| ネネさんと不思議のダンジョン（前編） |
世界に大きな街は数多くありますが、ここ、エンドールはその中でも１、２を争う大都市です。そのエンドールに知る人ぞ知る素晴らしい武器店があります。その名は『トルネコ武器店』。さぞや大きな店で、店頭にはびっしりと色々な武器がところせましと並べられているに違いない、というと、これがそうではありません。 トルネコさんのお店は賑やかな繁華街から少し離れた住宅街にあります。お店の大きさも普通の家とそう変わりません。元は農具を扱っていたというこのお店の柱や梁にはあちらにもこちらにも可愛らしい動物の浮き彫りがされています。武器の品揃えといったら魔法がかかっているような特殊な武器まで揃っているのですが、店先には並べられていません。 トルネコさんは、武器は使う人によってその真価を発揮するかどうかが違ってくるのをよく知っています。ですから店頭に並べられている武器はごく普通のもので、お客さまといろいろと話をして『この人ならば武器を正しく、そして価値を十分に理解して使ってくれる！』、とトルネコさんが認めた人にだけ大きな力を秘めた武器を見せるようにしているのです。 しかし、いつでもトルネコさんがお店にいられるとは限りません。トルネコさんはよい武器を仕入れるためには必ず自分で鍛冶屋にまで出かけていきましたし、時には古い時代の遺跡にもぐって、不思議な道具や武器や防具を探すこともありました。 そんなときにお店は閉まっているか、というと、そんなことはありません。 トルネコさんの奥さんのネネさんは、美人で優しくてしっかり者、と近所で評判の人です。自分で戦うことはできませんが、トルネコさんと同じくらい武器や道具について詳しく知っていました。それに、トルネコさんと同じように・・・・・あるいはそれ以上にお客さんがどういった人なのか見極める確かな目をもっていました。ですからトルネコさんは長い間留守にするときにも安心してお店をネネさんに任せていったのです。 今日もネネさんはお店のカウンターに座っていました。トルネコさんは遠くにある鍛冶屋さんまで武器の買い付けです。冬の寒い日でしたけれど、大きなガラスのはまった窓からはお日様がぽかぽかと射し込んでいます。 「そうなのよネネさん！ウチの宿六ったら碌に稼ぎもしないのにお酒ばかり飲んで！」 丁度お客さんがいなかったので、お向かいに住んでいる奥さんがお茶を飲みに来ていました。お店の片隅に置かれた白木作りの丸いテーブルには香りのよい紅茶とネネさんお手製のアップルパイがのっています。このアップルパイは美味しいと大評判で、お店で売ってもいるのですが、もちろんネネさんはお友達からお金をとろうなんて思ってはいません。 「ああああ。ネネさんが羨ましいわ。ウチの人もトルネコさんみたいな頼りになる人だったらよかったんだどねえ。」 ネネさんはくすっと笑いました。褒められるのはくすぐったいけれど嬉しいことでしたし、お向かいの奥さんは口ではいくらきついことをいっても、旦那様をとっても大切に思っていることをよく知っているからです。 あったかい部屋の中で美味しいパイを食べながら楽しいお喋り・・・・・そのほわんとした平和な時間は外からのキイキイという叫び声によって破られました。 「チビちゃん！どうしたの？」 大きなドアを器用に開けて入ってきたのは一匹の魔物・・・・いたずらモグラでした。胸には赤いリボンを通したキラキラ光るガラス玉が揺れています。いたずらモグラは人間と離れて暮している魔物ですが、このちびモグラはかなりの例外といっていいでしょう。トルネコ家の一員としてここで暮している、つやつやした灰色毛皮のいたずらモグラはネネさんに突進していって肩まで駆け上りました。その体は小さくぶるぶると震えています。ただ事ではありません。とてつもないことが起きてしまったということは確実です。ネネさんの顔が曇ります。このいたずらモグラはお昼がすんでからネネさんの一人息子のポポロ君と近くの雑木林にキノコを採りにいったはずです。地中深くにある香りの良い貴重なキノコ。いたずらモグラの鼻を使ってもなかなかみつからないのですが、それがお父さんやお母さんの好物だと知っているポポロ君は「絶対いっぱい採って来るね！」と大きな声で宣言して出かけて言ったのでした。 「ポポロに何かあったの？」 いたずらモグラはうんうんと頷くとポーンと床に飛び降りました。そして前足で床に何か図形を描き始めました。大きな円が一つ。それと重なるようにして２つの小さな円・・・・・そんな形を何度も何度も描きます。 「怪我をしたの？それとも魔物が？」 いたずらモグラは首を横にふりました。そして、またさっきの３個の円を床に描き始めます。 