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| 2 どういうわけか拾われて |
「もう一度歩いてごらん。」 初老の医師がベッドに腰掛けているパジャマ姿のカイユンの肩を叩いて立たせた。カイユンは素直に立ち上がると小さな病室の端から端まで両手を大きく振って元気よく歩いてみせた。 医師は感嘆するように大げさに息をついてみせた。 「全く大したものだ。筋肉も損傷していたのに一ヵ月で完調だ。傷跡も残っていない。凄い、凄い、全く凄い！」 カイユンは再びベッドに腰掛けて、カルテを嬉しそうに眺める医師を、ニコニコしながら見ていた。体が丈夫なのは生まれ付きだが、自分のことで他の人が喜んでくれるのはたいへん嬉しかった。 そして何より、今日でこの病室を離れられることが嬉しいのだった。 医師がじっと自分を見ているのに気付いてカイユンはベッドの上で正座するとぴょこんとお辞儀した。 「礼は不要だ。私も君のような面白い患者を診られて当局に感謝したいと思っている。・・・・礼をされては困る。今日で君は退院だ。しかし君は元の場所にはもどれない。・・・・損な役だが私から君に伝えろと上司から命令されたのだ。」 小鳥のように首を傾げたカイユンに背を向け。医師はい言いにくそうに頭をかいた。 「君がそんなに重い罪を犯したと、わたしは思えないのだが君の市民としての資格は剥脱されたよ。・・・・今度のことでＤ級に降格されてしまったようだ。ここは・・・・パレの一時収容所だよ。 「は？パレ？」 「パレだ。コスモ・アーミーの犯罪者一時収容所。」 カイユンはガーンと耳の辺りを殴られたような気がした。 医師がカイユンを揺すった。 「ショックもわかるが・・・・君は特別だ。Ｄ級はドロップアウト。基本的な権利も認められない階級だが、君には特例措置が講ぜられるだろうさ。今までここに君みたいな子供がきたことはなかった。そして怪我をしていてもこの病室に入れられることはなかった。ここは犯罪者の病室ではなく普段は軍人の救護室だからね。おそらく何かのミスだろう。ほら荷物が海洋生物学研究所から届いているよ・・・・きっと別の職場に移されるだけだ。君の体は特殊だから大切にされて然るべきなんだ。うんうん。わたしだけでなくどこの医者だって君とつきあってみたいはずだ。」 医者は科学的好奇心から実験用のモルモットを見るような目をカイユンに注いだ。医者の顔は残忍に笑っていたが、カイユンはそれに気付かず意志がもってきた袋のなかから取り出した小さなショルダーバッグに飛び付いた。 家族の写真、昔母さんに買ってもらった魚の図鑑・・・・・ それらを見ながら服の上から首にかけた真珠のペンダントを握っているとカイユンは不思議と落ち着いた。 ”カイユン、真珠は貝殻に守られて育つの。だから真珠はお守りになるの。” 母親の笑顔が頭に浮かんだ。 カイユンはにっこり笑った。不思議がる医者にカイユンはほほ笑みかけた。 「変ですよね。でも、なんだかとってもいいことが起きそうな気がするんです。」 これは大間違いであり、考え方によっては大当たりだった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 結局、コスモ・アーミーはミスをしていなった。カイユンは犯罪者として扱われることになった。 彼は、パレの一時収容所の中で呆気にとられていた。個室のデスクに座らされた彼の前にあるのは一種の検査用紙。それは昔やった性格検査の内容に非常によく似ていた。 「あの、テストするんですか？」 試験官は頷いた。 「本当に？」 「その他の何に見える？。」 「Ｄ級になってもテストしてくれるんですね！すぐに市外に送り出されるわけじゃないんだなあ。強制労働させるにも適性検査ってやってもらえるものだったんだぁ。いたれりつくせりなんですね！」 妙なところで感心しているカイユンだった。試験官は笑った。笑ってから急いで苦虫をかみつぶしたような顔に戻った。 試験用紙には、持っている知識や技術のアンケート調査もあった。 カイユンが丸を付けられたのは、ほとんどが自然科学に関することで、それは年端がいかなくとも一応博士号をとっている彼にとってはごくごく簡単な基礎知識だった。