総帥の冒険〜往きて帰りし物語〜
<(_ _)>今回の話は基本が「バカ」です。皆さんにいよいよ呆れられてしまうかもしれません。<(_
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往の巻
緑の芝が敷き詰められた庭。その片隅に置かれた円形のテーブルにはつる草の刺繍がされたテーブルクロスがかかっている。椅子は純白で背に精巧な彫刻がなされ、見事にしつらえられた花壇からはそよ風にのって仄かに甘い花々の香りが流れてくる。花柄のティーポットから注がれた紅茶は深い紅色。液面には陽光に照らされて金色の環ができている。 「今日はベリーのケーキを焼いてみましたのよ。いかがかしら？」 客は勧められるままに生クリームが一杯に乗せられた菓子を口に運んだ。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 無言で口を動かす客に、ケーキを作った本人である銀の髪の美女は眦を上げて少し強い調子で言った。 「どうなんですのッ！至高の味だとか、食感が素晴らしいとか、デコレーションが芸術的だとか、いろいろ感想はあるのじゃございませんことッ！」 ・・・・・・・・・・あんた、つまりそれは褒めろ、ということかい。 ここは魔道士たちが集う“魔道学院”。以前は『世界防衛本部』と名づけられ、地下に拠点を据えていたが、先の戦いで勝利した結果、王都に程近い場所にその場を移している。この学院の頂点に君臨し、魔道士たちを束ねる若き総帥ことシーマオーカー女史はテーブルについている二人の客にぐい、と詰め寄った。 一人はフォークを置いたあと、一口紅茶を飲み、背筋をまっすぐに伸ばしたまま、微かに微笑んだ。 「・・・・・・・美味しい・・・・・と思う。」 白のかっちりとした長衣を着込んだハルカ・・・・・・この世界ではまだ“ファル”と呼ばれている若者はそう言って二口目のケーキを口に運んだ。 ファルの言葉に満足した島岡総帥はもう一人の客・・・・親の仇でも見るような目つきでケーキを睨んでいる娘に目を移した。 「フィリア！椅子の上で片膝立てるその癖、いい加減にやめて下さいませんこと!?あなた、女の子なんですのよッ！」 青い髪をきっちりと三つ編みにして邪魔にならないように止め、漆黒の武闘着に身を包んだ娘ははああああ、と息をついた。片膝を立てるのはやめ、今度は椅子の上であぐらをかく。 「・・・・・好きで女になったんじゃないぞ。」 ファルはむっとしている親友を横目で見て小さく笑った。 「フィル。足を下ろせ。それは礼儀に反することだ。」 フィリアはまたはあああああと息をつき、のろのろと足を解いて普通に座った。 「お前、よく我慢できるな。俺はお前より早く分化し始めたけど、まだ受け入れられないぞ。女ってやつはどうしてこう行儀よくしないといけないんだ。」 白い長衣の若者は長いつややかな黒髪をそっと掻き揚げた。 「・・・・・・・・・受け入れているわけではないが・・・・・変わってしまったものは仕方ない。それに、私は日々の行動を以前と大きく変えているわけではない。・・・・・お前が昔から無作法だっただけだ。」 「・・・・・言ってくれるよなあ・・・・・あのなあ、シーマ・・・・・悪いが、俺、甘いもんはちょいと・・・・いや、だいぶ苦手だ。最初の一口はいいんだが、あとはなんというか・・・・生クリームって奴、体質的に受けつけないっていうか・・・・・。たまにはこう、辛いものが食いたいんだけど・・・・・シーマ？」 総帥は椅子にかけ、テーブルにぎゅっと握った二つの拳を置き、俯いてふるふると体を震わせていた。 ファルも少し眉をひそめ、露出度の高い服から覗いているシーマの白い肩を見る。 「・・・・・・・どうした。具合でも悪いのか・・・・・・」 シーマはなおも体を震わせていたが、がば、と顔をあげると爆発したように叫んだ。 「どうしてあなたがたはいつまでもそんな風なのですッ!?」 