やくそく |
ゲーム「風色サーフ」の二次創作です。 アレックさんルート、オズウェルとの「やくそく」の話。オズウェルがアレックさんとかわした約束は、オズウェルがエリカに語った通りではなかったかもしれない……との考えに立っております。 オズウェルが主役。恋愛のお話ではありません。 ネタバレに留意しておりません。また、ゲームをクリアしていない方にはわからない部分が多々あるかと思いますがご承知置き下さい。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ |
「やあ、オズウェル。」 アレック＝ユーティライネンは、整備の青年に呼びかけた。 茜色の西日がもう少しで紫に変わろうとしている夕暮れのドックで一人仕事をしていたオズウェルは手を止めて、伝説のエース、救国の英雄を睨むように見る。……この表情はオズウェルの武装だ。何を言われようと自分は意に介さない.。誰にも翻弄などされない……人を信用などしない……そんな印象を抱かさせるために、人を斜めに見る癖がいつの間にか身についてしまったのだった。しかし、今の彼はそれだけでなく目の前の人物に複雑な感情を抱いていた。敵愾心というのとは違うが、それに近いものも少しは入っているかもしれない。 「……なんですか。あいつならいませんよ。」 アレックは任務でシュレスベルク帝国へと飛ぶ。……危険な任務だ。命の保障はない。しかし、一度は翼を失い、空から離れたエースはエリカの手によって再び翼を手に入れ、その翼で敵の真っ只中に飛ぶことを志願した。そして、エリカは彼に同行すると言った。その為にオズウェルは目の前の機体を二人乗り……複座……に改造中であった。……確かに長距離飛行には整備士が随行した方が任務成功の確率はあがる。そして、機体への負荷を考えれば体が軽いものの方がよい。……それをオズウェルは判っていた。頭では判っていたが…… 目の前に居る、この穏やかな話し方をする年上の男がオズウェルの心をかき乱していた。確かに彼は救国の英雄だ。先の大戦で数十機の敵機を撃墜し、このユクトランドを守り抜いた。今度の任務に彼以外の適任者はいない。そして……彼が、彼に翼を与えてくれたエリカをこの上なく大切に思い、エリカもまた彼を慕っていることはよくわかっている。しかし、帰ってこられる保障はないのだ。 「ああ、知ってる。それに俺はいつも彼女に会うためにここに来ているわけじゃないんだけれどな。」 そう言われ、オズウェルは益々むっとした。確かにそうなのだ。ただ……オズウェルにとって、アレックがエリカに会いにここに来たときのことは鮮明に記憶され、いつも彼が彼女のために来ているかのような錯覚を覚えているのだった。それが自分でもわかっているオズウェルはしかし、ぶっきらぼうな会話を続けるしかなかった。 「じゃあ、何の用ですか。」 立ち上がって掌の汚れをはたく。視線を合わせようとしないオズウェルに、アレックは言った。 「君に用があって来たんだ。」 そう言った声が、これまでになく思いつめた響きをもっているのに気づいたオズウェルは目をアレックに合わせる。合わせてからオズウェルは後悔した。……この空の色の瞳を見てしまっては、もう視線を逸らすことはできない。 「俺に？」 そう問い返したオズウェルにアレックは微笑んだ。彼は言った。整備班に迷惑をかけてすまない、そして色々有難う、と。 アレックが何を言おうとしているのか、オズウェルは訝った。それは、疑問であったが、彼は理解したくはいなかった。もしも理解してしまったら、取り返しがつかなくなるようなことを、この穏やかな優しい人はこれから言おうとしているような気がした。 オズウェルは不機嫌な顔のままアレックに感情をぶつけた。任務達成してもらわないとこっちが困る。あたなに何かあったらエリカが落ち込む。そうなったら整備の人間として困る、と。 しかし、アレックは、そんなオズウェルが吐き捨てた言葉を目を細めて聞いていた。 そして、色々とまくしたてていたオズウェルは、穏やかな返答を返しつつ巧みに話を引き出すアレックによって、いつの間にか“エリカを特別な存在として愛していること”を認めさせられてしまっていた。オズウェルは混乱した。この人が、この期に及んでエリカを巡ってオズウェルを牽制する理由などない。