カイユンはゲートに仁王立ちし、腕を組み、口をへの字に結んでいた。 「おかえりなさい!!」 なんだか四人の方が恐縮してしまった。 「カイユン！あんた残ったんじゃなかったの？」 「�｢�｢・・転送してもらったんです。小さな子たちに。はじめは他の飛行機を拝借してくるつもりでしたけれど、あの騒ぎでしょう？だから便乗して・・・・」 「どうしてよ！カイユン、自分から降りるって言ったじゃないの。」 「あの時は言いましたよ。�｢�｢・・でも、あれからだんだん腹が立ってきたんです。キャプテン、僕のことを邪魔とか迷惑とか言いましたよね。でも、僕は多少は役に立っていたはずです。この五人のなかでまともなご飯がつくれるのは僕だけです。おいしいお茶が入れられるのも僕だけです。水泳だったら誰にも敗けない。イルカとだって話せるし、生物学の知識だって絶対に負けません！怪我をしたとき僕よりうまく処置できる人が誰か居ますか！」 「・・・・・ま、それは認めるわ。・・・・でも、あたし、カイユンにかなりひどいことを言ったと思ったけど？気にしていないの？」 「え？・・・・・だって、キャプテン、僕のことを思って出ていけっていってくれたんでしょう？・・・・・ともかく、僕はこうして自由意志で戻ってきたんですからね！いいですね！・・・・・それから、キャプテンは昔にどういうことがあったって、今何をやっていたって、誰がなんて言ったって・・・・やっぱり普通の人ですからね・・・・それに・・・・・僕にとっては一番の人なんですから！」 あっけに取られる四人を背にカイユンは肩を怒らせてコクピットに戻りかけ、やにわに振り返った。 「えーっと・・・・・・差し当って何かやることありませんかぁ？お茶でもいれます？」 四人は一気に力が抜けた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ アケルナルは砂漠の上空を飛んでいた。 「何だかんだあって、結局面子に変動なしか。カイユン、お前がここにくるにあたって、タニアとかいう娘はどうしたんだ？」 カイユンは、レーダーを見ているマリオにコーヒーを渡した。 「タニアと、僕がここにきたこととどう関係があるんですか？」 ジョーは肩をすくめた。カイユンはシートに座り、トレイを抱えた。 「それはそうと、コスモ・アーミーのセフトさんあたりにかなり叱られそうですね。丸一日消息断っちゃって。まだ連絡は取れないんですか、ロマノフさん。」 「ああ、エスパーの勢力範囲らしくてね。通信機が反応しない。」 ジョーはシートで高々と足を組み、カイユンの入れたコーヒーをおいしそうに一口飲んだ。 「カイユン、そんなにしかられやしないわよ。�｢�｢・・政府もコスモ・アーミーもあの集落に手を出していないということは、エスパーとの間に以前何回ものトラブルがあって、手酷くやられたに違いない。エスパーにとらえられていたと報告すれば、おそらくは始末書だけで放免されるわ。」 「しかし、」 マリオは納得できなかった。 「コスモ・アーミーが本気を出せば、集落の一つくらいなんていうこともないような気がするが？」 「・・�｢�｢コスモ・アーミーの手の届かない部分があるのかもね。�｢・・�｢例えば、宇宙連邦が牛耳っている部分だとか。」 と、レーダー上にごく小さな金属反応が出た。地表。速度０。マリオがカップを片手に座標を拡大した。 「ジョー、何か引っ掛かったぜ。北に三十キロ。誰かが砂漠の真ん中でピクニックでもしているのかね・・・・・」 ジョーはすっと立った。と、カイユンが操縦桿にあわてて飛び付いた。しかし、自動操縦になっていることに気づくと少々顔を赤くした。 ジョーは笑った。笑ったあとで、カイユンが帰ってきたことが本当に彼のためによかったのだろうか、と遣り切れぬ気持ちを感じた。と、同時に、カイユンが戻ってきたことを嬉しく思う自分が情けなくあった。 ”母性本能って奴？” 彼女は身震いした。 ”あたしもやきが回ったもんだわ。” 「はは、ものはついでだから、そのシートに座って一応計器を見ていてね。あたしはちょっと小型機で見てきてすぐに帰ってくるから。ぼ・う・や 」 憤慨するカイユンを後に、ジョーは小型機で飛び立った。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ それは小さなジープだった。 