9 成すべきことと成したいこと

　　
　ジョー達は岸に残る足跡を急いで消した。ラディアス老人は小屋の中前で二つあるうちの一つの椅子に固い表情で腰掛けた。
　ジョー、マリオ、ロマノフの三人は銃を構えて小屋の裏手に回る。ソーンダイクとカイユンは例によって”足だけは引っ張るなよ”と小屋の横にある物置に詰め込まれた。

　海にぽっかりと黒い潜水艇が浮かび上がった。ハッチを開けて出てきたのは男が一人、女が一人。褐色の肌の男は気の弱そうな優しい顔をしており、一緒の暗い金髪の女のほうがまだ少しは気性が激しそうな印象を与える。二人はエンジンをつけたゴムボートでこちらに向かってやってくる。
　男と女はボートの上からラディアスの姿を見つけるとほっとしたように手を振った。二人はゴムボートを岸にあげると、老人へ近寄っていく。ラディアスは建物の陰にいるジョー達に男が誰だかわかるようにわざと大きな声をあげた。

　「デイヴィス！それにノーマいったいまたどうしたんじゃい？ついこの間来てくれたばかりじゃないか！」

　デイヴィスと女はきょろきょろと辺りを見回しながらやってくる。警戒しているつもりなのだろうが、ジョーにとってはお笑いだった。隙だらけなのである。パラライザーで一瞬のうちに眠らせることは容易かったが、しばらく様子を見ることにした。”研究者達がどれほど麻薬のことを知っているのかどうかはデイヴィスを調べればわかる。もしも彼が知っているのならすべての研究者が麻薬のことを知っているはずだ。”とラディアスは言った。それほど老人はこの青年を信頼しているのだ。
　デイヴィスは老人と握手した。

　「おやじさん。無事で何よりです。実はちょっと危険な人間を僕らは捕まえたんですが逃げられてしまって・・・・おやじさんの身の安全を確認しにきたんですよ。大丈夫。悪い奴らの姿はレーダーにもひっかかりませんでした。ここは安全です。」

　女がふうっと溜息をついた。

　「でもよかったわ。・・・・途中で逃亡した人に出会ったらどうしようかとびくびくしていたの。ジェントリーさんは、逃亡した人を見付けたら殺せだなんていうんですもの。エウルを守るためにいろいろなことをしたけれど・・・・やっぱり人殺しだけは嫌。」

　ラディアスは薄暗い小屋の中に二人を招き入れ座らせた。

　「しかし、よくもまあ、逃亡者がいるっていう危険な状況でお前さんたち二人のようなへなへなしたのを寄越したのぉ。」

　とたんにデイヴィスの顔が曇った。

　「進んで志願したんですよ。おやじさんに相談したいことがあって・・・・いや、たぶん僕の杞憂だとは思いますが・・・・」

　二人を壁の隙間から観察していたロマノフがジョーに耳打ちした。ジョーは頷き、マリオにも同じ事を伝えた。三人は風のように裏口から中に突入した。

　次の瞬間、ノーマはジョーにみぞおちの辺りを殴られて気を失い、デイヴィスはマリオに猿ぐつわをかまされ、さらにロマノフの銃が彼の背に押しつけられた。ラディアスは腰を抜かさんばかりに驚いた。銃声が響いた。　デイヴィスは自分の死を瞬間的に思ったが、辺りに静寂が戻ったときにもまだ彼は息をしていた。いや、一滴の血も流れてはいなかった。
　ロマノフが引き金をひいたのではない。ジョーが開け放たれた窓に向かって撃ったのだ。マリオ声を出させぬよう猿ぐつわを締め上げつつ、もう一方の手をデイヴィスの衿の後ろに滑らせた。そして小さな丸いものを掴むとジョーにめくばせした。ジョーは二発目を発砲し、それと同時にマリオは丸いものを地面に落として靴で踏み付けた。丸いものは鈍い小さな音をたてて潰れた。
　マリオは猿ぐつわを外し、同時にロマノフは銃を外した。デイヴィスははあはあと息をし、椅子に崩れ落ちるように座り、ラディアスを睨んだ。

