Ｔｈｅ　Ｆｅｍａｌｅ　Ｈｕｎｔｅｒ

それは、野営中の出来事だった。 ドロシーは突然ロイに呼び出された。 彼女が解放軍の将軍に直接呼び出されることなどめったにない。 怪訝に思いつつもロイの天幕に入ると、そこには、スー、シン、ウォルトたち弓兵と、サウルがいた。 ドロシーが最後だったらしい。 程なくして、ロイが話し出した。 「突然だけど、聞いてくれ。実は…」 そこまで言い、躊躇う。 傍に控えたマーカスがロイを促した。 「食料が全て盗まれたんだ。どこかの小役人が物資の管理を杜撰に行ったばかりにね」 口調は普通なのだが目は笑っていない。 その小役人…いや、マリナスは、天幕の端で縮こまっていた。 「しかも軍資金も３００ゴールドしかない。で、だ。君たち弓兵に食料調達を頼もうと思う」 自らの責ではないのに、心底済まなそうに問いかけるロイ。 マリナスがさらに縮こまっているのが見えた。 「そういうことなら　弓を貸して。　わたし　役に立てると思う」 「…わかった」 「ロイ様のためならば喜んで！！」 ある意味、自らの命も危ないのだ。集まった皆が口々に言う中、ドロシーも声をあげていた。 「任せてください！きっと、皆さんの食料を調達してきます」 と、重大な使命に、決意を新たにしていると、 「あの、私はどうして呼ばれたのでしょうか…？」 サウルが間の抜けた声を上げた。 「あ、サウル神父にも重大な任務があるんです」 「なんでしょう」 「托鉢、です。あなたも坊主の端くれならばそれくらい簡単でしょう」 よくもそのような言葉を知っているものである。 ロイは１５歳のはずなのだが妙なところで博識だった。 「…あなたの卓越した話術で、布教活動を行っても構いませんから」 「それでしたら喜んで。必ず食料を頂いて参りましょう」 ロイの手をしっかり握り、妙にはっきりとした口調で答えるサウル。 その豹変振りに、ドロシーは大仰にため息をついた。 「いいですか神父さま。いくら任務だからって、あまりふらふらしないでくださいね」 話が終わり、天幕を出るサウルの首を捕まえてドロシーは釘をさした。 「おや、本日はロイ様のお墨付きなのですよ。心置きなく布教活動が出来ることを、神に感謝しなくては…、ではドロシー。後ほど」 文字通り、軽やかなステップを踏みつつあらぬ方向へ去って行くサウルを目で追いながら、 ドロシーは大きく肩を落とす。 …あれはぜったいあたしの言うことなんか聞いてないよー。 遠ざかっていく鼻歌に、さらに不安になるドロシーであった。 狩りは、嫌いではない。 無意味な人殺しで弓を使うよりはずっといい。 生きていく為に、動物たちとの真剣勝負で弓を扱うのは、けして嫌なことではなかった。 むしろ、狩り自体に興奮したりもする。 これも…血なのだろうか。 共に猟師であった父と母とのつながりを感じられるからだろうか…。 鳩を２，３羽仕留め、そんなことをぼんやりと考える。 一息ついていたドロシーは無意識に形見の首飾りに手を伸ばしていた。 と、遠くに動物の影を認めた。 じっと目を凝らす。 見えたのは、猪。 それ１頭で、２日分の軍の食料になりそうなくらいの大きさだ。 ドロシーは素早く風下に動いていた。 父の教えがよみがえる。 ーーー獲物を見つけたら、そちらから見て風下に立つ！ けして気づかれないように、ゆっくりと射程範囲内に近づく！ 森と、木々と一体となって呼吸をする！自らも森の一部になるのだ！ 不意に、猪が走り出した。 ……気づかれた！？ それにしては速度は遅い。 ただ移動しているだけでこちらには気づいてないようだった。 が…また気は抜けない。 再び近づき、射程圏内に入ったところで素早く矢を番えた。 じりりと、狙いを定める。 ーーーやや内角をねらい…えぐりこむように…！！ …撃つべし！！！！！ どこかで聞いたことのあるような教えに忠実に、あしたの食事のために、 無言の気合と共に矢を放つ。 が、気負った矢は急所を僅かに外れた。 苦しむ猪と、目が合う。 手負いの獣は、見境が無くなる。敵はこちらにありと、猪は猛烈な勢いで ドロシーへと迫ってきた。 ぎりぎりまで近づかせて…仕留める！！！ 再び矢を番え、きりりと表情を引き締めて、猪に狙いを定める。 これ以上ないというところまでひきつけ、絶妙のタイミングで矢を放とうとした瞬間……！ 突如猪に光球が襲い掛かった。 圧倒的な聖の光に浄化され、咆哮を上げる猪。 爆風にあおられ思わず矢から手を離し、ドロシーはその場にへたり込んだ。 吹き荒れる爆風と、まぶしい光に思わず腕で顔を庇う。 そして…光が消えた時には、猪の姿は跡形もなかった。 …ええと…？ 何が起こったのだろう…。 座り込んだまま暫し考える。 「ドロシー！！」 吃驚するくらいの大声に振り向くと、 そこには、いるはずのない人物ーーーサウルが息を切らして立っていた。 「ドロシー！無事ですか！？怪我はないですか？」 両肩をつかまれ揺さぶられるドロシー。 「えっ…？特には…。それより、神父さまどうしてこんなところにいるんですか？」 