上空を旋回するジョーには、光線の加減で時折ピカリと光って見える。軍用車ではないらしい。減速して低空飛行してみると、人間が二人乗っているのがわかった。性別まではわからない。車が故障しているだけなら機影を認めて手を振りそうなものだが、乗っているものは身動き一つしない。死んでいるのかもしれなかった。 ジョーは反応しない通信機に舌打ちするとアケルナルに向かって発光弾を上げ、自分はジープから五十メートルほど離れた場所に降りた。水筒と医療器具を持って近寄る。砂漠の空には雲一つ無く、じりじりと日が照っている。 ジープの細部が見えてきた。半分タイヤが埋まっている。運転席に男、助手席に女が、いずれも前のめりにつっぷしている。よく見ると、かすかに肩が上下している。ジョーは、水筒の口を緩めながら更に近付いた。 男の方が身を起こし、手にした旧式の拳銃を上げ、・・・上げたまま再び意識を失った。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 男が目覚めたのは、アケルナルの中だった。頭の上に冷却パッドが置かれ、カイユンの人なつこい顔が覗き込んでいた。 「気分はどうです？」 男は起きようとしたが、頭を押さえた。カイユンがそっと頭を支えながら横たえた。 「無理しちゃ駄目ですよ。日射病です。冷やしてリンゲル打ちましたけど安静が必要です。」 「・・・・・妻は・・・・？」 「医療室です。命に別状はありません。回復には時間がかかりそうですけれど。・・・・何があったんです？産後間もない奥さんと砂漠に出るなんて。アランさん。」 そう、男はアラン ノートンだった。 アラン ノートンは社会不適応者としてＤ級に降格となり、農産コロニーに送られた青年だ。市内に居た頃は、ひょんなことからまだ幼かったジョーと遊び、彼女に夢一杯の物語を語った。これから先もずっとジョーの思い出の中からは消えようはずのない人間だった。 自分の名を呼ばれ、アランは飛び起きた。今度は点滴の針が外れてとんだ。 「何故私の名を知っている!?君は政府の人間か!?」 「違います。落ち着いてください。忘れましたか？僕ですよ。大きくなっちゃいましたけどカイユンです。カイ・・・っていった方がわかるでしょうか。ほら、コロニーでお世話になった・・・・（”ドロップアウトたち”参照）ここは僕らの船、アケルナルの中です。」 アランは目をこすった。黒い素直な髪、大きな瞳、確かに自分が昔出会った少年の面影が残っていた。 「今、キャプテンたちを呼んできます。」 再び点滴の針が刺された。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 機内には重たい空気が立ち篭めていた。 アランは、与えられた試練に立ち向かっていく男ではない。想いは心にあっても環境を甘受するタイプだ。コロニーから自由を求めて脱走したのでないことは、話を聞く前から確信していた。特殊な理由を予想していたが、こんな状況とは思いもよらなかった。 アランはレーザーガンの一件後すぐ、婚約者であったカレンと結婚した。コロニー内からは一歩も出られなかったが二人は幸せだった。そして、一ヵ月前に待ち望んでいた子供が生まれた。元気のよい、父親譲りの茶色の髪と、母親譲りの青い目をした女の子で、ジョイスと名付けられた。ジョイスはごく普通に育っていった。農場をわたる風の匂いを臭ぎ、カレンの子守歌を聞き、アランのつくった揺り篭で眠った。 そのジョイスが五日前に政府によってコロニーから連れ去られたのだ。夫婦は抵抗するすべを知らなかった。白衣を着た役人に抱かれ、泣き喚くジョイスの声を黙って聞いているより他になかった。 しかし、その日の深夜、コロニーの人々が協力しあって監視員を縛り上げ、二人はジープで脱走した。だが、砂嵐に遭って方向を誤ったのだ。 カイユンは、シチューの皿を持って、アランが寝ている部屋からキッチンへ引き上げてきた。シチューは半分以上残されていた。その皿をワークトップにおいて、カイユンは流しにもたれかかった。 コクピットから足音が聞こえた。いつものカイユンならば元気よく勢いをつけて直立姿勢を取るところだが、今日はそのままだった。 「カイユン、コーヒー一杯もらえるかね。」 ロマノフに向かってコクンと一つ頷くと、カイユンはネルの袋を取り出してポットの中に入れた。