レクリエーションはお好き？ |
ゲーム「風色サーフ」の二次創作です。ゲームはすべてのキャラクタールートをクリアしましたが、製作者様の独自裏設定は存じ上げませんので、オフィシャルとかけ離れております。また、ネタバレ満載ですので、ご注意くださいませ。 アレックさんルートで、アレックさんは帰還していませんが、皇帝が国外逃亡し、停戦となり、平和になった時期の出来事です。 完全ギャグですので細かいことには目を瞑ってやって下さいッ！ (ドゥニさんとの約束だッ!!) ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ |
「なるほど、それでは、十日後に、その『レクリエーション・デイ』とやらが決行される、というわけなのだな、少佐。」 指令室のデスクにかけた、ルイディナ=リトヴァクは、ウーデット副司令に向かい面白そうに言った。 「で、レクリエーションに、彼らは何をする積りだ。格闘戦か？球技か？まさか、腕相撲などという可愛らしいものではないだろう。」 ウーデットは息をつく。一応『レクリエーション・デイ』と銘打っているが、要はたちの悪いおふざけだ。内容を楽しそうに大声で同僚と喋っていた兵卒を一喝して聞きだしたのが昨日のこと。 「……塹壕戦を想定した非常に有意義なレクリエーションであり、終了後は速やかに現状復帰し、軍務にも支障ないとそう主張しておりましたが。」 ルイディナは口角をあげて微かに笑った。 「軍務に支障がないのなら別段構わないが。ただ、秘密裏に事を進めている辺り、全く支障がないとはいえぬものであろう？……首謀者は大方、あの上級曹長あたりであろうな。」 『慧眼恐れ入ります』、と少佐が言うと、『このようなこと、この小隊に三日も居れば分かることだ』、とルイディナはまた笑う。そして、机を、爪の先でコツ、と一つ打った。 「……帝国からの脅威は去った。平和の到来を祈念し、何か面白いことをしてやろうと思う気持ちはわからぬではない。しかも、『補給班の良心』たる伍長……いや、准尉と言った方がよいか……彼はまだ帝国に貸し出し中だ。……歯止めは効かぬ、か。……しかし、黙認されたと思われるのはちと癪だな。……さりとて、その程度の事に目くじらをたてて事の起こる前に摘発するのは私の流儀ではない。……ならば、そのレクリエーション・デイとやら、小隊の役に立って貰うことにしようではないか。少佐……今少し情報が欲しい。諜報員として三人ほどを選び、私のところに来させてくれ……判っているだろうが、ブロッホ上級曹長から遠い位置に居るものがよい。頼んだぞ。」 ルイディナはとても楽しそうであった。クラウスは、司令が何を成そうとしているのか、気がかりではあったが、敬礼をし、早速人選に入った。 レクリエーション・デイとは、昔、大陸大戦が勃発する以前に、ドゥニが所属していた小隊で流行った大いなる悪ふざけである。レクリエーションといえば聞こえはいいが、その実、『落とし穴大戦争』といった具合のものである。参加者は、ブルー隊とレッド隊の二つに分かれ、各々旗を立てた本陣を作る。その旗を先に奪取された方が負けになる。飛び道具は使用不可。突入してくる敵を阻止するのは、自分の肉体だけということになる。ただし、飛び道具は使えなくともあるトラップだけは許されている。それが落とし穴だ！レクリエーション・デイの夜、彼らは軍務で使用する通路以外の場所へ落とし穴を掘る。戦いが始まるのは深夜から。落とし穴に落ちたものは、その場でアウトとなり、どちらかが勝つまで無言で穴の中で待ち、穴の上から覗き込むギャラリーのにやにや笑いを脳天から受けながら、恥をさらしていなければいけない。落とし穴を掘っていいエリアは各チーム決められているが、その数は制限されていないため、落とし穴をどこにどれだけ短時間のうちに素早く掘るかが重要な戦略になる。 このレクリエーション、穴掘りだけは滅法うまくなる。……塹壕戦がどうのこうのというのはそこからでた方便だろう。 ドゥニの前には、小隊内の詳細な地図が広げられ、そのあちこちに赤い×印がつけられている。 「奴らがこうまわりこんできたら、こっちからこう迎え撃つ…………万一、向こうが数で勝っていたら、逃げるふりをして、この場所の落とし穴に誘い込む。