| 寂しい誰かに…(現代(?)編） |
注：今回はギャグ編ですので、語り口が前回とまったく異なります。ご了承下さい。 再び袋から飛び出したイナバさん。そこは……アレ？なんだか白一色ですね。のみならず凄まじいブリザードですね。え？こんなところに誰かが住んでいるのかですって？いや、実は居るんですよ。『彼』が。え？誰かわからないですって？実はですね、ああッ！イナバさん、袋が、袋が飛ばされていっちゃいましたよ!! 袋を追って走り出すイナバさん！しかしッ！ブリザードにあおられた袋は物凄い勢いで飛んでいくッ！イナバさん、走る、走る!!しかしッ！追いつかないッ！あッ！イナバさん、倒れた！そのまま動かないッッ!!どうした、イナバさん！ 説明しよう！ ……イナバさんはまぎれもなく神様である。しかしあくまでもニッポン仕様の神様である。ここ、厳寒の地にあってはその能力を発揮しきれないのであった。 ぱたり、と雪原に倒れ伏したイナバさんは気が遠くなっていくのを感じた。ああ、袋さえあったら、あの、ずっと昔から大切に持っている袋さえあったなら……イナバさんが気を失う前に感じたのは、何か大きな黒いものが近づいてくる気配であった。 暫くしてイナバさんが目を覚ますと、ブリザードは収まっていた。そして傍らには大切な白い袋がッ！いったいどうして風に飛ばされてしまったはずの袋が…イナバさんは自分の体をパタパタと叩いて雪をおとした。……ないッ！大切に隠し持ってきていたあの光る珠が一つなくなっている！ ペタンと雪の上に腰を落とすと、そこには銀色の包装にくるまれた四角いものが置いてあった。……表面にはマジック書きが…… “サマー感謝月間。期間限定先着10名様に粗品進呈” イナバさんは首を捻り…ひとまずその銀色の四角いものを有難くいただき、一度空に向かってかかげると、丁寧に袋にしまい…そして次の場所に向かって出発した。……ここでは誰にも会えなかったけれど… 丁度その頃、氷の住居の中で、その屋のあるじはお気に入りのグラスにブランデーを入れ、片手にのせてゆっくりと揺らしていた。もう一方の手には、あの光る珠が……その輝きに目を細めると、彼はグラスをサイドテーブルに置いてペンを取った。 親愛なるルドルフよ、聞いてくれ。今日はとても珍しい者に会い、美しいものを手にいれたのだ。 大王ペンギンは今日もミッションの遂行に余念がない。『救い、そして奪う。』それが彼らのさだめ……嗚呼、彼が最後に目指すものは何なのか。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ イナバさんは、次の場所に飛び出た瞬間、何かきっと間違いがおこったのではないかと感じた。……あのブリザードのため、愛用の白い袋の調子がおかしくなったのかもしれない。 イナバさんの右手10ｍくらいのところに赤いタンクトップを着た青年。左手10ｍくらいのところに何がなんだかよくわからない格好の人物。ああ、確かにあれは人外ではあるけれど……何か違う。少なくともイナバさんが捜している“誰か”じゃない。と、赤い青年がやたら馬鹿でかい声をはりあげた。 「貴様！何者だッ！」 怪しい人物も声を張り上げ返す。 「ふッ……我は末席と言えど、ダーマ一族の一員。」 「むッ！お前のマントに記された印、それには見覚えがある！もしやお前はッ！」 あー、あまりの声のでかさにイナバさん、耳栓してますね……この人たち、20メートル離れて肉声で会話するところがもう尋常じゃないですわ。 「ああ、まさにお前の推察の通りだ。俺は、貴様らに弟達を捕縛されたファイアーワーク（←なんだ、ソレ）３兄弟の長兄。……にっくきスペースR、その中でもレッド、リーダーであるお前だけはこの手で地獄に送ってやろう。……末の弟のイッシャク、中の弟のニシャク……弟達の恨み、はらさでおくものか！」 「ぬぬうッ！ならばお前が、長兄のサンシャクなのか!?」 「いいや、我が名はサンシャクではなくサンジャク・・・」 「そうか、サンジャク=ダーマか!!」 （↑ホラ、夏だからさ。玉屋、とか鍵屋、とか……ごめんなさぁい！） イナバさんはこけた！顎も落とした！……と、この局面になって初めてレッドこと呉内 焔はイナバさんに気付いたようだ。 「あれ？