| ジョーは怒鳴った。 「なんて言ったの!?」 カイユンの言ったことが聞こえなかったのではない。そんなことを言われるなどと全く思っていなかったので聞き違いだと思ったのだ。 「アケルナルを降りませんか・・・・って言ったんです。こんな不安定な状況の時にすみません。�｢�｢�｢何も今、ここにとどまって下さいってことではないんです。ただ、いつかはここにどうか・・・って。・・・・ここは政府の人たちも来ないエリアですし、平和そうですから・・・・。キャプテンの親類の方々が話をしている通りの誠実な人なら、すぐに降りるのが一番だと思います。」 「どうしてあたしが降りなきゃいけないの！」 カイユンはジョーの顔色を窺いながら、しかし、しっかりと話しだした。 「僕はいつも思っていました。”キャプテンはシークレットなんか辞めるべきだ”って。でも、話す機会がなかったんです。�｢�｢�｢キャプテンは普通の人だから・・・・銃を撃ったり、宇宙船を操縦したりしているよりも、普通の暮らしをしていてほしいんです。危ないことをして欲しくないんです。・・・・しっかりっかりした地面の上に家をたてて、そこには花壇だってつくって、優しい家族がいて・・・・そういう暮らしをして欲しいんです。」 ジョーは自分の髪をぐしゃっと掻き回した。 「それってカイユンの理想よ。あたしはそんな生活はやってみようと思わない。考えただけでうんざり。」 カイユンは激しく首を横に振った。 「・・・・キャプテンは・・・・普通の人・・・・なのに・・・・」 いきなりジョーはくっくっと笑い出した。 「カイユン、あなたはあたしのことを普通の人、普通の人って言うけど、あたしのどこが普通だっていうの？�｢�｢�｢今まであなたが子供だから話さなかったけれど・・・・話してあげるわ。・・・・そうね、十五のときまでは何も知らない馬鹿だったけどそれなりに普通の子だったかもね。十五のとき、ルノーの家を飛び出した・・・・何もわからずにぼんやり下町を歩いていたら、二人組の男に襲われて体をメチャクチャに犯されたわ。そのあと、暴力で脅されながら体で稼がされた。�｢�｢�｢あなたにどういうことかわかる？毎晩毎晩見知らぬ男に、力でベッドに押し倒されて、無理にキスされて、無理に服を脱がされて、無理に・・・・�｢�｢アレックスに助けられたときには、お腹に子供がいたわ。もちろん父親が誰かなんてわからない。・・・・私を保護してくれたレオって人が知り合いに頼んで処理してくれた・・・・ダウンタウンで暮らし始めてからは逆に男を利用することを覚えたわ。・・・・そのときのあたしには力がなかった。使えるものといったら自分の体しかなかった。・・・・情報が欲しいとき、お金が欲しいとき、男を手玉にとるためにあたしは自分の体を使った・・・・男の悦ばせ方を見付けたわ。そして相手の男があたしを悦ばせていると思い込ませる方法も見付けたわ。抱かれ方、体の動かし方、呻き声のあげ方・・・・そしていつしか、男の手や舌があたしの体を探ってきても、頭は醒めていられるようになった・・・・男と寝るのが平気になった・・・・あたしはね。そういう女、そういう人間なのよ。・・・・私のどこが普通？」 カイユンは下を向いて真っ青になっていた。 「そんなことをいっちゃいけません！もうやめて下さい！」 ジョーは息をふうっとつく。 「あなたは純情すぎる、知らなさすぎる。・・・・ただ、それだけの話よ。」 ジョーの右手がカイユンの左のこめかみに触れた。 「教えてあげましょうか？あなたが知りたいっていうのなら。」 カイユンは手を払いのけて飛びすさった。 「僕がいることが間違いだっていうんですか？僕が足手まといですか？」 栗色の美しい髪を撫で付けてジョーは言った。 「・・・・全く・・・・純情な子はすぐに熱くなるんだから・・・・。ちょっと考えればわかるでしょう？ただね、今までは子供だからって許してた。いつかはシークレットの色に染まると思ってた。でも、大人になってもカイユンは変わらなかった。これからも変わるとは思えない。一瞬一秒の判断が生死を分けるっていう状況で敵に向かって銃の一つも構えられない優しいシークレットなんてどうしようもないじゃない。