トップへ 
| 5 姿無き攻撃者 |
| 「ただいま！」 バルコニーから延々と続く白い砂浜を眺めていたジョーは、元気のよいカイユンの声に振り向いた。カイユンは半ズボンにに大きなイルカの柄のついた白いＴシャツ。ジョーもリゾート惑星を訪れた観光客が普段に着ていそうな無難な服を着ている。 ここはリゾート区域のコテージ。部屋が三つもあり、一番奥の部屋でワープ酔いの抜けないソーンダイクが死んだように横たわっているのが見えた。到着して三日目。コンピュータの天才は虚弱らしい。 入り口のロックをしっかりと確認し、カイユンは部屋履きにはきかえると奥の部屋を覗き込んだ。 「ジョセ・・いえ、キャプテン、ロマノフさんは？」 「まだ聞き込みよ。カイユン、海はどうだった？」 「ええ、リゾートとしては綺麗なほうじゃないかしら。人間がたくさん泳いでいる海特有の匂いが海水からもしてましたけど、そんなに嫌な味じゃありませんでした。綺麗な貝殻をたくさん拾ってきましたよ！ほら、ね、白いのに、茶色いのに、とんがってるのに・・・・」 得意そうにポケットから貝殻を取り出して掲げてみせるカイユンはとても十八の青年には見えない。 「ホワイティーは？」 「五キロほど沖合に待機してます。ここは海獣保護区ですから安全ですよね。狭いところから広い海に出られてとっても喜んでました。」 ジョーはよく冷えたジュースを冷蔵庫から出してカイユンについでやった。 「ふーん、カイユンは完全にワープ酔いから復活したようね。で、マリオはどうしたの？一緒に海岸に出たんでしょ？」 カイユンはジュースをごくごく飲むとからになったコップをテーブルに置いた。 「それが、ひどいんです。マリオさんったらせっかく海に来たのにほとんど泳がないで砂浜にいるんですよ。マリオさんだけじゃなくって、たくさんの人が死んだマグロみたいに浜辺に転がってました。あれは正しくないですよ。僕、何回も”泳ぎましょう！”って誘ったんですが、マリオさんは浜辺で女の人をひっかけて二人で歩いて行っちゃったんです。僕が追い掛けたら、”男はな、こういうところにきたら毎日実践しないと恥だ”なんていっちゃって・・・・毎日何をやるっていうんでしょう？」 どうやらマリオは相当女癖が悪いらしい。 「・・・・ともかく、あたしもこれから情報収拾してくるわ。ソーンダイクをお願いね。明日から本番だから今日は早めに寝なさい。」 深夜、三人は戻ってきた。バルコニーに並んだ三つの椅子に腰掛ける。浜風が優しく髪をゆらした。 「何か見つかった？・・・・もちろんいい女が見つかったかなんて聞いちゃいないわよ。」 マリオが“うっ”っとなった。 「・・・・あのなあ、俺も仕事を放り出したわけじゃないんだ！・・・・ヤク中の奴らを何人か見付けて話を聞いたんだが、麻薬ルートとしちゃあちっぽけなもんで、裏の世界を仕切っているマフィアなんつうもんはねえようだ。ただ、この手の星としちゃ、何故か流通量が多くてクスリの純度も高いのが変といえば変だ。大筋としてリゾート開発会社の力が一番強く働いている感触だ。リゾート会社がプラント壊すたあ考えられないが、そこらへんに何かありそうか？」 ロマノフは首を振った。 「観光客を除いたこの星の人間はリゾート関係または採掘関係に従事しているが、特に二つの企業に悪感情を持っている者はそんなにいないようだ。採掘を行っている場所は、リゾート地区から遠く離れているしな。」 「うん。あたしもリゾート会社のお偉いさんを誘って話を聞いたけど・・・・」 マリオがいやらしく笑う。 「どこに誘ったんだ？」 「・・・・仕事でやってることについて必要以上の説明を求めるんじゃないわよ。・・・・とにかく採掘地区への進出は考えていないらしいのよ。・・・・この星、開拓の初期にいち早く入殖したのは海洋研究者の一団だったわよね。それが突然消息を断った・・・・それ以来散発ではあるけれど、陸から遠く離れた海に行った人々が姿を消したり死体となってあがったりしている。そこに今度のプラント破壊騒ぎでしょう。危険は冒したくないってさ。・・・・明日、採掘会社の人間に会う手筈を中尉が整えてくれた。