ファルもフィリアも彼女を見つめたまま動きを止めた。 「わたくし、あなた方が女性になるとわかって心底嬉しかったんですのよッ！これで仲の良い同じ年頃のお友達ができると思って！毎日こうしてお茶をして、お菓子の作り方を教えあったり、お化粧の仕方やお洒落の仕方をお喋りしたり、ヒミツの恋のお話（キャッｖ）を打ち明けあったり、なのに・・・・なのに・・・・・・どーしてあなた方はッ！女のあなた方よりも男の光太郎とお茶をいただいている時のほうが心安くお話が盛り上がるっていうのはどういうことですのよッ！」 ・・・・・おそらくそれは白金とフィリアがどう、というより、光太郎だからこそ盛り上がっているのだろう。 「それだけじゃないですわッ！あなた方に、せっかく似合うと思って服を仕立てて差し上げましたのにファル、あなたは一度着て下さったきり、フィリアに到っては全然着て下さらないではありませんのッ！」 フィリアの顔がさっと赤くなる。 「・・・・・・あんなやけにひらひらしてたりリボンがそこいらじゅうについている服を着て歩けるか！動きづらいことこの上ない。第一俺に似合うはずがなかろうが！」 シーマはフィリアと額を付き合わせた。 「何をおっしゃいますのッ！すっごく可愛らしくデザインして仕立て屋に発注いたしましたのよッ！あなたにはああいうひらひらしたデザインが思いっきり似合うんですわッ！口惜しいことにあたくしには全然似合いませんのにッ！ファルもどーしてアレをあれ以来着てくださいませんのよッ！」 シーマに渡された白い清楚な感じのドレスを思い浮かべながらファルはコントラルトの声でゆっくりと言った。 「・・・・・・・・私の場合、今はまだ女とばれてしまっては政情不安を煽る。・・・・・・それに・・・・・・・スカートというものは・・・・・・・・足が・・・・・・寒い・・・・」 「・・・・・・寒いがなんですのよ！あなたにはああいうのがバッチリお似合いなんですのよッ！・・・・・・あ、あたくしには全然似合いませんけど・・・・」 ・・・・・・そりゃ、生半可な服では島岡総帥の強烈な個性の前では霞んでしまうだろうて。 「それにッ！このお庭のように他に誰もいないところではばれるもなにもあったものではありませんことよッ！光太郎のためにも着ておあげなさいな！」 ファルはきょとんとした。 「・・・・・・・光太郎が何故そこで出てくる？」 「ドレスを着たら光太郎が喜びますことよ！」 ファルは顎に手をあて思案するように視線を落とした。 「・・・・・・何故・・・・・・喜ぶというのか。・・・・・・・・良かったら教えてくれないか。」 総帥は立ち上がった。うわあ、立ち上がって地団駄踏んでるよ、この人。 「あ、あ、あなたは光太郎の思い人で将来を誓い合った仲でしょうにッ！」 ファルは両腕を組んだ。 「・・・・・口説かれはしたのだが・・・・・・そう言えば将来を誓うと明言されていなかったような気がする。・・・・・・」 「はあッ？だ、だってあなた、こ、光太郎とはその、あのき、き、き、き、き、き」 傍らから呆れた調子でフィリアが口を挟む。 「キスか？」 「そう、それですわ！ああいうものを日夜しているはずではありませんのッ!?」 ・・・・・・総帥・・・・・顔、真っ赤ですよ。・・・・・・それに普通「日夜」っていうかなあ。 ファルはなおも考え込んだ。 「・・・・・・・一度だけだ。・・・・・・・シーマ、ああいうものは結婚前にはみだりにするものではない。」 ・・・・・・・白金先輩の倫理観はダイヤモンド並みの硬さを誇っているようであった。 「あ、あ、あ、あ、あなたはそれでいいのですのッ！いつも一緒にいたい、というか、そういうことってありませんのッ!?」 「・・・・・・・・・そうだな・・・・・・・・・世を平定し・・・・・・できれば私が30になるあたりではそういうことも少しは考えられるようになるとよいかとも思うが・・・・・」 となりでフィリアがうんうんと頷く。 