紅い玉(ぎょく)、青い瑠璃 (3) |
「しかし、何だって、俺が。」 オズウェルはロランドの石畳をゆっくりと歩きつつ、不愉快そうに眉をひそめた。 やや前方を行くエリカは、歩みを止めずに首だけ小さく回して笑う。 「オズウェルったら、何度も同じことを言ってばかり。お手紙にオズウェルの名前があったのは確かなんだから。しかもオズウェル=アグスタ=ウエストランド、ってフルネームで。」 その笑顔を見、ことさら不機嫌な顔を作って見せてから、はあ、と息を一つつく。 「お前が気楽すぎるんだ。なんで、シュレスベルクの皇女が俺の名前を知っているんだ。どう考えてもおかしいだろうが。」 んー、とエリカは視線を空に上げる。 「……私もそれについては考えてみたの。アレックさんはシュレスベルクにいたのだもの。オズウェルの名前がいろいろな話の中で出てもおかしくはないわ。」 「……何故、見ず知らずの俺に会いたいなんて思うんだよ。」 「きっとアレックさんが、ロビュにはヨハンと同じ年頃の腕のいい整備士がいる、って言ったのじゃないかしら。それから、オズウェルのことをとってもいい人だとかなんとか。」 さっとオズウェルの頬が赤くなる。 「なんであの人が俺についてそんなことを……！」 「あら、だって、オズウェルは気難しいところがあるけれど、いい人だもの……」 体ごと上半身を捻って答えたエリカがぐらりと体をよろめかせた。オズウェルは咄嗟にその二の腕を掴んで支える。 「馬鹿！前をよく見て歩け！転んだらどうする！……お前はもっといろいろ気をつけろ。……この頃お前がドックに顔を出すたび、整備班の連中がどれだけ肝を冷やすと思っている。お前は大胆すぎるんだッ！」 「皆が過保護すぎるのよ！」 「いーや、お前が悪い！」 そして、早足にエリカの前に出、腕を伸ばす。エリカがその腕をぎゅっと握ると、今度は大音量で怒鳴った。 「誰が腕を組めと言った。袖を掴んどけ、袖を。……そう、肘のところだ。」 そして、明後日の方を向く。 「……第一、俺はあの店そのものも苦手だ。ティノさんの料理が食いたくて行きはするが。」 ティノが小隊のコックからフォンク亭に戻ったのを機に、オズウェルはフォンク亭にしばしば行くようになったが。確かにオズウェルはフォンク亭の雰囲気を苦手としていた。食事に行っても一人で隅に座り、持って行った本を読みながら料理を口に運ぶだけ…… 「……ったく、一体、なんの用が俺にあるっていうんだ？」 と、バン、と結構な音をたてて背中を叩かれ、オズウェルはげほっと咳をした。 「まー、いーじゃねえか。こうしてここまで来たってことは、腹ァ、くくったってことだろが、え？」 歯を見せて笑う、老いて益々盛んな整備の長であるナカジマに、オズウェルは不承不承に頷いてみせる。 「ええ、ですが、俺は納得したわけじゃないんで。……親方、親方は何故行くんですか？親方は別に呼ばれてはいないんでしょう？」 ナカジマはピン、と口ひげを捻った。 「呼ばれちゃあいねえが、行っちゃいけねえとも言われちゃあいねえからな。……俺はな、あのサムライがロランドを出るときにフォンク亭で見送った人間の一人だ。この町に戻ってきたあいつが、どんな具合になってるか、どんな瞳をしていやがるか、そいつをこの目で見たくてな。お前も興味があるんだろう。フォンク亭に行くのを渋ったときに、俺が『ヨハンってぇ奴は、アレックが向こうにいるときに並んで飛んでた全装甲板未装着のバケモノエースだぞ』って教えた途端に目の色変えやがったじゃねえか。」 また、オズウェルの頬が心なしか赤らむ。 「…………確かに興味はひかれましたが……」 アレックと共に飛び、彼無事な姿で彼をユクトランドに、エリカ、そして自分の元に帰してくれた恩人に一目会っておきたい、なんて本音は口にすべきではない。 「ま、理由はどうだっていい。……おい、エリカ、時間の方はどうなんだ。」 エリカは、実用に徹した大きな文字盤の腕時計を見る。 「丁度いいくらいです。ヨハン、フォンク亭の人だけにまず話があるんです。私達はそれが終わるまで待っている約束で……ひとまずお店の前の席に腰掛けて待っていたらアレックさんが呼びにきてくれます。」 んじゃ、その間は昼寝でもしているか。とナカジマは大きく両手を上げてのびをした。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ヨハンがロランドの町の入り口に到着したのは、午後３時をまわった頃だった。“ロランドまで一マイル”という道標を見つけ、空を見上げると、己の影法師ばかりを見て歩いてきたせいで、明るい青に、薄黒く人型が魔物のように浮かび上がっているように見えた。 