…………第二班はこの茂みで偵察し、敵の第一波が通り過ぎた後、彼らの足跡を逆に辿り、落とし穴のない安全なルートを選んで肉薄する。」 地図を見つめるその黒い瞳は、戦略担当将官の如く鋭い眼光を放ち、周囲を圧倒する。 こんなに真面目に戦術を練るドゥニを今まで目にしたことがあっただろうか！(いや、ない) 「……問題は、資材置き場だな。………………ドックの建て増し資材とかいうことで、この五か所に分散して今日の午後に長い角材だのなんだのが置かれちまった。これを乗り越えて走るのはちーっと面倒で、敵に待ち伏せされちまう。…………当初、落とし穴はここに掘る予定だったが、資材がこう、ここを塞いでいるから、掘るならこっち側だな？…………よーし、メモったか？自分で掘った穴に落ちちまったらお笑いだからな。んじゃ、スコップを持て！勝利の為に、これから穴掘りにでかけっぞ！」 おー、と兵たちが気勢をあげ、夜の戸外に散っていく。辺りはしん、と静まり返っている。この壮大なお遊びは、小隊の兵たちには知れ渡っているので、落とし穴づくりに巻き込まれぬよう(何せ、彼らときたら、歩いている者をみれば、にこやかに笑って、泥だらけのスコップを押しつけて穴を掘らせるのだ！)、兵舎の中で息をひそめている。見える明かりは、天空からこうこうと地上を照らしている満月の光と、お遊びに参加する者が頭につけたヘッドランプの小さな明かりだけ。聞こえるものは、落とし穴の位置を確認するささやき声と穴掘りの音だけ。彼らは各々の陣営が立てた戦略通りに穴を掘り、そのまま作戦実行すべく、所定の位置についた。夕食時に食堂の時計と合わせた支給品の腕時計を覗き込む。 「３、２、１、GO！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 夜の小隊の中を、壮大な悪ふざけのために男たちは走る。時折あがる悲鳴は落とし穴に落ちた者、気合の入った掛け声は、ぶつかりった者の間で格闘が始まったのだろう。斥候役は戦況と確認された落とし穴の位置を地図に記して大将役へと持ち帰る。大将は報告を聞き、地図を睨み、新たな指令を次々と伝える。 ドゥニ=ブロッホ大将(そう、彼が大将の一人である)は、顎のあたりを一つなでて唸った。どうも思うとおりに戦いが展開していない。敵がこちらに侵攻している気配はあまりないのだが、動ける友軍の数が妙に減っている。……おかしい。敵陣営がルール違反をしているのだろうか。いや、もしそうなら小隊内をくまなく見渡せるよう二十箇所の木の上から見張りを続けている中立の監視役(酒一杯を奢る約束で公募)の耳や目にとまらぬ筈はない。 開始後、40分を過ぎ、斥候の連絡が途絶えるに至り、傍らにいる記録係に向かい、ドゥニは重々しく告げた。 「もう、こうなったら俺が出る。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ドゥニは全ての感覚を研ぎ澄まして注意深く進んだ。……人の気配はない。落とし穴に落ちた者も、ルール通りに静かに口をつぐんでいるようだ。すすす、と足音を立てぬように走り、彼はふうっと息をついた。……そこは、中立地帯だった。兵舎に近いこともあって、落とし穴をつくることも、格闘すらも禁止している地域。要所であり、ここを押さえられれば勝利はぐんと近づくが、事前に取り決めたルールでは敵の姿を認めても、触れることは認められていない。そのため、一気に気がぬけたのだろう。周囲への注意が疎かになり……上級曹長殿はすとーん、と見事に落とし穴へと転落した。 そう広くない穴の中には多くのお仲間がひしめいていた。 「なんだなんだ、こんなところに穴を掘るたぁ、立派なルール違反じゃねえか……って、……どうしたんだよ、これ。俺のチームの奴もいるけど、敵も混じっているじゃねえの？自爆？自爆したっつーのか？」 男たちは肩を竦めている。と、物音が聞こえた。彼らはドゥニに向かって人差し指で上を……地上を指してみせる。 「何だよ、上に何かあるっつーの？……ぎょへ？？？？？？」 強いライトの光で照らされ目が眩む。その明るさに目が慣れると、ロビュ小隊の最高責任者、ルイディナ=リトヴァク中佐が寸分の隙もない軍服姿で面白そうにこちらを覗き込んでいた。 「ほう、首謀者も落ちたか。……私が受け取っている情報によると、『レクリエーション・デイ』への参加者は、これですべて穴に落ちたことになる。