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| ７ 王女の帰還 |
夕闇の中、後から到着したセリス軍の人々は忙しく働いていた。パティやリーンはさっそく食事の準備を始め、ラナたち治癒の力を持つものは休む間もなく敵や味方の怪我人を手当てした。ヨハン隊は・・・・隊長を始めとして穴を掘っていた。死者を弔うための墓穴である。トラキアの兵は最後まで徹底交戦した。多くの血が流れ、多くの命が散った。野ざらしにしてしまえ、という声もあがっていたが、セリスは死者を弔うことを強く命じた。反対していたものも、軍師の“死体を放置すれば疫病が流行る”との言葉にしぶしぶながら納得した。 「ヨハンさん。手伝うよ。」 スカサハが声をかけた。 「手伝ってくれるのか？・・・・しかし君は剣士隊の一員。穴掘りは私の隊の仕事だが・・・・」 スカサハは早くもつるはしを手にとり、ヨハンが掘りかけていた穴を広げていった。 「俺は力があって丈夫なのが取り柄だから・・・・ドズルの血筋ってことかな・・・・それにラクチェに言われた。まだ体力が残っていそうだから斧騎士隊の手伝いでもしてこいって。」 しばらく穴を掘る音だけがしていたが、スカサハは手をとめ、足元に置いておいた布包みをヨハンに差し出した。 「何だね？」 開くと美しい戦斧が現われた。 「これは？」 「レックス父上の形見・・・・なんですが、俺には使えなくて・・・・あなただったら役立ててくれると思って・・・・ラクチェも同意見だった。あなたにとって俺の父上は伯父。どうか使って下さい。」 ヨハンは一礼して斧の持ち手を握った。大きな手にしっくりと馴染む。重さも申し分ない。 「それと・・・・なんというか、俺からいうのも変だけど・・・・ラクチェとのこと、脈なしだと思う。」 ヨハンは咳き込んだ。普段いくらラクチェに肘鉄をくらわせられても”私の星だ、太陽だ。瞳の光の輝きは私の心臓を震わせる。”などとどうしようもない台詞を吐いている男がここでは明らかに狼狽している。 「・・・・あいついまでもぶちぶちあなたの悪口いってるから。ことあるごとに、今日はこんな阿呆なことをいわれたとかなんとか・・・・俺はあなたが悪い人じゃないと思うんですが。ラクチェったら”ヨハンは初めに思っていたほど悪い奴ではないようだが、いい奴ではないな”って。」 ヨハンは笑いだした。そしてスカサハに囁いた。 「我が愛しの姫に伝えてくれ。毎日私のことをあれこれ考えてくれて光栄だと。」 彼は逆上して怒鳴るラクチェを想像して微笑んだ。こういうことで怒っていれば、暗い考えに捉われてしまうこともなかろう。 回廊ではセティが笛を手にしていた。フィーがもっているのよりは低くまろやかな音のする横笛だ。彼は巧みな奏者で、静かな子守歌のような曲をゆっくりと吹いていた。 「お兄ちゃん・・・・やっと会えた・・・・！」 最後の偵察任務から帰ってきたフィーがセティの胸に飛び付いてきた。 「お母さんが、お母さんが亡くなったの。お兄ちゃんがシレジアを出てからすぐに。私、カリンと二人でお弔いをして、しばらくしてからお兄ちゃんを探して・・・・お父さんとお兄ちゃんを探して・・・・」 賢者は妹の背をさすりながら静かに言った。 「セリス様に大体のことは伺ったよ。・・・・御免よ一人きりにして・・・・辛かったろう。寂しかったろう・・・・」 天馬騎士の少女は流れる涙を拭おうともせず話し続けた。 「ううん。お兄ちゃんは悪くないわ。悪いのはお父さんよ。・・・・病気のお母さんを残して旅に出て・・・・お兄ちゃん、私ね、セリス様の軍に入ったら、きっとお兄ちゃんに会えるって思っていたの。お兄ちゃんはいつだって人の助けとなるように行動する人だもの。きっと解放軍に加わるからって・・・・私、お兄ちゃんに会えるまでに立派な天馬騎士になろうってがんばってきたの。だから、お兄ちゃんを空から見付けたとき、竜の中に突っ込んで・・・・あのときにね、お母さんが心の中で教えてくれたの。初めて私がマーニャに乗ったときみたいに。手綱を引いて、次は右よ。降下して・・・・って。だからね、ちっとも怖くなかった。お兄ちゃんの前で死ぬわけないもの。お兄ちゃんはいつも私を守ってくれるもの・・・・お父さんとは違っていつも・・・・」 常に気丈でいた反動か、フィーは兄の胸に顔を埋めて泣き続けた。セティは妹の髪を撫で、思い切り強く胸に抱き締めた。 「お兄ちゃん、カリンは？お母さんが死んですぐにカリンはお兄ちゃんを探してくるからって出ていって帰らないの。」 