街が近づくにつれ、人通りも多くなる。馬車、荷車、車……そして、ロランドが昔城砦都市であったことを示す“壁”の名残を示す場所に辿りついて、彼はそこに見慣れた姿を見つけた。 静かに佇んでいたアレック=ユーティライネンは、ヨハンをその空の青の瞳で見つめ、微笑んで右手を軽く上げた。 「ヨハン。待っていたよ。」 「アレック……俺が今日ここに着くことをどうして知っていたのですか。」 「エルネスティーネ様からの知らせでね。……どうも皇女様は君のことを随分と気遣っているようだ。ここに着く時間まで予想して連絡を下さって、俺はだからそんなに長く待っていたわけじゃあない。……ん、どうしたんだい。」 ヨハンはまじまじとアレックの姿を見ている。 「…………数ヶ月前に会ったばかりなのに、あなたから受ける印象が随分違う、と思ったので。」 アレックは、フード付きの白いコートの前たて部分を少しひっぱってみせた。 「私服のせいじゃないかな？君と会ったときには軍服か、飛行服か、それに準じた形の衣服しか着ていなかったからね。」 「…………それだけではないように思えるのですが。」 目を細めたユクトランドの空の英雄は、自分なりの答えを見つけてはいたが、それはヨハンにはまだ理解できないことであることも知っていたので、少しだけ違った答えをした。 「どうだろう。もし、君の思っている通りだとすれば、今、俺は緊張していないからじゃないかな。今、ここで君とこうして話をしている俺は、パイロットとしてでなく、軍人としてでもなく、話をしているからね。……長旅、疲れたろう。それを持とう。」 返事を待たず、額縁の包みをアレックは自分で抱えた。 「フォンク亭の皆も待ちかねているよ。」 「ありがとう。……」 一歩を踏み出しかけたヨハンの歩みが止まった。 「………………」 アレックはヨハンが行動を起こすのを静かに待った。やがて、彼は口を開いた。 「彼らは、俺が何をしにきたのか、知っているのだろうか。」 「……ああ。……ヨハン、彼らはね、君が以前にここに訪れたときに、『もしかしたらそうではないか』と思っていたのだそうだよ」 ヨハンの緑の瞳が大きく見開かれた。 「……………………」 また、アレックは静かに待つ。 「……それでも彼らは俺を旅人として受け入れ、送り出してくれたのか。」 アレックは頷く。 「確信がなかったからかもしれないけれどね。…………でも、彼らはそういう人たちなんだよ。ヨハン、君にもわかるだろう？」 ヨハンは、コクリ、と無言で頷いた。 「大旦那も大おかみも、おかみさんも、サラちゃんも、君が来るという知らせを静かに聞いていた。ただ、セルジュ君だけは、そんなことを予想もしていなかったそうだ。……無理もない。彼はまだ子供と大人の境目の年齢だったかね。…………」 あの、元気者の“看板息子”の姿がヨハンの脳裏をよぎる。少しむくれることはあったけれど(そして、その理由はよくわからなかったけれど)、ヨハンは、セルジュといえば、底抜けの明るい笑顔と大きな声を思い出す。……きっと、あの表情も、声も、もうヨハンは見聞きすることはできないのだろう。 「……セルジュは……彼は…………俺が来ることについて、何か言っていなかっただろうか。」 「……ここに来る前、言伝を頼まれたよ。『覚悟していてくれ』だそうだ。」 「そうか……」 覚悟ならしている……あの認識票を手にしてからずっと、ヨハンは覚悟をしてきた。ただし、話したこともなく、顔も知らない遺族に会う覚悟をするのと、フォンク亭の人々に再び会う覚悟は……正直整っていない。しかし、どれだけ責められようとも、あの認識票は返さねばならない。 白いコートのアレックと、黒いに近いくすんだ灰色の外套のヨハンが並んで歩く。アレックは空を、ヨハンは地面を見ていたが、アレックは同行者に話しかけるために視線を落とし、ヨハンは視線を上げた。 アレックの言葉は、返事を必要とするものではなく、ヨハンはずっと無言だった。 二人は歩き続ける。ロランド滞在中によく歩いた中央通り、セルジュと一緒に食材を買いに行った商店、広場………空爆……ヨハンも属していたシュレスベルク帝国空軍の容赦のない爆撃で破壊された町は風景をかなり変えていたが、それでも、ヨハンが懐かしく思う街並みは少しは存在していた。そして、昔と変わらぬ光景に出会うたび、なぜかヨハンの心は余計に疼いた。 フォンク亭が近づいてヨハンの足は鈍った。その肩をアレックはポン、と叩く。 「ヨハン。これだけは言っておく。フォンク亭は以前のフォンク亭のままだ。それだけは覚えておいてくれ。」 フォンク亭は、ヨハンの記憶と寸分かわらなかった。