片手は、エプロンの裾を掴んでいる。 ロマノフは、上着の上から、死んだ妻子の像の入ったペンダントを握り締めていた。 ソーンダイクはコンピュータを点検していた。アケルナルは再び、エスパーによる通信妨害域に引き返してきていた。マリオは楽しげに電磁カッター片手に作業をしていた。 「マリオ、何を切っているのですか？」 「察しの通りだ。コスモ・アーミーへの非常用連絡線。」 「察しの通り・・・・・ですか・・・・」 大きなのびを一つしてサングラスを外し、ソーンダイクは深々とシートに身を沈めた。 ロマノフにコーヒーを渡し、カイユンは他の者にもコーヒーを配達しに行った。ジョーは、船室には居なかった。捜してはいけないように思い、カイユンはアランの様子を見に行った。アランはぐっすり眠っていた。しばらくしてから残ったコーヒーを飲んだ。すっかり冷え切っていて胃にたまった。 ジョーは上部ハッチからアケルナルの背面に出ていた。伏し待ち月がもはや高く昇り、後方に森、前方に草の疎らな荒地と、それに続く砂漠があった。 コロニーは特性が似通ったものの集団である。カレンは、農産コロニー生まれの人間のうち、一番初めに子供を持った人間だ。その子供に、政府研究機関が行動特性を調査する観察対象として目をつけるのはごく当たり前のことだ。そのジョイスを殺すはずはない。ある一定の期間ののちに、コロニーに戻されることも考えられる。 しかし、このような一方的な行為が許されていいのだろうか。ジョイスは殺されはしない。だが、何十、何百の人間が、研究という名目の名の元にカイユンのように親から離され観察される。それだけでなく、アレックスの兄弟たち、あるいはソーンダイクと同じくコンピュータで教育された者たちの中の幾人かのように人格が崩壊していく。宇宙連邦までがそれに加担している。 ”でも” ジョーは月を見上げた。 アランとカレンは何をしようとしたのだろう。何ができると思っていたのだろう。 ”何もできないのに” とらえられれば犯罪人コロニー送りだ。第一、どうやってジョイスの居所を捜すつもりだったのだ？ 武器は一挺の銃だけ。 何故、無謀なことができるのか。 “間違っているとは思わない。でも・・・・” 月は青白く、明るく、心の底まで射し込むように照っている。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 朝が来た。 ジョーは飛行手袋をはめ、ヘルメットを被ったまま小型機のコクピットの中で仮眠していた。小さい頃の自分が浜辺で遊んでいる夢を見ているところに、コツ・コツという音が割り込んできた。音は大きくなり、マリオが機体を叩いている音とわかった。 「朝だぜ、ジョー。・・・・・・・あんた、何かとんでもないことを考えているんじゃねえのか？」 ジョーはヘルメットのバイザーを開けた。 「とんでもないこと？」 「�｢・・�｢アランのことだ。」 彼女は計器盤の上に足を出して組み、ぶっきらぼうな調子で答えた。 「�｢�｢・・カチンと来たことは来たわ。�/・・�｢でも、何もできないじゃない。�｢・・�｢こいつを操縦してつっこんでいっったって、玉砕するのが落ちよ。」 「心配はそこだ。・・�｢�｢たとえばあんたが玉砕する気じゃねえのかってこと。いかにもやりそうだ。行政ビルかなんかに最高速度でどーん・・・・・ってな。」 ジョーはそのままの姿勢を崩さなかった。 「何いってんだか。そうね・・・・自爆なんて趣味じゃないけど・・�｢�｢ここでうじうじしているより、よほどすっきりできるかな。�｢�｢心配しないでいいわよ。何かやるときは一人でやるから。あんたたちにとばっちりがないようにやる。」 「そりゃあ、有り難いこった。�｢�｢ま、リビングにこいや。あとの三人と、カイユンの朝食が待ってるぜ。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ソーンダイクは、陶製花柄ミルクマグから沸かした豆乳を一口飲んだ。 「確実に死にますね。小型機で大型建造物に突入した場合、いかなる条件においても９９．９％以上の確立で死亡します。建物の種類によっては突入する前に撃墜される確率も９９．９％以上になります。」 「�｢・・�ああのね、さっきのはもののたとえ。実際に突っ込むなんていっていないでしょう。