特に手がかりがない以上何でもやってみましょ。」 「で・・・・”三角海域”に潜ってお陀仏になるわけか？」 ジョーは魅力的に笑った。 「それもまた一興じゃない？」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 採掘を一手に手懸けているルノーグループの子会社、ルノー鉱業エニラム支社採掘主任のギャラコは、汗っかきの小男で、少々飛び出した前歯が太りすぎのハツカネズミを思わせた。 額を拭うハンカチは汗を吸い、絞ればジャアっと水が出てきそうなほどびしゃびしゃになっている。先程から社交辞令ばかりでなかなか本筋に入らない。 ジョーはイライラしていたが、悠然と微笑んでみせた。この手のタイプは怯えさせたら始末に負えない。 「ギャラコさん。気をお楽になさって下さい。私達は事故原因の調査の為に派遣されました。あの・・・・私達では頼りにならないとお思いかもしれませんが・・・・」 そういって少し目を伏せる。計算された角度だ。 ギャラコはジョーを見てからロマノフに目を移した。今、リーダーはロマノフということになっている。ジョーはもちろん男尊女卑思想をもっているわけではないが、若い娘がリーダーというよりは経験のありそうな年上の男の方が相手に警戒心を与えないだろう。他のメンバーは海上で浮いているアケルナル内で待機だ。 ロマノフも物腰柔らかに対応する。 「軍も今回の一連の事件を憂慮しています。どこまでできるかわかりませんがどうぞお話を。我々がたとえ失敗してもまた次のエージェントが参ります。その時にもあなたのお話を伝えます。」 ギャラコは弱々しく息をついた。事故の処理でそうとうストレスがたまっているらしい。 「失礼しました。・・・・何組もの海洋学者やエージェントがここに来てくださいましたが・・・・結局その方たちの大部分があの海域で命を落としました。・・・・以来調査にいらっしゃる方もなくなり、私たちは見捨てられたのだと諦めていたのです。・・・・いや、あなたがたは穏やかですね。今までの方は学者もエージェントも威圧的で・・・・」 一番物騒であるはずのＤ級シークレットにそう話しながらギャラコはぱちぱちとしきりに瞬きを繰り返した。神経性の病気に陥りかけているらしき兆候もみえる。ジョーは少し哀れに思った。 しかし、そのあとのギャラコの説明はしっかりしていた。永年現場で働いてきた技術者の面目躍如といったところか。 ”魔の三角海域” それは一番海底鉱床が厚いとされているところだ。近くに小さな島が点在しているが、鉱床部分の深さはかなりある。資源が豊富だからこそ企業としてもそこを諦めきれない。しかし、そこに立ち入ると必ず事件が起こる。 ルノー社としても手をこまねいていたばかりではない。海洋学者、軍のエージェントを招く以外に、ハイテク機器を使い海底の探査を試みもした。業を煮やしてミサイルを何本か打ち込んだこともある。 しかし事故はなくならなかった。 「あの海域に移動するプラントや船にももちろん超音波による探査装置は装備してあります。しかし、襲撃を受ける直前になぜか使いものにならなくなってしまうのです。妙な音波が海中から発せられて・・・・攻撃はすべて外部、しかも海中からです。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ マリオはコクピットの奥の部屋のスクリーンに投影された外の景色を眺め、 ”あまりいい構図じゃねえな” と呟いた。ルノー鉱業のある小さな島の横手には鉱石の一次処理の際に排出され、海に投棄された採掘屑が海面から灰色の小山のように顔を出していた。海岸線に沿って植えられている南洋植物とミスマッチだ。 スクリーンがブラックアウトし、代わってギャラコから入手したスライドが投影された。横転したプラント、真っぷたつになった輸送船、角度を変えて何枚も詳細な写真が撮られていた。更に事故当時の気象状況、犠牲者の履歴・・・・基本的な調べは既に成されている。しかしどのシークレットも成功せず、逆に命を落としているのだ。