その他には、ほとんど丸がつかなかった。 ”宇宙船の操縦ができるか？” （自転車だったら乗れるんだけど・・・） ”銃が扱えるか？” （さわったこともない！！） ”格闘技の訓練を受けたことがあるか？” （ない！ない！喧嘩はいけない！） かろうじて付けられたのは”食料調達”と”水泳”くらいだ。この五年間、カイユンは自炊をしてきたし、海洋生物研究所でも”夜食係”なる役目をなんとなく負っていた。水泳は好きだし上手かった。 やがてカイユンの専門科目である生物学の試験と実技があり、その次は身体検査のはずだった。 しかし、カイユンは定期的に検査を受けていたのでこれは免除になった。そして番号のついたトレーニングウェアを着せられた。 ここまでは他のＤ級の者たちとは接触がなく移動していたが、ここに至って多くの犯罪者達と混ぜられて大きなトレーニングセンターの中に放りこまれた。そこでは多くのＤ級の輩があちこちで運動能力測定をさせられていた。 カイユンは、係官の横で伸び上がって（それでも係官の顎辺りまでしか届かなかったが）辺りを見回した。揃いも揃って、凶悪な犯罪者の顔をした男たちばかり。カイユンは落ち着こうとして大きく深呼吸した。 ”・・・・父さんは言ってたっけ。人は外見で判断してはいけないよ、って。この人たちもいい人かもしれないよね。いい人だって思うことにしよう！でも・・・・・” そう、カイユンの心境はたった一言で表せた。 こわいよ～ それ以外の何物でもない！ 「さあ！行け！おまえのことだ。小さいの。№35、」 職員が、カイユンを小突いた。腰にはパラライザー。それに並んで高電圧をかけて動きを止めることのできるショック棒も納められている。 カイユンは、ぎくしゃくと歩きながら、恐ろしい男たちにぶつかったりしないようにあたりに気を配っていた。画鋲がばらまかれた床を歩くようにあっちにこっちにふらふらゆらゆら歩いていった。 それから何時間経ったろう。 背筋力、敏捷性、肺活量、射撃、短距離走、砲丸投げ・・・・ カイユンは完全にへたばってしまった。体のことよりも慣れない環境で、精神の方がズタズタになっていた。砲丸は後ろに投げたらしかったし、射撃は上に撃ったらしかった。 これ全身、筋肉の固まりのような殺人者、強盗犯等々に混じっての運動能力検査はカイユンにとっては地獄の責め苦に等しかった。 ”なんで怖い人達ばかりなんだろう。僕のようにコロニーに送られるＤ級の人たちはここに来ていないのかな。僕が間違って送られてきたのかな・・・・” カイユンはばてていたがしかし、検査員は、カイユンの運動能力が劣っていると判断してはいなかった。まわりがあまりにタフすぎたのだ。 基礎検査が終って、昼食となった。カイユンは無理してすこしだけ胃袋に押し込むと床の上にべたっとうつぶせに寝転がった。 ”もういいのに・・・・・早いとこ、市外に放り出してくれればいいのにな・・・・・” 彼はそう思いながら、眼を閉じていた。 「立て！№35！」 有無を言わせない係官の声が響いた。 カイユンは動かない。 係官は容赦なくひっぱり起こした。カイユンの体がだらんと係官の腕にぶらさがった。 「あ、役人がガキを殺しちまいやがんのか？」 楽しげな声が後ろから聞こえた。 「マリオ！黙っていろ！」 口をはさんできたマリオは、係官の足元に何かを投げた。パンパンと威勢のよい音がした。係官が飛び跳ねる。 「い、いつの間に癇癪玉を持ち込んだ！」 「持ち込んだわけじゃない。ろくな材料はねえが、それくらいのオモチャはどこでだって作れるもんでね。・・・・ガキは殺さねえほうがいいぜ。囚人でも殺せばあんただって俺たちと同じＤ級に降格されるんだからな！」 係官はショック棒を使ったらしくマリオは呻いた。呻きながら悪態をつき、カイユンの傍からマリオは遠ざかっていった。陽気な口笛の音が小さくなっていく。その音が全く聞こえなくなったとき、係官は気をとりなおしてカイユンを再び揺さ振った。 「立て！もう昼食時間はおわった。そして早くプールへ行け！」 この言葉がカイユンを元気づけた。 「№35、キム カイユン、泳ぎます！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 自由形五〇〇メートルのあとは、平泳ぎ三キロメートルだった。