５昔会った人

　夜明け前にそれは完成した。
　ジョーはスパナで各部のねじをしっかり締めると、傍でとろんとした目をしているカイユンをひっぱたいた。

　「ほら。外に出すわよ。」

　ジョーは倉庫の扉に走りより、針金で錠を開けた。旧式の南京錠がついているのがおかしくて、ジョーは笑いながら、簡単に開いた錠を放り投げた。
　朝日と、爽やかな澄んだ風が二人を迎えた。カイユンがひっぱりだしてくると、ジョーがありあわせの材料で作った風力発電機の羽根が勢いよく回った。

　「そう、そこらへんでいいわ。ごくろうさん・・・そいつはカイユンが作ったことにしておくわよ。あたしは手伝っただけって事にね。」

　「どうしてです？」

　ジョーはカイユンの頭をくしゃくしゃにした。

　「馬鹿ね。女がここまでやったっていったら警戒されるでしょうが。あんただって原理くらいはばっちりわかってるんだしさ。カイ君は、こういうことの名人、あたしはその助手。・・・・この倉庫への出入りが自由にできるようになりたいんだ。」

　その時、朝日の中を、一人の男がゆらゆらと歩いてきて、ガクンと膝をついたかと思うとその場に倒れた。カイユンは、男の傍に屈んで手首を取った。カレンの婚約者の青年だった。脈はあったが乱れており、呼吸も激しい。医学の心得があるもののないアケルナルにあって健康管理をしているカイユンは瞼を引っ繰り返し、胸に耳をつけて心音を聞き、ポケットから小さなケースを出すと中から白い丸薬を出して飲ませた。

　「心配ありません。過労による貧血だと思います。しばらく寝かせてあげれば大丈夫。」

　ジョーは、彼女の上着を優しく青年に掛けてやって、乱れた茶色の髪を、小指で撫でつけた。
　カイユンは、じいっとジョーを見た。ジョーは、その視線に気づいた。

　「その目は、この人とあたしがどういう関係か知りたがっている目だ。」

　カイユンは、図星をさされて真っ赤になった。

　「いいよ。教えてあげる。・・話しておきたいんだ。その方がふっきれるからね。・・この人の目が醒めないうちに・・・・・」

　朝露に濡れた草の上に胡坐をかいて、一語ずつゆっくりとジョーは話しだした。

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊　

　この人の名は、アラン　ノートン。あたしがアランに初めて出会ったのはあたしが13才のとき。アランは18才。その時のあたしはまだ、こんなふうじゃなかったわ。そうね。いわゆる普通の子だった。
　夏に、あたしは海に長期旅行にきていたの。アランは、あたしが泊まっていたところのすぐそばの、伯父さんのお店を手伝いにきていた。あたしはいつも朝早く海岸にきて、大きなパラソルの下、一人ぼっちで海を見ていた・・いつも一人っきりだった。・・・そんな顔しないでよ、カイユン。まわりに人は居たんだけれど、心を許せる人が居なかったって意味。両親は仕事の関係で、兄弟たちはたまたま別のところにいっててさ。

　アランは、あたしからちょっと離れたところに座っていて、ひがな一日海か、雲を眺めてた。そしてちょこちょこってなにやら白いノートに書きためてたわ。あたしは寂しかったから傍に寄って同じように座った。そうしたら、アランは色々なお話をしてくれた。妖精や、お姫さまや、神様の話。今でもたくさん覚えているわ。夢がいっぱいの話で、神経衰弱気味だったあたしの心はいたく揺り動かされちゃったのよね。今を思えば馬鹿な話だ。・・・・アラン自身が、夢のなかの住人だった。・・・思えばその時からもう、アランはＤ級になる危険性をはらんでいたのよね。現実から逃避し、夢想に浸り・・・リマンの社会には不必要な人間だった。

