合っている。 高い木の枝から鼠のような生きものが数匹飛び掛かってきた。大きな耳をいっぱいにひらき、物凄い勢いで滑空してくる。近付くに従ってその大きさはぐんぐん大きくなり、人間の頭ほどもあるのが判った。ライアンは剣を一旋し、二匹の銅を切断し、返す刀で三匹を切り捨てた。血塗れの魔物の体が地面の上でピクピクと動いている。 仲間の血を見て動揺した鼠の魔物がじりじりと後ろに下がると、代わって土から十匹の大ミミズが現われた。ライアンは小走りに走って子供たちから離れた。四匹はそのまま地上をのたくって彼を追ってきたが、残りは土に潜り、彼の行く手に立ちふさがるようにぬうっと頭をもたげた。子供たちは恐怖に足がすくんでいる。 「早く逃げるのだ！この魔物は私が目当てだ！お前たちは逃げろ！」 ミャッケがいち早く正気に返り、子分たちの頬をぺちゃりと叩いた。子供たちは村の方角へと走っていく。子供たちの安全を確認し、ライアンは軽くジャンプした。細かな鋭い歯が生えた大ミミズの口が一斉にライアンを襲う。王宮戦士の目がキラリと光った。 次の瞬間、ミミズは急所を切断されて屍になった。 「王宮戦士様！」 最後まで残っていたミャッケが逃げながら叫ぶ。 「気をつけて！それから、この森に住んでいる妖精はおいらたちの味方だから戦士様をきっと助けてくれるよ！」 ミミズの次は巨大なクワガタ。そして枯れはてた切り株が命を得てぎくしゃくと動いている魔物の群れ・・・・いずれも恐ろしい魔物だったが、手だれの王宮戦士の敵ではなかった。ライアンは最後の一匹を切り捨てると一度剣を納めた。 このような魔物の大群に出会ったのは初めてだ。彼はクワガタの大顎で傷つけられた腕に走る浅い傷を手当てしようと皮袋から薬草を出そうとした。 と・・・・ 「・・・・！」 じんわり暖かな感触が腕をとりまき、傷が塞がっていく。 ミャッケが言っていた妖精だろうか。いや、妖精は滅多なことでは人を助けようとしないと聞く。 もういちど先程と同じ暖かな感じがし、傷が完全に塞がった。ライアンは何者かの気配を感じ、視線を上にあげた。 近くの木の上に、それはいた。 妖精ではない。もっと不細工な、生き物。 ありていにいってしまえば、それは魔物、さきほどライアンが切り捨てた者の仲間だった。ぶよぶよとした半透明の青い頭からは十本を越える白い触手がうねうねと生えており、スライムの亜種だと思われる。ただ、その丸い二つの目はじっとライアンを凝視しており、怯えてもいるようだった。 ライアンの胸に、涙をこぼしながら斃れていった竜の姿が思い出された。 「魔物よ。・・・・・私の傷を治してくれたのはお前か？」 木にしっかりとしがみついたまま、魔物はこっくりと頷いた。頷く・・・・？人の言葉を理解する知性が下等な魔物にあるというのか？ 「怯えなくともよい。お前は私を癒してくれた。私に戦う意志はない。 魔物はなおもじっと王宮戦士を見つめていたが、真ん丸い目を糸のように細くしてにっこりと笑った。 「ありがと。嬉しいです。僕の姿を見て、優しく話して下さったの、戦士さまが初めて！」 よく通る、綺麗な可愛らしい声だった。 「お前は・・・・言葉を話すことができるのか？」 魔物はふわふわと木の上から舞い降りてくると、それでも用心してなのか、ライアンから少し離れた切り株の上に陣取った。 「随分前に銀色の髪をした人がここを通りかかったときに、話せるようにしてくれたの。言葉を知らず、人間に虐げられるだけではふびんだ、って。ふびんってどういうことかわからないけど。そうしたらそれまではぼんやりしていた頭の中が突然はっきりとしてきて、喋れるようになったんです。」 