| 男は黒い刃身の大剣を揮った。 頚動脈を切られた敵が噴水のように血飛沫をあげながら彼の横にどうと倒れる。 すでに十人以上の刺客が骸となってまわりに横たわっていた。しかし、息をつく暇もなく次の斬戟が襲いかかる。幾百人の血を吸ってきた大剣を握る手の力も限界に近い。 寒風吹き荒ぶ灰色の大地。ここには彼と彼の敵しかいない。 新たな敵が構える。かなりのてだれだ。 この敵は先程までの血走った目をした男たちとは異なり冷たいが静かな目をしていた。 そうか。今までの連中は捨て駒だったか。俺を疲れさせるための・・・・ 彼にはわかっていた。この敵が彼の死神となることを。次の斬戟で自分が命を落とすことを。しかし、彼はそれを受け入れたくはなかった。剣を構えなおす。 刺客が切り掛かってきた後、彼の剣の切っ先は敵の腕を傷つけていたが、彼は腹に深手を負った。膝が折れ、みるみるうちに血だまりができていく。 一人生き残った敵は止めをさそうとし、薄く笑ってやめた。 「死ぬまでそう長い時間はないだろうが、それを噛みしめさせてやろう。・・・・お前がしてきたことをよく思いだすがいい。」 彼は薄れ行く意識の中で遠ざかっていく足音を聞いていた。 このような死に方をすることに悔いはない。彼はこうされるだけのことをしてきたのだし、それは彼自身の選択であったのだから。 痛みはもう感じなくなっていた。 奇妙な暖かさが彼をつつんでいる。血の暖かさか？自分の血がこれほどの温度を持っていたのが彼には信じられなかった。 と、その指の前にまばゆく光る綿毛が飛んできた。 頭を動かす力もなくした男は眼球だけでその光を追った。 「・・・・・・」 その光は、彼が忘れていた幾百幾千のことどもを呼び覚ました。そして彼は聞いた。通り名ではなく、彼の本当の名前を呼ぶ声を。 男は光を掴もうとし、しかし指は動かなかった。 光る綿毛は地面に落ちた。そして、次の瞬間、不思議にも男の姿はこの世から消え去っていた。 綿毛は一つの仕事を終え、再び風に吹かれて高い空へと昇っていった。 |