導かれし者の一員として、魔王を倒す旅より帰還して数日後。 ライアンは、以前と同じようにバトランド周辺の巡回を行なっていた。 森を駈け、洞窟を抜けてイムル近くの平原へ。 空は澄みわたり、風は心地よく…ここも平和だった。 彼の鼻孔を懐かしい香りがくすぐっていく。 香料などについては全くの門外漢である彼でも、この香りだけは知っていた。 そう、これは小さな友人が教えてくれた、見栄えは悪いあの花の香り。 その時、 「ライアン殿…」 テノールというにはやや甲高い声がライアンを呼びとめた。 その声の主は、アレクよりもいくらか年若い様子の少年。 額には吟遊詩人であることをしめすサークレット。 この空をまんまるく切り取ってきたかのような、澄んだ青い瞳。 蒼いローブの上から、肩に引っかけているのは、 彼には少し大きすぎる、元は真紅であったであろう色あせたマント。 その中身は竪琴であろう、 荷物の背負い紐をしっかり握っている左手には、赤い飾り紐がふたつ。 一つはとても古ぼけたもの。そしてもう一つはまだ新しい真っ赤なもの。 ……それは、あの日、自分がしっかりと結んでやったのとまったく同じもの。 ライアンは馬上から飛び降り、どこかおどおどした様子の少年に声をかける。 「そなたは…、ホイミン？」 ホイミンと呼ばれた少年は子供のように顔を輝かせた。 そして、彼、ホイミンは、 村で教わった「オトナのニンゲンのコトバ」も 旅で培った詩人らしい落ちついた物腰も忘れて走り出し、 「ライアンさん！」 ライアンの左の肩当にかじりついた。 あの冒険の時と同じように。 「わ〜い、よかった！わかってもらえて。 あのね、僕、ライアンさんにすごく会いたかったんだ。 でもね。ほら、僕、人間になっちゃったでしょ？ だから、もしライアンさんに会えても、 わかってもらえなかったらどうしようかってずっと心配もしてたの。 だからね、ライアンさんが僕をわかってくれて、すごくうれしいんだ！」 ひとしきり喋った彼は、懐かしそうにライアンを見上げ…、 その瞳を驚きでいっそう丸くする。 「あれ？ライアンさん？どうしたの？どうして泣いているの？ 何か哀しいことがあったの？それとも、どこか痛いの？ 待ってて！僕、まだ回復呪文使えるんだよ！ 今、痛い所を治してあげるから！」 早速、右手を挙げて呪文の詠唱に入ろうとするホイミン。 しかしライアンは、ポンッと彼の頭を優しく叩いてそれを止める。 「違う、ホイミン。そうじゃないんだ…。どこも痛くない…。大丈夫だ…。 さ、それより、お前の話を聴かせて欲しい。 今、どうしているんだ？」 「うん！あのね、僕…」 青空にホイミンのコントラテノールが響く。 やがて、ふたりは並んでイムルの村へと向かっていった。 誰もいなくなった平原に 風がホイミンの嬉しそうな声を運んでいく。 「ライアンさん、ライアンさん…」 おしまい。 |
| そらまめさんから20000HITのお祝いに頂いたホイミン＆王宮戦士のＳＳです。このへっぽこサイトの文の続きの一場面を書いていただいてしまいました！そらまめさんは『その後のホイミン像』をメールで質問して下さってそれをぴっちり取り入れて下さいました！ありがとうございます！ヽ(^o^)丿壁紙はあのへっぽこ蛇足と同じにしてしまいましたが、宜しかったでしょうか・・・ これから二人はどんな話をするのでしょうね。・・・・・王宮戦士は導かれし者との旅の話をするのでしょうか。それともそれは置いておいてひとまずはホイミンの話にゆっくり耳を傾けるのでしょうか・・・・・・ それではそらまめさんの設定公開ｖ『ホイミンは蘇った後、少女とともにイムルの村でしばらく暮らしていたと思います。そこで詩人としての腕と(オトナの)言葉づかいを学んで、(見た目)15くらいになった時に旅に出ます（コーミズ村にいた時は16,7くらい？）ライアンには、会えずじまいのまま、とりあえず平和になったので(それと少女に“時々は戻ってきて”とか言われていたのかもｖｖ)村に戻った、あるいは帰ろうとした時に再会ｖ』 赤い飾り紐を二つしているのは、古いものは色褪せてしまったので、「戦士様が見てすぐわかってくださるように」と少女が新しく作ってプレゼントしてくれたものだそうです。 コントラテノールとは男性の声ですが声域は女性のアルト域と同じです。いわゆる裏声ではなく、少年の声に近い透き通った声です。 ホイミンが澄んだ声でどんな歌を歌うのか、聴いてみたいですｖ（うちの某ヒネクレ吟遊詩人より遥かにまっすぐな歌に違いない） そらまめさん。可愛らしいお話、ありがとうございました。 |