「お前、昔から光太郎には無茶苦茶拘ったけど、べたべたっていう関係は大嫌いだもんな。」 「・・・・・うむ。光太郎も今は各地に『学校』を作ろうと頑張っている。今は個人のことより世界のことを考えるべきときであると思う。」 シーマはもうほとんど泣き出しそうになっていた。 「あなた、恋をしていて胸がずきずき痛んだり、泣きたくなったりすることってありませんのッ!?女性になって不安だと思ったことってありませんの!?」 白金が『うッ』と小さく声をあげた。 シーマがにっこり笑う。 「何かあるのですね。あたくし、相談にのって差し上げてよ。こういうときはやっぱり女性同士が頼りになりますことよッｖ」 白金は重い口を開いた。 「・・・・・・・・・少し前から思ってはいたのだが・・・・・・・私は・・・・分化がうまくいっていないのではないかと不安なことがある。・・・シーマやフィルに比べ、・・・・・・胸がかなり小さいのではないだろうか？」 フィリアが『へ？』と間の抜けた顔をし、すぐに爆笑した。 「お前さ、この前水浴びしたときちらっと見たけど、十分大きいよ。う〜ん、俺は標準より育ちすぎちまったんじゃないのかな。こんなん武闘の邪魔になるだけだって！それに明らかにシーマの胸はでか過ぎ・・・・・うわッ！」 ・・・・・・・武闘の天才と言われるフィリアであるが、魔道士総帥の電撃魔法を完全に避けることはできなかった。椅子から転げ落ち、ぴくぴくと痙攣するフィリアを見下ろし、シーマは手の甲で目を拭った。 「もう！どうして！どうしてあなたがたはッ！私の乙女心を踏みにじるような反応ばかりッ！あたくしは・・・・・あたくしはッ！特にフィリアッ！あなたときたらデリカシーの欠片もないではありませんのッ！あたくしは、あたくしはッ！・・・・・もう、もう！あなたのことなんて大嫌いですわッ!!」 だっとかけ去っていくシーマの後姿を見送り、白金はフィリアを抱き起こした。すっと回復魔法をかける。 「・・・・・・昔からお前は一言多すぎる。『でか過ぎ』は明らかに言ってはいけない言葉だ。」 「お、お前の話題の選択も良くなかったぞ。」 「選択したのではない。問われたから答えたまでだ。」 ・・・・どうでもいいが、あんたら、会話だけ聞いておると、胸云々の部分は除いて男同士の会話としか思えんぞ。 「・・・・ひとまず謝ってくるのだな・・・・・・シーマに貰った服でも着て。」 白金にまっすぐに見つめられ、逆らえる者はいない。それが親友のフィリアであっても。そそくさと出て行ったフィリアと入れ替わりに光太郎が入ってきた。 「あれ、お茶会おわっちゃったんだ？・・・・・・フィリア、いつも島岡総帥の『甘いもの攻撃』に晒されてるだろ？箸休めくらいにはなるかと思って辛いクラッカー持ってきてみたんだけど。」 白金に促され、光太郎は向かい合って座る。 「ああ、・・・・・・・またシーマを怒らせてしまったようなのだ。」 光太郎は大体の事情を聞いて苦笑した。 「・・・・・・・・フィリア、いっつも総帥とケンカになっちゃうなぁ。」 「・・・・・・・あいつは恋愛など犬に食わせてしまえという持論の持ち主だし、甘いものも極度に苦手な上に、可愛いといわれるよりは死んだ方がましだと思っているからな。・・・・・・・・ところで光太郎・・・・・・・お前は・・・・・スカートは好きか？」 光太郎はげえっという顔をした。 「あ、あんなん、すーすーして足は寒いし、いいことなんてないですよ！サークルの連中、寄ってたかって人のことを可愛いだのなんだのと言って、でも、俺はもう絶対スカートなんてはきませんよッ！・・・・・・・・えと。あの、なんでそんなこと・・・・・ま、まさかこの魔道学院でバザーかなんかやるときに俺にウェイトレスをさせようなんて暴挙を・・・・・」 白金はくすくすと笑った。 「いや、私とお前は似ているな。・・・・・スカートは寒い。・・・・・折角だから茶を飲んでいかないか。