アレックはオズウェルが整備のコンビとしてエリカの隣に居ることをむしろ善しとしていたし、エリカが好きになったのはこの人なのだし。 こんなやり方はこの人にはそぐわない。今になって相手の感情を波立たせるようなことを何故敢えてするのか。オズウェルのエリカへの想いは完全な一方通行であることはオズウェル自身が一番よく知っているというのに。 整備の青年は腹をたてた。そして言った。何をいいたいのか、と。あなたの本音はどこにあるのか、と。 しかし、アレックは少し表情を曇らせたものの、穏やかな態度を崩さなかった。 言葉の応酬の後、無言の時間が過ぎた。そして、アレックが口を開いた。 「それより、ここに来た用件を済ませたいんだ。君にこんなことを頼むのは図々しいとわかっている。でも、聞いて欲しいんだ。」 その声があまりにも真剣で、オズウェルは口を一文字に引き結んだまま、黙って相手を見た。作業をするためにいつも少し屈み加減の背はまっすぐに伸びていた。 アレックは微笑みながら、エリカが彼のために設計してくれた改修中のオオルリの青い機体に大きな手でそっと触れた。 「……司令からオオルリを複座にするという話を知らされた。エリカが整備士として共に飛ぶということも。ついさっき彼女からも直にね。……でもそれは無しにしてくれ。単座のままにして欲しいんだ。」 「え？」 何を言われたのか咄嗟にはわからなかった。 アレックは、微笑を崩さずにしかし、決然と言う。 「俺は一人で帝国に飛ぶ。」 オズウェルの顔から一度血の気が引き、その次の瞬間には逆に勢い良く血が昇ってきた。 「何を言うんですか!?あいつはいろいろ考え抜いた末に、自分で行くことを選択したんだ。オオルリを複座にし、あいつがあなたの後ろに乗っていくことが最良の策だと信じ、だから司令や副指令に訴えて認めて貰った。……俺も理性で考える限り、あいつの選択は正しいと思います。だのに、何故。」 アレックは首をゆっくりと横に振る。 「……さっき、彼女の覚悟は聞いたよ。作戦の成功率を上げるため、俺の新しい相棒……彼女自身が設計した機体を最後まで世話したい、俺についていきたいと言ってくれた。正直、嬉しかった。こんな俺と一緒に行ってくれると聞いてね。俺も、一緒に行こう、と彼女と約束した。……しかし、彼女と別れた瞬間に胸のあたりが寒くなった。……間違ったことを言ってしまったのだと気づいた。……連れて行くべきではない、と俺の内側から訴えかける声がした。……そのとき、わかったんだ。……俺は、彼女に傍に居て欲しいと願うよりも、彼女を幸せにしたいと望んでいるのだと。」 オズウェルの引き結んでいた口が少し開いた。何か言いたかったが言葉が出てきてくれなかった。 「危険な飛行だ。正直、死力を尽くしたとしても、必ず成功するわけではない。……帝国もただで通してくれるわけではない。……複座の機体で、空戦に臨むのは至難の業だ。……一緒に行くなどと冗談でも言ってはいけなかった。……俺が帰ってこなくても、彼女が泣いたりしないよう自分の気持ちに蓋をするべきだった。……だから……」 アレックは微笑んだ。 「……オズウェル。俺が飛び立ったあと、彼女のことを頼む。」 オズウェルは言葉を失い、次の瞬間に激昂した。 「何を言うんですか!?なんで俺が……！」 「…………」 アレックは慈しむような瞳でいきりたつオズウェルを眺め、コクンと頷いた。 「……君だから、安心して託せる。……君なら……彼女の幸せを誰よりも考えてくれるだろう。俺がいうのもなんだけれど、君と彼女は最良のコンビだからね。君達が補給班と行動を共にしている間、俺は君達二人、いや、トゥーフォンも含めて三人かな、君達が絆を深めてくれることを望んでいた。そして、その通りになった……君は、君がどう思っているかは知らないけれど、とても優しい男だよ。……初めに言ったように図々しいのは判っている……でも、君ならば、彼女に信じさせることがきっとできるだろう。……俺の彼女に対する気持ちが、兄が妹に寄せるようなもの、或いは父親が娘に寄せるようなものだった、と。……正直、今の俺の気持ちはとてもそれに近いよ……もしも俺が帝国から戻ってくることができたとしても、それまでにはきっと長い時間がかかる。そうなったときに俺は彼女を……君達を素直に祝福することができる。だから……君が、彼女の手をとってくれることが一番いいことなんだ。」 「やめてください！」 