自分より少し年上で親友の天馬騎士の消息を尋ねる間にも涙はふくふくとわいてきた。 「ああ、会ったよ。でも兄さんはカリンを戦に巻き込みたくなかった。だから別れて・・・・でも、噂ではどこかで戦っているようだ。大丈夫。カリンは強い子だからね。お前と同じに。平和になったらシレジアに帰ろう。みんな一緒にね。」 人の気配にセティは顔をあげた。 「何か私に用でしょうか？」 フィーも顔をあげて涙を拭うと兄の視線を追った。そこには真っ青な顔をしたアーサーが立っていた。 「あ、あの、フィー。無事だったんだ。それだけ。ずっと離れてたから気になって・・・・無事ならいいんだ。」 セティは、アーサーが手にしている風の魔道書を目ざとく見付け、妹を優しい目で見た。 「初めまして。私はセティ。フィーの兄です。妹がお世話になっています。」 「お兄・・・・さん？」 安堵から魔道書がぼとっと下に落ちた。それをあわてて拾う。 フィーがいつものような元気な口調でぽんぽんとまくしたてた。 「自己紹介くらいしなさいよ。お兄ちゃん、これはアーサー。お世話したのはあたしの方よ。こいつったらシレジアの山の中で徒歩でアルスターに向かってるのをあたしがマーニャに乗せて助けてやったってわけ。なんだかどっかの王族の血をひいてるらしいんだけど、魔法以外はてんで頼りなくって。呑気だしお寝坊だし。いまでも馬に乗れないから、マーニャに乗っけてやって偵察してたりするの。」 セティは早口で説明する妹の頭に手を置くと小さな子供にそうするように撫でた。 「口の悪い妹ですけれど、よろしくお願いしますね。アーサーさん。今度魔法の話でもしましょう。」 「え？あ、はい。」 アーサーが行ってしまったあとで、セティは妹の額をこつんと叩いた。 「悪い癖、まだ治っていない。母さんにも叱られたろう。親しい人の悪口をいうの・・・・行って彼に謝っておいで。」 「本当のことだもの！それにそんなに親しくなんかは！」 「・・・・兄さんはわかっているつもりだよ。お前は心から信頼できる人にしか、あの風の魔道書を託しはしないって。どちらにしても、謝っておいで。・・・・・兄さんはちょっとここで人を待っているんだ。物見台で待っていておくれ。しばらくしたら行くから。・・・・母さんのこと、ゆっくり話そう。」 フィーは頷き、口ではきついことをいっていても気になっていたのかアーサーの後を追いかけた。セティは再び笛を吹き始めた。 足音が近付いてきた。セティは笛をやめた。 「シレジアの子守歌・・・・か。フュリーがよくお前たちに歌っていたな。」 セティは声の主を睨んだ。レヴィンが柱によりかかり微笑しながら立っていた。 「セリス様にあなたがここにやってきたとつい先程伺いました。・・・・あなたは一体何をしていたのです？母上は・・・・お亡くなりになりました。私は・・・・あなたに一目だけでも母上に会っていただきたくて旅をしてきたのです！しかし・・・・」 レヴィンは静かに言った。 「そうか、フュリーが・・・・それは可哀相なことをした。だがな、セティ。これは私達夫婦の問題だ。・・・・私はシレジアを発つときに妻も子もないと決めたのだ。」 セティは父親に詰め寄った。レヴィンは数年前、シレジアを発ったときと外見は全く変わっていないように見えた。 「あなたは変わられた。以前のあなたならそんなことはおっしゃらなかった。私は構わない。でも・・・・フィーのこと、あなたは気付いていらしたのでしょう？気付いていてなぜ声をかけてやらなかったのです。フィーは今でもあなたのことが大好きなのです。・・・・あなたは以前、私に、風使いは暖かな風を吹かせることが使命なのだと言われた。・・・・今のあなたの風は・・・・吹き荒ぶ寒風です。」 レヴィンは背を向けた。 「セティ。心が乱れているぞ。それでは風は使えぬ・・・・私はセリス軍の軍師の一人。それ以上の存在ではない。」 闇に消えていった父親にとり残されたセティは、拳を握り締めてぶるぶると震えていた。 ”吹き荒ぶ寒風、か。” 息子になじられたレヴィンは自嘲めいた笑いを浮かべた。 ”オレはもはやオレであってオレではない。・・・・・フュリー。オレがそこに帰るまで許してくれ。” シレジアの長い冬。隠れ住んだ山小屋で、暖炉を囲み、レヴィンはよく笛を吹いた。フィーは毛足の長い絨毯に寝転がり頬杖をついて、セティは父親の横にきちんと座り耳を傾けた。妻のフュリーはセティと逆の側に座り、時折笛に合わせて歌っていた。天馬騎士のフュリーはうまい歌い手とはいえなかったが、生真面目な澄んだ声をレヴィンはこよなくいとおしく思っていた。 