1 白ユリ 紅バラ キンポウゲ
カツン・・・・・カツン・・・・・・・ 通路に足音が響く。硬質の岩を積んで作られた壁に、天井に足音は反響し、小さな足音を何百倍にも増幅させる。石造りの狭い通路に明り取りはないが、一人が持つ魔道士の杖に宿らせた魔法の光が彼らの進む道をしっかりと照らしていた。 魔道士の杖を掲げているのは、緑のローブを纏った白髪の小柄な老人。その後ろには濃紺の旅装の神官衣をきっちりと身につけた魔道士と年の頃は同じような男性。 二人の老人は辺りに気を配りながら目的の場所へと急いだ。 カツン・・・・・・ 二人は足を止めた。 「ディルト殿。二人してここに来るのは何年ぶりじゃろうか？」 「・・・・・・もうかれこれ十年はたちますね。ブライ様。」 ブライは自分の目の前にあるものをじっと見つめた。 「こうやって司教殿と二人して禁を犯すことになろうとはのぉ・・・・・」 サントハイムの筆頭魔道士と司教は頷きあう。そしてブライは魔道士の杖を掲げる。 「インパス！」 “見定め”の呪文は前方の『あるもの』に吸い込まれていき、それをまばゆい黄色に光らせた。予測されたことそのままだ。 「司教殿、あとは頼みましたぞ。」 ディルト司教は首からロザリオを外し、左手で包み込むように握って胸に当て、右掌を差し出すように前に出した。白く優しい霧のようなものが辺りに満ちる。長い時間が経過したあと、ディルトは額に浮いた汗を拭い、ブライに告げた。 「・・・・・・・・ブライ様・・・・・・・・思っていた通りです・・・・・・・」 ブライは腕を組み、ゆっくりと頷いた。そして、二人は無言のまま、もと来た道を引き返して行った。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「う〜ん・・・・・・・・」 サントハイム城付き神官、かつ、この国の王女アリーナの相談役であるクリフトは、城の書庫の横にある部屋で、机いっぱいに大きな紙を広げて唸っていた。現在、彼は王と司教から命じられて、城に伝わる古文書から古の『魔王』に関しての記述を編纂するという大きな仕事を申し付けられている。今日も朝からこの部屋に籠もって、調べを進めていたのだが・・・・・ 現在彼の前にある紙は、調べの為に広げたものだが、彼が目を通している箇所は、調べと全く関係のない場所であった。 これはクリフトにしてはたいへん珍しいことである。この神官学校主席卒業の青年は、生真面目を絵に書いたような性格で、勤務中はそれに集中し、そのあまり誰かに声をかけられなければ夕方まで書物に没頭してしまうことなどよくあることであったから。 「う〜ん・・・・・・・」 長身の神官は背を丸め、紙に書かれた小さな文字を読み、引かれた線を辿って長い指で濃い蒼の髪をがしゃがしゃとかき混ぜるとため息をついた。 と、どこかから 「ギャーッ！」 という男の悲鳴がした。声の大きさからしてここから近い。クリフトはすぐに駆け出した。回復呪文の使い手である彼が躊躇していたら、救える命も救えない。それにおそらくあの声は・・・・・・いやな予感がする・・・・ 細身の体に纏った緑の神官衣の裾を翻し、クリフトは悲鳴の主を捜した。 居た！城の内庭の隅に若い身なりのよい男が一人倒れていた。肘をついて上体を起こし、右手をぶんぶんと振って何かを指差し、ぱくぱくと口を動かしているが声は出ていない・・・・・有体にいってしまえば、何かに驚いて腰を抜かした時の典型的な動作だ。ひとまず回復魔法の必要はないようだ、と感じたクリフトはほっとしたが、男の指差す方を見て端正な顔をひきつらせた。 そこには彼が相談役をつとめるこの国の王女アリーナが腰に手をやり喜色満面で立っていたのだった。 時間は少し遡る。現在腰を抜かして這い蹲っている男は、アリーナに招かれて、庭の洒落た白いテーブルセットに腰をかけた。 「姫殿下と二人きりでお茶を飲むことがかなうとは、無上の喜びです。」 アリーナはクッキーの皿を差し出す。 「いいのいいの。だってあなたは遠縁だけど私の親類なんでしょう？おもてなしするのはあたりまえ！」 男はねちっこい視線をアリーナに送る。 「・・・・・・ああ、僻地よりここまで来て良かった。