オズウェルは叫んだ。 「あなたは何を勝手なことを言っているんですか。……あなたはあいつの気持ちを全然考えちゃいない。それに、俺の気持ちもです。……俺は、知っているつもりです。あいつはあなたのことを10年でも20年でも待ち続けるだろうことを。……俺は……あいつがそういう奴だから……放っておけなくなったんだ。……あなたはどういう人なんだ。周りの人間を気遣って、いつも微笑んでいて、自分の真意を殺して、何もかも抱え込んで……それであなたは幸せなんですか？あなたのそんな態度で苦しむ人間がいることにどうして気づかないんです？エリカを、俺を、トゥーフォンを、この小隊のありとあらゆる人間を気遣って、心を砕いて、静かに微笑んで……俺が、今の俺が今の形でここにいるのはあなたのお陰もあってのことです。……あなたがあいつの幸せを願う気持ちはわかります。しかし、俺は……俺はそんなあなたにはどうしても我慢できない。……くそっ、なんて言えばいいんだ？……一人で悩んで、苦しんで、自分の幸せなど考えないで、それがいいなんて思っちゃいないでしょうね!?……俺は、今のあなたとは約束などできない。あなたは必ず生きて帰ってくるとあいつに約束しなくちゃいけないんだ。手足のニ三本なくなったとしても、何年かかっても、あなたは帰ってくるんだ。帰ってきて、あなた自身の気持ちに素直になって、……あなたこそが幸せになるべきなんだ。それがあいつの幸せなんだ！」 苦しそうにまくしたてるオズウェルの左肩にアレックは右手を置く。 「……約束はできない。……もう既に俺は『一緒にいく』という約束を破ろうとしているのだからね。……約束するだけならば簡単だ。しかし……俺は、大陸大戦の時に、守れなかった約束を数え切れないほど見てきたんだよ。守る、といったのに守れなかった家族。帰る、といったのに、帰れなかった軍人。……約束すべきではない。約束で彼女を縛る資格は俺などにはないんだよ。」 「貴方は狡い！」 オズウェルは怒鳴った。 「大陸大戦終結のとき、俺はまだ17歳の学生でした。あなたたちに守られた場所で学んでいさえすればよかった。……あの戦争を最前線で体験したあなたの言葉の重さに俺が反論できないことをあなたは知って言っているんだ。でも……あなたに尋ねていいですか。大戦中に成され、しかし守られなかった約束たちは全くの無意味なものだったのですか。約束などしないほうが良かったのだと断言できるのですか。……約束は、守られなかったならその価値は失われるのですか。俺は……俺は、そうは思えません。約束をして、守るように努力をして、それでも守れなかった約束は……それらが無意味だと言われてしまったら……」 消え入るようにオズウェルの声は小さくなっていく。しかし、次の瞬間、オズウェルはアレックの軍服の胸倉を右手でしっかりと握り締めていた。背の高いアレックの顔を下から見上げる。 「ここで、まず俺と約束して下さい。ここに必ず戻ってくると、戻ってきて、あいつをあなたが幸せにすると。……そう約束してくれるのなら、俺はあなたが帰って来るまであいつのことを見守ります。結果的にあなたが約束を守れなかったら、俺の約束も破棄です。しかし、約束してくれたら、俺は10年でも20年でもその約束を守ります。」 「しかし、オズウェル。」 オズウェルは泣きそうだった。 「お願いですから……そう約束して下さい。でないと、俺はあいつがあなたの為に用意した翼を仕上げることができなくなってしまう……俺達整備は、飛行機がここに帰ってくるまで、あいつらの家に戻るまで支障なく飛び続けるように機体を用意することが仕事です。……帰ってこない旅に送り出すためじゃあないんだ！」 アレックが、胸倉を掴んでいるオズウェルの腕を優しく握った。そして、ほんの少し躊躇してからふっと小さく息をついた。 「…………彼女には敵わないと思っていたけれど、俺は君にも敵わないな。……でも、オズウェル」 「まだ言いますか!?いいですか！あなたが帰って来なかったら、俺は容赦しませんよ。」 アレックは微笑む。 「無理は言わないでくれ。……オズウェル、俺が帰って来られなかったら、容赦するもしないもないだろう。そのときには俺はもうこの世に居ないんだからね。」 「……」 自分のことばの矛盾に気づいたオズウェルが、『むぐっ』というような呻きを漏らした。