これはいよいよ”捨て石シークレット”として派遣されたような気分が濃厚になってくる。 「さて、カイユン海洋学者としての意見は？」 カイユンは片手を上げた。 「・・・・大きな動物ですね！」 マリオがどついた。 「いて！だってこれは爬虫類の歯型にそっくりです・・・・」 ジョーは真顔で訊ねた。 「カイユン。本当のところ、そんなに巨大でプラントを壊せるような生物が存在する可能性があるの？」 カイユンは目を閉じた。自分の持っている知識を駆使して分析をしたようで、次に口を開いた時には少し押さえた言い方になっていた。 「ラワード星やソマラ星には全長百メートルをこす狂暴な生物が居ます。例えば、ナゲリアシマウツボやトゲカギザメがそうです。しかし、二つの星とも気候が苛酷です。生物は餌を求め、文字通り食うか食われるかの生存競争を繰り広げているんです。そうですね、エニラムのような穏やかな海では大きさはともかくとして攻撃性の高い生物が存在する確立は低いですね。・・・・それに、船やプラントを襲うとすれば、海面近くまで生活圏になっている生物のはずですよね。それならばそんな大きな生きものを誰か目撃しているに違いありません。・・・・でも、プラントの傷自体は本当に爬虫類の歯型に似ています。それは以前調査した人たちも考えたことですよ。」 ジョーはスクリーンに複数のスライドを一気に映しだした。 「・・・・生物説をあたしは支持できない理由が別にあるの。・・・・よく見て。」 カイユンが首を横に振った。マリオも合点がいかぬように眉をそびやかした。ロマノフだけがゆっくり頷いた。 「攻撃の位置よ。」 マリオが手を上げた。 「位置たぁどういうことだ？」 ジョーは船の透視図を投影した。指示ペンを持って手元の小さなディスプレイに線を引くと大きな映像にもその線がそのまま映った。 「今回破壊されたのはここから・・・ここにかけての部分。この位置は、攻撃を加えて機能をマヒさせるのには最適の場所だわ。マリオにすらそれがわからないのにただの化物に理解できようはずがない。」 マリオは憮然とした。 「俺も透視図を見ればわかるぜ。・・・・そうだな。こいつを船外から破壊するとすりゃあその位置に爆薬を仕掛けるな。・・・・だが、化物でないという証拠もないぜ。よほどおツムのいい化物かもしれん。」 マリオの言葉を聞き、カイユンが間髪を入れずに叫んだ。 「あの、化物じゃなくて、巨大生物っていってくれませんか？巨大生物は怪物じゃありません！」 カイユンの言葉は何故か力が入っていた。それに彼の黒い大きな瞳はやけに悲しそうだった。 「同じようなもんだろうが！おい、ソーンダイク、お前はどう思う？」 ソーンダイクはテーブルクロスの上に並べられていた貝殻をもてあそんでいたが、問われて即座に答えた。 「データ不足。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ アケルナルは三角海域の上まで海上を進んでいった。横には並行してホワイティーが泳いでおり、ときおり海面から勢いよく飛び上がってみせていた。 今日も海は静かで空は青く、空気は爽やかだった。カイユンは翼の上に陣取って素直な黒髪を風に気持ちよさそうになびかせて目を閉じている。 白いイルカは気をきかせて少しカイユンから離れた。誰だって考え事をしている時には一人で居る方がありがたいだろう。 探査艇は止まった。カイユンはホワイティーに一声かけると機内にひっこんだ。 ジョーは海中探査艇の準備を進めていたが、それが終わるとカイユンを呼んだ。彼は足ひれを手にもち、海中撮影用のビデオカメラを肩から下げていた。 「準備はできました。ジョ・・・キャプテン。」 「わかっているとは思うけれど、カイユンは偵察の意味で先に潜ってもらうんだからね。正式な探査はあたしたちがする。無理してはだめ。何かあったらすぐに上がってくるのよ。助けが必要ならすぐに探査艇で潜っていくからね。」 カイユンはニコニコ笑って返答とした。 彼がスッポリとヘルメットをかぶりアクアラングをつけて飛び込むのを見届けると、残りの者はコクピットに集まった。 