　「おやじさん・・・・どういうことなんだ。なぜ逃亡者がここに居るんだ？あなたも僕らを裏切るのか？」

　マリオが猿ぐつわに使っていた布をデイヴィスの前でひらひらさせた。

　「静かにしろよ。もう一辺こいつを押し込まれたいか？」

　デイヴィスは沈黙した。その手の上にジョーはマリオが踏み潰した小さなものをつまんで乗せた。光を反射し、そいつは刃物のようにぎらりと光った。

　「これがなにかわかる？・・・・っててもあなたは機械は駄目そうね。・・・・これは盗聴器よ。」

　デイヴィスは訳がわからないというようにぽかんと口を開け、ついで憤慨した。

　「出鱈目を！盗聴器が僕に仕掛けられているはずあるものか！」

　ジョーは冷ややかに見下ろす。

　「・・・・じゃあそれは何？盗聴器や発信機以外の何が衿に仕掛けられるわけ？」

　生物学者は一瞬戸惑ったがすぐに言い返す。

　「・・・・だとしても、僕の安全を考えてのことだ。」

　「そうかしら？もしもあたしがあなたの仲間であなたの為を思って盗聴器を仕掛けるとしたら、あなたにもそのことを知らせるわ。・・・・なぜあなたはその機械のことを知らなかったの？・・・・だれがつけたのかは知らないけど、あなたはその人に信頼されていない。いいえ、危険な奴だと思われているに違いないわ。
・・・・あたしが発砲した音は向こうに聞こえているだろうから、きっとあなたは殺されたと判断されているんじゃないのかな。・・・・どっちにしろここにすぐ来るわけはないわ。あたしたちの銃の腕は向こうもよく知ってるからね。あたしたちが海に出るのを待ってエウルを使って息の根を止めるつもりだわ。
・・・・おそらくジェントリーという植物学者がそのリーダー。あなたたち純情な研究者を騙し続けているのは彼よ。・・・・何か心あたりがあるんじゃないの？」

　デイヴィスの顔が青ざめた。瞳が小刻みに震えている。仲間達を信じたいという気持ちと疑う気持ちが渦巻きながら彼の全身をひっかきまわしているようだ。
　しばらくして彼は言った。

　「おやじさん。・・・・あなたはこいつらを信じて受け入れたみたいだが、・・・・一体なにが本当のことなんだ？教えてくれ。」

　結局デイヴィスはジョーの言葉では自分を納得させられなかった。
　ラディアス老人が根気強く経過を説明した。エウルの体を蝕んでいる原因は海の汚染ではなく、麻薬であること。当然、因果関係について研究員の中でのデータ偽造があること。竜の異常に気付いたデイヴィスを、それは嘘のデータで丸め込んだであろうこと。おそらく麻薬の精製を目的とする者が存在し、その秘密を守るためにエウルを利用し、プラントを破壊し、人間を殺した・・・・

　デイヴィスは首を横に振った。

　まだラディアスの話は続いていたが、デイヴィスは立ち上がった。

　「信じないぞ。」

　彼は口の中で呟いた。

　「信じるものか。信じてたまるか！」

　潜水艇の傍らにホワイティーとチビ竜がやってきていた。空気中に首をのばしたチビ竜はがむしゃらに進んでくるデイヴィスの叫び声に驚いて目をパチクリさせている。
　ディヴィスが小屋から飛び出すのを誰も止めなかった。撃とうとすればいつでも撃って動きを止められるから。
　デイヴイスは珊瑚の砕けた砂に足をとられながら歩いていく。そして海に目をやってチビ竜に気付いた。男の目から邪気が消えた。　”俺たちの研究施設のそばで生まれたのにいつのまにかに寄り付こうとしなくなったエウルの子供だな。随分大きくなった。・・・・大きく、健康そうで・・・・ああ、毎日観察している大人のエウルと違ってなんて瞳が大きいのだろう。輝いているのだろう。”
　もはや混乱の極みに達していたデイヴィスはざぶざぶ海に入っていった。チビ竜が鳴いた。それは警戒の叫びだった。体の大きさは全く違っていたがチビ竜はディヴィスを恐れていた。

