ring bearerｓ

ゲーム「風色サーフ」の二次創作です。ゲームはすべてのキャラクタールートをクリアしましたが、製作者様の独自裏設定は存じ上げませんので、オフィシャルとかけ離れております。また、ネタバレ満載ですので、ご注意くださいませ。 アレックさんED後から少したった頃。基本はロビュ小隊＆フォンク亭小話。オズウェルメインです。 ネタバレに留意しておりません。また、ゲームをクリアしていない方にはわからない部分が多々あるかと思いますがご承知置き下さい。 尚、ring bearer とは花嫁さん花婿さんのための指輪を持っている人のことです。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

その日、医療室に詰めていた看護兵のアリサは、入り口から入ってきた整備兵の姿を見て、小さな声を上げて立ち上がり駆け寄った。 　彼女の視線の先にはオズウェル。彼の左手はオイルの染みがいくつも見えるタオルでぐるぐる巻きに包まれている。それなりに大きな切り傷を作っても頑として医療室に来るのを嫌がるオズウェルがこうして自分からここにきたからには、よほど大きな傷に違いない。が、幸いにもオズウェルの顔色は蒼白ではなく、汗を変な具合にかいているわけではない。いつもと変わらないむすっとした表情のままだ。 　「どうしたの!?オズウェルくん！？」 　すると、オズウェルはますます不機嫌そうになり、唇を一度噛むと“いい、やっぱり俺は戻る”と回れ右をした。 　「おいおい、ちょっと待て！」 　奥の部屋からやってきた大柄な軍医はむんずとオズウェルの後ろ襟を掴んで引き戻し、有無を言わせず診療椅子に座らせた。 　「お前はナカジマのところの一等技術兵だな。……冷やかしでここに来た訳じゃあるまい。そのタオルを取って左手を見せるんだ。さあ、早くしろ。」 　軍医はオズウェルが何事か言い返す前にタオルをむしりとり、左手を見て……呆れたようなタメイキをついた。 　「…………なにを馬鹿をやっとるんだか。だが、このまま放置すれば確実に壊死するぞ！だからといって、型通りの医療行為でどうなるもんでもない。……正直、こういうのは不得手だ。アリサ君。」 　は、はい。とアリサが返事をすると、軍医はオズウェルの手首をぎゅっと掴んで持ち上げて言った。 　「この馬鹿者の指を診てやってくれ。……石鹸か油でどうにかなるだろう。」 　……オズウェルの左手薬指は第二関節までが赤黒く膨れ上がり、指の根本には飛行機部品のナットがぎっちりと嵌ったまま抜けなくなっていた。 　「も、いい。石鹸水で取れるなら、俺一人でやる。」 　濃い石鹸水を洗面器に作り、オズウェルの指を浸してナットを動かそうとしたアリサに、オズウェルは強い調子で言い放ち、アリサを追い払うように右手を振った。しかし、アリサは怯まなかった。 　「駄目です！オズウェルくんは左手が使えないでしょう。右手だけで外そうとしても、中々うまくはいかないし、一人で取ろうとして駄目だったからここに来たんでしょう！……凄くきつく嵌っているけれど、入ったものは、少しずつまわしていけば絶対に取れます。おとなしく暫くそこに座っていて！逃げたら、先生に親方さんを呼んでいただきますよ！いいわね！」 　普段は人見知りでおとなしいアリサが大声で一喝してきたのに驚いたオズウェルは、不満そうだったが、おとなしくなった。アリサはそうっと指輪を回していく。 　「……っ！」 　痛みにオズウェルが声をあげると、アリサは眉を下げた。 　「ごめんなさい。でも、早く抜かないと、先生のおっしゃったように壊死しちゃうから……少し緩んできてはいるから我慢してね………………どうしてこんなものが指に嵌っちゃったの？」 　答えが返ってくることは期待していなかったアリサだが、意外にもオズウェルはゆっくりと経緯を話し始めた。 　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　それは、オズウェル一人がドックで仕事をしているときだった。 　「よっ！今日も一等技術兵殿は勤勉だな！