・・・・・・あなたの美しさも噂にたがわぬ物・・・・・・・その波打つ輝く亜麻色の髪・・・・・・・ハシバミ色の瞳に輝く星・・・・・・・出来うるならば、宝玉のごときあなたを私の物としたい・・・・・」 男は手をのばしてアリーナの髪に触ろうとしたが、姫はくるりと向きを変えた。氷を入れた容器に立てられた、薄紅色の液体をつめたビンを掲げてみせる。 「このイチゴ水、とっても美味しいの！飲むでしょ？」 「え？あ、はい。いただきます。」 「？あら、コルク抜きを忘れちゃったわ。・・・・・・・ま、いいか。」 何を思ったかアリーナは注意深くビンをテーブルに立てた。」 「覇ッ！」 姫が掛け声と共に右手を風のように一閃すると、鋭利な刃物でバターを切ったときの様にビンの首が飛んだ。 「はいｖ開いたわ。・・・・・・アレ？どうなさったの」 にっこり笑うアリーナの前で男は悲鳴をあげ、腰を抜かした。 ・・・・・で、先程の場面に戻るわけである。 クリフトは飛んだビンの首を地面から拾い、腰を抜かした男と見比べ、はあ、と息をついた。膝をついて男を抱え起こす。 「私は神官です。怖いことなどありません。もう大丈夫ですよ。はい、息を吸って、吐いて・・・・もう一度吸って・・・・・・」 ・・・・・・・・強盗に襲われた人にかける言葉のようだと思いながら心の中で再び息をつく。 「んもう、ビンをあけただけなのに！・・・・・・・私たち遠縁の親類なんでしょ？あなたを驚かすつもりなんてないわ。・・・・・・・もしも親類っていうのが嘘なら当然ぎったぎたにしちゃってるんだけど・・・・・」 そうアリーナが行った途端、男は起き上がるとまた悲鳴をあげて城門の方に走り出ていった。 「あー！可笑しい！」 ケラケラと笑うアリーナの頭をクリフトはコツンと叩いた。 「姫さま！」 そこに、近衛部隊長である青年ランデルが駆けつけてきた。鎧姿ではなく、私服に帯剣だけしている。 「悲鳴が聞こえたが！・・・・・・・・アリーナ様。また何かなさったのですか？」 父親が近衛騎士隊長を務めているこの青年はクリフトと同様四角四面の性格をしている。王族に対する敬意も人一倍だ。・・・・だが、アリーナやクリフトと親しくなってからは、彼の友である神官が姫殿下を叩いてお説教しようともそれが不敬罪にあたるなどとは全く考えなくなった。・・・・・・クリフトがアリーナをお説教している時、それが間違いであることはない。 クリフトは膝に手をおき、背を屈め、視線をアリーナに合わせた。 「・・・・・さっき逃げていった方は、確か王家に繋がる者だとおっしゃって昨日城にいらした方ですね。」 「そうよ。」 「・・・・・・おそらくそれは嘘であろうと私も思いますが、偽者である証拠はどこにもありませんでした。・・・・・・あのように驚かせることはいけないことです！」 「だって！」 「だって、ではありません！・・・・・・・嘘ならばそれを正すことは必要ですが、暴力はいけません！」 「暴力じゃないわ！・・・・・・あの人には指一本触れていないじゃない！」 クリフトはビンの切断面を指差した。 「いくら姫さまでもこのように鋭く切断することは無理です。・・・・・やすりで傷をつけましたね？」 「あう・・・・・少しずるをしたことは認めるわ。反省します。・・・・・・約束するわ。もっと腕をあげて傷をつけて置かなくても切断できるようにする！」 クリフトは手で目を覆った。 「そんなことを言っているのではありません！・・・・・・やすりで傷をつけておいたということは、計画的なことだった証拠ではありませんか！」 アリーナは少し口を尖らせた。 「あの人がとても失礼だったから・・・・・・・」 「・・・・・・・彼は何をしたのです？」 「私が城の中を案内している時、あの人が洗濯物を運んでいた侍女のサラとぶつかったの。しゃがんで落ちた洗濯物を拾っているサラをあの人は怒鳴りつけたのよ！『謝れ！下賤な者が！私は王家の血に繋がるものだぞ！』って・・・・・私、あの人が本物だろうが偽者だろうが、許せなかった・・・・・・」 怒っていたクリフトの顔が少し穏やかになった。 「それにあの人、こういうときの為に作っておいたこの唐辛子入りのクッキーは食べなかった訳だし・・・・」 「姫さま！」 声を再びあらげるクリフトとアリーナの間にランデルは割って入った。 「クリフト、落ち着け。