今回の勝負は引き分け、ということだな。」 あまりのことに男たちがパクパクしていると、ルイディナは艶やかに笑った。 「いや、私の勝ち、ということになるのか？なあ、ブロッホ上級曹長。…………何か言っておきたいことは？いや、今はレクリエーションの最中だ、無礼講といこうではないか。」 「………………この穴はいったいどこのどいつが掘りやがったんですかい？」 「ふふ。怒るな。……ルールを犯した者は皆無だ。……この穴を掘らせたのは私だ。私はお前たちのレクリエーションのどちらの陣営にも属してはおらん。……だが、この小隊をもうすぐあとにしようとしている今、レクリエーションに少しは参加してみるのもよいかと思ったのだ。楽しかったぞ。お前たちがどのように落とし穴を配置しようとしているか考えるのは。どうにも読めない部分は、障害物を置いてこちらに有利に運ぶよう少々ずるをさせてもらったがな。 …………資材があちこちに置かれたのは、司令の指示であったのか。 「因みに、穴を掘ったのは、兵ではない。軍属でない者に、特別に作って貰ったのだ。……私が作ったのはこの穴のみ。……どうだ？この位置こそが最良の場所であったことが、諸君ら穴に落ちた者の人数が如実に物語っている。……士官学校とやらで学んだわけではないが、私の戦略も捨てたものではあるまい。……………そこでそうしているのも暇で困るだろう。司令官として、命じる。各自穴より出、兵舎の自室に戻って就寝せよ。明日の朝、起床ラッパのなる060分前にすべてを元に戻せ。……朝の光の中で見れば、細かなとこまで現状復帰できるだろう。」 男たちはぽかーん、としている。 「すぐに行動に移せ……それとも頭を私に踏まれたいのか？」 男たちは穴から這い出て蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。ルイディナは彼らを満足そうに見送り、横合いから出てきた大柄な男に気づくと微笑んだ。 「有難う。貴殿に掘って貰った穴は、予想以上の戦果をあげた。……そして、貴殿に約束したとおりのことができそうだ。期待していてくれたまえ。」 コックの制服を着た寡黙な男はゆっくりと頷いた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ その数ヵ月後、調理場の裏手、太陽のよくあたる場所にある、かなり広い畑が緑のハーブで覆われていた。ルイディナが資材を置く場所を熟慮した結果、ドゥニ達が掘ることになったかなり大きな落とし穴を埋め戻した場所である。軍内に畑を作ることなどは本当のことを言えば、上層部に打診しなくてはいけないのであるが、『ある種の事故で生じた穴』を埋め戻すだけでなく有効利用するため、ということで打診なしでそれはつくられた。料理人達は、新鮮な香草を手軽に収穫できるようになり、退任したリトヴァク司令のこの置き土産をたいへん喜んだ。 また、これは司令の思惑とは全く違うことであるが、埋め戻した落とし穴の一つには、10株ほどの白薔薇が植えられたという。それは文字通り、“ロビュの白薔薇”と呼ばれ、その始まりがどういうことであったかは現在に至るまで詳細に伝えられ、小隊員達の心を和ませ目を楽しませている。 どうでもいいことであるが、その白薔薇の世話は、補給班所属の新兵の最も大切な仕事の一つとなっており、そのた め、補給班構成員はいつしか薔薇栽培についてひとかどの者になっていったということである。 |
| 開設９周年にアポロニア様よりリクしていただいたものです。リクは「小隊員に振り回される司令＆副指令…味の素1200ｇ(←致死量みたいです(^_^)」ということですが、ルイディナ様が振り回されるとしたらどういったことなのか、どうにも見当がつきませんでうんうん言っておりましたら、「司令＆副指令が登場すれば、いいですよ」と優しくも有難いお言葉をいただきまして、このようなお話になりました。「味の素1200ｇ」というのは「ちょっと奇妙な味付けで」ということでお許し下さいませ。考えてみると、ルイディナ様で話を書いたのはこれが初めてです。ルイディナ様にはドゥニさんだって敵わない。司令職からは退官しても、何かの時にひょいと……例えばルカの前に颯爽と現れて欲しい気がします。 |
風色部屋へ戻ります ９周年祭へ戻ります |