アレックはくすっと笑った。 「……有難う、オズウェル。約束するよ……俺はここに帰ってくる。彼女のもとに。彼女に、彼女が戦争のためでなく飛行機を作ることができる世界を贈る為に。俺がいない間、本当に彼女のことを頼む。……でもね、オズウェル、君ならば、俺との約束など例え反故にしてでも、彼女の幸せを一番に考えてくれる。そう信じているよ……」 さっきまで自分がギリ…と胸倉を掴んでいたアレックにしっかりと抱擁され、オズウェルは何も言えなかった。 その腕が解かれ、アレックの大きな手がオオルリの機体を撫でた。 「……機体の仕上げを頼むよ。」 「……いわれるまでもありません。……何せ、あいつがあなたのために設計した機体なんですから。」 「有難う……これで、安心して出発できる。」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ アレックが帝国へと出発し、ロビュ小隊とロランドの街は幾度も帝国機に脅かされたが、二人の若いパイロット…コリンとルカ……によってなんとか持ちこたえた。 帝国内部で勃発した小シュレス主義者の革命は、ユクトランドを初めとした諸国の支援を受け、勢いを増し、シュレスベルク帝国皇帝は国外へと逃亡した。そのことはアレックが作戦遂行に成功したことを意味していたが、彼は帰ってこなかった。 いくつもの季節が巡った。戦争の恐怖と混乱の中で巡った季節は記憶にとどまることは無かったが、停戦となってからは、色づく木々の葉、一面の銀世界、春の柔らかな翠の芽吹き……。風景の移り変わりは心に余裕ができた人々の目を楽しませた。 オズウェルは待っていた。帝国に怖れられた撃墜王であり、同時に誰よりも優しいオオルリ乗りがここに戻ってくるのを待っていた。彼の隣にはいつもエリカが居て、彼女もまた……オズウェルと同じように約束が果たされるのを待っていた。オズウェルは静かにアレックとの約束を守っていた。彼は、入隊直後のエリカをアレックが気遣ったような春の日のような穏やかな優しさをもって、彼女を見守った……外側から見る限り、やはり彼はぶっきら棒で気難し屋で、身近な人間以外にはその優しさはとてもわかりにくかったけれど。 すでに、“彼”の出発から二年が経っていた。 トゥーフォンは言った。 「オズウェル、もうあの人は帰ってこないかもしれない。俺は見ていて辛いよ。……お前があの人の代わりをする時なんじゃないのか。」 するとオズウェルは柄にも無く、親友に向かって微笑んだ。 「大丈夫。帰ってくる。あの人は戻ってくるとエリカに約束したんだからな。嘘をつくような人じゃない。」 トゥーフォンは寂しそうに首を振った。 「俺も、そう思いたい。けどさ、オズウェル……いくら約束したって、誰もがそれを守れるわけじゃない。」 「……帰って来るさ。……」 もう幾度もも繰り返された会話に、トゥーフォンは、オズウェル、お前も頑固だな、頑固で、そして馬鹿だよ、と笑った。 そんなある日、司令に呼び出され、帰ってきたエリカをオズウェルはドック前でつかまえた。オズウェルが予想していた通り、それは別基地への異動の打診だった。“断ったわ”と笑顔でいうエリカにオズウェルは“何度エリカが断っても異動の話をもってくる上層部に呆れる”、そう話すと、エリカは“オズウェルこそどうして異動しないの？”と尋ねた。 オズウェルは心の中で微笑んだ。オズウェルはアレックと交わした約束を守るという意味でエリカと盟友であった。彼は表面上は仏頂面のまま、とても優しい気持ちとなって、盟友に向かって約束の話をした。 「……約束だから。……したんだよ。アレックさんと。」 え？と驚きを隠さないエリカを睨むように、オズウェルは言葉を続ける。 「自分のいない間、お前を頼むって。約束をした当の本人は戻ってこないから何やってんだ、って感じだけどな。」 目を見開いて自分を見つめるエリカにオズウェルは息をつく。誤解はされていないという自信はある。しかし…… 「……やっぱり、言うんじゃなかったな。」 空を見上げる。あの人が旅立った日と変わらぬ青い空が頭上に広がっている。 「もう二年だろ？いいかげんに……時効かと思ったんだけど。」 そんなに驚かれちゃ困る、というようなオズウェルにエリカは笑う。 「ううん、まだ二年だよ。」 頼もしくそう元気良く言って微笑むエリカをオズウェルは堪らなく愛おしく思う。