シーマのケーキがまだ残っているし、私はその辛いクラッカーを食べてみたい。」 「はい。」 甘いんだか甘くないんだかわからないが、ひとまず幸せそうなので、この二人のことは放っておこう。 さて、話をフィリアのほうに移そう。 彼女は“しゃ〜ないな〜”と呟きながら、魔道学院内で勝手に分捕った自分の部屋に行き、シーマから以前に贈られた“白いレースのひらひら”が襟と袖口と裾についた水色のドレスを箱から出して持ち上げた。肩と肘の小さなリボン、ウェストに結ぶようになっている大きなリボンが妙に可愛い。フィリアは情けなくううう、と呻いてからのろのろとドレスを身につけた。青の髪、長い睫に飾られた紺碧の海の色の大きな瞳、健康そうな薄紅の唇。豊かな胸に細いウェスト。冷笑的に口の端だけで笑ったり、どかどかガニマタで歩いたりさえしなければ、彼女は非常に愛らしい外見をしていた。・・・・・・・もっとも、魔力を秘めた手甲とブーツを身につければ半端魔物は一瞬で粉砕する拳法の達人であるのだが・・・・・・ 彼女が女性らしい格好をしていると・・・いや、男っぽい格好をしていてさえよく男どもが声をかけてくる。その次の瞬間、彼らは腕を脱臼させられたり、アッパーカットをくらったり、背負い投げをされたりしている。・・・・・・そういううざったいことはフィリアは御免だった。声などかけられても嬉しいことなどない。彼女は恋をする気などさらさらないし、自分が女だという意識もない。彼女が目指すのは拳法の道を究めることであり、それによって、彼女の大切な友人たち・・・・・・シーマ、光太郎、そしてなにより親友の白金を守る盾、ときに剣となってはたらくことが望みであるのだ。 鏡で一応身だしなみを整えてから、三つ編みを解く。編んでいたせいでウェーブのかかった背までの髪がこれまた絶妙に彼女にはよく似合っている。ドレスと一緒に箱に入っていた精緻な模様入りの濃紺のリボンをヘアバンドにして結ぶ・・・・・おい、フィリア、その巻き方はヘアバンドじゃなくバンダナだぞ・・・・・・ま、それでも可愛いからいいか。 「俺は可愛くなんかないっ！」 ・・・・・・・はいはい、そういうことにしときましょ。 「シーマ。俺だ。さっきは悪かった。謝る。」 髑髏やカラス、そして複雑な魔方陣が彫刻された上に「総帥のお・部・屋ｖ」といささか場違いに見えるボードがかけられているドアをフィリアはノックした。ギィと音をたてて扉が開く。フィリアが中に入ると魔法で扉はすぐに閉じた。シーマはドレスを着たフィリアを見てにこにこと笑った。 「ほ〜ら、お・似・あ・いｖさすがあたくしの見たてですわッ！センスがよろしいことこの上ありませんことよｖ」 ・・・・・・・うわぁ、どさくさまぎれに物凄い自画自賛だよ、この人。 「・・・・・シーマ、・・・もう怒っていないのか？」 シーマはくすっと笑った。 「さっきはあたくしも大人げありませんでしたわ。考えてみれば、ファルと光太郎は相思のもう固まってしまった関係。フィリア、あなたはまだ恋を知らないネンネさんですもの。あたくしのように燃えるように情熱的な片思いに恋い焦がれている乙女ではないのですよね。」 ・・・・・・“燃えるように情熱的な片思いに恋い焦がれる”って、それ、用法正しいのか？ シーマはフィリアに椅子をすすめ、横を向き、遠い目をした。 「・・・・・いいのですわ。・・・・・・どうせあたくしは昔から一人。今更少女のセンチメンタリズムに浸ろうなどという女々しいことを考えたのがバカでした。私はこの学院の総帥。それ以外の何者でもありませんわ。・・・・そして甘いものの苦手なあなたに毎回ケーキを作るなんて・・・・・罪な女ですのね。わたくしって・・・・」 寂しそうに微笑むシーマにフィリアは多少後ろめたい気持ちになった。 「確かに俺は甘いの苦手だけど・・・・・時たまならいいぜ。疲労しているときの甘いものはうまいと思うし・・・・・・」 「・・・・・・・・わたくしなどに気を使わなくてよろしいのです。