「村の子供たちが妖精といっているのはお前のことなのか？」 「はい。・・・・・でも、姿を見せると、みんなは逃げるし石を投げられたりすることもあるから声だけ。お話したり、歌を歌ったり、怪我を治したりするとみんな喜んでくれるの。お話できるようになってよかった。・・・・・あの、戦士様はどうして僕を見ても怖がったりやっつけようとしたりしないの？」 ライアンにはこの小さな魔物が邪悪なものとは到底思われなかった。 「どうしてそのようなことをする必要があるのだ？お前は人間と友人になりたいのだろう？」 青い魔物は少し俯いたようだった。 「でも僕は魔物だもの。声だけなら大丈夫だけれど、お友達にはなれない。」 戦士は首を振る。 「私はそうは思わぬ。」 と、魔物の体の色がさっきよりも鮮やかな空の青になりひゅん、と飛び上がると戦士の左の肩当にかじりついた。 「本当？戦士様、僕のお友達になってくれる？」 ライアンは苦笑した。この魔物、魔物の姿をしてはいるが、人間の子供と変わりがない。 「ああ、お前さえよければ、な。」 青い魔物はにこにこと笑った。 「僕、ホイミンっていいます。人間になるのが夢なの。喧嘩ばっかりで殺し合いばっかりしている魔物と違って人間はあったかくって優しいでしょ？・・・・・人間になったら、皆、僕とお友達になってくれるでしょ？前に吟遊詩人のお兄さんが通りかかった時に姿を隠してお話した時、いいことをいっぱいすれば願いがかなうっていわれたの。だから僕はいいことをいっぱいしたいの！そして人間になりたいの！」 その願いは叶うことはないだろうと内心思いながらライアンは反論はしなかった。 「私の名はライアン。バトランドの王宮戦士だ。」 ホイミンは触手のうちの二本を激しく打ち合わせた。 「うわぁ、凄い。村の子達から教えてもらったよ。王宮戦士さまって凄い人なんだって。あの、戦士様、ライアンさんって呼んでいいかしら。」 戦士は頷く。 ホイミンはライアンさん、ライアンさん、と何回も嬉しそうに繰り返して呼んだ。 「・・・・・ところでホイミン。この一帯で子供たちが神隠しに遭っていると聞く。何か知っていることはないか？」 青い魔物は大きな頭を傾げた。 「小さな子の悲鳴が聞こえたことはあるんです。でも、僕、怖くてその度に隠れちゃっていたから・・・・・・ごめんなさい。」 ライアンは、お前が謝ることなどないのだ、といい、村の方に目を向けた。森の探索をするのなら、自分一人より仲間の王宮戦士たちと共に在ったほうがいい。 「ライアンさん、村に戻るの？・・・・だった僕も一緒に行っていい？」 王宮戦士が少し驚いたのがわかったのだろう。ホイミンは肩当に噛り付いたまま言った。 「約束があるの。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ イムルの村の門をくぐるとすぐ、ホイミンは体を戦士のマントの下に押し込んで隠した。が、触手でちら、とマントを持ち上げるとライアンの顔を見てそろそろと地面に降りた。 「ありがと、ここまで一緒に来てくれて。途中で一杯お話も聞いてもらっちゃって。僕、ここからは一人で・・・・」 しかし、その声はとても寂しそうだったし、何か以前に怖い目にあったことでもあるのか、体は少し震えているようだった。王宮戦士は何故だかこの魔物とこのまま別れてはいけない心持ちになった。 「・・・・・仲間は夕方にならねば戻ってはこない。そして魔物が活発に活動する夜の森へ行くのは私たちにとっては得策とはいえないのだ。お前さえよければ、約束の場所に私も一緒に行こう。」 ホイミンは再び嬉しそうに戦士のマントの下に潜り込む。 