・・・海から帰って、市内に戻ってから、あたしはアラんを学校へいく途中で見付けた。彼は市内の大学に通ってたんだ。あたし、学校の帰りに親に内緒でアランのところにしょっちゅう寄ってた。そして、この、リマンっていう社会が、いかに不公平にできているかってことに気づいちゃったんだ。

　金持ちに優しく、貧乏人に厳しい・・・・そんな言葉で当時はとらえてたかな。
　あたしの父親は、あたしがアランと遊んでいることがわかると、会うなといった。・・・13の子供に、大人の理論が通じるはずない。アランは、澄んだ空気のように爽やかで素敵なお兄さんだった。ランクが下だからって、それだけのことでアランを嫌う父親の言い分がわかる訳ないのよ。　

　ある日、あたしはアランと一緒に人形劇を観に行ったわ。もちろん、家の者には内緒でね。あたしが15になったばっかしのときだった。・・・・・でも、・・・・・帰り道、アランはリニアカーを待っているとき、ホームから転落してしまった。・・・・あたしには、アランが誰かに押されたのがはっきり見えてたんだ。それはあたしの父親の部下の一人だった。
　アランは、打ち所が悪かったらしく、頭から血を流してた。あたしはホームの端に立って、大声で泣きながらアランの名を叫んでた。・・・・・駅員がすぐにやってきてアランを担架に乗せた。でも、その駅員が最初にしたことは何だったと思う？・・・・・駅員は身分証明書をアランのポケットから抜き取ると

　”よかったＣ級で。Ａ級市民だったら責任もんだ。”

　って呟いたんだ。
　あたしは涙が止まっちまった・・・・・」

　カイユンは、言葉を切ったジョーが再び話しだすのを待っていたが、あまりに長い沈黙が続くので思い切って声を掛けた。

　「それで・・・・・それからキャプテンはどうなさったんですか。」

　「家に帰って何日も泣いていた。少しして、アランは死んだと父親に言われてさ。嘘つき、こうしてアランは生きていたじゃないか。・・・一ヵ月ほどしてからかな。家を飛び出した。このままの生活を続けたら、まわりの大人たちと同じように、どんどん腐っていくような恐怖感、嫌悪感にあとおしされてね。・・・・ははっ、気が付いたらこの有様。一回落ちるところまで落ちたら歯止めが効かなくなっちまった。・・・・・強くなりたかった。ランクに縛られている社会を、取り澄ました顔をしているお偉方をぶっとばしてやりたかった。」

　カイユンは俯いた。

　「キャプテンはＢ級かＡ級の人だったんですね。・・・だからお父さんもＣ級のアランさんを嫌がったんだ。・・・・・無理ないですね。Ｃ級って、色々と制限を受けていますから。キャプテンがアランさんと付き合ったら、キャプテンも政府にマークされちゃう。・・・僕、自分がＣ級だったから、よくわかります。」

　ジョーは、カイユンを乱暴に引き寄せた。

　「あんたまで、ランクがどーのこーの言うなんて、ゆるさないわよ！」

　二人は、しばらく黙っていた。
　沈黙を破ったのは、また、カイユンだった。

　「アランさんの目が醒めたら、キャプテンのことがわかってしまってまずくありませんか？」

　ジョーは、目を閉じた。長いまつげが震えているように見えた。

　「もう７年もたっているんだ。あたしはすっかり変わってしまって昔の面影なんか残っていない。わかるわけないよ。大丈夫、大丈夫。」

　カイユンは、手近な草を指先で千切った。

　「キャプテンは・・・・・アランさんを愛していたんですか？」
　ジョーはからから笑った。

　「ははっ！15のガキが、愛だの恋だの真剣に考える訳ないわよ！」

　そして、照れ隠しなのかカイユンを左手で薙ぎ払ったので、カイユンは３メートルほどすっとんだ。と、その振動を感じたのか、アランが小さな声を洩らした。
　ジョーは、優しくアランの頭を抱えた。アランは自力で上半身を起こすと、頭を二・三度叩き、ジョーとカイユンを見て怪訝そうな表情をした。