昔、アレックからは、半壊した、と聞いたのだが、崩れたところは、昔と同じに補修して、老舗の料理屋は、見かけはかわらず、蟹や海老が古い殻を脱ぎ捨てて脱皮したように、くすんだ木材と壁の色が、驚くほど明るく変化している。 店先の目立たないところにある椅子にはエリカ達がかけていたが、ヨハンは気付かないようだった。立ち上がろうとするエリカにアレックは首をふってみせ、座らせる。 「さあ、入ろう。」 ヨハンは頷いた。 店の扉には「夕方まで臨時休業」と書かれた黒板が下がっていたが、アレックが扉を開くと、カラン、とベルが音をたて、サラのふわわん、とした声が出迎えた。 「いらっしゃいませ〜。ヨハンさん、遠いところよく来てくれたわ〜。さあ、奥まで入ってちょうだい。」 サラは以前と同じ服を着ていた。ショールも、エプロンも、笑顔も同じだった。それが作り笑いでないことはヨハンにもわかる。ヨハンは深く腰を折って挨拶し……だが、言葉は出なかった。すると、横合いからセルジュがやってきて、ヨハンの背負っている皮袋をひったくるともう一方の手でヨハンの手をとった。 「さあさあ、そんなところでつっ立ってちゃダメだってば。かあさーん、じいちゃん、ばあちゃん。ヨハンが来たよ！」 導かれるままに歩いていくと、セルジュの母、祖父母が、笑顔で並んで立っていた。ティノは随分離れた壁際に立っている。セルジュは大きなテーブルの上にドン、と大きな音をたてて背負い袋を置く。そして、テテテ、と小走りに祖母の隣に立つ。サラは母親の横に。そうすることは予め決めてあったのだろう。配置に着くと、姉弟は母や祖父母の顔をちらりと見、年長者達はヨハンの緑瞳をしっかりと見、やがてサラもセルジュもそれに倣った。 ヨハンは再び深々と腰を折った。 「ご無沙汰していました。実は、俺は……」 と、大旦那が一歩前に出て、ヨハンの前に右手を開いて差し出した。 「判っているから皆まで言わなくていいんじゃよ。…………ヨハンさん、あんたは息子を……ドニスの奴を連れて来てくれたんじゃろ。…………戦地でそれを拾わずにおくこともできた。拾ってもそのままにするのが普通のことだ。だが、あんたはこうして、わしらに会いにきてくれた。…………あんたがそういうお人じゃから、ドニスはこの家に戻ってこられたんだ。……この手の上に、あんたが大事に守ってきてくれたものを載せてはくれないかね。わしらも早く“おかえり”とドニスに言ってやりたいんじゃよ。」 分厚い老眼鏡の向こうの目は笑っていて、口調も穏やかだった。ヨハンは頷き、コートの前を開き、上着の胸ポケットから、皮の袋を取り出した。その中からは真っ白な布包み。それを丁寧に開くと、黒く煤けた銀色の認識票が現れた。ヨハンは布ごと大旦那の掌にそれを載せる。 「ああ、………………」 大旦那は一瞬絶句したが、すぐまた落ち着いた口調で続けた。 「これで、やっと、帰ってきた。」 そのまま、家族のもとに認識票を運ぶ。フォンク亭の人々はじっとその小さな金属を覗き込んでいた、が、突然の嗚咽が静かだった空気を切り裂いた。大おかみは、布ごと認識票を胸に抱きしめ、泣き叫んだ。 「…………こんなに黒く焦げて、こんなに、こんなに真っ黒に焦げて……さぞ、さぞ、熱かったろう、熱かったろうね、ドニス、ドニス、ドニス!!…………ああああ、ドニス、熱かったろうね！！………………ドニス……」 実際には、機体が炎に包まれる前には、ドニスは絶命していたのだが、そんなことは小さなことだった。大おかみの隣にいたおかみさんも泣き出し、サラが背をさする。大旦那は、お前、泣かないって決めたじゃないか、と妻を抱きしめて何度も何度も真っ白になっている髪を撫でた。と、ヨハンは腹に衝撃を受けた。セルジュが突進してきて頭突きを喰らわせたのだ。セルジュはそのままヨハンの背に腕をまわし、ぐりぐりと頭を押し付けた。 「なんでなんだよ。なんで、父ちゃんを撃ち落としたんだよ。……なんで、それが、ヨハンだったんだよ！……他の奴だったら、俺、殴れたのに、思い切り殴れたのに！なんで、ヨハンは帝国のパイロットなんてやってたんだよ！………………なんでなんだよ！どうして……どうして、ヨハンはユクトランドに生まれてくれなかったんだよ。ユクトランドに生まれてさえいれば、アレックさんみたく、俺達の英雄になれたのに。なんで、帝国に生まれて、俺のとうちゃん、殺したんだよ。……なあ、なんでだよ。……なんで……」 そのままセルジュの体が崩れて、店の床に膝をつく。その体をヨハンはしっかり抱き起こした。セルジュがぐし、と涙を拭って、ヨハンを見上げると、ヨハンは微笑んでいた。 「ヨハン……ど、どうして、笑っているんだよ!?」 「……すまない。嬉しかったんだ。