すると、愛した妻の姿がすうっと眼前に現われた。 ”怒るなよ。オレはフィーを苛めているわけじゃないんだ。・・・・ああ、またオレの得意の言い訳だといいたいんだな。まったくフュリー、お前の真面目さにも困ったものだ。” フュリーはレヴィンの指に自分の指を絡めた。そこには確かな感触があった。 ”わかってくれるのか・・・・” 妻の幻は小さく頷く。 ”もうすぐ・・・・もうすぐまた一緒になれるから・・・・” セティは苛立っていた。心を落ち着けようと笛を唇にあてるのだが、嫌なうなりが混ざってしまう。 父親・・・・レヴィンの言動にもいらついていたが、父親をなじり問い詰めた自分の言動も許すことができなかった。亡くなった母のことを思い出し、やっと思い通りの音が出た。優しかった母。軽口をたたく父を諌め、父の前では子供のように無邪気な顔を見せ・・・・母なら父を許したのだろう。そう考えると、急に気分が落ち着いた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「何をおめおめと戻ってきたのだ！」 トラキア城でトラバントは怒声をあげていた。彼の足元にはアルテナが平手打ちされた頬を押さえて倒れている。 「・・・・お前と共に動いていた兵士はすべて戦死したのだぞ。コルータも、マイコフも・・・・お前は戦いもせずここに帰ってきた。お前の槍術は儂直伝のものだ。お前さえ働いていれば、このような事態は避けられたはずだ。」 アルテナは言い返しはしなかった。 アリオーンが優しくアルテナに手を貸した。 「父上。アルテナも今回のことを悔いているに違いありません。・・・・アルテナにとっては初陣。しかも女の身です。躊躇するのが当たり前です。」 アルテナは返事をしなかった。彼女の脳裏には、マンスターで見た光景が展開されていた。市民を突き刺して殺す友軍。その市民たちを自らの身を危険にさらして救うセリスの軍。戦の末に魔法と弓でばたばたと落ちていく竜たち。・・・・避けられたはずだ。・・・・戦いは避けられたはずだ・・・・でも、こうなってはもう手遅れだ。 「娘よ。」 トラバントがアルテナを見据える。 「お前がこのトラキアを愛しているのなら、為政者の娘として取るべき道はわかっているだろう。・・・・セリスに制圧されたミーズ城をその手で奪還するのだ・・・・儂にお前の心を見せてみろ。」 「・・・はい、父上・・・・もう始まってしまったものは止められません。私はトラキアをこの槍で守ってみせましょう。」 毅然としてアルテナは退出する。その彼女をアリオーンは追って抱き留めた。 「アルテナ、大丈夫か。不安ならその旨を父上に申しあげて・・・・」 「いいえ、兄上、私は死ぬのが怖いのではありません。何か別の・・・・私が内側から壊れていくようなそんな不安があるのです。」 アリオーンは妹が、レンスターの王女であることを以前から知らされていた。ゆくゆくは二人が夫婦となってこのトラキアを二本の槍で領土拡大していくことを父が望んでいることも知っていた。アリオーンはアルテナの髪を撫でた。 「そんな不安は私が消してやる。」 アルテナは微笑んだ。 「兄上・・・・ありがとう。・・・・いえ、大丈夫です。。私、行きますね・・・・」 アルテナが部隊を引き連れミーズに向かったのと時をおなじくしてトラバントは領内の城に向かって飛び立った。トラキア城の西に位置するグルティア城は元々はトラキアの別城だったが、今は帝国から派遣されたロプト教の司祭が駐留している。トラバントにとっては面白くない相手である。 「これはこれは・・・・傭兵王じきじきのお出ましとは・・・・セリス軍が迫って、悲鳴をあげたくなりましたかな？」 トラバントはいきなり天槍グングニルの穂先を暗黒司祭の喉元に突き付けた。 「このトラキア半島をセリス軍に渡してはグランベル帝国にとっても痛かろう？ここまであやつに進軍させる気はないが、今のうちから援軍を手配しておけ。・・・・いいな。」 暗黒司祭ののどに細く赤い筋を残してトラバントは北上してルテキア城に降り立った。ディスラー将軍が深々と一礼して出迎える。 「例の子供の様子はどうだ。」 「はい。ここに。」 ディスラーが合図すると侍女が金髪の少年の手をひいて現われた。白い僧衣にブラギの聖印を首から下げ、黒い瞳はまっすぐにトラバントを見ていた。 「コープル・・・・だったな。元気そうでなによりだ。ハンニバル将軍も喜ぶことだろう。」 少年は、変声期前の綺麗な澄んだ声でトラバントに言った。 