ウサギ？」 「うぬぅ、レッド、貴様、真夏日続きでただでさえ緩んでいた頭のネジが外れたのか！」 「いや、ほれ、お前とオレのまんまんなかに、真っ白いウサギが立ってんだよ！……もしかして、お前には見えねぇの？え？何で？何で？」 「……ぬぬぬぬぬッ！（これはレッドの策略なのか？それとも……）」 とかなんとか言ってる間に、他のメンバーが走ってきましたよ。 イナバさんは目を白黒。いや、白も黒もこの場にはいない。クールビズはどこにいったのだか、きっちり青いスーツでばしっときめている青年。ピンクのリボンのポニーテールの女性、ガタイのひたすらよい黄色いTシャツの青年に、薄緑のポロシャツのイケメン青年。 「焔！（チタンフレームにちょっと手）ペットを連れて出撃とはどういう神経をしているんだ、お前は！」 「蒼井！こりゃあペットじゃないって！勝手に現れたんだ、勝手に！」 「わぁｖ可愛い、ね、マゼンタ。」 「ええ、園子、あのウサギには何か神聖な気配を感じましてよッ！」 「もしや、迷子でしょうか。だったら自分達が道案内をしてあげなくては。」 あれ、リヒト、何瞳孔開いて立ち尽くしてるんですか？ 「馬鹿な……こ、こんなことは初めてだ……こんなことがあっていいはずがない！」 「え？リヒト、どうしたんだ、気をしっかり持てよ！」 「何故かこのうさちゃんが女の子なのか野郎なのかわからない。今まではどんな生き物だって、女の子かどうかは瞬間的に判ったのに!!」 あー。リヒト、君にはそういう特異能力があったのか。……ええっと皆さーん、怪人がとってもヒマそうにしてるんですが……っていうかイナバさんも目をまんまるにして呆然としてるんですが… ひとまずあのお日様色の珠をあげてみよう。とにかくこの人たちは悪い人たちじゃない。ということで、イナバさん、マゼンタのところにひょこひょこと歩いていって珠、渡しましたね。 「あらッ！この珠からはエナジーを感じましてよ。」 「あら、それじゃ何かお返ししなくちゃねｖはい、エナジー返し〜ｖｖうまく使えばチューンナップの助けになること請け合いよ！」 園子からメカメカしい小箱を渡されたイナバさんは、果たしてこれを貰ってもよいものかどうか激しく謎を感じたけれど、おそるおそる受け取った。 「お前らッ！これ以上私を無視するなッ！サンジャク＝ダーマ、渾身の必殺技“しだれ柳崩し”受けてみよ!!」 さよなら〜と急いで手をふり、イナバさんは袋に飛び込んだ。……この世の中にはいろいろな人が住んでいるという認識を新たにしつつ…… ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 次に出たのは、ごく平凡な住宅街だった。背のすらりと高い人がやってくる……って、あれか。あれか？アレだな。 「ウサギ…？だな。」 メガネ越しに三白眼で睨まれ、こくこくと急いで頷くイナバさん。… な、なんだろう、この威圧感は……でも、この人は紛れもない人間……ちょっと目的の場所から離れたところに出てしまったようですね。イナバさんはぴょこりとお辞儀をすると、人ならざる者の気配がする方角へと走っていきました。うん、うん。触らぬ神に祟りなし…… 「なるほど。脱兎の如く走る、とはああいうことか。」 ……どんなときにも冷静な女、正岡 史生。さすがだ。……っていうか、ちょっと怖い。 「なんだ、正岡。どうした道の真ん中で立ち止まったりして。」 やあ、チュースケ君ですか。動物病院の休診日ですね、お疲れ様。 「いや……つい先程、二足歩行する白兎が出没したのでな。」 あ、チュースケ絶句してる。 「ウサギが出たのか？」 「ああ。」 「二足歩行のウサギがか？」 「ああ。」 「あのな、正岡…！」 「私が見間違ったとでもいうのか、チュースケ。」 うわ。睨んでるよ。思いっきり睨んでるよ。姐さんが睨んでるよ!! 「……い、いや、正岡が見たのなら間違いはないだろう。」 「うむ。」 管理人……史生姐さんは人外の域に達しているような気がしてきました…… ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 走って走って到達したのは、築26年、１Kユニットバス付きの部屋がならぶ『アパート水島荘』。