……俺は、生まれて初めて、俺に対する感情を真正面からぶつけて貰えた。責めて貰えた。そのことが嬉しかった。」 「何だよ……何だよそれ……！笑ったりするなよ！それに……ヨハン、あんた笑いながら泣いてるじゃないか。…………」 元帝国のエースパイロットは、自分の目から流れ落ちてきた液体を人差し指につけて、目の前に翳す。 「ああ、……俺は泣いているのか。……そうか……まだ、泣けたのか。この20年、泣いたことがなかったが、ああ、また俺は泣くことができたのか。」 「…………！20年泣いてないなんて、どうかしてる。……………………………………あー！もう！ダメだーっ！」 セルジュはぐしゃぐしゃと髪をかきむしって、椅子にぴょんと乗るとそこで胡坐をかいた。 「あー。もー！そうだった。ヨハンとまともに話そうとしてると調子がどんどん狂ってくることすっかりわすれちまってた。………………それにさ、これじゃフォンク亭の跡継ぎ大失格だよな。遠路はるばる国境越えて店に来てくれたお客さんを泣かせちまうなんてさ…………じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん、ねえちゃん、打ち合わせの通りにできなくて御免。」 大おかみが、もうしっかりした声で答える。 「いいっていいって、セルジュ、ばあちゃんこそごめんよ。ヨハンさん、本当によく来てくれたよ。うちのバカ息子なんかのためにさ。さあさあ、そこに座っとくれ。腕によりをかけて料理を作るからね！さあ、みんな、フォンク亭あげての宴会準備、位置についとくれ。」 フォンク亭の人々は揃って厨房に駆け込んだ。ヨハンは目を白黒させる。厨房の中からおかみさんの声がした。 「アレックさん、エリカちゃんたちに入って貰って。外で待たせちゃ可愛そうよ。あたしたちは料理つくってるから！！」 アレックがエリカを連れてくるとヨハンはぱあっと顔を明るくし、ぎゅっと抱擁した。それをオズウェルが引き剥がす。 「あ、……あんたは確か空襲の数日前に小隊の入り口に居た……」 ヨハンは首を捻る。どうも認識はないらしい。 「すまない、重い出せなくて。……ところで、俺は何か悪いことをしたのだろうか。」 「…………あのなあ、こいつは、そこにいる人と結婚しているんだぞ。」 「……それは以前にアレックから聞いた。エリカと一緒になった、と。……この国では結婚した女性を抱擁してはいけなかったのだろうか。」 エリカがくすくすと笑い、改めてヨハンと握手して挨拶しあい、オズウェルに、ヨハンには決して悪気はないのよ、と耳打ちした。隣でナカジマが笑う。 「あっはっは、ちっとのことでは驚かねぇ、うちの若手も形無しだな。おう、サムライ、元気にしてたか。」 「ああ、お久しぶりです。大過なく過ごしています。……“サムライ”とは一体なんでしょう。」 「ああ、お前にはわからねえ言葉だったな。アレックからお前さんのことはあれから色々聞いた。で、ジパングに昔居た、“サムライ”っていう連中と同じタマシイを持っている奴だと思って、俺が勝手に呼ばせて貰ってる。気にしないでくれ。相変わらず無愛想だが、うちのオズウェルほどじゃねえか。」 と、ヨハンがその言葉に反応した。 「君はオズウェルというのか。オズウェル＝アグスタ＝ウエストランド？」 オズウェルが肯定すると、ヨハンはアレックに持ってもらっていた荷を受け取り、オズウェルに差し出した。 「これは……？」 「わからない。」 「……わからないものを届けにきたのか？」 「ああ。ティーネ様は、中身を告げず、君とエリカにこれを届けるようにと俺に命令なさった。」 「…………普通、中身を聞くものだろうが？」 「すまない。受け取ったときにそうしようという気が起こらなかった。」 とにかくほどいてみたらどうかな、とアレックに促され、オズウェルは固く縛られた紐を几帳面に解き、麻袋を開くと、中から厳重に油紙に包まれたものが出てきた。それを開け、更に紙の包装を解くと…… 「何だ、これは？」 何の変哲もない飾り気のない木製の額縁。その中身は青一色で、まるでペンキを塗ったよう。目を凝らすとそこに少しだけ濃い青でアルファベットが書かれているのが見えた。 「オズウェル！」 エリカが目を輝かせた。 「あの子よ！あの子！」 それで、オズウェルにもわかったのか、もう一度じっくりと額縁の中を見、彼にしてはこの上もなく優しい笑顔を見せた。 「……あいつか……俺達の……」 「ええ！」 アレックは、中に同封されていた自分宛の手紙に目を通した。そこには皇女の筆跡が見て取れた。 『金髪のエース殿、これを読んでいるじゃろうか。貴殿にはあの額縁の中のものを見てもわからんじゃろうから、一応説明する。