「陛下。僕を父の下に返して下さい。僕の役目はおそらく人質。だとすれば、陛下は父に、父の意に沿わぬなにかをさせようというおつもりなのでしょう。・・・・僕はそんなことをさせたくはありません。・・・・帰してもらえないのなら、いっそのこと僕を神のみもとに送って下さい。」 トラバントはこの訴えを黙殺した。 「ディスラーよ、舌を噛まぬよう、猿轡をかませておけ。丁重に扱うのだぞ・・・・ことが終わってからもハンニバルには働いてもらわねばならぬ。」 トラバントが最後に訪れたのはミーズに程近いカパドキア城であった。ここには”トラキアの盾”と呼ばれ、民からの信望も厚いハンニバル将軍がいる。 「・・・・陛下、やはり私の進言はお聞き入れ下さらないのですか・・・・今は帝国軍を我が国より追うことがセリス軍との戦いより大切なことではないかと・・・・」 トラバントはまたグングニルを突き付けたが、ハンニバルは微動だにしなかった。 「アルテナに妙な考えを吹き込んだのはお前か？」 「・・・・いいえ。アルテナ様が何を考えておられるかはこの年寄の知るところではありません。しかし、アルテナ様がこのトラキアを愛しておられることは確かなこと。・・・・陛下。ご心配なく。私は陛下に忠誠を誓った武人。トラキアのために戦いましょう。」 「来たぞっ！」 目の良さを買われて見張りに立っていたファバルが遠眼鏡で竜騎士の一団を見付けた。 「よーし、見てろよ、パティ、兄ちゃんが今度も大活躍して・・・・」 いち早く階下に報せに走ったパティが戻ってきて兄から遠眼鏡を奪った。 「居るっ！赤い竜騎士が！・・・・兄ちゃん、あの赤い女の騎士だけは殺しちゃ駄目だよ。レンスターの王子さまのお姉ちゃんなんだって。ただ、相当強いらしいから気をつけてね。」 再び階下に消えた妹に向かってファバルは怒鳴った。 「そんな難しいこと、兄ちゃんにできるかよーっ！レスターに頼め！あいつは器用だ！」 城の外の森で、弓騎士隊と魔道士隊が竜を待ち受ける。守るように剣士隊が待ち受けるのもこの間と同じ。違うのは、フィンとリーフが前に突出して待機していることだ。 竜騎士の攻撃は苛烈を極めた。前線のすぐ後にはラナやユリア達が控えているのだが一人治してもまた一人が傷つく。 リーフが姉の姿を追って前へと進む。それを守るように忠実な槍騎士が横に並ぶ。突出した二人、特に剣しか持っていないリーフは格好の餌食と見えたのか、竜が二騎、急降下をかけた。リーフは母の形見の魔法剣を掲げた。光の本流が竜の目を眩ませて、さらに首のあたりを抉った。その隙に青い髪の槍騎士が強烈な一撃を素早く竜の腹にたたき込む。二人を援護する魔法が後方から放たれる。ペガサスの白い騎影がふわりふわりと竜を幻惑するように左右する。 リーフが辛うじて一騎の竜を大地に沈めたとき、目の前が開けた。大きな褐色の竜が上空で旋回しており、リーフと竜の間を隔てるものは何もなかった。 「やめさせなきゃ・・・・」 リーフが馬を進めた。 アルテナはリーフを認めた。彼女に弟がわかろうはずもなく、降下の体勢を取る。 「姉上ーっ！」 リーフの声が彼女の耳に届いた。降下をやめて急上昇する。 何の茶番だ？トラバント王の娘の前に飛び出して・・・・今なんと言った？姉上・・・・だと？ 「姉上っ！私はレンスターの王子リーフです。あなたの・・・・あなたの弟です！」 リーフは声を限りに叫ぶ。 よ迷い事だ。アルテナはまた降下の体勢をとる。 と、リーフの前に槍騎士が守るように立ち、大きく両手を広げた。青い髪、青いマント。 「！」 自分の中で何かがこわれかけている。駄目だ。早くあの二人を倒さなくては。アルテナは槍を持ちなおした。 真ん中を握ってそれから握り拳三つ分前へ・・・・ ・・・何？これは誰に習ったこと？父上ではない。兄上でもない。・・・・頭がくらくらする。押さえられていたものが頭をもたげる。茶色の髪の黒い服の男・・・・薄紅の髪をした女・・・・誰？一体。なんでこんなときにいきなり頭のなかに浮かぶの？そしてあの人、青いマントの優しい人・・・・あれは・・・・あれは誰。 竜が気遣うように低く啼いた。褐色の竜は森の中に舞い降りた。 リーフたちが駆け付けると、アルテナは竜に乗ったまま手でこめかみを押さえていた。 「姉上！」 アルテナはゲイボルグを振り上げた。 「お前、どうして私を姉と呼ぶ。私はトラキアの王女、アルテナだ。」 リーフは懸命に語りかける。不思議な感覚がリーフに芽生えていた。ゲイボルグの使い手でなくとも槍騎士ノヴァの血はこの地槍と呼び合っていたのだった。 