悩みもなにもかも、一人で解決していきますわ。・・・・・・・私は総帥なのですから。弱い心をしていてはいけないのですから・・・・・」 シーマの目の縁に、涙が光ったように見えた。 「・・・・・・・いや、別にそんなに思いつめなくとも・・・・・俺にできることだったら相談に乗るし。」 「・・・・・・・・・・・わたくしのお願いを聞いて下さるというの？」 「ああ。俺にできることなら。」 と、きら〜ん、と総帥の目が光った（もちろん涙ではない）。フィリアの腰掛けていた椅子の背からはにゅっと木の枝が生え、ぐいとフィリアを締め付けて拘束した。 「な、何を・・・・！？」 「ふふッｖ嬉しいですわ。言ったことには責任を取っていただきますからね。」 「な、何を俺に頼みたいんだ。」 「ん、もうｖそんな言葉遣いしたら、可愛いのが台無しじゃありませんこと？ふふ。」 「だから、早く言えって！」 シーマは妖艶に微笑んでいる。 「他でもありませんわ。・・・・フィリア、あなたわたくしが思いを寄せる“あの方”のことを知っていらっしゃいますわね。」 知らないはずはない。お茶会のたびに耳にタコが出来るほど聞かされている。 「・・・・・・あたくし・・・・・・“あの方”とお別れして以来、胸に穴があいてしまったような気がするのです。・・・・・・・・もう一度お会いしたい・・・・・お会いして・・・・・・キャッ////、何を言わせるんですのｖｖｖｖ」 ・・・・・・・言ってるのはあんただと思うが。 「そ、それで俺に何をしろと？」 シーマは机の陰から人の形をしたものを取り出し、その中から灰青の細い糸のようなものを抜き出した。 「・・・・・・髪の毛・・・・・か。」 「ええ。“あの方”のものですのよｖすれ違いざまにさりげなく一本戴いてしまいましたのｖ」 ・・・・・・つまり、すれ違いざまに引き抜いた、・・・・・と・・・・・ 「想い人の体の一部を魔法に使うのは恋の魔道の基本ですのよ。光太郎に聞いたのですけれど、あちらの世界でも、似たようなことがあるのですって。恋する乙女には“おまじない”は何処の世界でもつきものですのね。・・・・あの方の住む世界は距離としては離れていても光太郎がいた世界。あちらのやり方で、私、あの方にお会いできないかと試してみましたのよ。・・・・乙女の願いをかなえるおまじない・・・・・ほら、みて下さいまし。北の辺境より、純良な藁を取り寄せ、呪文を唱えながら人型をつくり、それにこの髪を納めましたの。そして、我が魔法により、純度を極限まで高めた“ゴスンクギ”なる魔道具にて、深き森の大樹に想いを込めて打ちつけましたのよ。 ・・・・・・・・副官・・・・・・・・よく無事だったな。 そして・・・・・・・光太郎。君の話は総帥に無茶苦茶に曲解されてしまっているようだぞ。 「・・・・・そしてすべての魔力を注ぎ込んで私は空間を越えてあの方に会いにいこうとしたのですけれど・・・・・駄目でしたわ・・・・・・わかっていたのです。・・・・・・空間を超えるには単純な魔力の大きさではなく特殊な力が必要だということを・・・・・」 フィリアの背を冷や汗が伝った。 「・・・・・・・俺たち“調停者”が持っている『空間渡り』の能力かよ？」 「あら、わかっていらっしゃれば話は早いですわｖ」 「ちょっと待て！俺はファルと違って空間渡りを１度もしたことがない。」 「そんなことなんでもありませんわ。逆に空間渡りをしたことがないのなら、そのための力はファルよりあなたの体にまだたくさん残っているかもしれないじゃないですの？それに、ファルはこの世界にとって大切な人。一時でも留守にしたなら何か起こったときに対処できませんことよ。」 「・・・・・・・それ・・・・・・・俺は大切じゃないって聞こえるんだが。」 「・・・・・・・・うッ・・・・・うふふふふふふふ。