・・・・・・アリーナ様、確かに今の行動は褒められたものではありません。しかし・・・・・クリフト、君もわかっているだろう。一人の人間が王家の末裔かどうか調べるのは容易なことではない。さっきの輩のように逃げ出してくれる人間は調べる手間が省けて助かる。・・・・・しかし、アリーナ様、国王陛下はこのようなこと決してお喜びにはならないと思います。」 アリーナはにこにこ笑った。 「大丈夫、大丈夫！だってお父様は、私に向かって片目を瞑りながら、『アリーナ、このお客様を、お前の持てる限りの力でそれはもう徹底的にもてなしてあげなさい。』って仰ったんですもの！」 この親にしてこの子あり。・・・・・・クリフトとランデルは顔を見合わせた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「君も苦労が絶えないな。」 先程までクリフトが作業をした部屋に入ってきたランデルはポンポンと少し年上の友人の肩を叩いた。 「偽者は１年に１人くらいは今までもやってきていたが・・・・・・アリーナ様が城に戻られてからはその数を増した。・・・・・・婿として売り込みたいのだろうな。・・・・なんだ。王家の家系図か。何を調べていた？」 クリフトはランデルに椅子を勧めて座らせると、自分も腰掛けた。 「一応初めは魔王、或いは魔王に連なるものと戦った王家の人々を確認していたのだけれど・・・・・・」 「・・・・・けれど、何だ？」 「・・・・・・・笑われることを承知で言いますが・・・・・・姫さまの婿殿に良さそうな御仁はいないか・・・・・・と傍系の方々を中心に調べていたら、それに熱中してしまい・・・・・・」 ランデルは天井を向いた。 「・・・・・・それで、見つかったか？」 「・・・・・・・年齢の合う方を虱潰しに検討した結果、一人を除いて駄目だという結果が・・・・・・・」 「・・・・・・一人を除いて？一人・・・・・・というのは？」 クリフトはランデルを指差した。 「冗談を言え！」 「冗談ではありません！・・・・・駄目ですか？」 「確かに私は王家の血筋を引くが・・・・・・・」 クリフトは指でアリーナの祖々祖母にあたる人物をさした。その両隣には二人の王女の名が書いてあった。 「白ユリ、紅バラ、キンポウゲ ・・・・・か。」 「ええ。現王家は第二王女、明るくて活発であらせられた紅バラ姫と言われた方に繋がる方々です。」 「長女であらせられ、静かで気品に溢れ、優しく、大きな魔力を持った白ユリ姫は若いうちに儚くなられたと・・・・・・」 クリフトは歴史書にかかれたことを思い出しながら言った。 「・・・・・・魔物に襲われた人々を助けるため、王宮を出て働き、そのまま帰らぬ方になったと・・・・・・ランデル、あなたは第三王女、キンポウゲの姫に連なる方ですね。可愛らしく春の日溜りのような暖かさを持った姫は、当時の騎士隊長と恋におち、降嫁されたと・・・子供向けの物語にも残っていますね。」 ランデルは、キンポウゲの姫から受け継いだかも知れぬ見事な金髪を掻き揚げた。 「物語にされているほど大げさなことはなかったようだが、大恋愛の末のことだったのは確かなようだ。・・・・・・おい、しかし、どうして私が姫の婿に、と思うのだ。」 クリフトはにっこり笑った。 「無用の混乱を避けるためには、国内の有力貴族の子弟が婿となられるのが一番のこと・・・・・その中で世間からの評価も高く性格が良いのは・・・・あなたしかいないものですから。」 近衛騎士部隊長はどん、と机に両手を置いた。腰の剣ががちゃりと音をたてる。 「私はアリーナ様に邪な感情など抱いたことは全くない。」 クリフトはすうっと目を細くする。 「・・・・・・ではなぜあなたは姫さまのまわりによく出没するのでしょう。・・・・必殺技の練習台にされることをあれほど嫌っていたあなたが・・・・・。姫さま付きのお針子のメイさんが教えてくれましたよ。“この頃不思議なほどにランデル様にお会いするんです。”って。」 さあっとランデルの頬に朱が登った。 「そ、それは・・・・・・・・」 クリフトは家系図を畳みながらうきうきと鼻歌を歌った。 「考えて置いて下さいね。・・・・・・・私にとっても重要なことなのです。姫さまがうまく片付いて下さらないと、かねてよりの希望、聖地への巡礼の旅に出るわけには参りません。