 ジンベエと月見団子 |
「・・・・・・！？ジン様、いったいどうなさったのですか!?」 緊急に目を通してもらわねばならない（←いや、もとはといえば、目の前にいる司令官が彼に書類作成を命じるのが遅すぎるのが原因なのであるが）書類を手にし、司令官室に入った宇宙戦艦ギャラクティックジョーズ副官ことブルーは、デスクにつっぷし、頭をかかえてうんうんうなっているジンベエを見てギョッとした。 うんうんうなるジンベエの前には見事な輪島塗の三宝が置かれ、その上には月見団子が１５個散らばっていた。 ブルーの声を聞き、むく、とジンベエは起き上がった。 「ブルー、貴公、十五夜という行事を知っているか？」 「はあ、名前だけは・・・・・」 この地での仕事が長くなってから（そして、司令官のどーでもいいおしのびが等比級数的に増大してから）、副官である彼も必然的にジャパンエリアの季節行事には通じるようになっている。 ジンベエはうむ、と頷きパチ、と指を鳴らした。隠し部屋の扉がスライドして開く。そこには十五夜の供え物が用意されていた。 「十五夜とはこの惑星に昔から伝わる行事で、あのように栗、芋、ブドウなどの秋の恵みとともに、ありとあらゆる甘味を月に捧げ、満月を見て跳ねる、という実に風雅な行事である。この後、レクリエーションルームにて宴が開かれる。ゴン爺がホール全体を一面のススキ野原に変えてくれた。また、職人達も腕を奮い、更なる供え物を鋭意作成中だ。・・・・・・・・今宵は皆で跳ねて跳ねて跳ねまくろうぞ！」 何か盛大に違う、と思ったがブルーは口には出さなかった。・・・・・レンガのように積み上げられ茶色の壁のように聳えている虎屋の羊羹を見、顎を落とさないようにするだけで精一杯であったのだ。 「そしてその要となるのがこの15個の月見団子であるのだ！」 三宝の上に雑然と散らばっている団子を指差す。 「・・・・・・・・・・しかし・・・・・・・・・・・・私にはわからぬのだ。」 「な、なんでしょう。」 「・・・・・・・団子の配置だ。・・・・・・・見よ！団子が四角錐に積まれていると仮定しよう。一段目は３×３で９個。二段目は２×２で、４個そして最後の１個が乗る。・・・・・・しかし！９＋４＋１＝14にしかならぬではないか！・・・・・・・・・無論、他の可能性も考えた。正四面体ではどうかと・・・・・一段目はこうだ。まず４個を一列に並べ、その上に３個、２個、１個と置く。４＋３＋２＋１＝10個で三角形ができる。すると２段目は６個。そして最後の１個だ。・・・・・・・・しかしこれでは10＋６＋１＝17！これもまた15にならない・・・・・!!」 ジンベエは白い手袋（←食品取り扱い専用）の嵌った自分の手を見、それをふるふると振るわせた。 「何か・・・・・・私は見落としていることがあるのではないだろうか・・・・・古来より伝わっているというこの行事・・・・・・団子が美的感覚を無視して配置されるなどあり得ぬ！」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 頭のなかで15個の団子をあちこち動かしていたブルーははっとした。こんなことに時間を潰している暇はない。今はとにかく書類だ。一刻も早く母星にこれを送らないととんでもないことが・・・・・ 「わからぬ・・・・・！うううう・・・・・・・何故神は私にこのような試練を与えたもうたのだ！」 ブルーはふかーくため息をつき、一度団子を崩すと、３×３にゆるく正方形をつくり、上に２×２を置いて、その真ん中にぎゅう、と１個を押し付け、その上に最後の１個を置いた。」 「これで15です。」 「む・・・・・・・つじつまは合うが・・・・・・無理矢理というのは美しくないではないか！」 ブルーは首を振った。 「無理矢理ではありません。・・・・・・・・・・・確かにこれでは外見上は14個しかないように見えます。しかし、14個だ、と思って団子を崩していくと、中央に隠されていた残りの１個が見つかるのです。十五夜の月を見てその美しさにウサギすら驚嘆して跳ねるというではありませんか。サプライズ、驚き、意外性、これこそが今宵のキーワードでございましょう。」 ジンベエは目を見開いた。 「お、おおおおお！そうであったのか！いや、貴公は物知りであるな！」 ええ、それはどうでもいいのですが、この書類を、と切り出そうとしたブルーの手をジンベエはぎゅっと握って大きく上下に振った。 「さっそく積まねばな！」 「は？積む？しかしもう私がここで積みましたが。」 「何を言っておるのだ？ススキ野原中央には築山をつくり、直径50センチの団子を乗せるために巨大三宝が設置されている。ブルー、さっそく陣頭指揮をとって団子を積んでくれ。私はメインイベントの準備をしてくる。任せたからなｖ」 あ、お待ち下さい、と呼びかける間もなく、ジンベエは光の速さで走って消えた。 ブルーは書類を机の上に置き、ふうううううううううう、と息をついた。徹夜で仕上げた書類だが・・・・・・・・・・・・・・今宵は十五夜。ブルーにとっては長い長い秋の夜になりそうであった。 |
| イベント後、巨大団子は一部はみたらし・あんこ餅として、その他は巨大な鍋を使って次の日にすいとんの具になる予定。ギャラクティックジョーズでは秋にはすいとんの他に芋煮会などもやっていそうです。 ところで、お月見団子の積み方って、実際のところ、どうなんでしょう・・・・・決まった方法があるのでしょうか？ |