それにこれはあたしの意地よ。今やらなければあたしは駄目になる。・・・・・アランには何もできないけれど、あたしには少しならできることがある。」 ジョーの隣に深々と腰を降ろしたロマノフは、いつもと同じ、深く暖かい声で言った。 「人間が何を考えるかは自由だ。一人一人何を思おうとそれは勝手。だがね、自分を大切にしなければいけないよ。」 カイユンも言った。 「そうですよ。もしもキャプテンが無茶して死んだりしたら僕は泣きますよ。泣いて泣いてひからびて死んでやる。そんなに僕の干物が見たいですか!?」 マリオが口を添える。 「葬式出すのも面倒だしな。俺はカイユンの干物を見たくはない。」 ソーンダイクはカイユンの後ろに立った。 「ジョーらしくない。」 ジョーは、四人の男を代わる代わる見た。戸惑っている様子が彼女を少々子供っぽくみせた。 ロマノフは立ち上がった。そして、ジョーの真正面に立って彼女を見下ろした。 「ジョー、もっと建設的に考えよう。あの二人の子供を助け、政府にこちらの気が済むくらいの打撃を加え、しかもしぶとく生き延びようじゃないか。」 マリオがロマノフの右に立った。 「わっかんねえ女だな・・・・・俺たち、あんたが夜中、どっかで悶々としているとき、四人で会議を開いちまったんだよ。・・�｢�｢一人だけスカッとストレス解消するなんて許せねえ。四対一、団体行動の原則は多数決だからな。」 ソーンダイクはロマノフの左側に立った。 「五人ならば、いろいろな可能性が増えます。ジョー。」 ジョーは頭の中が一度でんぐりがえって、かあっと熱くなってきた。彼女は立ち上がって少し下がって四人の男たちを見据えた。片足を心持ち前に出し、両手は腰、ちょうど、初めてこのメンバーを召集し、”なめられるもんか”と息巻いていたあの時と同じ姿勢だ。 「馬鹿言うんじゃないわ。�｢・・�｢これはあたしが一人で突っ掛かっていること、あたしの勝手よ。�｢・・�｢少しくらい政府の施設を壊したとしても、この惑星リマンの社会体制が変るわけはない。・・・・自分の気が収まらないからなんていうそんな無茶苦茶な理由で碌でもないことをするのはあたし一人でたくさん。妙な連帯意識を持ち出さないで！」 四人は一斉に大きく溜め息を付いた。ジョーの勝手とは言っても、彼女に関係することはすなわち彼らに関係していることだからである。 「あんたたち本気なの!?」 ジョーはほとんど怒り声だった。 「このチームはただの寄せ集めよ。ロマノフ、あなたは死んだ奥さんや娘さんの分まで生きなけりゃいけないわ。ソーンダイクは、しばらく平穏に仕事をやっていけばきっとまた拾い上げてもらえる。マリオは大好きな爆薬を抱えて宇宙を飛び回っていればいいのよ。カイユンは・・・・カイユン、可愛いお嫁さんを見付けて子供をたくさん育てて普通に暮らさなきゃ承知しないわよ。あたしなんかに付いてくるんじゃないわ。」 再び、男たちは溜め息を付いた。そして、四人とも位置を変えてジョーを囲んだ。上からの視線。ジョーは思わずソファーの上に飛び乗った。 「あたしは、あたし以外の人間には傷ついたり死んだりしてもらいたくないわけ！あんたたち、そんなに無茶がしたいの？」 カイユンはジョーを見上げて穏やかに言った。 「あの・・・・・僕の父さんが姉さんに言っていたんです。“�｢�｢・・この人になら、と決めたらどんなことがあってもとことん付いていくんだよ。その人を信じて、力を合わせて苦難をのりきりなさい。一時の艱難は永い幸福に繋がるのだよ”って。僕、キャプテンに付いていきます。ずっと一緒に居させて下さい。」 一瞬、間があった マリオがカイユンの頭を撫でた。 「・・・・あのなあ、お前、こんなところで口説いてどうする？」 「・・・・・？口説く？僕が？誰をですか？」 クスッ ジョーが笑うと同時にカイユンを除く三人が笑いだし、やがてカイユンもみんなを見ながら笑った。空調機からの風に揺られて、壁に貼り付けられているカイユン手縫いの薄桃色のカーテンも笑いさんざめいているようであった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ コスモ・アーミーリマン軍本部。シークレットチームを束ねる特務部のセフト大佐は、執務室のデスクに就いて、出頭してきたギダー中尉をちらちら眺めていた。 