「いいの？いいの？ほんとにいい？」 「ああ。」 青い魔物はマントの中から次を右、次を左、と囁いた。 そこは村の外れだった。夕焼けの中、少女が一人庭に置いた椅子に腰掛けている。蜂蜜色の髪に白い肌。だが、その両の目には白い包帯がぐるりと巻かれていた。 ホイミンはマントから飛び出て少女の近くの木の枝を小さく揺らした。かさかさという音に少女がぴくっと体を動かす。 「妖精さん？」 ホイミンは盲目の少女の前に立つ。 「約束通り来たの。目はもう痛くない？」 「うん。あのね、手術して下さったお医者さまが、もうすぐ包帯が取れるって。そうしたら妖精さんのことも見えるのね！楽しみ！」 ホイミンはどう返事をしたらよいかわからないらしく黙っていた。少女はちいさくあっ、っと叫んだ。 「そうね！妖精さんは人間に姿を見せちゃいけないのよね！・・・・・こうして妖精さんの近くでお話できるのも私の目が見えないからなのよね。・・・・だったら見えないままでもいいかな。」 青い魔物は触手をわたわたと振った。 「それはダメ！あのね、目が見えると綺麗なものがここには一杯あるの！涙がじわって出てくるようなものが一杯あるの！だから見えないほうがいいなんてことないんだよ！それよりも、これ！はい！」 魔物は触手の一本にぎゅっと握っていたものを少女に差し出した。それは枯れたようにも見える茶色の花だった。 「わあ！良い匂い！」 少女は花をを鼻に近づけて香りを嗅いだ。 「きっとこのお花はとっても綺麗なのね！」 魔物はもじもじとした。 「それはあんまり綺麗じゃないの。でもとっても素敵な香りでしょ？」 「うん！妖精さん、ありがとう！いつもおみやげもってきてくれて！あのね！今日は私もプレゼントがあるの。」 ホイミンはおずおずと触手を一本出して、少女が得意げに掲げた真っ赤な飾り紐を受け取った。 「母さんから余り毛糸を貰って組みひもをつくったの。それは、お願いが叶うおまじないがかかってるの。だからずっと腕に巻いておいてね。」 それからしばらく魔物と少女は楽しげに話していたが、やがてさよなら、と可愛らしい声を掛け合って別れた。ホイミンはライアンのところへ一直線にやってきた。戦士はわかっている、というようにホイミンの触手の一本に飾り紐を解けないようにしっかりと結んでやった。 それからホイミンはいくつかの家に立ち寄った。ある家にははかまがついたままの大きなどんぐりを５つほど固めて置いておき、ある家の窓辺には石蹴りに使うのに最適の丸くて平らな石をちょこんと載せた。ゆりかごで泣いている赤ん坊がいれば急いでとんでいき、ゆりかごをゆらしながら触手をひらひらと動かし、歌詞のない、不思議に優しく懐かしいメロディで歌を歌った。 むずがっていた赤ん坊が眠ってしまうと青い魔物はライアンのところに飛んで戻り、ぴょこんとお辞儀した。 「ライアンさん、今日はありがと。あのね、村に来て、きょろきょろしないでみんなのお家を回れたの、初めてなの。いつもは誰かに見られてないか心配ばっかりしてたの・・・・」 王宮戦士は魔物の丸い頭をそっと撫でた。 「私こそ、傷を癒してくれたこと、感謝する。ありがとう。」 ホイミンは頭を下げたライアンの足元に移動して彼の顔を見上げた。 「ライアンさん、僕が魔物なのにありがとうっていってくれるの？」 戦士はまっすぐに魔物を見つめる。 「わたしは人間だろうと魔物だろうと、恩義を受けたものには感謝するのが当たり前だと思うが。違うだろうか。」 ホイミンはもじもじしていたが、村人がこちらにやってくるのを見て体の色を青白くした。 「ライアンさん、またお話してね！僕、今日は帰ります。