「あなたは私の姉上です。私の父、キュアンと母のエスリンはバーハラに程近い砂漠でトラバントに襲われて命を落としました。母と共にいたまだ小さかった姉上もまた殺されてしまったのだと思っていましたが、こうしてここでお会いできた。」 「何を証拠に！」 「姉上の手にしたその槍は地槍ゲイボルグ。レンスターの血筋のものにしか扱えぬ槍です。姉上にはレンスターの者である証の痣がどこかにあるはず！姉上！思い出して下さい！姉上はトラキアの王女ではありません。レンスターの王女です。」 トラキアには咲かない花の夢をときどき見た。黒い服を来た男が馬に乗っている姿を夢で見た。よく笑う優しい女性に花束を差し出す夢を見た。・・・・・真ん中を持って拳三つ分前を・・・・誰に習った？ 「お前は、私の父上が実の父母の仇だというのか？私が仇に育てられたのだと？・・・・何故だ。何故、お前の言葉が嘘だと思えない？」 竜が勢いよく空に舞い上がった。 「姉上ーっ！」 アルテナは部下たちに帰還命令を出すと向きを変え、トラキア城へ向かった。近衛兵たちの制止を振り切り王の前に進み出る。 「アルテナ・・・・また逃げ帰ってきたのか！一体どういう気だ！」 アルテナは拳をぎゅっと握り締めた。 「父上・・・・お聞きしたいことがあります。・・・・そのことをはっきりさせない限り、私はもはや戦うことができません。」 トラバントは王座から立ち上がった。 「何を聞きたいというのだ。言うがいい。」 「・・・・私は何者なのです？」 アリオーンが父と妹の間に入ろうとしたが、アルテナが目で制止した。 「私がもっていた槍はゲイボルグ・・・・レンスター王家に伝わり、その血筋のものでなければ扱えぬといいます。私は・・・・レンスターの王女なのですか？」 トラバントは娘の顔を見つめた。そのまま永劫とも思われる時間が過ぎた。トラバントは口を開いた。 「呪い士に薬を調合させ、お前の幼い時の記憶は完全に消したつもりだったが・・・・こんな日がくることもあろうと思っていた。・・・・アルテナよ。お前は確かにキュアンの娘だ。だが、それがなんだというのだ。お前を育てたのはこの儂だ。お前が知っているのはレンスターではなくこのトラキアの大地だ。お前にとってレンスターは異国。その事実に変わりはあるまい。」 そうかもしれないと疑っていたことを聞かされ、アルテナは震えていた。 「父上・・・・では・・・・私の本当の父と母は・・・・あなたが・・・・」 「・・・・トラキアは傭兵の国だ。戦とは殺し、殺されるもの。そうだ、儂はレンスターの王子とその妻を殺した。」 アルテナの頬に涙がこぼれた。 「父上！いや、トラバント！許せない！今まで私を騙して・・・・」 アルテナは腰から剣を抜くと構えて王に向かって突進しようとしたが、アリオーンが立ちはだかった。 「兄上！そこを退いてください。私はこの男を殺す！兄上にも邪魔はさせない！」 「そうはいかない！父上を手に掛けようというのなら、この私が相手になろう！」 すらりと剣を抜いたアリオーンの前でアルテナは立ちすくんだ。 「待って！私は、私は兄上とは戦えない！」 「言い訳は無用だ！」 剣が一旋され、アルテナの体がくずおれた。 トラバントが肩で息をつくアリオーンに向かって呟いた。 「・・・・お前がアルテナを殺すことはなかった。」 「いいえ。これも王子であるものの努めです。」 トラバントは近衛兵達を下がらせた。王女の壮絶な死を目のあたりにし、彼らは大人しく王の指示に従った。 「アリオーンよ。儂はこれから自ら出撃する。この槍をお前のものとせよ。」 王は天槍グングニルを息子に手渡した。 「これは・・・・父上、これは一体どういうことなのですか？これから戦いにおもむこうとするときに・・・・父上、まさか・・・・」 トラバントは口の端で笑った。 「儂はもうこの槍を持つには齢を重ねすぎた・・・・もう引き返すことはできない・・・・ロプト教団と結んで何事かを企むグランベルに儂が手を貸したのは、ただひたすらにこのトラキアのためと考えてのことであった。痩せた土地、厳しい気候・・・・しかし民はこの大地を愛している。儂はこの大地の為に竜騎士団を率い、他国から卑怯者、金の亡者と言われながらも国を治めてきたのだった。・・・・・・・・もしも儂がこれからの戦いに勝てば、儂は自分が正しかったことを知ることができる・・・・もしも儂が帰ってこなかったなら・・・・トラキアの未来はお前に任せる。お前の好きにしろ。お前ならば民達の心を掴み、更に解放軍とも憎しみ合わずに話を交わすことも可能だろう。」 