大いに結構結構！わはっは！」 　規格外の大声に反応し、オオルリのコクピットからひょい、と顔だけを出したオズウェルは不機嫌そうに言った。 　「ブロッホ上級曹長殿、俺に一体なんの用ですか。遊びに来たのなら帰って下さい。」 　ドゥニははあああああと大げさにタメイキをついてみせる。 　「オズウェル……なんかこの頃フランツの野郎と対応が似てきやがったなあ……もっと愛想よくならねぇかね……って無理か……」 　「用件をお願いします。用がないのなら、俺、仕事がありますから。」 　すると、ドゥニはにたぁりと笑って………… 　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　「…………エリカにとって大切なことなんだ、とあの人が言うもので…………一応聞いてみたんだが……」 　アリサはこっそり微笑んだ。エリカが絡んでいると聞いてオズウェルがドゥニを無視するわけがない。 　 　「………………エリカの指輪のサイズを訊かれたんだ。」 　「え？ドゥニさんがエリカちゃんの？……どうして？」 　オズウェルは眉根に皺を作り、右手でがしがしと頭を掻いた。 　「…………あの人がいつまでもエリカと婚約しようとしないもんだから、ドゥニさんが“とにかく今のうちに指輪を買っとけ”と焚き付けたんだそうなんだが、あの人に“俺は彼女の指輪のサイズを知りませんから”なんて、いつもののらりくらりとした口調で逃げられ続けているんだってことで…………一番身近でコンビ組んでいるんだからそれとなくエリカから聞き出せるだろう、頼んだぞ…………って…………あっけにとられてる俺の返事も聞かずに………………いくらコンビを組んでいても唐突に指輪のサイズなんて訊けるか…………！」 　石鹸水の中で手を休めずに動かしながらアリサは小さく頷いた。 　「そっか。そうなんだ。それでもオズウェルくんは、エリカちゃんの指輪のサイズを調べようとしたんだね？」 　「……ああ…………エリカの奴は２年も待ったんだ。あの人も何かしら考えているんだろうが、いい加減片を付けてくれないとこっちもなんかイラつく。…………でも指輪のサイズなんてどうやって測るのか俺にはわからん。一度はあいつの手袋から割り出そうとしてみたが、手袋は密着している訳でもないからな。それに指の断面は正円じゃあないだろう。径を測定するとしたら横径か縦径か？それとも、径じゃなく、周の長さが重要なのか？…………そんなことを考えながら、手近に転がっていたナットを指に嵌めていたら……」 　「……取れなくなっちゃったんだね。」 　アリサの声には、嘲る調子は微塵もなく、オズウェルをほっとさせた。 　「……あ、もうちょっとで外れそう。痛かったらごめんなさい。」 　ちょっとアリサが力を入れると、ナットはやっと指から外れ、オズウェルはやれやれ、といった風に薬指の根本をさすった。 　「今、消毒しますから。」 　「……これくらいなんでもない。石鹸で洗ったんだし」 　「そういうものじゃありません！ナットには錆があったし、出血だって随分しているじゃないですか！……さ！手を出して下さい。」 　アリサは、こと医療に関しては、整備に対するオズウェルの姿勢と同じくらい頑固だ。オズウェルはタメイキをつき、手を指し出し、消毒薬をつけた綿玉で傷をこすられ、包帯を巻かれた。 　「………………ものは相談なんだが…………」 　いやに真剣にそう呟いたオズウェルにアリサは微笑んだ。 　「うん、私も考えてみるね。そして、わかったらドゥニさんに言うわ。それでいい？」 　ああ、頼む。とオズウェルはゆっくりとそして深々と頭を下げた。 　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　「え？エリカの指のサイズ？……いきなりどうしたの？」 　休憩時間に医療室を訪れてアリサとお喋りに興じていたカレンは目を丸くした。 　「……あのね……実は……」 　アリサはオズウェルのことは話さず、ドゥニがアレックに婚約指輪を作らせようとしていること、ついてはエリカの指輪のサイズを知って後押ししようとしていることを話した。 　