「追尾開始。坊やを見失わないようにね。」 水中レーダーはカイユンとホワイティーを二つの光点として映しだした。 海中は美しかった。 昨日カイユンはルノー社の近くの海に潜ってみた。そのときは水に嫌な味がした。見た目には美しい水も金属成分をかなり溶かしていた。海底には珊瑚もなく、魚も少ない。海が生きているか死んでいるかは生きものたちに訊ねるのが一番であり、生きものたちはルノー社が海を殺しつつあることを知っていた。 今潜っている海は美しいし嫌な味もしなかった。エニラムの海は、リマンの海より、いや、カイユンの故郷のマーリナ星の海よりも美しいかもしれなかった。 ヒトを恐れぬ回遊魚達がカイユンのまわりをとりまき、そしてまた離れていった。五メートルはあるマンボウのようんヌーボーとした顔の魚が目蓋のない目でカイユンとホワイティーを見送る。 狂暴な生物がいるのなら、これほど多くの魚が群れていることはないだろう。魚達はカイユンよりよほどホワイティーが怖いらしく、白いイルカのまわりからは魚が遠ざかってしまった。それでも白イルカは素早く泳いでなん匹かの小魚を美味しそうに飲み込んだ。 「しっかし気持ちよさそうに泳いでいるようだな。あのガキは。」 海中カメラの映像を眺めていたマリオが溜息をついた。 「・・・・カイユンの故郷は海洋惑星よ。泳ぎがうまいのが道理。」 マリオが”はは〜ん”という声を漏らすと入違いにカイユンの元気な声が飛び込んできた。 「こちらカイユン！通信します！キャプテン！見えます！見えます！」 ジョーは身を固くした。 「どうしたの！」 「キラキラ光る青い魚が海底からたっくさーん泳いできました。カメラで映します！ねっ！綺麗でしょう？」 「 あ ほ っ ！ 」 カイユンはまわりの様子に嬉々としながら潜り続けた。気付くとホワイティーがいない。 「ホワイティー？」 通常の音声は海中での会話には使えない。カイユンは彼の知っている方法・・・・超音波で語りかけた。 ”ホワイティー！ホワイティー！どこ？” 白いイルカは魚にちょっかいを出していたが、友達に呼ばれてすぐに戻っていった。 しばらくカイユンとイルカは超音波で話し合っていた。 と、何かが近付いてきた。 「キャプテン！」 切羽つまったカイユンの声！そしてカメラの映像が途切れた。通信にも雑音が入る。 「キャ・・・・下・・・・・青・・・・・大きな・・・・・」 「カイユン！キム カイユン！返事しなさい。どうしたの！」 「やっぱり・・・・でも・・・・・青い・・・・・・とてつもない・・・・・」 通信は完全に途切れた。 ロマノフの声が響く。 「計器が役にたたん！」 受信装置の針は振れに振れ、ゼロとマキシマムとの間を飛び跳ねている。これではカイユンを追尾するどころではない。ソーンダイクはカメラの画像を復活させようと必死だ。 しばらくして計器は正常に戻り画像も復活した。カメラの映像を受け取っているディスプレイは疎らな魚を映すばかりでその揺れ方からカメラを持っている主が居ないことは確かだった。 カイユンのつけていた足ひれが片一方、ゆっくりと舞いながら沈んでいくのが見えた。 カイユンもホワイティーもいない。 「あ・・・・」 ジョーは青くなって無言で画面を見ていた。その様子を見て、マリオは呟いた。 「あんたみたいな女でも、他人を心配するってことがあるんだな。」 ジョーは左手でマリオを平手打ちした。打撃は思いの外強く、マリオは床へと飛ばされた。 「心配するのが当然よ。あの坊や、死んだかもしれないのよ。あたしをあんたのような傷害犯と一緒にしないで！」 「言ってくれるな。俺は確かに怪我人を出したことがあるが・・・・知ってるぜ、あんた宇宙船を乗っ取ったとき、十数人を重傷のガス中毒に巻き込んだだろ。あれは傷害とは言わないのか？」 ジョーは答えなかった。黙って通信席に座る。一人で通信バンドを切り替え衛星軌道上にいる上司に連絡した。 「アケルナルからサザンクロスへ。これより探査艇にて緊急潜行を開始。詳しくは事態が落ち着いてから報告を行います。」 スピーカーから中尉の声が聞こえたが、ジョーは一方的に通話を切った。 