「彼らと休戦せよと？・・・・それは承諾しかねます！」 「・・・・好きにすればよいと言ったのだ。・・・・ただ、民をこれ以上苦しめるな。儂の話はこれだけだ。」 王は倒れているアルテナを一瞥すると一瞬自自嘲するような笑みを口の端に浮かべ、壁にかかっていた一本の槍を取り上げ、肩に担ぐようにして出ていった。アリオーンは父親の後ろ姿を最上位の尊敬を表す敬礼の形をもって見送った。 父がいってしまったのを確認すると、アリオーンは優しくアルテナを抱き起こした。 「アルテナ・・・・大丈夫か？」 気付け薬を嗅がせるとアルテナは目を開けた。 「兄・・・上・・・・？」 「すまない。お前に切り付けるふりをして当て身を食らわせた。さっきはそうするしか仕方なかったのだ。」 「・・・・わかっています。・・・・私は・・・・兄上になら殺されてもいいと思っていました。・・・・兄上・・・・父上・・いいえ、トラバント王は？」 「・・・・ミーズに向かって出撃された。もはや戻ってはこられぬだろう。」 「それは・・・・それはどういうことですか？」 「・・・・お前は聞かぬ方がよい。・・・・お前に父上の心はわからぬ。・・・・これだけはいっておく。父上は父上なりにお前を愛していらしたのだ・・・・・父上は私が当て身をしたのにも気づいておられたようだ。・・・・わかっていてお前を見逃された。」 アルテナはアリオーンの胸に顔を埋めた。 「兄上は何もかも知っていらしたのですね。・・・・私はこれからどうしたらよいのでしょう。何が私にとっての正義なのでしょう。」 アリオーンは妹を立たせた。 「リーフ王子・・・・お前の本当の兄弟がお前を待っているだろう。彼のもとにいってやれ。」 アリオーンは微笑んだ。優しい兄。いつもアルテナの味方をしてくれたアリオーン。 「でも、それでは兄上は！」 「アルテナ。私はトラキアの王子だ。これも運命・・・・仕方あるまい。」 アルテナは激しく首を振った。 「嫌です！兄上、休戦して下さい。なぜ戦わなければならないのですか！アルテナは兄上と戦うのなんて嫌です！」 小さなときと同じように自分を慕ってくれるアルテナの様子にアリオーンは心が揺れたが決意は動かなかった。 「父上の最後の言葉をきかなければ、私もそうしていただろう。・・・・アルテナ。今度出会うときは戦場だ。その時は私も手加減しない。」 「兄上！」 「・・・・私は、お前の兄ではない。・・・・さあ、行け。今行かねば、私は本当にお前のことを斬るぞ！」 アルテナは出て行こうとし、くるりと振り向いてアリオーンに飛び付いた。アリオーンは強く妹の体を抱き締め、髪にキスした。 一瞬ののち、アリオーンはアルテナを押し出した。アルテナはゲイボルグを手に、自分の本来の居場所へと竜で飛び立っていった。 「ひーっ、あいつなんだよ？」 ファバルは、自分の放った矢がたやすく避けられるのを見て悲鳴を上げた。トラバントの駆る竜は、弓矢の攻撃をほとんど受け付けず、遥か上空から急降下を繰り返し、魔道士部隊に大きな被害を与えていた。 天槍グングニルはアリオーンに譲っているとはいえ、神々の血をひく戦士だけあって、今までの敵と全く格が違う。リーフは思い切ってトラバントの前に馬で飛び出した。 「トラバント！父と母の仇！覚悟！」 トラバントは面白そうに笑った。 「ほほう。ではお前がキュアンの忘れ形見か。遊んでやろう。」 リーフは必死に竜の爪とトラバントの槍の斬檄を躱しながらゆっくりと城から離れていった。もとよりリーフに勝算などはない。ただ、トラバントを自分が引き付けている間に、残りの竜騎士を仲間たちが片付けてくれることを望んだだけなのだった。仇は討ちたいが自分にそんな力はまだ育っていない・・・・リーフは唇を噛んだ。 「痛っ！」 左腕を槍が切り裂いた。逃げながら血止めをする。トラバントは追ってこない。トラバントの前にはフィンが居た。キュアンから贈られた槍を手に対峙している。 「主君の仇・・・・今こそ取らせて頂きます。」 「貴様・・・・確かフィンとかいったな。・・・・竜神の血をひいていない貴様のような雑魚にこの私が倒せると思うのか。もういなくなってしまった主君に義理立てするのか。」 「トラバント王。私の父はレンスター人ですが母はトラキア人です。生まれ育ったのはトラキアの小さな村でした。食物を求めてマンスターに向かう途中、盗賊に襲われて家族をなくし、キュアン様に助けられたのです。・・・・あの方は主君であり・・・・兄でした・・・・エスリン様は姉でした。