・・・・はっきり言うわ。確かに足手まといよ。・・・・敵に向かって銃が撃てるようになる？宇宙船の操舵がうまくできるようになる？爆破がうまくなる？・・・・あたしはカイユンが嫌いな訳じゃないのよ。ただ、シークレットとしては今のままのカイユンはアケルナルにはいらないわ。」 カイユンの肩はわなわなと震え、顔は真っ赤になっていた。 「僕・・・・僕、降ります。・・・・それが皆さんののためになるのなら・・・・」 「・・・・。たぶんね、それが一番いいことなのよ。」 カイユンは茂みの木の葉を蹴散らしながら物凄い勢いで走っていってしまった。 ジョーはカイユンと逆の向きに歩いていった。 しばらく行くと暗い澄んだ沼があった。 ジョーは小さな石を拾い、岸の近くに落とした。ぽちゃりと音がして、波紋が広がった。 次は思い切り遠くに水平に投げた。二回水をきってから石は沈んだ。 最後に、大きめの石を叩きつけるように近くへ投げ込んだ。水しぶきが上がり、冷たい水が顔までとんだ。 波が静まると、彼女の姿が水面にうつった。その姿は、彼女が”こうありたい”と願っている姿よりもずっと華奢で頼りなげだった。彼女は沼の岸に、両腕で自分の肩を抱くようにして腰をおろした。 「随分、思い切った話でした。」 ソーンダイクがジョーから少しだけ離れたところに座った。 ジョーは正面をむいたまま尋ねた。 「・・・・いつから聞いてたの？」 「最初から。カイユンを付けていたので。」 「そう・・・・ソーンダイク、あなたって気配がないわね・・・・」 「そうですか。」 「・・・・ずっと黙って聞いてるなんて趣味が悪いや。・・・・」 「・・・・心配だったので。カイユンのことも・・・・あなたのことも。」 ソーンダイクはサングラスを外した。ジョーははっとした。 「サングラスを外すと妙な感じですか？目はそんなに弱くないのです。他人の視線の威圧感から逃げるための道具ですから。他者と話をするときに視線を合わせないと不快に思われますが、サングラスをしていればレンズの向こう側で違うところを見ていても平気です。・・・・今はあなたの視線がいつになく威圧的ではないので外してみました。・・・・カイユンは怒りながら泣いていましたが？」 「・・・・あのくらい過激に言っといてちょうどいいのよ。あのくらいいっとけば、確実にここでチームから抜けてくれるわ。あの子は私のことを誤解している。私のことをわかっていない。・・・・本当の私を知ってもらっただけのこと・・・・」 ソーンダイクは若葉色の瞳でジョーを見つめた。 「そうでしょうか？私にはわかりません。あなたの方はといえば、だいぶ思い詰めているようですが、どうもカイユンのことだけではなさそうですね。」 ジョーはくすくす笑った。無理に喉から絞りだした笑いだった。 「あたし、自分のことが嫌いになっている。�｢�｢カイユンのことはいつかはこうしなけりゃって思ってたからしかたないことだったけど・・・・でも、カイユンに”アケルナルから降りませんか？”って言われたときにどきっとしちゃったんだ。�｢�｢一応あたしはリーダってことになっているけど、それは、コスモ・アーミーが決めたこと・・・・いわば押しつけよ。・・・・あたしは今まで何事も意地で押し通してきた。強い人間になりたかったし、女だってことは一種のハンデだと思って、仕事の上での男との絡みは別にして行動はできるかぎり男っぽく振る舞ってきた。�｢�｢�｢でもそれは無理な話。あたしはやっぱり女なのよね。体の造りはかえられないし、力だって左手の義手抜きじゃカイユンより弱い。前にカイユンに腕を掴まれたときにわかったわ。�｢�｢�｢なのにあたしは偉そうなことをいい、強いふりをしている。�｢�｢�｢そんな自分がなんて酷い奴なんだろうってわかって腹がたってきた。それを通り越して弱気になってきた。・・・・変だね。ソーンダイクに向かってこんなことを話すなんて想像したこともなかった。」 ソーンダイクは手を後につくと、長い足を投げ出して座り、目を閉じた。 「私は、ジョーの性格が破綻していると思ったことも、アケルナルでの生活に不満を持ったこともないですが。