　「君達は・・・・？」

　ジョーは、にっこり笑った。

　「わたしはジョーン　スミスです。こっちは弟のカイ。三日前にこのコロニーにきた新入りなんです。あなたがここで急に倒れたもので・・・・・」

　「・・・・・それはすみませんでした。・・・・しかし、何故こんなところに？」

　ジョーにつつかれ、カイユンが口を開いた。

　「ぼ、僕、機械いじりが得意なんです。ジャンクがあるって伺ってて、それを使って、何か作れればいいな、って思って・・・」

　アランは首をひねった。

　「倉庫には鍵がかかっていませんでしたか？」

　「あたしたちが来たときには開いていましたが？」

　ジョーの嘘に気づいたふうもなく、アランは頭を下げた。

　「いや、ここの鍵の管理者は僕なんです。他の人に知れたら怒られてしまいます。あ、申し遅れました。僕の名はアラン　ノートンといいます。」

　アランは、二人と握手し、風力発電機を見上げて驚きの声を上げた。大きな風車はカラカラと軽い音をたてながら、順調に回っている。

　「ノートンさん。弟は、中のジャンクで、洗濯機や乾燥機も作れるって言うんですが。」

　ジョーが言うと、アランは目を輝かせてカイユンの手を取った。このコロニーには、機械に詳しいものがあまり居ない。家が、エア・カーの修理屋だったアランがジャンク類の管理を行なっているものの、大型の機械を作り出すことが、自分の能力では無理なことは、アラン本人が一番よく知っていた。

　「みんな大喜びするよ。カイ君。朝食のとき、さっそくみんなの前で報告させてもらうよ。」

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　アランからの働き掛けで、ジョーとカイユンは、一日の大部分を倉庫で過ごすようになった。アランにも、その他の人にも彼女たちの正体は知られていないようだった。アランは、倉庫番という彼の役の性質上、ちょくちょく様子をみにやってきた。彼の予定では本当は、農作業が入っていたのだが、過労で倒れたこともあって休憩時間を人より多く貰えたのだろう。彼がやってくると、二人は手がかりを捜すことを止め、巨大超音波皿洗い機に急いで取りかかった。

　現在までのところ、調査したジャンク類は何の怪しいところもない、家電製品か、鉱石採掘機械の部品ばかりだった。カイユンは、もっぱらジャンクをジョーに渡す役目をしていたが、
　”こんなことをするんだったら、電気屋さんに生まれればよかったなぁ・・・・”と、何度思ったか知れなかった。
　倉庫に入るようになってから五日目、アランがまた倒れた。ジョーたちは、すぐに医務室に連れていこうとしたが、アランは人々に心配を掛けたくないと断り、倉庫の隅の壁にもたれて座った。
　カイユンは、特大のモンキーレンチでボルトを締めながら尋ねた。

　「アランさん。アランさんは体が弱いんですか？」

　アランは笑った。

　「昔ちょっとした事故に遭って、その後遺症で、ときどき頭が痛むことがあるけど、からだ自体はそんなに弱いほうじゃないよ。こんなにバタバタ倒れるなんて初めてだ。・・・・・鉱産コロニーの作業がきつかったからね。ガタが来てしまった。」

　カイユンは、アランが鉱道の中で、採掘作業をしている姿を想像しようとした。どちらかといえば細身のアランが鑿岩機をふるっている姿・・・・・それはどう考えてもしっくりしない構図だった。

　「あのぉ、そんなにたいへんなところに何で行くんですか。」

　カイユンが気遣うように言うと、アランは手近に転がっていたビスを掴んで軽く放り投げた。

　「このコロニーは、電化や機械化がかなり遅れているんだよ。仕事が少しきつくても鉱産コロニーに行けば、欲しいものが手に入るからね。」

　カイユンは、アランたちが持ってきたものを思い出した。ホットプレート、ラジオ、電気スタンド、掃除機・・・・リマン市内では、二束三文で売られているようなものばかりだった。無理をしてまでそれらを手にれたいとしているアランたちが、哀れに思えた。
　その、カイユンが感じていることを見通したようにアランは続けた。