クローニングにより生まれ、兵士として最高の資質を備えた男、以前”ＤＥＡＴＨ”というコードネームさえ持っていた男にどう切りだすべきか考えているようでもあった。 一方アレックスは長い指を膝の上で組んでゆったりと構えていた。 「大佐殿。個人的な呼び出しということでしたがどうぞ用件をお話しください。お役にたてれば幸いです。」 セフトは煙草をくわえ直した。 「他でもない。君が行動監視にあたったこともある”ドロップアウト”に関することだ。あの五名は二週間前に超能力者集落、いわゆる”エリアE”付近を飛行中に消息を断ったまま行方不明だ。捜索したが手がかりはない。”エリアE”の中までは手をだしてはいないがな。宇宙連邦広しといえども、あれだけの高密度でエスパーが居住している地域は他にない。綿密な計画に沿って接触していかねばならないのだ。�｢�｢どうだ？ドロップアウトはどうなっていると思うか。エスパーに同化したか？それとも他の場所にいるのか？・・・・・自由に意見を言いたまえ。」 ジョーたちの行方不明を知らされて、アレックスは美しい青い目をやや大きく見開いたが、それでも尚、あわてた素振りを見せなかった。 「大佐殿、私は心理学者ではありません。監視役と申しましても、実際に監視したのは何件かの事件についてだけです。・・�｢�｢あくまで個人的に述べさせていただければ、そのエリアにはいないと思われます。彼らは閉鎖空間で生きるエスパーとは同調しないでしょう。行き先は皆目検討がつきません。何分、常軌を逸した連中ですから。」 「本当に心当たりはないのか？�｢�｢聞くところによれば、君と交流じみたことをやったメンバーもいたとか？」 「大佐、あの五人が何か？」 セフトは席を立ち、煙草をもみ消した。 「コスモ・アーミーは、シークレット、特にＤ級シークレットの生き死になど気にかけん。・・・・遺伝学者どもがいくら興味を示していても、シークレットは本来消耗品だ。�｢�｢・・だが、さる人物から、特別に指示があったのだ。・・・・・そうか、しらん、とは残念なことだ。」 「さる人物というのは誰ですか。」 アレックスに聞かれると、セフトは二本目の煙草に火をつけた。 「その問いに答える必要はない。�｢・・�｢もう退出してよしい。・・・・ギダー中尉、君はメイヒ３星の戦線に参加し戦闘データを取ることになっているようだな。武運を祈っていることにしよう。」 アレックスは立ち上がって、セフトに敬礼した。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ムーヴィングロード上を、アレックスは真っすぐ背筋をのばして移動していた。 すれ違う人々のうち、彼の生い立ち、戦歴を知らぬ者は美しい彼の姿を遠慮がちに見つめ、知っているものは心持ち避けて通った。 彼は、実験体であるが故に戦闘能力を測るために多くの戦いに派遣された。・・�｢�｢そこで出会うのは、敵も味方も戦闘のプロたちばかりだった。戦場以外でも、接触するのは軍人ばかりだった。子供の頃でさえ、例外ではなかった。保育士も、教官も、彼を”完璧な軍人”に育てようとしていた。 それらの者と少し違った集団もあった。 彼がＤ級猶予の軍人から拾い上げたサザンクロスの乗員たち。彼らは他の軍人たちとは違い、明るく陽気だった。しかし、アレックスが”一人の人間として”話ができるのはブッカ一人だった・・・・それに激戦地に派遣された彼らはメンバーがよく変った。もう二度とは会えない。 全く違っていたのが”ドロップアウト”であった。 これは奇妙な集団だった。 シークレットでありながら、彼に人を殺すなとすがりついてきた少年がいた。 友人のために罪を犯し、罰せられ、それを悔いていない男がいた。 大規模で過激な爆破が趣味でありながら決して殺人をしないひねくれ者がいた。 そして、ジョセフィーヌがいた。アレックスは昔ジョーを救った。ジョーは、軍人として育てられてきたアレックスを、一人の人間として信頼してくれた初めての人間だった。その時以来、アレックスの心に、ジョーは一種の女神のようなものとして住んでいた。 今、その偶像は、肉体をもち、血を通わせ、生きている。 彼は、ジョーを、他の四人を愛していた。 守りたいと思っていた。 |
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