あれはお主がシュレスベルクへと飛来したときの青い飛行機の残骸の一部じゃ。大破し、修理のしようもなかったが、ジネットめがそのまま保存しておってな。わらわが見物に行った際、目立たぬが名前が書かれているのを発見した。これは、この飛行機の関係者の名前じゃろうと目星をつけ、ならばユクトランドに返却しようと上っ面を注意深く削り取り、破損しないように額縁に嵌めこんだ。何かの記念になるじゃろうか？まあ、よきに計らっておくように。頼んだぞ。』 エリカとオズウェルは額縁を前にし、二人で微笑んでいたが、エリカがアレックを呼んだ。 「アレックさん……これ、私達がアレックさんのために作ったオオルリの機体の一部です！ほら、ここに私とオズウェルが書いた名前が。」 「エリカ、お前がアレックさんのために作った飛行機だろうが。俺は手伝っただけだ。サインも、トゥーフォンの奴が書けっていったから書いただけで……」 アレックはふふっと笑う。 「オズウェル、俺からすれば、君達が作った君達の飛行機を使わせて貰った、ということになるんだけど。そう……これが、エリカ、あのときの機体なんだね。」 「はい、ああ、また会えるなんて…………この子は私の力だけでは完成できませんでした。オズウェルが居てくれたから完成できたんです。私とオズウェルにとっては子供みたいなものなんです。ね、オズウェル。」 こいつは一体どういう思考回路をもってして自分の旦那の前でそういうことを言うんだとオズウェルはぶん、と丸い頭を一つ振った。オズウェルの頭の中が手に取るようにわかっているナカジマは、バンバンと背を叩いて大笑いした。その様子をヨハンは眺めていたが、大きく首を横に倒した。 「エリカ……質問していいだろうか……」 「どうしたの？何でも言って。」 「…………どこか、体の具合が悪いのではないだろうか。無理してここに来てくれたのか？」 「？私は元気よ？」 「……いや、……俺にでもわかる。……君は……異常なほどに腹回りが大きくなっている。おそらく腹に水が溜まって……」 厨房の方からセルジュの笑い声が聞こえた。エリカも笑う。 「ヨハン。これは病気じゃないわ。赤ちゃんよ。アレックさんと私の赤ちゃんがお腹にいるの。」 赤ん坊？ ヨハンはすっと跪くとエリカの腹に耳をあてた。セルジュが走ってくる。 「ヨハン！流石にそれはアウトだって！……って、姉ちゃん、怒らないのか？」 だって、ヨハンですもの、とエリカが答えると、そっか、ヨハンだから、とセルジュは言いかけ、 「姉ちゃん、それもおかしいだろ！」 と叫んだ。と、ヨハンが立ち上がった。 「……耳を殴られてしまった。」 エリカの横にいつの間にか立っていたアレックが、それは手じゃないよ、君は蹴られたんだろう。俺も何度も頬を強く蹴られてしまったよ、と説明し、エリカと微笑みあった。 「おいおい、サムライ。ところで、ここに来たってぇことは、セルジュと約束したアイツも持ってきやがったんだろうな？丁度エリカもいることだし、おい、セルジュ、サラも厨房抜けてこっちに来られるか？」 ティノが促す声がし、姉弟がやってきた。 「いやぁな、俺が昔見つけた“カンザシ”ていう髪留めをセルジュにやったんだが、セルジュはこのサムライに託してな。…………おい、セルジュ、おめぇ、説明しろ。」 「ん、ああ、ヨハンがロランドから出て行っちゃうって聞いて、戻ってきたときに一緒に姉ちゃんに渡そうって約束してカンザシをヨハンに預けたんだ。だったよな、ヨハン。………………ううう、でも、、俺の予定では渡すときにはまだエリカ姉ちゃんはお嫁に行っていない筈だったんだけど……ヨハンあれ、出してくれよ。」 ヨハンは背負い袋の奥底から箱を取り出した。カンザシをさし出すとエリカはその紅色の美しさに声をあげたが、それはどんな具合に使われるのか見当もつかなかった。すると、ナカジマはサラに櫛やピンを持ってくるよう言った。 「俺の予想が正しけりゃあ」 サラに髪をとかされているエリカを見ながら腕組みをし、頷く。 「こいつの髪に刺しゃあ、いい絵になるはずなんだ。……サラ、女連中が高く髪を結うときみてえにまとめちゃくれねえか。編んだり縛ったりしてよ。」 わかったわぁ、とサラは請け合い、親方に質問しながら、器用な手つきでエリカの長い茶の髪を結い上げた。 「セルジュ、ここんところ押さえて。姉さんピンで留めるから。うんそう、そのまま。ヨハンさん、私がこっちをこうしていますから、カンザシをエリカの髪に通して下さいねぇ……そう、そこから、少しだけ斜め下に向かって……はい、できました！」 普段と違い艶やかに結い上げられたエリカの髪に、紅い玉がついたカンザシがささっている。