そして最終的な希望である、僻地の村への派遣などそのまた夢になってしまいます。」 「・・・・・・・・・」 と、話題に上っていたメイがやってきた。 「クリフトさん！陛下がお呼びです。すぐに謁見の間に来て下さい！」 一体なんですか、と訝るクリフトに、メイはいたずらっぽく笑って見せた。 クリフトが謁見の間に入ると、アリーナもそこに居た。 「陛下。クリフト、参りました。何の御用でしょうか。」 サントハイム王は頷く。 「用というのは他でもない。アリーナ、そしてクリフト、あちらを・・・・・・」 外部に繋がる大扉が開かれた。その向こうに立っている人影は・・・・ 「トルネコさん！」 アリーナがドレスの裾を翻して走り、ほとんど飛びつくようにして抱きついた。紫色のフェルト帽に縦じまシャツ。お腹は昔と同じようにぽっこり肥っていて・・・・・・ 「お姫様！久しぶりです！今回のお招き。もういてもたってもいられなくて、少し早めですが参上いたしました！」 そう言いながらトルネコはアリーナを抱き上げてぐるぐると回した。クリフトはトルネコの妻のネネに頭を下げ、しっかりと握手した。そして、にこにこしながら見上げるトルネコの息子のポポロを肩車した。はしゃぐポポロの頭の上に陣取っていたトルネコ家の一員のいたずらモグラはこれまたはしゃいでキイキイと嬉しそうな声を上げる。世界一の商人と吟遊詩人にも歌われるトルネコだが、偉ぶったところなど微塵もなく、別れた時と同じ優しい笑顔をしていた。 「世界復興の為のサントハイムでの大商品市の準備。そんなやりがいのある楽しそうなことならこのトルネコ、一肌も二肌も・・・・・贅肉だって落としてみせますよ！」 トルネコは腹を揺らして笑い、もう一度アリーナをぎゅっと抱く。 「ようこそ！サントハイムへ！待ってたわ！」 「ちょっとぉ！お姫様！こっちにもきづいてよね！」 懐かしい声がした。この良く通る、ちょっと色っぽい声は・・・・ 「マーニャさんにミネアさん！」 先程トルネコが居た場所に、リオレラ大陸の舞姫マーニャと占い師ミネアの姉妹に・・・・・・マーニャの所属するモンバーバラ大劇場の団長初め芸人一同が顔を揃えていた。 アリーナはトルネコに背を押され、ミネアと抱擁しあった。優しい占い師は姫の赤味がかった金髪を何度も撫でる。 「アリーナ、久しぶり。元気だった？」 「ええ！世界最強を目指すにはまず健康でなくっちゃ！」 苦笑するミネアの横で、クリフトが悲鳴を上げた。マーニャが神官にぎゅっと抱きついている。 「何よ〜！馬鹿神官！」 「だ・・・・・だから以前にも何度もお願いしたと思いますが、こういう親愛の情の示し方は・・・・・」 「・・・・・・・嫌なら避けなさいよ！・・・・・ったく。神官戦士が踊り子の素早さに翻弄されててどーすんの。」 アリーナが笑う。 「そうよそうよ！もうちょっと素早くならなきゃ！」 そんなアリーナの様子を見て、マーニャはクリフトの耳に囁いた。 （まだ何も進展してないってワケ？こういうときにヤキモチ妬いてくれないようじゃ困っちゃうじゃない！） 尚も絡みつくマーニャをミネアが引き剥がした。クリフトはぜいぜいぜいと息をつく。 「わかったわかった。馬鹿神官、今日のところはこれでやめといてあ・げ・るｖ・・・・・・ところでおじいちゃんは？ぎっくり腰にでもなった？」 「じいさまは、司教様と一緒に湯治に行かれました。それより・・・・・団員の皆さんそろっていらっしゃるとは・・・・・」 「そうよそうよ！マーニャさんとミネアさんだって、招待状は出したけど、来るのは難しいんじゃないかって言ってたのよ。」 団長は困ったように眉を下げた。 「少しばかり事情がありまして・・・・・・お姫様のお父様・・・・・陛下にはご説明いたしましたが、この地で引っ越し公演させていただくことになりました。」 それ以上団長が説明しようとしないのを見て、ミネアがすっと前に出た。 「・・・・・・・・・今から少し前、モンバーバラの町に、『ドラゴンブレス』という珍しいお酒が海の向こうから届きました。とてもアルコールがたくさん入っていて、小さなコップで一杯飲んだら火が吐ける。というとても強いお酒でした。・・・・・・ある日、一人のお酒が大好きな踊り子が、妹が止めるのも聞かずに、ぐびぐびと一気に一びん飲み干してしまいました。