チビ竜が生まれたとき、たくさんの人間がチビ竜を調べるために母親竜のまわりに集まってきた。だが、母親は自分の子供に危害が加えられることをおそれ、自分の子供の前に立ちふさがって動こうとしなかった。すると人間たちは不思議な白い粉を母親の口の中に水中銃で撃ちこんだ。母親はおとなしくなり、人間に対して敵愾心を持たなくなった。研究者たちは何度も何度も・・・・チビ竜を調べるためにそれを繰り返した。チビ竜はデイヴィスの作業服の胸ポケットについているマークと同じマークが、人間たちのアクアラングについていたのを覚えている。
　そのうち母親竜は狂い始めた。麻薬は、出産で弱っていたエウルの体を急速に蝕んだ。母親は自分の子供がわからなくなり、狂乱の末に死んでいった。チビ竜は人間が母親を殺したと知っているわけではない。だが、研究者たちのマークは母親の死のイメージとしっかりと重なっているのだった。

　”来るな！来るなよぉ！”

　チビ竜は言っていた。デイヴィスにはわからない。チビ竜は胸びれを大きく動かした。この見知らぬ男がこれ以上近付く気ならその胸びれで彼をなぎはらう気でいた。
　ふらふら歩き続けるデイヴィスに小さな影がぶつかっていった。

　「だめだよ！竜君！こわいことしちゃだめだよ！」

　カイユンだ。デイヴィスは海水の中にしりもちをついた無様な格好で少年を見た。
　物置から急いで走ってきた少年は不思議な、だが優しい声を竜にかけていた。
　その一声だけでエウルはゆっくりと胸びれを普通の位置にもどした。そして自分を恥じるように長い首を水に浸かっている胴体の下に隠すようにした。カイユンはすうっとそれこそ波に運ばれるように泳いでいって横腹のあたりを手で撫でた。チビ竜は気持ちよさそうに目を閉じ、首を胴体から出すと甘えるように鳴いた。
　デイヴィスは、カイユンに聞こえるような大声を発していた。

　「どうしてなんだ。僕は・・・・最新式の超音波発生装置、超音波解析装置を使っていた。大学で習った通りの理論に則ったやりかたで努力を続けてきた。エウルを研究しようとする熱意は誰にも負けない自信があった。でも・・・・エウルは僕をおそれ、研究者ではない少年に心を開いている。僕の声はエウルに聞こえないが少年の声は聞こえる！何故だ！素人に・・・・僕は負けたのか・・・・・・研究の成果はゼロだったのか？」

　カイユンは・・・・カイユンの性格こそなればなのであるが、自分がデイヴィスに悪いことをしたような気になった。

　「そんなことありません。僕、素人じゃなくって一応海洋生物学を専攻していたことがあります。それに・・・・僕、エウルの言葉を正確に話せませんし、エウルだって僕の言葉を完全にわかっているとは思えません・・・・・なんとなく、そう、なんとなくなんです。僕はただ、エウルと遊んでいただけです。科学的でも理論的でもありません。僕の論文は・・・・海の生きものの言葉に関してのものは全く評価されてません！雑誌に掲載されたことないんです。客観的でなく科学の枠からはみだしているからですよ。僕、はみ出し者なんです。あの、あの、だから、そんなに落ち込まないでください。研究って勝つとか負けるとかいうもんじゃないし。どうしても勝ち負け決めるならあなたの勝ちです。僕のやりかたは科学じゃないんですから。あの、あの、僕があなたのためにできることありませんか？顔が真っ青ですよ。」

　デイヴィスはカイユンの手首を掴んだ。

　「・・・・君は・・・・何が言いたい？」

　カイユンは言葉を捜した。

　「何って・・・・あの、僕の父さんが言ってたんです。”困っている人がいたら見ないふりをして通りすぎたりするな。どんなに非力な人間でもその人のためになることを考えることくらいはできる”って。」

　デイヴィスは苦笑いした。

　「・・・・ああ・・・・君、逃亡者の一員だったね・・・・僕たちは君みたいな純粋な子供まで追い掛けて殺そうとしたんだね。」

　デイヴィスはカイユンの小柄な体をぎゅっと片手で自分の胸に引き寄せた。カイユンは引き寄せられるままになっていた。デイヴィスの体が震えているのがわかった。

　「・・・・坊や。君達のリーダーはあの女性かい？」

　カイユンはこっくり頷いた。

　「そう。彼女は信頼できる人間かい？」

　「ええ。信頼できるし、強くて優しい人です！」

　デイヴィスは深呼吸した。数回吸って吐いてを繰り返す。そしてカイユンを痛いほどぎゅっと抱き締めた。

　「・・・・では僕も信じることにしよう。そして彼女に話そう。僕が抱いている不安を・・・・・」

　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　ジョーが気絶させたノーマという女性も目を覚まし、一同は砂の上に輪になって座った。