私には生活力がないので、一人になったらおそらくのたれ死にをします。�｢�｢�｢それに先程あなたが言ったことは、私にはあてはまりません。私よりジョーの方が強いのです。どのように解析しても答えは一つです。例えば私の握力は二十ちょっとですし、背筋力は・・・」 次々とデータをあげて、自分とジョーの力を比較していくソーンダイクの俗世間から超越した青白い横顔を見つつ、ジョーはぐでんと仰向けに引っ繰り返った。 「あは、確かにそうだわ。あたし、ソーンダイクよりは強いんだ。」 ソーンダイクも彼女の傍らに仰向けに引っ繰り返り、息を長くふーっと吐いた。 「ジョーは自分で思っているのよりもずっと・・・・�｢�｢�｢�｢�｢」 そのあとは聞こえなかった。 木々の小枝が初夏の風にざわめいた。 二人は目を閉じ、気持ちよさそうに微風を頬にうけている。 ジョーがセットしていたらしいアラームがリストバンドから鳴り響いた。彼女はロマノフとマリオに通信機で指示を出す。 「もうそろそろいい頃合よ。」 ソーンダイクは身を起こし、サングラスをかけた。 「ブライト達が家を出て二時間になるわ。じきにエスパーの団体さんからあたし達への正式なそしてかなりやばい通告がありそうな気がする。行こう、ソーンダイク。」 彼女は先に立って小走りに林間の道を行く。 �｢�｢�｢森。平和すぎるところ。あたしには似合わない風景。�｢�｢�｢でも・・・・・・ １・２・３ １・２・３ リズムをとって走る。 １・２・３ １・２・３ 昔習ったバレエの型。 メトロノーム、衣装をつけた発表会。 １・２は小さく、３で大きく、そう、空に向かって、高く、ぐーんと、ホラ、なんて気持ちいい・・・・ 何回目かの１・２・３で、ジョーは村の広場に出た。 集落の有力者多数が並んでおり、その横に彼らへの敵意を剥出しにしたマリオ。ロマノフはマリオから一歩下がって腕組みをして立ち、カイユンは固い表情でロマノフの隣に居た。 「やあ、ジョセフィーヌさん。あなたもいらしたんですね。丁度よい。」 集落の代表が、はっきりした明るい声で言った。 「何かよい報せでもありますの？」 ジョーも明るく尋ねる。 「いいえ、あなた方にとってはよくないことです。�｢�｢�｢�｢私たちはあなた方の船をいただくことにしました。」 ジョーは、そんなことははなから予想していたといわんばかりに、顔色一つ変えなかった。その代わりに人々をぐるっと見回し様子を窺った。人垣の中にブライトがいる。彼は肩を落とし、憮然としていた。代表は続けた。 「あなた方に危害を加えるつもりはありません。市内に帰るために、別の飛行艇をお貸ししましょう。機能は劣るが移動手段としては問題ありませんよ。マリオ リベラさん、ユーリ ロマノフさん、ケイン ソーンダイクさん、よろしいですね？私達はあなた達を必要としていない。この平和な集落にあなた方の技能は不必要なのです。・・・・キム カイユン君、君は残ってもらって構わない。君はここの空気に馴染むだろう・・・・・・いいところだよここは。争いなどないのだからね。この閉鎖された村には新しい血も必要なのだ。君の血はいささか特殊なようだが、私たちは気にしない。私たち自身が特殊な人間なのだからね。」 聞いていたタニアの顔がぱあっと明るくなった。 代表はジョーの前に立った。 「・・・・君には是非残って欲しい。死んだゼナが生きていたらそれを望んだだろう。君は我々の血を受け継いでいる。ここは君の故郷だ。リマン市内で性格に多少危険因子が加わってしまっているようだが、それはきっと押さえられるものだ。」 ジョーはぱちぱちぱちと手を叩いた。 「了解、了解・・・・アケルナルは譲るわ。了解しなかったら最後の手段に出る気でしょ？・・・・あなたたちが一番嫌っているはずの力による強制って手段に・・・・�｢�｢�｢顔ひきつらせるんじゃないわよ！�｢�｢�｢わかった、わかった。穏やかにいくわよ。ただし、あたしはここに残らない。あたしはここでは生きてはいけないから。その、危険な因子ってやつ、今となっちゃああたしからは切り離せないのよ。あたしの母さんって人がいきてたらきっとあたしを行かせたと思う。