・・・・・だから・・・・あなたは・・・・家族の仇です・・・・行きます！」 フィンの槍が竜の腹を掠めた。痛みを感じた竜が前脚で槍騎士の肩を引っ掻く。 壮絶な戦いだった。槍騎士はどんどん傷つき血に塗れていく。落馬し、また騎乗し、トラバントの槍をさけて小さな傷を与える。リーフは叫んだ。先程まで自分がフィンのいる場所にいたことも忘れて叫んだ。 「フィン、もうやめろ！お前が死んだら僕はどうしたらいいんだ！フィン！」 彼は馬を降り、膝をついた。そこには味方であった魔道士の死体が転がっていた。風魔法の魔道書がリーフの手にあたった。すると不思議な感触がリーフの指に伝わってきた。 「やめろ！やめてくれ！フィンを殺すなぁっ！」 一陣の風がリーフの体からまき起こった。魔法が何一つ出来なかった王子、だが、彼の体に眠っていた母であるエスリンの魔力がぎりぎりのところで開花したのである。風でバランスを崩した竜にフィンは深々と手槍を刺し、ついで、後にまわるとトラバントの首に槍ごとぶつかっていった。 確かな手応えを感じ、フィンは槍を引き抜いた。 「トラキアよ・・・・永遠に・・・・」 そう言ったきり、トラバントは息絶えた。 死体の顔の血を拭い、フィンは跪いた。リーフも横に跪く。 「この男・・・・姉上を育ててくれたのだな。・・・・フィンが私を育ててくれたと同じだけの間。」 王子と忠臣が祈っていたことはかなり違っていたが、キュアンとエスリンに対する思慕は全く同じものだった。十七年間の悔恨を二人はこの場で昇華させようとしているかのように一心に祈り続けた。 長い祈りのあとリーフはぱかんとフィンの背を叩いた。 「お前、また無理をしたなっ！」 「はい・・・・申し訳ございません。今回はリーフ様に助けていただきました。」 「あのなぁっ！魔法ができたのは偶然のことで・・・・いいかっ！もう一度いうぞ。僕より先に死んだら承知しないからなっ！死んだら墓石壊してやる。」 フィンは笑っていた。 「それより初めて聞いた。・・・・父上はお前にとって父上であり兄上のような存在だったなんて・・・・何故教えてくれなかった？」 「・・・・私は一家臣です。そんな不遜なことは・・・・・」 「・・・・では、王子である僕がフィンを兄上と呼ぶことは不遜でもなんでもないからいいのではないか？」 「いけません。・・・・恐れ多いです。」 血みどろになっている二人をナンナが見付け、急いで治療する。二人がトラバントを倒している間に戦いは終結していた。 「あ！」 リーフが指差す空に、褐色の竜がこちら目指してゆっくりと飛んできた。 「初めまして、アルテナ様。私がセリス。あなたの従弟にあたります。あなたを歓迎いたします。」 アルテナは差し出された手を一度躊躇してから握った。アルテナの横ではリーフが、死んだと思っていた姉の存在を嬉しくもあり、戸惑いもありで短い会話をしながらセリス軍の主立った者を紹介していった。 「こちらが軍師のオイフェさん。隣がイザークの王子シャナン様。お二人はセリス皇子の育ての親でもあります。そしてあちらがエルトシャン王のご子息のアレス様。そして・・・・」 シャナンが苦笑した。 「リーフ王子。アルテナ殿も疲れていらっしゃる筈だ。いきなりそう名前ばかりを並べても覚えられはしないだろう。」 リーフは頭を掻き、アルテナは微笑んだ。 オイフェも頷いた。 「明日からは、早速いろいろなお願いをしなくてはならなくなる・・・・今日のところは早く休んで頂いた方が・・・・」 アルテナの顔が曇った・・・・当然のことながら、これからしばらくは、故郷と信じて疑わなかったこのトラキアの人々を敵にまわして戦わねばならない。リーフがそんな姉を気遣い、セリスを見つめた。 「アルテナ様。・・・・私はできればこの国の人々とは戦いたくない・・・・新しい王になったアリオーン殿に、和平を提案する書簡を贈ろうと思うのです。あなたからも書面で呼び掛けて頂ければ幸いです。お願いできるでしょうか。」 アルテナはゆっくり頷いた。自分の信じたかったものがここにはある。それが彼女には嬉しかった。 リーフは困っていた。今、二人きりで回廊を歩いているが、実の姉弟といっても共通の思い出があるわけではない。下手に話題を選ぶとトラバントの死や、これからの戦いのことになりそうで怖かった。弟が難しい顔で歩いていくのを見て、アルテナは自分から声をかけた。 「リーフは今いくつですか？」 「え？十七です。」 「私は二十二です。リーフの五つ上ですね。・・・・戦場ではリーフはとても大人びて見えたのだけれど、背はわたしより低いのですね。」 