　「それは明らかにあなたを狙って起きた事故だわ。事故に見せ掛けてあなたを殺そうとした。」

　デイヴィスの話を聞いて、ジョーは静かに言った。
　この一月の間にデイヴィスは死にかけた。一回目は海中の探査中、突然空調系統の機械が故障し、酸欠の危機に見舞われたのだ。整備士がいうには部品が老朽化していたということだったが、デイヴィスの親しい友人で、少しは機械のこともわかる男の話では、単純な部品の老朽化では酸欠という非常事態はそうそう起こるものではないらしかった。デイヴィスは壊れた部品の提出を求めたが、すでに廃棄されていた。そのごたごたに、リーダーであるジェントリーも絡んできた。この際、潜水艇、研究機器の総点検をすべきだというデイヴィスのもっともな意見を無視した。　普段デイヴィスは研究施設の運営に口出しはしない男だった。かれはひたすらエウルの研究に没頭し、エウルを外部の脅威から守るために心を砕いてきた。しかし、事故を境にして施設の中を調べ始めると不可解な事が山と見つかった。何故、エウルを仕込むために使う白い粉が異常に大量に海藻から生産されているのか。なぜ弾薬や武器の類が開発されているのか。

　ジェントリーに問い正してみたところ、”エウルを守るためには必要なのだ。”と同じ事を繰り返すばかりだ。
　そんなとき、デイヴィスはまた死にかけた。今度は外でエウルを観察しているときにエウルの一頭が突然襲いかかってきたのだ。幸い近くにいた仲間が襲ってきたエウルにエウルの嫌う粉を撒いてくれた・・・・エウルは基本的におとなしい。誰かに指示されなければ襲ったりしない・・・・誰に指示された？
　ジョーはうんうんと頷いて目を閉じた。

　「ジェントリーって奴はそろそろここを引き上げるつもりらしい。目的は麻薬の取引。ついては邪魔なものは処理したい。つまりデイヴィスならびに何も知らない健全な研究者諸氏。麻薬のことを知らない研究員のうち、一番人望の厚いデイヴィス、あなたを始末するのがジェントリーの狙いよ。」

　デイヴィスとノーマはうなだれていた。
　小さな嗚咽がノーマの喉から漏れた。
　デイヴィスはそれをたしなめた。

　「大体判っていたことなんだから。ただ、ここにくるまではその考えを頭から追い出していただけなんだ。」
　ノーマは薄い唇を白くなるほど噛んだ。

　「ええ・・・・でもあれが麻薬だったなんて。・・・・デイヴィス、私達はどうすればいいの？このまま帰ることはできないわ。いくらジェントリーに戦いを挑んでも、武器とエウルに攻撃命令を与える機械を掌握しているのはジェントリーだもの。勝ち目はないわ。」

　ラディアス老人は冷たいノーマの手を節くれだった自分の手であたためた。

　「二人とも。残された道は二つ。ここにとどまるか、戻って殺されるか。・・・・まだ研究施設に残留している罪のない研究員が心配じゃろうが、しばらくここに居ろ。わしゃあ、あんたら二人が好きじゃ。」

　三人はジョー達から離れて何やら小さな声で語り合い始めた。

　「さて。」

　ジョーは自分の仲間をぐるっと見渡した。

　「あたしたちの方はいろいろと道が残ってるのよね。」

　カイユンとソーンダイクが測ったように同じ角度でが首を傾げる。

　「一つはここで待機し、ジェントリーって奴が自分の腹心の部下以外を殺し、麻薬持って脱出したあとゆっくり逃げるって案。万一向こうがここに攻めてきても、こっちにゃあコスモ・アーミー屈指のスナイパーだったロマノフがいるんだから、対戦車用バズーカでも持ってこられない限り、陸の上の戦いじゃ負けっこないわ。・・・・だいたいそんなに大した武器ないわよ。いまのデイヴィスの話聞いてりゃせいぜい出力高めのレーザー位でしょ。・・・・この案に意見は？」

　「・・・・あのな。この何にもねえ殺風景な島でどうやって暇潰すんだ？酒場もねえし、コールガールもいないんだぞ。」

　マリオ以外の三人はじっと聞いている。

　「・・・・二つ目は潜水艇で逃げまくるって案。エウルが嫌う粉もあることだし、逃げきれるかもね。」

　「・・・・どうせ見つかってあの青い化けモンに追われるんだろうが。いくらあんたの操縦技術が優れていてもありゃあ精神衛生上よくないぞ。それにじいさんが持ってる粉の量は大したことねえ。危険だ。」