ナカジマはほおっと息をついた。 「こりゃあ……うん、俺の予想に狂いはなかったぜ。エリカ、なかなか似合うじゃねえか。おい、オズウェル、何か言ってやれ。」 「…………何を言えっていうんですか。」 「オズウェル、そりゃないだろ。姉ちゃん、すっごく似合ってる。うん、そういえば、その玉、姉ちゃんのリボンの色に似てるな。いや、本当によく似合ってるよ。な、ヨハン。」 「ああ、綺麗だ。とても美しい。」 ヨハンの物言いに慣れないオズウェルは、口を半開きにして、エリカを絶賛するヨハンを見つめた。エリカは、サラに、ナカジマに、セルジュにヨハンに感謝をし、夫を見上げた。 「うん、とても綺麗だね。エリカ、君の髪に映えているよ。」 と、ヨハンが深く頷き、アレックとエリカの手をとった。そして、その二つの手を重ね合わせ、更に自分の手を重ねてぎゅっと握りしめる。 「「ヨハン？」」 二人が同時に声をあげると、ヨハンはまた頷いた。 「俺は、アレック、あなたとエリカが仲睦まじく愛し合っている様子に触れられてとても嬉しい。……俺はあなたたち二人のことをそれぞれにとても大切に思っていたから、幸せそうなあなたたちを見ることで、俺も幸福になれました。」 あれが、素か？とオズウェルがうんざりしたように訊ねると、「そうなんだよな」「そうなのよね」とフォンク姉弟が返事をする。と、厨房から姉弟を呼ぶ大旦那の声がした。 「おっと、料理ができたみたいだよ。さあ、テーブルについとくれ。これからヨハン歓迎の大宴会の始まり始まり〜！」 ビールの満たされた大きなジョッキが各人の前に置かれ、エリカの前にはりんごジュース。セルジュが、サラが、おかみさんが、大きなトレイに大きな皿をいくつものせて、ドンドンドンとテーブル狭しと並べまくる。」 「さあ！ヨハン、覚悟はしてきてくれたんだよな！」 「………………？」 また、改めて覚悟せねばならないのだろうか？戸惑うヨハンの前でセルジュは叫ぶ。 「今日は、俺達が腕によりをかけた料理を、腹がパンクしそうになるまでガンガン食って貰うんだからさ！覚悟してくれよ！」 「大丈夫よ、ヨハン。私も戦力になるわ。今なら二人分食べられるから。」 「うふふ〜今日だけは私達もお客さんたちに混ざって宴会しちゃおうかしら〜、ねえ、母さん。」 「そうね、今日はヨハンさんとうちの人がここに帰ってきた記念の日だからね。」 早速、フォンク亭の人々の分のビールも整えられて、大旦那の音頭でジョッキが打ち鳴らされる。飲んで食べて、積もり積もった話をする。ヨハンは、シュレスベルクでした一月分の会話よりもたくさんの言葉をここで発しているような気持ちがした。エリカの緑の瞳がキラキラ輝いているのは昔と同じで、セルジュも……ヨハンが親の敵であるのを承知で、エリカと同様に瞳をキラキラさせながらお喋りに興じてくれた。 と、カラン、と音をさせて扉が開いた。フォンク亭の常連達がやってきたのだ。 「おう、昼は閉めてたが、夕方からは普通ってことでいいんだよな、サラちゃん。」 「うふふ〜、普通じゃないのよぉ。ほら、ヨハンさんが久しぶりに来てくれたから、今日は宴会なの。」 サラが指差すその先にはヨハンの姿がある。 「ああ、あの姿のイイ兄さんか。確か……空爆の前だったよなあ。うん、セルジュの横で神妙な顔で皿を洗ってた。」 「俺も覚えてる。そこのテーブルで親の仇をとるような顔でさやえんどうの筋をとってたり……妙にマメで言うことがちょいと変わってて。そうか、シュレスベルクからの旅人ってことだったが、生きてたか！」 「おおーう、兄さん、よかったなあ。なーんかあんたとろいところがあっから、心配してたんだぞー。」 「おっちゃんたちさ、とにかく、今日はヨハンの歓迎宴会だからさ、通常営業じゃなくって宴会なわけ。で、今日は店の奢りだから、それでもよけりゃ、飲み食いしてってくれよな！」 よくないわけがない。次々とやってくる常連達は、来た端から宴会に加わり、ティノが大きなフライパンで大皿料理を次々と作ってサラがテーブルに運ぶ。しまいには、何のための宴会なのかよくわからなくなってきて、ヨハンはいい具合に酔ってきた常連に捕まって、天気の話や農作物の取引話につきあうこととなった。誰かが歌い、誰かが踊り、しまいには、客が輪になって肩を組んで歌い始めた。それは始めのうちはこの地方の民謡だったが、声の大きな誰かが、調子外れにこう歌いだすと、みんながそれに加わった。 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高〜！ みんないい奴！！ それは、「フォンク亭」の人々が、店が、料理が最高、という意味ではなく、今ここで酔って歌っている自分達が最高だ、と自画自賛の気持ちが多分に入っているものであり、酔っ払いたちはほんとうに気持ちよく歌っていた。二度、三度、と同じ歌が繰り返されると、突然、酔っ払ってふにゃふにゃになった声ではなく、朗々とした声が響いた。 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高ー！ みんないい奴！！ 泣いたのが二十年ぶり以上ならば、歌ったことも二十年ぶり以上であった。ヨハンの両脇には背の低い常連客がアルコールの匂いを発散させつつ彼の首にぶら下がるようにして肩を組んでいたが、セルジュがそこに潜り込んでヨハンと肩を組む。 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高〜！ みんないい奴！！ 本当に、歌の通りね、とエリカがいうと、オズウェルは、俺はこの空気には馴染めないがな、とぶっきら棒にいい。馴染めなくとも否定はしねえんだな、とナカジマが笑う。妻をいたわる様にその腹にそっと手をあてたアレックは、あ、また動いたね、と微笑んだ。 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高〜！ みんないい奴！！ ヨハンは朗々と歌い続け、深夜になる前に酔いつぶれてアレックとオズウェルに肩を貸されて二階へと上がった。そして、前にヨハンが泊まっていた部屋の、おかみさんが整えてくれた太陽の匂いがするベッドの中でぐっすりと眠った。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ヨハンがロランドを出発したのは、それから５日後の午後のことだった。以前に送り出されたときと同じように、サラとセルジュとナカジマがそこにはいた。その他に、フォンク亭のすべての人々。更にオズウェルも。そして、ヨハンの傍にはアレックとエリカがいた。ヨハンの背負い袋の中には、甘党のヨハンの為につくった、おかみさんお手製のコンフィチュールやティノの焼いたクッキーが詰まっている。そして、外套の左の胸のあたりには、太陽の光を受けてきら、と輝く、明るい青の小さなものが、しっかりした太い糸で縫いつけられていた。 『そいつは、この間見つけたジパングの根付っていう奴だ。いい色だろうが。この青い石は瑠璃っていって、俺達の水上機のオオルリって奴の名前のもとになった石だ。カンザシと同じく花鳥風月の柄が彫ってある。今度はこいつを預けるぜ、サムライ。ジパングでは、長い旅の間に持ち歩いた根付を赤ん坊にお守りとして贈る風習がある。そうすっと、その赤ん坊は丈夫で長生きするっていわれてるのさ。いろいろと旅した後、またここに戻ってアレックの野郎とエリカの子供に、そいつをくれてやってくれ。頼んだぜ。』 そう言われ、ヨハンは二日前に根付を受け取った。今胸元に縫い付けられているのはその根付だ。 「なんだぁ？……またえらく目立つ場所に根付を縫い付けやがったな。……カンザシは箱に入れ、袋の底に押し込んで持ち歩いたのに、この差は何だ？」 すっかり旅装を調えたヨハンが首を傾げる。 「悪かっただろうか。持ち歩いてお守りにするのならば、この、根付、とやらに、旅をしている風景を見せた方が効力が増しそうに思ったので、サラに頼んで縫い付けて貰ったのだが。」 「いや、いや、そりゃあ、いい考えだ。なあ、セルジュ。」 「うん、俺も、バッチリ効きそうな気がする。」 「それよりサムライ、これからどこに行くんだ？エリカたちと一緒に王都か？」 予定より少し早かったが、ヨハンの出発に合わせてエリカは王都に里帰りすることにし、アレックは付き添いの為に一日だが休暇をとっていた。ヨハンは首を振る。 「そのように勧められたのだが、それはあまりにもお邪魔だろうと、おかみさんに言われ、俺もなるほどと思いました。まず、エーレにいってみることにします。」 でも、列車はしばらく一緒だから。とエリカに言われ、ああ、そうだな、とヨハンも頷く。ヨハン、そろそろ行こうか、とアレックが言い、ヨハンは荷物を背負い、何度も何度もおかみさんたちに礼を言った。セルジュとサラも駅まで三人を見送るために一緒に歩き出す。エリカが、親方、オズウェル、行ってきます。頑張って赤ちゃん生んで戻ってくるね、と大きく手を振った。 フォンク亭の店先では、大旦那、大おかみ、おかみさん、ティノもエリカたちに手を振った。 「セイハチさん、ありゃあ、本当のことかね。」 エリカたちが角を曲がって見えなくなったときに大旦那が声をかけてきた。ん、なんだ、と声をあげたナカジマに大旦那が問う。 