すらりと上背のあるアルテナは女性としては背の高いほうだが、彼女とそんなにかわらないリーフは男としては低いほうだった。 「そんなにふくれっつらをしないで。きっとまだ伸びますから・・・・本当いうとね、少し嬉しいのです。」 「？背が低いことが？」 「ええ。これから私を追い越していってくれるのですもの・・・・」 「・・・・よくわかりません。でも、姉上が喜んでくれるのなら、私はきっと大きくなってみせます。・・・・姉上、忘れないで下さいね。姉上はレンスターの王女です。そしてもう解放軍の一員です。何かあったら仲間たちが助けてくれます。ですから・・・・何があってももうここから出ていったりしないで下さい。」 回廊から歩いていけるところに水盤があった。アルテナが覗き込み、リーフもそれに倣う。 「似ていますね。」 「え？」 月明かりに照らされて水盤は鏡のようである。そこにリーフとアルテナの顔が一緒に映っている。 「髪の色も、瞳の色も・・・・」 「ええ、ナンナも言ってました。口元も顔のかたちもそっくりだって・・・・」 アルテナは微笑んだ。 「リーフ、あなたは沢山の人に支えられてここまで来たのですね。私がトラキアの人々の世話になったように・・・・今度ゆっくりお話しましょう。今夜はもうお休みなさい。治癒の魔法が効いてはいても、左腕の傷はきっとうずいているのでしょう？」 リーフが頷くと、アルテナは回廊を外れて歩いていこうとした。 「姉上？」 「私は飛竜の様子をみてきます。・・・・私が世話をしなければ他の誰も恐れて近付かないでしょうから。」 リーフと別れたアルテナは両の腕で自分の肩を抱いた。リーフが実の弟であるという実感ははっきりいって全くない。セリス軍にレンスターの王女として迎えられても彼女にはレンスターの思い出がない。トラキアの険しい山稜、トラバントを父と信じ生きてきた年月。小さな頃、竜に乗って上空からトラキアの大地を眺めはしゃいでいる自分をしっかり抱いていてくれたのはトラバントの腕だった。誕生日にドレスを着て父の前で一礼したとき、目を細めていた父。あれは幻ではない。父は確かに自分を愛してくれていた。アリオーンと共に空を駆けた日々・・・・自分は竜騎士。トラキアの竜騎士だ。 もう他の竜はいない飛竜の発着場に自分の忠実な褐色の竜がいる。長年トラバントを乗せて来て、自分に譲られた老練な竜。腹をすかせているだろう。危害を加えなければ大人しい生きものだのに人々はわかってくれない。 と、一人の男が、アルテナの竜の前でじっとその様子を眺めていた。竜は大きな桶から黙々と餌を食べている。 「あなたは？私の飛竜の世話をしてくれたのですか？」 男は一礼した。 「はい。腹をすかせているようでしたので。」 「・・・・あなたはレンスターの方ですね。よく餌がおわかりになりましたね。」 「古い・・・・殆ど忘れている子供のころの記憶です。飛竜は普段は肉をほとんど食らいません。量は多いが馬と同じ飼い葉を食べます・・・・私はトラキアの出身ですから・・・・」 男はそのままじっとアルテナを慈しむように見つめていた。 「・・・・アルテナ様、よく生きていて下さいました。・・・・しかし、隣国にありながら、それに気付かず今までお救いできなかったこと・・・・自分の腑甲斐なさ、口惜しく思います。」 雲から出てきた月の光に照らされた男の顔は涙で濡れていた。 「泣いて・・・・おられるのですか？」 「・・・・これは不様なところをお見せいたしました。申し訳ございません。」 アルテナは男が泣くところを初めて見た。しかし、レンスターの騎士の様子は不様でもなんでもなかった。 彼女の記憶の一つが弾け出た。それはトラキアで味わった自分が壊れていく感触とは全く違った懐かしい切ない感触だった。 「フィン？あなたは私に槍術を教えてくれたフィンですか？」 騎士は頷いた。アルテナは自分から彼の名前を思い出せたことが嬉しかった。 「かすかに・・・・記憶があります。フィン・・・・私はあなたが大好きでした。・・・・あなたに甘えてばかりいた。・・・・」 父の記憶も母の記憶も何故か朧にしかない。しかし、青い服をきた、生真面目で優しい見習い騎士の記憶は心の隅にくっきりと残っていた。・・・・自分がレンスターの王女だったという確かな証がここにだけはあった。・・・・リーフの前でも見せなかった娘らしい笑顔でアルテナは微笑んだ。 「フィン、私は・・・・アルテナはたった今帰ってきました。」 槍騎士は言った。 「お帰りなさいませ。」 |