　「じゃあ三つ目。とにかく研究施設のところまで突っ込んでいって、マリオの爆薬で一気にすべてを破壊する。もちろん中の人間込みで。」

　「う～ん。大きな爆破をするのは興味を惹かれるが、人間込みだとなあ。海中に樹脂製の壁がばあっと広がるのは美しいがその中にぶっ千切れた腕や足や頭が混ざっているのは美しくないぞ。第一研究者には女もいるんだろ。女は爆破して殺す以外の使い道を俺は推奨するぞ。」

　「・・・・それじゃ四つ目。爆破はするけれど、全体破壊はしない。エウルの攻撃を避けながら研究施設に辿り付き、こっちの手持ちの武器を最大限につかってジェントリー一派を追い詰める。」

　カイユンが目を輝かせた。

　「そしたら、麻薬のことを知らなかった研究員の人たちは助かるんですよね。」

　マリオはカイユンの頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。

　「俺は他人が助かるの助からんのは興味ないが、美しい爆破ができるのなら反対はしないぞ。」

　ロマノフは苦笑いだ。

　「そんなにうまくいくものかな？あ～あ、偉い無謀なお嬢さんをコスモ・アーミーはシークレットチームのリーダーに据えたもんだ！」

　ソーンダイクは何も感想を言わない。こういうことは彼の専門ではない。専門でない以上、こういう事態に慣れている仲間の意見に従うのが妥当だろう。・・・・と考えたのかどうかは誰にもわからない。

　「要するに、反対する奴はないのね？ははっ　意見のまとまりやすいチームであたしとしちゃあ助かるわ！・・・・命の惜しい奴はここに残ってていいのよ。あたしは命のあるなしよりかは自分の考え方に合った生き方ができるかどうかに重きをおくから、最後までつきあうと命がいくらあっても足りなくなるわよ。・・・・そうね。あたしも第四案が好きだわ。あのジェントリーっておっさんの顔、どうしても気に食わないわ。あたしたちをひやひやさせた分たっぷりお返しをしなくちゃ。」

　これからの予定をジョーがラディアスらに伝えるとさすがに皆止めた。特にデイヴィスが強硬に反対した。

　「僕達のことを思ってくれるのは有り難い。でも・・・・」

　ジョーは相手が咳き込むほど強く左手で相手の肩を叩く。

　「だれがあなたたちの為だって言った？あたしたちはシークレットって言っても、もともと犯罪者、社会からはみ出た存在よ。あたしたちはただ自由に、自分の意志に従って生きたいのよ。
・・・・コスモ・アーミーの上司にアレックス・ギダーっていけすかない奴がいるんだけど、そいつの命令にしたがってるのは、自分の命と生活を守るため。基本は自分のやりたいようにやる。やりたきゃ命だってかける。ただの気紛れ。それだけの話。でも、あたしは生きて戻ってくるつもりよ。ついては詳しい研究施設の構造を知りたいわ。自分のやりたいようにやって、しかもシークレットの仕事も仕上げる。それがプロよね。
・・・・ただ、あたしはあなたのやり方が正しいとは思っていないからね。隠れて人を襲ってしかも厄介なことにエウルを守るためなら仕方ないっていう子供じみた考えをしてる。
・・・・これが終わったら・・・・本来コスモ・アーミーにあなた達をも引き渡さなけりゃならないんだけどな。あたしだって人間だからなにかしてもらったらそれに対してお礼はするつもりよ。・・・・ね、教えてね。研究施設の構造。何か隠したらただじゃすまさないわよ。」

　すっとおろした右手の先にはレーザーガン。
　にこやかな笑顔は良家のお嬢様のようだが、これは要するに脅迫というものである。
　デイヴィスとノーマは砂の上に指で地図を書き始め、非常に細かなところまで伝えた。一方マリオはラディアスと共に家に引っ込み二人でやたらに盛り上がりつつ爆薬の準備を始めた。

　”何をすべきか”

　ではなく

　”何をやりたいか”

　でこのチームは動いている。

　そして、犯罪者であり社会のはみ出し者にしては”やりたいこと”は人道的にものすごくまっとうなのであった。

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