ドロシーに怪我がないことに、サウルは安心したように息をつく。 「いやその。ロイ殿の言うように、布教活動をしていたのですが、気が付いたら道に迷ってまして…。 　で、森をうろうろしていたら、ドロシーが襲われているのが見えたので、とっさに…」 「…襲われてるって…あーーー！！！あたしの猪！！！」 そこまで言われ、漸く本来の目的を思い出す。 仕留める筈の猪はいくら周りを見渡しても姿を見ることは出来なかった。 …光魔法によって、浄化され消えてしまったのだから無理もないが…。 「襲われていたのではなかったのですか」 「ちがいます！あれも作戦なんです！…引き付けて仕留めようとしていたのに…」 ドロシーはきっ、と眉を吊り上げサウルを見上げた。 「神父さまはあたしの腕を信用していないのですか？」 「いや、そうではないのですが…、あなたが危ない！と思った瞬間に体が動いてしまいまして…」 決まり悪い表情で頭を掻くサウル。 「でも、本当に無事でよかったです」 そう言うとサウルは無邪気に笑った。 その笑顔にドロシーは毒気を抜かれる。 ーーー神父さま。あなたという人は…。 「神父さま、あなたと言う人は…」 立ち上がりながら大仰にため息をつく。 「本当に、馬鹿ですね」 「む、失礼な」 「でも、…心配してくれたのは嬉しかったです」 すっかり傾いた西日が、ドロシーたちを照らす。 少しむっとした様子のサウルに向き直り、ドロシーはにこりと笑った。 「ところで、神父さまの集めてきた食料って…？」 「ライトニング放つ時に邪魔だからと投げてしまったのですが…しまった！！」 珍しく慌てた様子のサウルにドロシーは目を瞬かせる。 どうしたのかと尋ねると、『卵が入っていたんです』とのことだった。 そして予想通り…卵は割れていた。しかも、大きな袋に、矢が貫通していた。 「これは…」 「どうしようもないですねえ…」 沈む夕日の中、鳩３羽を抱えたドロシーとサウルは乾いた笑いを上げるしかなかった。 「で、サウル神父。あなたは、食料を持ってこれなかった挙句、ドロシーの獲物を消し、あまつさえ、ライトニングの魔道書まで無駄にしたと」 「はあ…まあ」 日もすっかり沈み、星が綺麗な夜空である。 その素晴しい背景を背にし佇むロイからは怒りのオーラが噴出していた。 あくまで口調は穏やか、顔は笑顔だったが。 「…流石の僕もちょっとがっかりしたよ…で、ちょっとあなたにも罰が必要かなって」 控えるマリナスが大きく震えた。…何があるというのか。 「これからあなたには毎晩男性に一晩中夜の説教をしてもらいます！！」 びしぃ！！と指を突きつけ、サウルにとっては死刑宣告にも近しい言葉を告げるロイ。 これには普段は飄々としているサウルも顔色を変えた。 「そんな！ロイ殿、それはあんまりですー」 「い・い・か・ら。これは命令だからね」 「……」 「返事は」 「………はい」 封印の剣を突きつけられ、笑顔で凄むロイに、サウルは頷くことしか出来なかった…。 それから数日は。 毎晩のようにサウルの情けない泣き声、それを罵倒する男の声が郡内に響き渡ったという。 一方、普段夜もサウルの悪行に頭を痛めているドロシーは、束の間の安眠を手にしたらしい。 （おわり） 　　　 ＊一言言い訳＊ 　ドロシーが何か狩りに行くお話（ほのぼの）というリクエストを頂きました。 　…狩り失敗してんじゃん…！！！ 　しかも微妙なギャグっぽくなってしまいました…。 　ほのぼのの書き方を忘れたのでしょうか私は…。 　タイトルまたしても意味なしです。昔吹奏楽でやったバレエ音楽「シルヴィア」に、狩りの女神って言う曲があるのですがそれから引用です。 　ごめんなさいばけ様。こんなもので…（大泣） 　リクエスト有難うございましたｖｖ 以上があやころさんから頂いたあとがきで、ここから先はばけの文です。 あやころさんのサイト「アヤコロリ」(更新停止していらっしゃいます)で７７７７ＨＩＴを踏んで頂いた封印の剣ＳＳです。 封印の剣を知らない方はわかりにくいと思いますが、サウル神父は、「きれいな女性に目がなく腰の落ち着かない僧侶」（←攻略本より）で、ドロシーはサウルの被保護者であり、亡き両親から受け継いだ弓の腕で神父を護る護衛です。自分の容姿にコンプレックスを持つドロシーは、しかしながら真面目で優しい心を持っており、ある意味神父より聖職者向きかもしれません。この少女を実のところ誰よりも大切に思っているのはすちゃらか神父様なのですが。 実際、狩りにサウルが付いてきたなら、はっきり言って邪魔以外の何者でもないかもしれませんね。獲物は消されてしまったけれど（すちゃらか神父様でも浄化できるんですね(^^)ひとまずドロシーは嬉しかったようで・・・・・ 獲物を狙うドロシーちゃんの狩人としての姿にばけは惚れましたです。 可愛らしいお話ありがとうございましたｖ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　戻ります ・・・・・・・なんか書いてみてしまいました→なんか