だって母さんはまだ小さかったあたしをここから遠く離れた市内の父さんのところに送ったのよ？・・・・あたし、その選択は正しかったと確信してる。・・・・予想はついているのよ。あなた達が私を残そうとしている理由。あなた達が欲しいのは、あたしっていう一人の人間じゃない。あたしがゼナ母さんと同じ”癒し”という能力を持った超能力者になるかもしれないという”可能性”、それだけなんでしょう？」 マリオが威嚇しようとしたのか、腰の銃に手をかけた。それを素早く制止する。 「やめな。�｢�｢�｢�｢ここの住人は、本気を出せば、武器なしでも一撃で人間を麻痺させることだって出来るはず。・・・・超能力者さんたち。一体何を考えているの？上空を通った飛行物体を”力”で引きずり降ろして特別製の砂の海に捕まえて・・・・のどかな暮らしを装っているけれど、市内顔負けの技術力を擁し、戦闘機までどこかに隠してある。・・・・�｢�｢�｢�｢ま、いいわ。あたしには関係ないことよ。もうすぐここを離れるんだから。貸してくれる飛行艇、出来ればハリアー（垂直上昇・下降ができるタイプのもの）がいいわ。それ位はアケルナルの見返りとして当然よね。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ カイユンを除く四人（カイユンはしばらく一人になりたいと言って別れた）は、一時ブライトの家に軟禁された。ブライトは四人をソファーにかけさせると、自分は俯いて頭を抱えた。ブライトの他に、五・六人の男が壁に沿って立ち、シャイナもあとから入ってきた。 「ジョセフィーヌ、済まない・・・・君たちの船、あれはここには・・・・この平和な集落には必要のないものだ。私はあれを君たちに返すつもりだったのだ。手は尽くしたのだが・・・・」 シャイナも悲しそうに言った。 「私たちはここで静かに暮らしたいだけ。・・・・どうすればあれを処分できるのか・・・・」 ジョーは戸惑いの表情を隠せなかった。 「今言ったことはどういうこと？もし、今のがあなたの本音なら、それを聞かせたくない人もいるんでしょ？耳の鋭い超能力者、ごろごろしてるわよ。」 「大丈夫だよ、ジョセフィーヌ。一応私は結構力の強い方でね。この部屋はしっかりシールドしてある。外の奴らは聞くことができない。�｢�｢�｢この集落の一部の者は、自分達の能力の外に、市内から徐々に戦闘手段を求め、外部からここを守り、やがては独立しようとしている。ここにいる者たちは、それには反対だ。�｢�｢�｢ジョセフィーヌ、私はやってみようと思う。妹の遺志を汲んで私はお前を市内の父親の元に送った。先程までお前にはここに居て欲しいと思っていたが、それをお前が望まないのなら、私はせめて手を貸したい。どうにかしてあの船を砂から引き上げる。私の側にも駆動者や浮揚者はいる。」 ジョーはポンと手を打った。 「それは素敵だわ。」 マリオは手榴弾を片手で玩んでいる。 「どーでもいいけどよ。あんたら、内部分裂してんだな。・・・・えすぱーって奴も、平和じゃないんだなあ。」 ブライトはむっとした。 「否定はしないが、少なくともあなたよりは平和主義者のつもりだ。」 シャイナはジョーの肩に後ろからすっと掌をのせた。暖かい手。 「・・・・・ジョセフィーヌ、私は心配だわ。あなた、ここから出て市内に帰ったら、また危険なことばかりが待っているのでしょう？�｢�｢�｢私は従姉妹としては、あなたにここに残ってほしい・・・・もう、二度と会えなくなるかもしれない。」 ジョーは微笑む。 「シャイナ、あたしは行くの�｢�｢�｢迷いはないわ。」 従姉妹はほほ笑み返した。 「・・・・わかってる。ほんの少しの間のお付き合いだったけど、あなたならそう言うって予想していた・・・・ジョー、しっかりね。」 ジョー、糸のように目を細くする。 「・・・・なんて言うか、あたしとシャイナって似てるのかもしれないわ。・・・・これって血、なのかな？・・・・ありがと。俄然元気が出てきた。・・・・ブライト伯父さん、さあ、案を煮詰めましょう！