「総員、探査艇に。潜行用配置へ。」 マリオは”何も作戦なしでか？”と、不平そうにジョーを睨んだが、彼女の鋭い目とぶつかってかったるそうに探査艇に移動した。ここで衝突してグロ星に送られるのは御免だ。 ロマノフは、ジョーが激してはいてもやみくもに行動しようとしてはいないことを信じていた。若いとはいえ、数々の修羅場をくぐり抜けてきた娘だ。それにしても、さっきマリオを殴ったときの激し方は度を越していた。あれは一体何だったのだろう。 カイユンの姿が消えた地点に潜行艇が近付くと、ジョーはジャンプスーツのジッパーをおろし、上着を脱ぐとシートの背に投げ掛けた。そして、アンダーシャツの裾にも手をかけた。目は、船外カメラの映像に釘づけになっている。 「ロマノフ、メインエンジン停止。第二作業艇スタンバイ。」 マリオは口笛を吹いた。 「こんなところでストリップか？」 「あほっ！あたしが一人乗りの作業艇で出るわ。」 アンダーシャツの下はウエットスーツだった。 「さがしまくるしかないわ。もしかしてさっきカイユンを襲った奴がもう一度襲いにきてくれるかもしれないしね。ロマノフ、あたしはずっと通信機をオンにしておくわ。もしも通信が途絶えてしかも回復しなかったらあたしを最後に確認したところまで来て・・・・そこで何も見つからなかったら速やかに浮上してこの海域から脱出。中尉に連絡して指示を待つのよ。じゃ、あたしは行くわ。」 マリオは機嫌が斜めどころかでんぐりがえっていた。 「あのアマ！リーダーなら自分で出ずに残留するのが鉄則だろが。」 操作板に拳を叩き付けたマリオをロマノフがたしなめた。 「・・・・あの作業艇を使いこなせるのは彼女だけだ。違うか？」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ジョーがいくら探しても、カイユンがその付近にいたことを示すものは見つからなかった。 逆に言えば彼の死を示すものもない。引き上げようとしたときに、彼女は白いイルカが悠か深海にいるのに気付いた。 「ホワイティー？」 作業艇を潜らせると白いイルカは飛び付くように泳いできた。必死に何事かを知らせようとしているらしいのだが、ジョーにわかるはずもない。しばらく身振りをみていてやっとイルカがどこかに彼女を連れていこうとしているのだと理解できた。 しばらくイルカについていくことをロマノフに伝え、ジョーは潜った。イルカは速度を増した。 「ジョー！」 ロマノフの叫びがジョーの耳をつんざいた。 「ロマノフ！そっちに何が起こったの！」 雑音・・・・・そして交信不能。ジョーは胸騒ぎを覚えながら作業艇を転進させた。 探査艇が居た位置・・・・そこには何もない。・・・・消えてしまった。何もかも。 ジョーは海面に上がった。白いイルカが顔を出した。彼女はハッチを開けた。 ホワイティーはのばしたジョーの手にくちばしをすりつけた。 「・・・・あたしを怖がらないのね。・・・・覚えているのかな、あたしを・・・・」 もちろんイルカは、カイユンを助けてくれた彼女のことをよく覚えていた。 「・・・・でも、あんまりだよね。あいつらと生き残ってやるつもりでいたのに。・・・・あなたの友達の坊やを守ってあげるつもりでいたのに・・・・」 イルカは”行こう、行こう”とばかりにジャンプした。 「そうだね・・・・あたししか残ってないんだからどんな行動したっていいよね。・・・・弔い合戦っていうのかな。弔いしてやるほど親しくなってもいないけどね。・・・・成り行きってもんかな。・・・・化物に襲われたんなら、あたしもそいつに襲われてみることにするわ。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ アレックス ギダー中尉は、ジョーから通信を受け取った。直接ではなくルノー鉱業のギャラコ経由である。 ”ドロップアウトは総員にて海中調査中。もしかして永遠に浮上しないかもしれない。報告書書くのは中尉の仕事。特に同情はしないががんばれ。” 中尉は眉を上げ、通信文をしばらく見つめていた。 |