「旅の間に持ち歩いた根付を赤ん坊に贈るっていうさっきのアレだよ。……前にセイハチさんから根付のことを聞いたときには、そんな話ちっともされた覚えがなくってさ。」 当たり前だ、あのサムライに言ったのは、いわゆる“方便”という奴だ、とナカジマがにやりと笑うと、大旦那はやっぱりかね、とこちらもニヤリと笑い返した。 「親方、だいぶアイツに興味があるみたいですが。」 愛弟子にぼそりと尋ねられ、ナカジマはふっと笑う。 「また、あいつを見てみたいんだよ、俺は。……以前に会ったとき、あのサムライはただただ切れる刀みたいなところがあった。だがな、本当のサムライってぇ奴は、片っ端から何でも切るような刀はふるわねえのさ。切る、と決めたときにだけ、刀に魂を込め、スパッと切る。……あいつは少し変わった。次に会うときにはもっと変わっているだろう。それを見るのが楽しみなのさ。」 酔狂ですね、と無愛想に言われ、この年になると、酔狂でも自分がやりたいことをやってみたいのさ、とナカジマは大声で笑った。 「お前だって、見送りに来たのは、エリカたちのことだけじゃああるまい？」 「……俺も忘れたんで。あの人をシュレスベルクで守って飛んでくれた礼を彼に言うのを。……結局言わずに終わりましたが。……まあ、彼がここに戻ってくるのなら、急ぐことはありません。そのときに言えばいいことです。」 「ま、楽なもんだ。俺達はここで待ってさえいればそれでいいんだからな、あのサムライは遅かれ早かれここにやってくる。このフォンク亭はただの料理屋じゃあなく、奴がいつか帰ってくる場所になったんだからな。なあ、そうだろう。」 ティノがゆっくりと頷き、フォンク亭の年長者達は微笑む。 オズウェルの頭の中に、ヨハンが朗々と歌う声が響いてきた。 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高ー！ みんないい奴！！ 「そう、ですね。」 彼にしてはしごく珍しく、心の底からオズウェルはナカジマの言葉に同意した。 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高 フォンク亭は最高ー！ みんないい奴！！ 上を見れば、ヨハンに託した根付と同じ色の空が広々と広がっていた。 |
| やっと完結させました。 書きたかったのは、「認識票の顛末」。認識票がフォンク亭に返却されないうちはヨハンの物語は終わることがなく、それは駄目だろう、と。サブキャラクターを含めて折角全ての生存しているアレックさんルートだからこそ、それぞれの行く末を(ハッピーエンドの方向で)書いてみたい、と。 最初はフォンク亭＋ヨハン限定の話にするつもりでしたが、関わる人を増やすことで、ヨハンが生きる世界の広がりをつくってみようとしました。 特にアレックさんとの対比で。共に准尉、共に破格の撃墜数を誇るエース。しかし、二人の行き方は決して似てはいません。文中のセルジュではありませんが、「もし、ヨハンがユクトランドに生まれていたら」、感情に欠落などなく成人したでしょうに、彼はそうはならなかった。彼の場合、一人の女性と恋をして救われる、ゲームのヨハンルートよりも、フォンク亭の人々と、町の人々と、旅先の町の子供たちと、関わりながらじわじわと、人生を子供の頃からやり直していくのが相応しいのではないか、と穿った見方ですが考えています。 フォンク亭の人々がヨハンに対して優しすぎるようにも思いますが、彼らはドニス=フォンクがパイロットとして帝国機を４機撃墜した人殺しであることを知っています。そして、身近にいるロランドの軍人達の中で気がいい人間を何人も知っています。唯一生(なま)の感情をぶつけて来るセルジュにしても、飛行機のことは父が戦死してからも大好きですし、アレックのことは「優しい人」として、パイロットであることを知る前から大好きでした。……アレックがヨハンと鏡合わせの関係であることは、セルジュもよくわかっていて、アレックが嫌いになれない以上、ヨハンを嫌うこと、恨むこともできない自分に気付いて居る筈です。 家族がおそらくは亡くなっているヨハンですが、フォンク亭が第二の故郷になってしまえばいい。アレックさんの子供たちに「ヨハンおじさん」と慕われ、「あなたはお母さんのお腹にいるときに、ヨハンおじさんの耳を蹴飛ばしちゃったのよ」なんて教えられて、ごめんなさいされて、いや、大丈夫、そんなに痛くなかったよ、と相好を崩すヨハン…… そんな幸せが「緑の炎」「帝国の死神」に来ればいいです。 |
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