ゆっくり、ゆっくり（しかし、普通の人間よりはずっとずっと速く）カイユンが泳いでいると、隣のレーンの泳者が声をかけてきた。 「坊や、泳ぎがうまいわね。」 カイユンははっとした。この場所に全く相応しくない美しい女性だった。すらりとした肢体、後ろで結んだ栗色の長い髪、澄んだ瞳、すずやかな声。犯罪者とは思えなかった。カイユンはなんだか嬉しくなりにっこり笑って、少し速度を上げた。 競泳プールから上がり、金属でできた階段を使って高飛込みの台に上がっていくと、後からさっきの女性が昇ってきた。女性の見事なまでのプロポーションに犯罪者たちの目が集まってきたが、女性は気にしていなかった。カイユンと女性は二人は、自分達の順番が回ってくるまで、小声で話をした。 「あの、僕、キム カイユンっていいます。僕、わからないんですけど、どうしてＤ級の僕たちに適性検査のようなことをしてくれているんでしょう？」 カイユンが尋ねると、女性は笑った。 「自己紹介ありがとう。坊や、何も知らないのね。・・・・・まあいいわ。要するに、政府はＤ級の者でも最後の最後まで利用するっていうことなのよ。・・・・・ここはドロップアウトした者の集積ステーション。ここでテストをして、技術や体力に合わせて最も適した労働キャンプに送るの。その方が生産力が上がるでしょう。どうしたの、顔色良くないわ。」 カイユンの横に片目の男が上がってきた。男は女性を見て下卑た笑いを浮かべた。厚い唇がまくれあがり、折れた前歯と黄色く鋭い犬歯が剥出しになった。カイユンは、自分がブルブル震えているのに気づいた。女性はそっとカイユンの肩に手を置いた。震えが止まった。 「ここ・・・・・恐い人がたくさん居るから・・・・」 女性は、クスッと笑い、結構面白いところじゃないの、と言って、下の男たちを指差した。 「あの男は、電磁ロック破りの専門家。向こうは誘拐暴行魔。爆弾屋も居れば、軍人崩れも居る。見ていて飽きないわ。」 いかにもこともなげな口振りに、カイユンは縮み上がった。 「あ、ず、ずいぶん詳しいようですが、あなたもなにかなさったんですか？」 女性はにっこりと微笑んだ。 「あたしだってＤ級。何もやってないはずないわ。人殺しはしてないけどね。」 そして、下からの合図に従い、飛び込んでいってしまった。見事なフォームだ。 カイユンは混乱していた。 ”あの人、何者なんだろう??・・・・・何をしたんだろう??” カイユンの番が来て、彼は真逆様に飛び込んだ。飛び込みプールには海水がひいてあった。潮の香が鼻から全身に行き渡り、言いようのない懐かしさが、体を包み込んだ。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「もう三分以上になるぞ。」 係官が、飛び込みプールを眺めながらもう一人に向かって言った。 「水中カメラには映っていない。もっとも水深二十メートルまでしかわからないが。・・・・・」 「それじゃあ、底の金網に挟まったか？」 「・・・・・馬鹿。そんなに深くまで潜れるか。金網までは四十メートルあるんだ。」 このやりとりをきいていたＤ級の一人、ロマノフが、二人の間に割って入った。灰色のこの男の醸し出す雰囲気も先程の女性と同じく他の犯罪者とは一線を画していた。 「あなたがたには、助けに行こうとする気がないのか？」 静かな口調だが他者を威圧するような重みがあった。 ロマノフは飛びこんでいった。 しばらくしてロマノフは浮かび上がった。職員がカイユンのことを尋ねると、彼は何ともいえぬ顔をしてプールから出た。程なく、カイユンの頭が水面にで出てきた。 「い、生きていた!?」 職員や、多くのＤ級の者も驚愕して集まってきた。 カイユンは自分がこんなに多くの人間から注視されているのにびっくりしキョトンとしながら頭を掻いた。彼は息も切らしていず、顔色も普通だった。 「ごめんなさい！長く潜れば潜るほどいいもんだと勘違いしてました！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ Ｄ級の者の大部分は、市外のコロニー、収容所、或いはグロ星にある強制労働キャンプへと送られていった。 