　「市内から来たばかりの君にとっては、ゴミみたいなものでも、ここでは宝物なんだよ。」

　カイユンは、悪いことをしたような気がして、下をむいた。アランは、そんなカイユンを見て、コロニー内での楽しい行事や、鉱産コロニーで見た面白い事柄を話して、カイユンの気を引立てようとした。鉱産コロニーは、こことは違い、機械化が進んでいるらしく何キロメートルもの深さのところで採掘が行なわれているという。　と、黙って聞いていたジョーが口を開いた。

　「このコロニーの中で、奇妙なものが見つかったって伺いましたけど、鉱産コロニーから来たのかしら？」

　アランは、難しい顔をした。

　「近所の伯母さんたちが話していたんですか？面倒を起こしそうなことは掘り返さないほうがいいのになあ。平穏な生活が一番だ。政府の調査官が来たときも、みんなで団結して、知らぬ存ぜぬでとおしたんだし。」

　ジョーは、そうね、と呟いた。

　「それにしても、出稼ぎの作業って大変そうですね。・・・・急に忙しくなったのはどのくらい前ですか。」

　おやっというように、アランは眉を上げた。

　「あれ？僕はいつか、この頃忙しくなったって話しましたっけ？」

　ジョーはにこやかにうなずいた。

　「・・・三ヵ月ほど前ですよ。人数も増やされて。半年先まで、行く日が決まっているんです。ま、さっきいった理由から歓迎はしているんですがね。」

　アランが去ると、ジョーはカイユンに言った。

　「鉱産コロニーはよっぱど人手不足なのね。・・・・人間が二・三十人消えたんじゃないの。」

　カイユンは目をぱちくりさせていたが、ジョーは悪戯っぽく微笑んで、”今にはっきりするわ。”というと、再び手がかりを捜すため、ジャンクの山に取り組んだ。

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　大型皿洗い機が完成し、洗濯装置が完成し、乾燥機が完成した。
　五つの山に分けて調査していたジャンクも最後の一山になっていた。一方、30人の男たちが再び出稼ぎに行き、その中にはアランも含まれていた。
　深夜、カイユンはジャンクを選り分けながら船を漕ぎ始めてしまった。ジョーはそれを見て、持ってきていた毛布をカイユンの頭からかぶせた。

　「寝られるときに寝ときな。あんたは、まだこういう生活に慣れてないんだから。あたしも二時間ほど寝る。」

　言うなりジョーはごろんとカイユンの横に寝転がった。ジョーの持久力は相当なものだった。この三日、延べの睡眠時間は四時間もないだろう。しかし、疲れた顔を見せない。体を激しく動かしていない分、睡眠する必要がないのだという。

　・・自分もいつか、あんな風になれるのだろうか・・

　「ねえ、キャプテン・・・・何かあったら起こして下さいね。」

　「ん？ああ。何かあったらね。そのときは蹴っとばしてでも起こすわ。」

　カイユンはにこっと笑った。

　「・・・・なんだか学校の合宿みたい・・・・他の人の顔がこんなに近くにあるなんて故郷の星の寝床以来だな。」

　「・・・・カイユンのとこって雑魚寝だったの？」

　「ええっ。子供部屋は。ごろごろって。僕は寝相が悪い方だったから起きたときは妹の玉穂の足に頭のっけてたりして・・・・あ、今はそうでもないけど蹴飛ばしたら御免なさい。」

　「・・・・そういや、カイユン・・・・十八だったんだよね。」

　「はあ、それが・・・・？」

　「・・・・いや、なんでもない。あたしは他人の頭が近くにあって寝るのって日常茶飯事だけど、こういうのってないから。」

　「？」

　「わからないならいいよ。わかろうとしなくたっていい。ほら。目を閉じて。明日は明日で忙しいわよ。」

　カイユンは、言われるままに目を閉じた。

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　彼は、ジョーの興奮した声で目を覚ました。何やら小さな物を、カイユンの目の前でちらちらさせている。