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 広場にはコスモ・アーミーの小型ハリアーが引き出されていた。小型といっても相当大きい。武骨な迷彩色のボディーには、薄く機体ナンバーが刻まれたままだ。アケルナルと同様の手段で得られたものだろう。 回転翼のテストをしていたジョーは、三メートルほどの高さの操縦席から飛び降りた。誰も乗りもせずに長期間放置してあったにしてはエンジンは快調だ。彼女は、傍らにいる、ロマノフ、ソーンダイク、マリオに乗り込むように合図した。各人はラダーを登り、後部の貨物区域に納まった。ジョーもコクピットに戻り、キャノピーを閉める前に周囲の人々に向かって愛想よく手を振った。 カイユンはブライトの傍らで難しい顔をしていた。 ハリアーは土埃を巻き上げて離陸した。が、八十メートルほど上昇したかと思うと突如落下した。 能力者達はとっさに”力”をつかって機体を支え、大事には到らなかった。ハリアーはバランスを取り戻すと再上昇し、今度は高速で遠ざかっていった。 その直後だ。ブライトがテレポートしてアケルナルの内部に移動した。かねてジョーが秘密裏にプログラムしておいた自動操縦装置をオンにする。同時に、ブライト側の駆動者、浮揚者がアケルナルを不思議な砂から引き上げるべく、精神を集中させた。�｢�｢�｢もちろんその試みは、すぐに対立する他の者にも知られるところとなった。 「ブライト！何をする気だ！」 ガサンが叫んだ。 ブライトは”心の声”でガサンの頭の中に直接叫びを返した。 ”これはここにあってはいけないものだ！” 大規模な争いが始まった。ブライト達はアケルナルを引き上げようとし、別の者は引き降ろそうとした。機体は小刻みに震える。アケルナル自身の噴射力と先程の故意のハリアー落下で相手方の人間の力を消耗させたため、ブライトは自分たちに有利と見ていたが、始めてみるとまったくの互角だった。 戦いは数分間も続いた。人々の中には力尽きて倒れるものも出てきた。相手の肉体そのものに攻撃をかけ、結果傷つくものもあった。多少は上昇していたアケルナルだが今は少しずつ下降しつつある。 ”これまでか・・・・” ブライトがそう感じたとき、意外にもアケルナルは高々と浮かび上がり、砂と、重力と、人間の力の呪縛を逃れて、ジョーたちのハリアーが去っていった方角へと消えた。 戦っていたものは疲労のために気を失った。まだ、動く力のある者達はそれらの人々の手当てにあたった。 森の中では、十人ほどの子供たちが高速で飛び去っていくアケルナルの機影を見上げていた。みな、ハアハアと小さな肩を上下させて息をし、疲れていたが、満足気であった。 「ねえ、タニア姉ちゃん。あの飛行機、大きくて格好よかったよね！」 「あれ、僕達が持ち上げたんだよね！ね！」 「お姉ちゃんの言うとおりになったわ。これでいいのよね？」 タニアは子供たちを抱き寄せた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「お～、来た、来た。」 マリオが叫んだ。 侵入不可空域、エリアE、山岳地帯と砂漠の境、かねて設定しておいた場所でハリアーを降り、四人はアケルナルを待っていた。アケルナルはすうっと着地した。 「自動操縦にしてはスムーズなランディングだな。」 と、ブライトがジョーの目前にテレポートしてきた。 「約束は果たしたよ、ジョー。�｢�｢�｢私は集落へ戻る。一騒動起こるだろうが、あそこは私の故郷だからな。�｢�｢�｢�｢元気でやるんだぞ。私の姪、ゼナの娘・・・・」 さよならを言う間もなく、ブライトは消えた。 ジョーは少しだけ俯いた。 ふと横をむけばマリオも俯いている。 「な～に沈んでるのよ？」 「いやな、あんたの伯父さんに、タラップを降ろして貰えばよかったなあ・・・・ってな。ハシゴをちまちま登るのは面倒だ。」 「お言葉ですが・・・・」 ソーンダイクがアケルナルを指差した。 「タラップは降りてきつつあります。」 四人が不可解な表情でタラップを登ると ・・・・そこにカイユンが居た。 |
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