「…………うーん、おせっかいって気もするけど、確かに未だに婚約していないのはじりじりするわよね。間に立ってるのがドゥニさんっていうのがちょっとアレだけど、親友の幸せの為なら一肌も二肌も脱ごうじゃないの！…………でも、アリサ、あなた、エリカから聞き出せなかったの？」 　「うん……あのね」 　アリサはエリカと夕食を一緒に食べた時、祖母から貰った古い指輪を持っていったのだという。そして、エリカに嵌めて貰ったのだが…… 　「うちのお祖母ちゃん、随分がっちりした手をしてたから、エリカちゃんの指にはゆるゆるで……全然わからなかったの。」 　「はあ!?」 　ベッドに座っていたカレンは勢いよく立ち上がった。 　「そんなの、遠回りせずに四方山話のついでに、そのものズバリを訊けばいいことじゃない！」 　すると、看護のこと以外では恥ずかしがり屋で内気な性格のアリサは頬をぽっと赤らめた。 　「……そんな……指輪のサイズなんて恥ずかしくて訊けないよぉ。話のついでっていっても、エリカちゃんとはそういうお話はしないし……」 　カレンは、ふう、と息をついて今度はどしん、とベッドに腰を下ろした。 　「そんなもの、お祖母ちゃんの指輪のこと話してるときについでに訊けたでしょう！」 　あ、そうだ、そうだったね。私ったら……とアリサが俯くと、カレンは大丈夫、あたしに任せておきなさいよ、と胸をどん、と叩いた。 　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　「え？」 　フォンク亭でカレンと一緒に昼食を食べていたエリカは、不思議そうに首を傾げた。 　「カレン、今なんていったの？」 　「ん？だから、指輪よ、指輪！」 　「えーと、指輪……って……私、してないんだけど……」 　ほら、と両手を見せるエリカに、カレンは、そんなことわかってるわよ、と言い放つ。 　「ほら、なんかあたしとエリカって指の太さ同じくらいじゃない？もしも同じサイズだったら使いまわしもできるしー。サイズ、いくつ？」 　するとエリカはパチパチと瞬きした。 　「指輪って……サイズがあるの？」 　カレンは机に突っ伏した。 　「…………あ、あのねえ。指が細い人もいれば太い人だっているでしょが。」 　「たしかにそうだけど、指の根本までぎゅって押し込めば誰でもうまく嵌るんじゃ？」 　「……ないない…………そんなことないから。ちゃんとサイズってあるから。」 　するとエリカはじっと自分の指を見た。 　「サイズってどうやって決めるのかしら。指断面の半径？でも断面は正円じゃないし。径じゃなく、周の長さをもとにするの？ねえ、カレン、どうなの？」 　……どうやら、指輪のサイズに対してエリカが考えることはオズウェルとほとんど同じらしい。 　「そんなの知らないわよー！お店に行くと、サイズの見本があって、それを嵌めて試すのよ！」 　「……そうなんだ。あれ？カレンだって指輪は持っていないんじゃ？」 　何故かカレンはかーっと紅くなった。 　「そ、それは……買うのはお金が貯まってからよ！」 　指輪のサイズを調べてみたのは、『あいつ』が指輪を買ってくれるなんてことになったらすぐにサイズを教えるため、なんてこと、この場で言えるわけがない。…………あいつときたら『買いなさい、買わなきゃ殴るわよ』とでも言わない限り、こちらに向かって小さな一歩を踏み出そうともしそうにない。 　「そうよね、相場ってわからないけれど、地金でも銀やましてや金やプラチナは高いしね。でも、そのサイズって誰がどうやって決めたのかな？」 　「…………とにかく見本には数字がついていて……」 　「え？その数字が�o単位だとしたら、どこの長さかしら。」 　「だから！あたしに訊いても駄目だってば！」 　すると、料理を置きに来たサラがくすくす笑いながら言った。 　「径じゃないと思うわぁ。私が持っているのは40のリングだけれど、指周りなのかしらぁ？」 　カレンはサラの手を見る。40というのは物凄く細い。サラの手はしっかしりた“働く者の指”でそんなに華奢ではない。