しかし、カイユンはパレ収容所の拘留室で生活していた。することもなくぼんやりと過ごしていると、二日後に係員がやってきて、ついてこいと言われた。カイユンは白いＴシャツに白いＶ字ネックのプルオーバーという研究所から送られてきた自分の服をあたふたと身につけかなり離れた一つの部屋へと連行されていった。 「入れ。」 カイユンを連行してきた職員はそれだけ言うとドアを閉めて行ってしまった。 カイユンは両手で鞄を抱え、孤児院から里親の家に初めてやってきた少年という風情でつっ立っていた。 部屋には合成樹脂でできた肘掛付きの五つの椅子があり、先客が一人いた。 「あの、あの・・・・はじめまして。僕、キム カイユンといいます。」 部屋にいた男は立ち上がった。服についた鎖がしゃらんと音をたてた。かれこそ爆破屋、マリオ リベラであった。 「なんだ？収容所の体育館で引っ繰り返ってた坊やか？なぜこんなところに来たんだ！」 カイユンは頭を掻いた。 「あの、来たというより連れてこられたんです。あの、あの、ご迷惑でしょうか？」 マリオは憮然とした顔をしていたが、どっと疲れたように椅子に座り込んだ。それきり何も言わない。カイユンはしばしののちに声をかけた。 「あの・・・・」 「迷惑だ。」 「は？」 「さっきお前が言ったことのへ答えだ。」 「はあ。」 カイユンはどうしたらよいのかわからず、鞄をもったまま立ち続けた。 マリオは背もたれによりかかって目を閉じていたが、カイユンがいつまでも同じ姿勢を保ち続けているのを見て舌打ちした。 「もしやお前、何の為にここに連れてこられたのか知らされていないのか？」 「はい。」 マリオの指が椅子を指差した。カイユンはそっと腰掛ける。 「座ってな。どうせ何かの間違いだ。コスモ・アーミーもこんなガキを選ぶはずねえや。間違い、そう、間違いだ。」 カイユンは ”このごろ間違いばかり起きて、しかもそれが間違いじゃなくなっているんですけど。” と言いたかったが、マリオが神経質そうに手を握ったり閉じたりしていたので静かに座っていた。 待つこと十分ほど。カイユンには永遠のように長く感じられた。 やがて扉が開いて、三人目と四人目が入ってきた。 マリオはむくっと起き上がったがそのまま扉から離れた反対側の壁へと飛びすさった。 「あんたは・・・・！」 そこには灰色の服を着たロマノフと薄茶の服を着たソーンダイクが居た。 ロマノフはびっくりしたように目を大きくしたが、少し笑った。 「マリオ リベラか。私を覚えていたようだな。」 「忘れるわけがないだろう。一度あんたに捕まりかけたんだぜ。どうしてコスモ・アーミーの諜報員のあんたがここに？そのひょろ長いのを連れてきたのか？」 ロマノフは首をふった。 「わけあって私もＤ級になってね。今日から君の仲間らしい。・・・・おや・・・・あの坊やは」 カイユンは、ロマノフが収容所で自分を気遣ってくれた男だと判っておりちょっと会釈して笑顔を見せた。 「・・・・あの坊やに関しては何かの間違いだろうね？」 カイユンはこけた。なんでまたみんなそろって間違いだというのだろう。いったい何の為にここに集められているのだろう。 その間にソーンダイクは椅子の端にちょこんと腰掛けてハンディータイプのコンピュータを操作していた。 「ひょろ長いの、お前はなんだ？技術者か？」 ソーンダイクは全く反応をせず、規則正しいリズムでキイを打っていた。マリオはまた舌打ちした。うろうろと室内を歩き回る。 「・・・・中央は何を考えていやがるんだ？・・・・・一人は何もしゃべらん青白いのっぽ。もう一人は元コスモ・アーミー所属の敏腕諜報部員。そしてただのガキ・・・・・笑い話にもなりそうにないぜ。ま、このガキは間違いだろうが。」 カイユンは、男の冷たい視線から逃れて、ロマノフのところへともじもじしながら移動した。マリオにも助けられたことはあるわけだが、マリオとロマノフの醸し出す雰囲気はまるで違う。相変わらず鞄は抱えたままだ。 「あ、あの、この間はどうもありがとうございました。僕のことを心配してくださって済みません。・・・・・僕はキム カイユンといいます。ところで・・・・・一体どうなっているんでしょうか？