ここから“人ならざる者”の気配がしてきていた……そして、門に一歩足を踏み入れるとそこには果たして人外に分類される者が居た。小山のように巨大な、引き締まった黒い体。“猛犬注意”のシールが貼られていなくとも、その姿を見ただけで注意せざるを得ない威容。廃材を集めて作ったらしい犬小屋にはでかでかと“ケルビー”と書いてあった。 （なんだ、ウサギか） ケルビーは心の声でイナバさんに語りかけた。いや、仮に魔犬ケルベロスですから、こんなことは簡単ですわな。頷くイナバさん。……確かに自分はウサギである。 （ふむ。オレを怖がらないとはな。小動物よ、褒めてやろう。） 光の珠を差し出すとケルビーはふふん、と笑った。 （くっくっ、その小さな珠からは大きな魔力を感じるぞ。お前、オレの目的を知っていてそれをくれようとしているのか？） イナバさんが小首を傾げると、ケルビーは首をぐっともたげ、遠くを見るようなしぐさをした。 （俺の目的はこの世界の破壊だ。……紅蓮の炎で、全てを焼き尽くしてやる。……今、魔力を失ったオレにできることは殆どない。しかし、魔力さえ手にいれられれば。……いいか。オレはこうして人間どもに従順なフリをし、機会を待っているのだ。今に見ているがいい。……） あれ？イナバさん、にこにこしながら珠を差し出してますね？ありゃ、ケルビーの方がびびってますが。 （わかっているのか？完全破壊だぞ。オレは本気だぞ、焼き尽くしちゃうんだぞ？熱いんだぞ！） 尚もにこにこと笑ってるイナバさん。わぁ、ケルビーがじりじりあとずさりしてるよ。受け取ろうとしないから、首輪のところにきゅっと押し込んで……わぁ、なんだかぺったり張り付きましたね。てか、誰か来ましたよ。慎一君ですね。あ、イナバさん隠れた。 「ケルビー！散歩に行くぞ〜！」 あー、ケルビー、「わんｖ」とか吼えちゃってまぁ……地獄の番犬ケルベロスなんじゃなかったの？世界を破壊するんじゃないの？ （こ、これはさっき話した“従順なフリ”だ。いいかウサギ！オレはいつかこの世界を焼き尽くすんだからな！忘れるなよ！） イナバさんは、わかったわかった、というように、慎一にじゃれつきながらとびはね愛想を振りまいているケルビーを見送った。……あの魔犬にもイナバさんは必要なかったようですな。イナバさんはまた走り出し… ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ で、着いたのが 「水島大学旧学生会館跡地ｖ」 （だから、ｖをつけてどうしようっていうんだってば） ゴクリ、と思わず唾をのみこんでますね。いや、なんとなくわかります。ここの気配は他にはないものですから。重たい鉄扉をあけ、地下に続く階段を一段一段ゆっくり下りていくと パンパンパン！ クラッカーがたかれて、イナバさん仰天。あ、パーティーモードですね。 「おお、歓迎するぞ！ナナちゃん、どうだ！わしがこのたび開発した“人外探索マシン”の力は!!」 「すごいです〜！ウサギさんがやってくるってドンピシャあたりました〜」 そのマシンは、掃除機によく似ていた……教授は掃除機の本体もどきを背負い、ノズルのような部分(……実際、それはもともとはノズルだったのかもしれない）を嬉しそうにぶんぶん振り回している。 「うむ。有効範囲はゆうに１キロを超える。人外の存在を感知すると、インジケーターの針がこう、ほれ、びょーんと振れる。指向性が強すぎるのが難点ぢゃがｖほーれほれ。」 あ、イナバさんの方にまっすぐノズルを向けると確かに針が大きく触れますね。 「ナナ、久しぶりに、ちゃんと動く発明品をみたですー。」 「何をいうかｖ今までのものは単に試作品だっただけぢゃｖほーれほれ。」 ナナちゃんの方を向けても針が大きく触れますね。 「ん？ちょっとノズルがつまり気味かの？」 ってノズルを覗き込んで…… ！！！！！！ 振れてるよ！ 針が大きく振れてるよ!! あんた、やっぱり人外かいッ!? あ、また誰か階段を下りてきたー？ 「ヤッホーｖ“スペースRセンター”で夏季限定提供のスペースRクリスタル★ゼリーを買ってきたわよー！」 あ……また針が大きく振れている……(＠_＠;) イナバさん、手にもった珠をじっと室内の人々と代わる代わる見て思案してますね。 