　「なんです・・・・・それ・・・・・？」

　「酸化ゲドニウム鉱結晶。」

　「・・・・??・・・ゲドニウム鉱・・・・・」

　「ゲドニウム鉱は、高性能のワープ機関、レーザー発生装置の部品として欠かせない素材よ。」

　「じ、じゃ・・・・・」

　ジョーは、足を投げ出した。

　「リマンには、酸化ゲドニウム鉱を産出する場所はないはずだった。ここからもっとも近いところでもガードニック三番星。・・・・・でも、こうしてここで出てきた以上、鉱産コロニーにも埋まってるって事よ。」

　「キャプテン！さっそく行きましょう！」

　カイユンは、半分眠ったままの脳細胞で入り口に歩いていこうとした。

　「あほっ！」

　ジョーの大声で、やっとすべての脳細胞が目を覚ました。

　「まだ、知っておかなくてはならないことがたくさんあるわ。のこのこ行ってそのまま通してくれるはずない。どうやったら潜りこめるか。潜りこめたとして鉱産コロニーの内部の構造はどうなっているか。今はまだ五里霧中よ。・・・・急いじゃ駄目。」

　「でも、相手は高出力レーザーを作っているかもしれないんですよ。ゆっくりで大丈夫ですか？」

　「アランは、三ヵ月先まで予定が入っているといったわ。・・・・・コスモ・アーミーで動いているのはあたしたちだけじゃあない。もし、市場に流れているようなら、誰かが情報をつかんでくるはず。それがめっからないって事は、やっこさん達、十分な量の酸化ゲドニウムを採掘するまでは量産しないつもりってことと思わない？少なくとも、三ヵ月先まではさ。カイユン。座ってな。今はまだ、休息を取るときよ。他の三人と連絡を取ったら、あたしも一眠りするわ。」

　ジョーは、胸元から小型通信機を取り出すとスイッチを入れた。
　まずはソーンダイク。彼は、例の金属プレートにこだわっており、独自に分析を続けていた。その結果、どんな構造を持っていたか、八割がたわかったという。コスモ・アーミーの、コンピュータ技師よりも、ソーンダイクの腕の方がよかったということになる。レーザーガンについては、設計図の管理系統を、保安コンピュータの記録で追っていたが、盗難のとき、なぜか、保安コンピュータの機能がマヒしていたということが判明し、内部の者の犯行という線が有力になっているとのことだった。ジョーがゲドニウム鉱について話すと、そちらの流通経路についても調査する、と例の抑揚の全くない声で言ってきた。
　ロマノフは、レーザーガン関係の技術者を追い、リマンの三つある月のうちの一つにとんでいた。ソーンダイク経由で捕まえるまでに時間がかかったが、つながったあとは、ラグタイムさえ気にしなければ、スムーズに会話が進んだ。彼の話では、有力な証拠を持っていると思われた当時の設計図管理者の部下が、謎の失踪を遂げたということだ。

　”失踪した研究者は私もよく知っている男だった。・・・・いや・・・・・私以上に、あいつが・・・・・”
　そんなことをロマノフは思っていた。

　「ロマノフ？ラグタイムが異様に長いようだけど、何かあった？」

　ジョーに言われて、ロマノフは我に返った。

　「何でもないよ。ジョー。・・・・・酸化ゲドニウム鉱を処理するには、かなりの設備と知識が要る。その方面からも調べてみることにするよ。こちらからも、何かあり次第知らせる。」

　残る一人との連絡には問題があった。
　つながったことはつながったのだが返答がなかったのだ。
　ジョーは、時間を置いて、再び連絡した。

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　マリオは、通信機からのジョーの声を聴いていた。
　彼は、間を置き、大声で怒鳴った。

　「俺は抜けるぜ。」

　通信は切れた。
　ジョーは何度も何度も呼んだが、もう、何の音もしなかった。

5 昔会った人