それに右手にも左手にも指輪は見当たらない。 　「サラさん、普段から指輪してないですよね。お出掛けするときに嵌めるんですか？」 　サラは首を振る。 　「まだ小さかった頃、父さんが出征するときに、作ってくれたの……でも今の私には小さすぎて嵌められないのよぉ。……指輪はサイズ直しができるから、指にあわせる事もできるのだけど、指輪は仕事の邪魔になるし、出掛けるときにお守り代わりにバッグに入れてるの。」 　エリカはじっと自分の指を見る。 　「内周だったら糸でも巻きつければわかるけれど、さっき言ったように人間の指は正円じゃないからそれだけじゃダメな気がする。」 　もう〜この子ってば、興味があるのはそういうとこなの？とカレンは半目になる。いや、でもここで挫けては話が先に進まない。 　「あ、そうだ。おかみさん、指輪していらっしゃいますよね。ねえ、エリカ。ちょっとおかみさんの指輪を嵌めさせてもらったら？」 　するとおかみさんは陽気な笑い声をあげた。 　「カレンちゃん。残念だけどそれはできないわ。」 　そうして、結婚してこのかた外したことがない結婚指輪を嵌めた左手をこちらに翳してみせる。おかみさんは指輪を右手の親指と人差し指で摘んでまわそうとして……ぶんぶんと首を振った。 　「あの人にこれを貰ったときにはうんと指が細かったんだけれどね。あれから少しばかり肥えちまって、今じゃもう簡単には抜けなくなってるのよ。……もっとも、この指輪を外していいのは、あたし自身の他にはあの人だけなんですけどね。」 　“あらぁ、母さんってば惚気てるわぁ。”“母さんだって惚気るわよ、だってお父さんのことを愛してるんだから。”“ふふふ〜ご馳走様ぁ”、という母子の会話をエリカは複雑な想いで聞く。 　ドニス・フォンクは大陸対戦中、シュレスベルク帝国領内で撃墜されたと聞いた。そのとき彼の指にはおかみさんと揃いの指輪が嵌っていたはずだ。その指輪はどこにあるのだろうか。撃墜されたその場所にひっそり落ちているのだろうか。誰かに拾われたのだろうか。だとしたら、今、誰かの指に嵌っているのか。一度融かされて別の何かに変えられてしまったのか…… 　おかみさんは、エリカを見つつ目を細めた。彼女には、カレンがどうして指輪のサイズを聞いているのかなんとなくだがわかっていた。 　『そうね、あの伍長さんだったら、自分から指輪のサイズなんて訊きそうにないものね』 　自分と同年代の、蜂蜜色の髪をした伝説の撃墜王を思い浮かべ、その背を思い切り後ろから押してやりたい気持ちでエリカに言う。 　「そうねぇ。エリカちゃんだったらどれくらいのサイズなのかしらねえ。一度カレンちゃんと一緒にサイズを確かめにいったらどうかしら。そのとき、エリカちゃんが疑問に思っていることも質問できるし。そうねえ、サイズは49くらいかしらね〜？」 　「いいや！49じゃない、50だ！」 　そう高らかに叫んだのは、エリカやカレンがよく知っている声……ロビュ小隊の誇る伊達男、言わずと知れたコリン・グレイディーア中尉である。 　「ちょ…………コリン、あんた、何を根拠に断言してんのよ。」 　隣のテーブルで若手パイロット達と食事していたコリンはこちらへぶらっとやってきてエリカの隣にすとんと腰掛けた。 　「いや〜、さっきからカレンちゃん達の声が聞こえてたんでさ、つい反応しちゃったんだけど……」 　そう言ってエリカの左手をすっと取る。 　「カレンちゃん。何を根拠にって、見りゃあわかるでしょ、見りゃあ。何度も見てればわかります！指輪のサイズくらいわからないでどうしますか…………って…………え？え？何か俺、信用されてない？」 　信用するもしないもそれが常人技でないことは確かだ。 　女達からじっと見つめられたコリンは、カレンの指輪サイズを見事にあててみせ、ほーら、コリンさんを信用しなさい。と自慢げに言った彼にエリカは拍手した。“目視だけでわかるなんて、コリンだったら、転がっているボルトの直径を間違えることなんてなさそうね、凄いわ。”と心底讃嘆する彼女の横でカレンは、“女の子の指輪のサイズはわかってもボルトは駄目だと思うわよコリンは”、とブツブツ小声で呟いた。 　　