普通の人間だったなら、どうということもなかったでしょう。・・・・・・・でもその踊り子は、龍に変身して火を吐くことができる精霊使いだったのです・・・・・・・紅蓮の炎は、全てを・・・・・劇場の天井も壁も床も焼き尽くしてしまいました・・・・・」 澄ましてそう言い、ギロリと姉を睨む。 「あは、あははははは。」 ドラゴラムで変身したが最後、全てを破壊しつくすまで、その変身は解けないという・・・・・・・団長も団員もさぞ怖かったことだろう・・・・・・ 団長は苦笑いした。 「・・・・・・ということで、劇場は大改修中なのです。・・・・・・私どもはサランの町の近くに興行のためのテントを張らせていただくことになりました。これから小さな出し物をぼちぼち始めますが、商品市が始まったなら工夫を凝らした特別プログラムでモンバーバラの芸人魂をお見せしますよ！」 アリーナはぱちぱちと手を叩いた。 「商品市の開始のときには、色々な国の代表の人たちもやってくるの。エンドールのマクゲアおじ様もいらっしゃるし、バトランドからはライアンさんが使節の護衛として来る事がわかっているわ。ああ、なんだかとっても楽しくなりそう！ね、ミネアさん。リオレラ大陸からは誰が来るのかしら。キングレオのお城は今どうなっているの？」 ミネアは首を傾げた。 「・・・・・・・おそらくなのだけれど・・・・・・・お城の主として王家の末裔の誰かが担ぎ出されたという噂なの。・・・・・・・私たちは詳しいことは知らないのだけれど、まだ若いが誠実な人柄の方だということよ。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ キングレオ城・・・・・・・・かつて、ここは“進化の秘法”を悪用して、ヒトをヒトならざるものに変える悪魔の業の実験場となっていた。勇者たちがその野望を砕き、悪しきものから城を開放した後も、この城は忌まわしき場所としてしばらくは閉鎖されていた。・・・・・・・・その城に半年ほど前から人々が戻ってきた。かつて、偉大で優しい王が住まっていたあの時代を再び作ろうと、心ある人々が城に集ったのだ。・・・・・・怪物と化した人々が閉じ込められていた地下牢は埋められ、城を取り巻く堀の縁には可憐な花が植えられた。そのキングレオの隠し部屋の戸を、女官に案内された一人の青年が開いた。 「・・・・・・・・・」 青年は、隠し部屋の壁に浮き彫りにされた獅子の姿をした怪物の浮き彫りに眉をひそめた。 「まだこんなものが残されているのですか。」 女官は膝を軽く折って言った。 「神官様たちが、この部屋に満ちていた“魔”はすべて祓って下さいました。この部屋が昔のまま残されているのは、以前ここで起きた忌まわしい出来事を忘れないため・・・・・ただそれだけのためですわ。ご主人様。」 青年は浮き彫りに近づき、それを拳で殴りつけた。 「私は王に相応しい力を持ってはいない若輩ですが、・・・・・・この地に生きとし生ける者すべてが平和に暮せるよう頑張りたいと思います。」 大臣の一人が口を開いた。 「・・・・・・・・お手伝いいたします。すべての者が等しく平和に暮せる世界を作るために・・・・・」 案内してきた女官が頷いた。 壁際にいた兵士長も頷き、兵士達が同意を示して槍を掲げた。 くすり。 そこにいた誰かが心の中で嘲笑う声をたてた。 アリーナ達は知らない。その“誰か”が近い未来にサントハイムを恐怖に陥れることを・・・・・・ |
| なんだか連載になっちゃったみたいです。完全にクリアリじゃないですね。白ユリ、紅バラ、キンポウゲというのは、昔から童話などでよく出てくる花です。月並みですが私も使ってしまいました。 管理人はケラーの「白ユリを赤い薔薇に」の「色白のガラテアにキッスせよ。顔赤らめて笑うべし」というひとくだりが、妙に頭に残っています。顔を赤らめるだけでは駄目、にっこり笑うだけでも駄目。両方揃わなければ、それは運命の人ではないんだよ、というような話だったと思います。アリーナにもそういう要求をしたいんですが、ウチの姫の性格じゃ駄目みたいです・・・・・・ 更新遅いですが１年以内には完結させたいです・・・・ってどのくらい長く書くつもりなんでしょうか。私は。 |