ネネさんは顎に右手の人差し指をあてて少しだけ考えていましたが、すっとお店の中に引っ込むと、皮袋を背負って戻ってきました。手には不思議な形の武器・・・・正義のそろばんといわれる魔法の道具をきゅっと握っています。 「奥さん。ポポロに何かあったようですわ！私、これから雑木林まで様子を見にいってきます。留守をお願いできますか？そしてトルネコが戻ってきましたら、雑木林まで来て欲しいと伝えて下さい！」 お向かいの奥さんは頷いて、しかし心配そうに言いました。 「大丈夫かい？もしかして何か妙な魔物が出たんじゃないかねえ？トルネコさんが帰るのを待った方が・・・・・」 しかしネネさんは身支度を続けます。 「ちびさんが魔物じゃないと言っています。それにトルネコを待っていたらそれこそ取り返しのつかないことになるかもしれません。心配しないで下さい。絶対に無理はしませんから。行ってみたらなあんだ、ということかもしれません。それではお願いしますね！」 いたずらモグラを肩に乗せ、ネネさんは小走りに出発します。途中で出会った顔なじみの人に、どうか傭兵のスコットさんと吟遊詩人のロレンスさんに雑木林まで来てくれるようと伝えて下さい、と頼んで、一目散に雑木林を目指しました。 エンドールの城門を抜けて２０分ほどいったところにその雑木林はありました。ネネさんは口に手をあてて叫びます。 「ポポロー！」 森の中は静まり返っていて、遠くで鳥がさえずっているかすかな声しか聞こえてきません。 「ポポローッ！居たら返事をしなさいー！」 そのとき、いたずらもぐらがくい、とネネさんの上着の裾を引っ張りました。 「ちびちゃん。ポポロの居場所がわかるのね！案内をお願い！」 ネネさんはあとからくるはずのスコットさんやロレンスさんにわかってもらえるように、木の幹に紐を巻いたり、草を目立つように結んだりしながら進みます。 ちびモグラに引っ張られて行った先は木々に囲まれた小さな草地でした。その草地の真ん中に・・・・ポポロ君が採っていたものでしょう、キノコがばらっと散らばっていました。 「ここで何かがあったのね！」 モグラはじっと一つの方角を向き、前足で何かを指さしています。 そこにあったのは石で出来た板のようなものです。 「石版？」 ネネさんは無造作に地面に落ちている石版に手をのばしかけてやめました。こういった道具には魔法がかかっていることがあり、下手に触るとたいへんなことになる可能性があると知っているからです。 でも・・・・・ ポポロ君はきっとあの石版のせいで居なくなってしまったのです。だったら・・・危険があっても行かなくてはいけません！ ネネさんは背負い袋を下ろすと中から黒く塗った板を取り出してロウ石で字を書きはじめました。 “私はこれから石版を調べてみます。もしも私の姿がここから消えていたらそれは石版のせいです。スコットさん、ロレンスさん、そして大好きなあなた。そういうことになっていたら、あとのことはよろしくお願いしますね。” 一度文を読み返してネネさんは板を少し離れたところに置きました。それからゆっくりと石版に手を延ばしました。 石版はずっしりと重たく、厚さ５cm、一つの片が30センチほどの正方形でした。きめの細かなのっぺらぼうの褐色の石・・・・・・それを注意深く裏返してネネさんははっとしました。ちびモグラが繰り返し床に描いていたあの形・・・・・一つの大きな円に２つの小さな円が重なっている形がくっきりと刻まれていたのです。 そして、それ以外にもびっしりと小さな文字が刻まれていました。大部分は読めない文字ですが、ほんの一節だけ、ネネさんにもわかる言葉がありました。 「“我ら・・・・・汝を導く・・・・・来たれ、我らが・・・・”」 そこまで読むといきなり石版が目をあけていることができないほどまばゆい金色の光を発しました。ちびモグラはネネさんの背負い袋にとびついてぎゅっとしがみつきます。 「・・・・・・！これは！」 金色の光がおさまったあと、ネネさんは目をそっと開けて愕然としました。 ネネさんとちびモグラが居る場所は、雑木林とは似ても似つかない場所・・・・・真っ暗な洞窟・・・・・不思議なダンジョンの中だったのです。 |
| アサルトももんじゃＳ様31415ＨＩＴキリリクＳＳ前編です。当初導かれし者８人がネネさんに会いに行く話、というリクでしたが、あとから「ネネさん＆モグラでも良いですよ」という有り難いお言葉を頂き、そうさせていただきました。ちびモグラはもともとゲームには出てきません。このサイトのドラクエ長編で出てきた管理人がとても愛着を持っているオリジナルキャラクターです。前後編にしましたが、ある意味ネタが割れると非常におバカな話かもしれません。ご了承下さい。 |