僕はどうなるんでしょう？」 元諜報部員は落ち着いた声で言った。 「私の名は、ロマノフ。私達は仲間だ。これからずっとね。君は間違いだろうが。」 マリオは足を止め、怒鳴った。 「ずっと仲間だと？すぐにのたれ死にの運命じゃないか！畜生。材料さえあれば、こんな五十センチ程度の壁、一発でふっとばせるのによ！」 カイユンの体が怖さで硬直した。 「落ち着きたまえ、マリオ。この坊やが怖がる。」 ロマノフは、カイユンをソファーにかけさせた。 「あのぉ・・・・・みなさんＤ級なんですか？」 カイユンの問いに、ロマノフは頷いて力なく笑った。 「そうだが・・・・そんなに怖がらなくてもいい。殺人や傷害で降格されたのではないからね。・・・・例えば私は殺人をしなかったために降格された・・・・」 ロマノフは遠い目をした。カイユンは怪訝な顔をした。ロマノフは我にかえると話を続けた。 「マリオは、世間を騒がせていた連続爆破事件の犯人だ。大丈夫。彼のファイルは軍人時代に見たことがあるが爆薬さえ持たさなければ危険な奴じゃない。・・・・・もう一人の青年は、おそらくはコ ンピュータ技術者。全く話をしないので、よくわからない。」 マリオは、イライラが頂点に達したのか、壁に頭を打ち付けてわめきだした。 「お前等よく平然としていられるな！状況を考えてみろ。飼い殺しもいいところだ！」 飼い殺し？ カイユンの頭の中には、犯罪者イコール強制労働という等式しかなく、”飼い殺し”がなにを意味するのか想像もつかなかった。 少年はそっと声をだした。 「飼い殺し・・・・って？僕、どういう判決を言い渡されたんでしょう？」 判決も何もあるわけがない。裁判にかけられていないのだ。 カイユンはじっとロマノフを見た。しかし、答えたのはソーンダイクだった。ソーンダイクは目はディスプレイに向けた抑揚のない声で説明した。 「コスモ・アーミーがシークレットチームを編成する場合、Ｄ級の者から選ぶことがあります。Ｄ級の人間にも特殊な技能を持った者が多くあるので。チームのメンバーとして選抜されました。私の知る知識から考える限りそうだと考えられます。」 カイユンの肩に後ろからマリオがバンと手を置いた。少年はびくっとして肩をそびやかした。 「わかったか？・・・・軍人で編成される正規シークレットとは違い使い捨ての犯罪者シークレット。死ぬまでいいように働かされてそれで終わりさ。・・・・しかしまあ何だってお前のような子供が・・・・間違いだろうけどな。」 その時ドアが細く開いて、五人目の仲間が入ってきた。 黒いジャンプスーツ。長い栗色の髪、華奢な手足・・・・茶色の瞳は臆するふうもなく男たちを見据えていた。 「あ、あなた、プールで・・・・」 女性はにっこりカイユンに笑いかけた。 マリオが自棄になったような様子で笑った。 「最後はか細い女か？ま、俺を楽しませてくれることを期待してるぜ！・・・・あんた、裏の仕事でそれほど名を売っていないだろ。あんたほどの美形がいりゃあ、俺の情報網にひっかるはずだ。犯罪者№もつけられていないんだろ？」 女性は笑った。可憐というより、マリオを鼻で嘲ら笑っているようだ。 「あの、犯罪者№って？」 女性はカイユンのそばに歩いてくるとマリオを退かせてカイユンの椅子の後ろに立ち、そっと素直な黒い髪に手を置いた。 「坊や、犯罪者№っていうのはね、軍や公安委員会が犯罪者につける番号よ。私の場合は１５８３ Ｂ１５。」 その場にいた者のうち、ロマノフだけが顔色を変えた。 「犯罪者№１５８３ Ｂ１５・・・・私の仲間が追ったこともある相手だ・・・・君があの・・・・」 カイユンの位置からは見えなかったが女性は頷いた。 「あたしの名はジョセフィーヌ。ふふふ・・・・諜報部員さんはあたしが女だと思ってはいなかったようね。・・・・」 ジョセフィーヌはカイユンの前にまわり、四人の男を見回した。 「五人揃ったことだし、これからのことを話しましょうか。」 「そうだな。ロマノフ、あんたがリーダーだろ？これからどうなるのか説明しろよな。」 ジョセフィーヌは顔の前で人差し指を出して左右に大きく振った。 「あたしがリーダーだって上の奴から言われたわ。通り名は”乗取のジョー”わかった？爆破屋さんのマリオ リベラ。」 |