ほんとに、ほんとにありがとう！」 赤い飾り紐を巻いた触手を勢いよく振り、魔物は全速力で森へと帰っていった。 夜、ライアンは仲間の王宮戦士たちに、森で魔物の群れに遭遇したことを告げ、翌日から派遣された王宮戦士達総出で森の探索が始まった。戦士達はライアンと同じように魔物の攻撃を受け、傷を負うものも何人か出た。・・・・・彼らは二日間の間にかなり多くの魔物を屠ったが、魔物はあとからあとから湧いて出るようであったし、行方不明の子供たちの手がかりは何も得られずじまいだった。彼らが焦り始めたころ、王都からフレアを伴ったカナルが戻ってきた。フレアは道中夫の様子をカナルから聞いていたらしく、宿屋でライアンを認めるとすぐに牢に連れて行って欲しいと訴えた。 牢の中でアレクスは相変わらずうつろな目をして座り込んでいた。意味をもたない呟きがまさに彼が狂人であることを示していた。カナルはフレアが絶望するのではないかと心配していたが、彼女はしっかりした足取りで牢の前まで歩き、牢番ががちゃりと鍵をあけて重たい鉄格子を動かすのを待っていた。 「あなた？」 アレクスは返事をしない。いや、フレアのことが見えていないようだ。 「あなた。私です。フレアよ。」 言葉というより音に反応し、アレクスはどんよりとした目を上げた。ぐぐぐ、という呻きが咽喉から洩れ、それが叫びに変わる。 「よ、寄るな・・・・来るな・・・・・！こ・・・・・怖い・・・・・来るなッ！」 アレクスが腕を振り回し、フレアは驚いて一歩下がった。カナルが駆け寄ろうとしたが、ライアンが止める。フレアは一度大きく呼吸をし、脅えて暴れるアレクスに近づいた。一度、二度、と振り払われ、殴られ、しかし彼女は何回か後にしっかりと夫の頭を胸に抱きしめた。 「大丈夫よ、あなた。もう怖くないわ。私が守ってあげるから。あなたを傷つけさせたりしないから。」 尚も暴れようとしていたアレクスの動きがおとなしくなり、やがて止まった。 フレアはひげがぼうぼうに伸び、垢じみた夫の頬に優しく口付けた。 「ごめんなさい。あなたがこんなに大変な目にあっていたのに、私は何もできなかった。」 ライアンはカナルの肩を叩き、階段を上り始めた。 二人が外に出た時、牢の中からはフレアの優しい声が子守唄を歌っているのが聞こえた。 次の日の朝、ライアンたちが牢に戻るとフレアとアレクスは互いに肩をもたれあって壁に寄りかかって眠っていた。 アレクスが物音に気づいてまぶたを開けた。その目の中の光を見て、ライアンは靴屋が狂気から脱したことを知った。アレクスは無理をして旅をし、疲労の極にあった妻を起こさぬようにそっと体をずらすと立ち上がって深々と一礼した。 「まだ頭がくらくらしますが・・・・・大変なご迷惑をおかけしたことははっきりとわかります。申し訳ありませんでした。」 カナルが靴屋の手をとって振り回す。 「よかった！よかったぁ！アレクスさん！」 「ありがとう、カナル・・・・・そちらの方は・・・・？」 「あ、こちらは王宮戦士のライアン様。」 アレクスは頭を押さえ、何か考えるような仕草をしていたが、はっと我に返るとライアンに向かって言った。 「ライアン様、私は子供が消えた場所を知っております！案内させて下さい！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 湯にはいり、髯をそってさっぱりとしたアレクスはカナンに肩を貸され、王宮戦士達に守られて森の奥に来ていた。 「ほう・・・・こんなところが・・・・・？」 昔、森番の小屋があったという場所に来て戦士の一人が呟いた。 「アレクスとやら。間違いではないのか。