ひとまず見かけからすると、あの小さな妖精が一番人外らしいのだけれど… 妖精＞人間の女の子＞大学教授 しかし、針の振れ幅の大きさは 教授（自称地球防衛隊長官）＞女の子（伝説のレイヤー）＞妖精 いいのかなぁ、と思いながら教授に珠を差し出すイナバさん。 「おお！ウサギ君、これはなかなかの逸品と見た！うむ、これで世界平和を守るための新兵器をきっと開発するぞ!!」 ……何か方向性が違う気がしたけれど、平和は大事なことなので、この際目を瞑ろうとイナバさんは思った。 そして、白い大きな袋の口を開けて念じた。 どうぞ、どうか、お願いですからッ！待っている誰かのところに連れて行ってください!!!（切実） ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 袋から飛び出して…… イナバさんは、突然、誰かにぶつかってバランスを崩して倒れた。と、ぶつかった相手がイナバさんを助け起こしてくれた。。深々と一礼すると、相手も済まなさそうに深く腰を折った。地蔵色のよれた着物を纏ったワードックである。（クスノキさん、キャラクターを拝借しました）ここはパラレルワールドらしい。 「大丈夫でござるか？」 イナバさんは傍に落ちていた木の枝で地面に字を書いた。 いいえ いきなり（袋から）飛び出してしまってごめんなさい 「いや、拙者の方こそ前方不注意でござった。」 ふと地面を見るとおはぎが５個ごろんと転がっていた。…漉し餡おはぎのはずが、砂に塗れてきな粉おはぎに見える。 おはぎを見つめるイナバさんの横でミッキーは深く息をついた。 TFD恒例の「夏だ一番！大貧民大会徹トラ（徹夜でトランプ）デスマッチ」で当然というか必然というかで見事に大貧民となってしまったミッキーは、お茶請けを買いに走らされていたのであった。現在、隊長のゴン太を初めとしたメンバーは「納涼バーベキュー」の準備中のはずだ。 「トホホ……また菓子屋まで行って戻ってくる頃までには、バーベキューを勝手に始められ、勝手に食べつくされれてしまっているでござろうか。」 いや、ゴン太はそんな不人情なタイチョーではない！君が遅れて戻っても、キャベツや、ピーマンや……とにかく、肉でない何かは残っているよ、うん。 ちょんちょん、と慰めるようにイナバさんがミッキーの耳のあたりの毛を撫でると、ミッキーは苦笑いした。 「そうでござるな。過ぎてしまったことを悔やんでもどうなるものでもないでござるよ。こういうときこそ落ち着くことが大事でござる。」 そういうと、ミッキーは道の脇に正座し、どこからともなくお茶の入った湯飲みを取り出した。じいっと見つめるイナバさんにミッキーは、すいっともう一つ湯飲みを出して勧めた。こくん、と一口飲み、イナバさんは微笑んだ。そして、手をさささささ、と動かすと虚空から俵饅頭を取り出してミッキーに渡した。 「！貴殿、……拙者と同じ秘技を……!?ワーラビット殿、もしや貴殿はさぞかし名のある……」 イナバさんはそれには答えず、次から次へと合わせて５個の俵饅頭を取り出してみせた。 「も、もしや拙者の為にこの菓子を？」 こくんと頷くイナバさんにミッキーは深く腰を折った。 「恩にきるでござる！これで拙者、まともなバーベキューが食べられそうでござ……」 その時どかーん、という爆音が響きわたり、TFDのアジトの方角から黒煙が上空へと吹き上がった。 風にのって切れ切れに聞こえてくる仲間達の叫び。 「ワヒ〜！」（←ロッキー） 「たっまや〜ｖだワン!!」（←たいちょー） 「何喜んでやがる、早く消せ！火を消せ！」（←フランク） 「……………」（←ウォレット あ、いや、無言じゃ聞こえるわけないか） 「そういえば……隊長殿はこの間買ったバーベキュー用の固形燃料を爆薬の隣に置いていたような……」 駆け出そうとするミッキーに、イナバさんは光る珠を握らせ、また地面に字をかきました。 火に投げ込んで下さい きっと消えます 「何からなにまですまぬ！この恩はいつかどこできっと！その湯飲みは些少ながらお礼代わりに持っていって欲しいでざる！では失礼つかまつる！」 アジトへと走っていくミッキー。イナバさんはふうっと丸く小さくタメイキをついた。……今回、自分は役にたったけれど、……とっても役にたったみたいだけれど… これって何か違うッ！ ああもう、どうにかして下さいッ！と思いながらイナバさんは袋へ…… ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ そして飛び出たところは赤い絨毯が敷かれた広い廊下。廊下にはところどころ絵がかけられいたり、彫刻が置かれていたり……そして、ふと窓を覗くと 銀河が見えてしまったりしました！ 壁に張り付きながらイナバさんは、動悸、息切れ、めまいを感じ、もう少しで目を閉じて『ふるさとが一番いいふるさとが一番いいふるさとが…』と連呼したくなった。……うんうん気持ちはわかるわかる。 しかし、人外の気配がこれほど濃厚な場所もいままで無かったのであった。イナバさんは気配を辿りつつ、一つの扉の前に立つと扉はシュン！と音をたて、横にスライドして開いた。 次の瞬間、イナバさんは20羽の「ペンギン、のようなもの」に囲まれていた。彼らはイナバさんを中心にし、何かを楽しそうに叫びながらぐるぐる回っているのだが、何を叫んでいるのかはさっぱりわからなかった。そしてひとしきり騒ぐと （何かチョーダイ！） というように片手を差し出してきた。イナバさんは後ずさりしたいところであったが、いかんせん、今は円の中心に位置している。後ずさりする場所がない。 （チョーダイチョーダイチョーダイチョーダイ！） ああ、名詞か看板の持ち合わせがあったなら問題はなかったのだが……そして、イナバさんはどうしても彼らにあの珠をあげるという発想が起こらなかった。……いや、いいですよ、イナバさん。第一数が足りないでしょ？ ペンギンたちは輪をせばめてくる。逃げ場はない……ああ、どうしたら…… 「一体これは…!?」 罪無き者に助けは必ず来る。ハレルヤ！ この艦の「歩くコモン・センス」こと副官は部屋を覗き込んで顎を落とした。……一瞬、ほんの一瞬であったが、仔ペンギンたちが嬉しそうに「生贄の踊り」を踊っているように見えたのだ。反射的にイナバさんを抱え上げ怒鳴る。 「座りなさい！」 仔ペンギンは大人しくペタンと座り込んだ。そして副官は熱弁をふるって説諭し、仔ペンギンたちも感じ入り、むせび泣き、項垂れ、己を恥じ、しまいには秘蔵の“新聞紙の剣レベル99”をイナバさんにお詫びの印に差し出したのであった。 仔ペンギンたちが去っていくと、副官は大きな体を縮め背を伸ばし、一礼した。 「艦の者が失礼をしました。ご容赦下さい。」 そう言ったあとで、あああ、いつからアレらは「艦の者」になってしまったのだか、とブルーは頭を振った。 「艦の者の非礼は上官である…いえ、彼らは正確には部下ではありませんが……コホン、とにかく私の責任です。」 イナバさんはブルーを見つめ、その大きな目に涙を浮かべました。イナバさんには見えた。この人の背負っている重いもの、重たすぎるもの、重いなんていうもんじゃないもの、耐え、忍び、それでも雄々しくそれに立ち向かい……顎が十回落ちようと千回落ちようと、揺るがないその真摯な姿勢！この人こそ 超人！ 人でありはするけれど、人外とも言える存在！まさに、まさにこの人にこそ！幸せを上げたい！ イナバさんは副官に珠を差し出し、ブルーが屈んで受け取ると、その頭をいい子、いい子、というようにそっと撫でた。……そして袋をあけると飛び込んで消えた…… 残された副官は胸ポケットから出したケースを開け、青いつややかな髪束の横に珠をしまった。 「不思議なウサギだったな。」 そう呟いてから、ブルーははっと我に返った。 宇宙空間を飛ぶこのギャラクティックジョーズ内にウサギ？しかも二足歩行？疲れている、疲れているのだ。そうだ、司令官不在の今、３日徹夜で書類整理をやったのがいけなかったのだろう。ぬるい湯にゆるゆると漬かり今日こそ８時間熟睡するのだ。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ そして、爽やかな目覚めの後、ケース内にお日様色に輝く珠を見つけ、副官はまた大混乱に陥るのであった。 |
| 人外大行進その２．ギャグですみません。そして、大好きなTFDキャラを使用させていただきました。（トランプネタ、はまってます） 話の方はあと１回で終わります。（SF＆ファンタジー編です） |