そ、そ、そ、そんなことありませんわｖｖｖｖフィリアはわたくしの大切なお友達ですわよ〜〜〜」 ・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・それに、前から聞きたかったんだが、シーマはどうしてあいつに拘るんだ。・・・・・・確かにあいつは強い奴だったさ。俺も機会があったらいつかサシで勝負したいと思っていた。でも・・・・・・・あんた、ろくにあいつと話をしたこともないだろう？そんなんで、人を好きになることなんてできるのか？俺には皆目わからない。」 シーマはくすっと笑った。 「私もあの方に出会うまで、一目ぼれなどということはオロカ者のすることだと信じておりましたわ。・・・・・でもね、フィリア。恋は理屈ではないのですわ。・・・・・あの方はわたくしの運命の方・・・・・・もうそれは変えがたい事実なのですｖ」 相変わらず椅子に拘束されているフィリアは呆れていう。 「・・・・・・・もしあっちに行けたって、あいつがシーマを好きかどうかなんてわからないぞ？いや、なんとなくあいつにとっては苦手なタイプなんじゃないかと・・・・・」 「望むところですわッ！あの方がまだご自分の運命に気づいていらっしゃらないのなら、私が気づかせて差し上げますことよッ！・・・・・・それもまた・・・・・・・・あ、でもｖあたくしいざとなったら困っちゃうかも/////。・・・・・・・・・・・と、とにかくッ！」 びしいッ！とフィリアに指を突きつける。 「とにかくッ！協力していただきますわ。・・・・・・あなたはただ、念じて下さればよいのですわ。わたくしが、魔力を結集して、あなたの『空間渡り』の力を解放致します。さあ！行きますわよ！」 「お、おい、ちょっと待て！今ここでかッ？」 「善は急げというではありませんか。それにあたくしは何ヶ月も前から用意しておりましたのよッ！」 「お、俺は５分前には何も知っちゃいなかったぞ〜〜〜！」 「問答無用ですわッ！」 シーマは藁人形から抜き出した髪の毛をフィリアの手のひらに置いてぎゅっと握手した。そのまま目を閉じて呪文を唱え始める。シーマの強大な魔力が手から流入してきたのを感じたフィリアは観念して自分も精神を集中させた。召還し、送還し、自らも空間を超えることのできる特殊能力・・・・・・しかし・・・・・・こんな理由のためにその力を使うことになろうとは夢にもおもわず・・・・・そしてかなり情けなかった。・・・・・・・しかし、性格に少々難はあるといえどもシーマが大切な友であることには変わりない。フィリアは心から念じた。“俺とシーマを・・・・・あいつのもとへ・・・・・・空間を超えて光太郎達が居た世界へ・・・・・・！” 二人の体が光に包まれた。・・・・・・・・・・・そして次の瞬間、薄暗い総帥の執務室から二人の姿は消えていた。 「う・・・・・・・ん・・・・・・」 シーマは額を押えて起き上がった。頭がずきずき痛み、体全体を妙な違和感が覆っている。いったい・・・・・・・・・あたりを見回したシーマは思わず叫び声を上げた。 「ここは何処ですのッ！」 彼女の足元には床がなかった。・・・・・・漆黒の闇だけがそこにあった。その闇の上に彼女は立ち上がった。 「フィリア！フィリア！どこですのッ！返事をして下さいまし！」 フィリアは明るい空間へと投げ出された。瞬間、殺気を感じ、それに反応する間もなく、腹部に強い打撃を受け、彼女の意識は暗黒の中に沈んでいった。 |
| 「総帥の冒険」第１話です。総帥の想いは通じるのか！そして本編では異様に薄かったフィリアの影はこの話で濃くなるのか!? クスノキさんに60000ＨＩＴでキリリクしていただいた「続々編」ですが、内容は外伝的かもしれません。クスノキさん、すみません！3話ほどで完結する小編の予定です。 ・・・・・・・・一応付記させていただきますが、管理人の頭の中ではフィリアはエプロンドレスの似合う外見だけは無闇に可愛い女性です。格闘バカなのはドラクエのアリーナ姫と同じですが、こちらの方は姫と違って愛想のカケラもありません。 |