ここは我らが一度探索した場所。何も怪しいところはなかったぞ。」 アレクスは首を振る。 「いいえ、この場所です。確かにこの場所から子供の悲鳴が聞こえたのです！」 王宮戦士達はタメイキをつき、再び調査を始める。ライアンもカナンと共に辺りを一歩ずつくまなく調べて歩く。と、木の幹から白くて長いものがくねくねと動いているのをカナンは見つけた。それが魔物の触手だと気づき、若い兵士は抜刀した。 「この！」 “魔物め！” と叫ぼうとしたときに、彼はライアンの大きな手で口を塞がれた。彼の前にはただでさえ丸い目をますます丸くしたホイミンがちょこなんと立っていた。 「心配するな。これはカナル。少しばかり慌て者なのだ。カナル、これはホイミンだ。・・・・私の友人だ。・・・・・騒ぐな。カナル、いいな。」 手を外されてカナルは青い魔物を見下ろした。ホイミンはぶるぶると震えていたが、それでも礼儀正しく挨拶をした。 「は、はじめまして。僕ホイミンです・・・・・あの・・・僕、何もしないから・・・・・だから・・・・」 カナルは慌てて剣を鞘に収めた。ライアンはホイミンをふわりと抱えて肩当てにつかまらせる。そうしてやってはじめて魔物の震えは収まった。 「ホイミン、どうしたのだ。」 「あのね、ライアンさん、ライアンさんたち、森を調べていたでしょう？僕、ちょっとでもイイことをしたくって、ライアンさんやちいちゃな子の役にたちたくっていろいろ調べたの。そしたら・・・・・」 ホイミンは赤い飾り紐を巻かれた触手で並んで生えている大きな２本の木の小さな隙間を指した。 ライアンは魔物の言うとおりに大人がやっと通れるしかない木の間に足を踏み入れた。 それは不思議な空間だった。何の変哲もない場所だったはずなのに、木の間を通るとそこには玉石が敷き詰められた広場があり、中央に崩れかけた古井戸があった。振り向くと心配そうな顔のカナルが見えた。 （何らかの結界か？） 魔法に詳しくはないライアンであったが、このような異空間の存在は城の魔術師に聞いたことがある。 ホイミンはすうっと古井戸の上に移動すると井戸の底を覗き込む。 「ここから魔物が出てきたの。きっと何かあるんじゃないかって思って、ライアンさんに知らせにきたの。」 カナルは初めこそ、魔物と平然と会話するライアンに唖然としていたが、ホイミンの様子を見て、先程剣を抜いたことを恥じた。姿こそ魔物だが、自分は小さな子供を切ろうとしたのだ。ライアンはホイミンを労い、仲間たちを呼んだ。王宮戦士達は不可思議な空間にぽっかりと開いた井戸を囲んだ。他に手がかりがない以上、ここに潜っていくしかない。最も年嵩の戦士が待機するものと井戸に潜るものを分け、潜るものに薬草などの装備を多めに持たせる。カナルは待機組となり、背負ってきた装備のいくつかを潜るものに譲った。 縄梯子が下ろされ、ランタンを腰に下げた戦士達が井戸の中に消えていく。一番最後に井戸の中に降り立ったライアンは、マントの中からひょっこりとホイミンが頭を出したのを見た。 「ホイミン・・・・！これから先は危険だ！」 ホイミンはにこにこと笑った。 「僕はもっともっとライアンさんの役に立ちたいの！怪我を治すことくらいしかできないけれど・・・大丈夫！僕は魔物なんだもの！」 ぎゅっと肩当に捕まるホイミンに小さく微笑みを投げかけ、王宮戦士は井戸の底に長く続く洞窟へと一歩を踏み出した。 |
| ホイミン・・・・私の中ではこの位の年齢なんですが、皆さんの中ではどうでしょうか。 良いことをたくさんして人間になることが彼の夢ですが、はたして、それは彼にとって本当に一番良いことなのでしょうか。 |