それから程なくして、ドゥニを胴元にした賭けが始まった。『今は航空班隊長である嘗ての補給班伍長が遂に指輪を購入したが、恋人に求婚してそれを渡すのはいつか』その内容は小隊中を駆け巡り、当人達以外には知らぬ者はほとんど居ないこととなった。 　コリンは、“カレンちゃんがエリカちゃんの指輪のサイズを聞き出そうとしていたのはそういうことだったんですか、すぐに俺に聞けばよかったのに”、とドゥニの背を親しみを込めてどんと叩いてどやしつけた。 　実際にエリカが指輪を手にしたのはそれからずっと先、ひと月と半分以上たってからだった。 　「よーし、今日はこれで解散！」 　ナカジマの終業宣言が出、整備士達は店仕舞いを始めた。コンビを組んでいるオズウェルの傍らで床に座って工具箱を片付けたエリカは、作業用手袋を外す。左の薬指には、青い石の嵌った銀のリングが輝いている。オズウェルがじいっとそれを見ているのに気づいたエリカは、どうしたの、というように首を傾げ、指輪に触った。 　「オズウェル？」 　オズウェルはエリカの声に我に戻り、不機嫌な声で問うた。 　「……その指輪、ずっとしているが、仕事の邪魔にならないのか？」 　するとエリカは気分を害した風もなく首を振った。 　「アレックさんも心配してくれて、首にかけられるように鎖も用意してくれたんだけれど、石は少しもでっぱっていない形のものを選んでくれたし、作業中は手袋をしてしまうし、全然邪魔にはならないの。あのね、婚約指輪や結婚指輪って、薬指にするでしょう？オズウェルはその理由を知っている？」 　「……薬指からの血管が直接心臓に繋がっているとかどうとかいう戯言がもとじゃないのか。」 　オズウェルの物言いに慣れているエリカは戯言などと言われても全く動じない。 　「そういうこともあるかもね。でもね、左手の薬指って10本のうちでいちばん動きが少なくて、大切な指輪を落としにくいっていう理由もあるんですって。私、なるほどな、って思ったわ。」 　そうか、とにかく仕事に支障がないのなら、俺は構わない、とオズウェル言い、あまりにもぶっきら棒な物言いをしてしまっていると感じたのか、こう付け加えた。 　「…………何度か見ているが、綺麗だな、その青い石。」 　嬉しそうにエリカは答える。 　「ええ、オオルリの色よ。」 　差し出されたオズウェルの手のひらに、エリカが指輪を外して載せると、気難し屋の先輩整備士は銀の指輪をそっと摘んで窓から差し込む日の光に翳す。 　「…………本当にな。オオルリ色だ。そして空の色だ。」 　“そうね、それからアレックさんの瞳の色”そう小さく囁いて頬を紅くしている同僚を口を半開きにして眺める。何か言い返してやりたくもあったが、幸せそうな様子に言葉を飲み込む。……こいつは誰よりこんな風に笑う資格がある。あの人と二人一緒に。 　返すぞ、というと、エリカは甲を向けて左手を差し出す。どこまで何も考えていない奴なんだ、と心の中で大きくタメイキをつきながら、オズウェルは指輪を左手の薬指の根本まで優しく嵌めなおした。

「指輪」の話。以前にアップした「あなたに祝福を」のちょっとした裏話です。公式のヴィジュアルファンブックの後日談では帰還後すぐにエリカちゃんに指輪を贈っている(=既にエリカちゃんの指輪のサイズを知っていた？)アレックさんですが、このサイトではいろいろなことに躊躇して物事が遅々として進まない人ですので、親方やドゥニさんに背を蹴飛ばして貰っております。(婚約後はフォンク亭のおかみさんに全力で蹴飛ばされます、はい。) 　エリカちゃんは実にいい仲間達に囲まれており、その中でも一番の親友はオズウェル。アレックさんルートでは、彼は報われないのですが、彼の優しさが光り輝くのもまたアレックさんルート。今回は報われないなりに、主役を張ってもらいました。 尚、ここで言う指輪のサイズはヨーロッパの規格(現在のＪＩＳ規格)で、リング内周の長さ(mm)を四捨五入したものです。ご参考までに。

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