そう言うと思った。そう言ってくれると期待していた。しかし、その嬉しさを隠して彼は言う。 「まだ待つ気かよ、お前。」 「……約束したから」 さっきまでオズウェルが見上げていた空をエリカは目を上げて見る。 「じゃあ、俺もだな。」 空から目を下ろしたエリカは不思議そうに言う。 「付き合わせる気はないよ？オズウェルが嫌なら、もう……」 付き合わせる？エリカの物言いにオズウェルは可笑しくなる。だって、彼は約束したのだ。彼自身がアレックと約束したのだ。それはエリカのためというより彼自身とアレックのためであったのだ。 「いいんだよ。約束は守るもんだろ？」 そうだ、ここにこうして生きている自分達が約束を破棄するなんて有り得ない。 「うん、守るべきだね」 声が聞こえた。エリカの背後にアレックが立っている。エリカがおずおずと振り向きアレックと向かい合うところをオズウェルははっきりと視界に納めていた。 しかし、アレックの視線は明らかにエリカを通り越してオズウェルの方を向いていた。自分が約束を守ったのと同じく彼は約束を果たしてくれたのだ。二人の男は同時に、ゆっくりと頷いた。エリカはもう駆け出していた。アレックは腕を大きく広げた。 エリカがアレックに飛びつき、アレックがエリカをありったけの想いを込めて抱きしめた。 「愛しているよ」 嘗ては自分が告げたいと思っていたことばを男が最愛の少女に囁いたとき、オズウェルは不覚にも、切ないけれど大きな喜びの感情が体に走るのを感じていた。 瞬間、オズウェルは目をそっと閉じ、穏やかな春の空気を鼻から思い切り吸い込んで微笑んだ。 ああ、こういうことか。 オズウェルは思う。 アレックが嘗て自分に言ったことの全てがやっと彼には合点がいった。 大切に想っている者が幸せになるということは、自分にとってもなんて幸福なことなのだろう！ 三人の人間は、「帰ってくる」「待っている」「守る」すべての約束を守り、再会を果たし ……オズウェルは微笑んだ。 「よかったな。……約束、守れて。」 アレックの腕に抱かれ、幸せな涙を緑の瞳いっぱいにためたエリカがオズウェルに笑いかける。だが、彼女は知らないだろう。オズウェルがその言葉を、オズウェル自身とアレックに対しても言っていたのだという事に。それを知っているのは自分とアレックだけなのだ。 オズウェルはもう一度心の中で繰り返した。 (本当に、よかった。) そして、すべての幸福を空を見上げながらゆっくりと噛み締めた。 |
| アレックさんとの「やくそく」。アレックさんが帰ってきたとき「そう、約束は守るべきだね」と言って二人の前に現れますが、この台詞の意味が私にはよくわかりませんでした。まず、これは誰に言った言葉なのか。エリカに言った言葉ならばエリカに、というより、アレック自身の「かならず帰ってくる」という約束に対しての言葉なのでしょう。しかし、そうだとしたなら、その場に居たオズウェルを全く無視した言葉であり、いくらエリカとの再会に胸がいっぱいになっていたとしても、彼らしくはない台詞だと思います。次にオズウェルが「いない間はエリカを守る」という約束にに対して言ったのだとすれば、オズウェルの気持ちを思いやっていないようで、やはり彼らしくない。ヨハン編でエリカに語ってきかせたあの台詞を思えば絶対に彼らしくない。……となればどういう台詞なのだ、と悶々として結局答えはでませんでした。 更にアレックさんに限って「いない間だけ頼む」と図々しいにも程がある頼みをオズウェルに言い残すのもなんだか妙な気がしまして、「その頼みがオズウェルがエリカに告げた通りのものではなかったのではないか」という仮定にたち、「約束は守るべき」の内容をオズウェルとアレックさんの間で交わされたものの比重を高くして考えてこんな話になりました。 約束に関して、エリカとオズウェルは「アレックさんを信じて待っている」ということでの盟友。 オズウェルとアレックさんは「エリカを守り幸せにする」ということでの盟友。 気合だけは入れましたが、(だいたい私は心理描写系のシリアスは駄目駄目なんです、はい)ここにオズが居たら、私は「何を見当外れのことを書いているんだ！違う!!」と後頭部を「バールのようなもの」で思いっきり強打されそうです。(アリサちゃんにその後介抱されれば本望……) 多分、アレックさんはここにくる前にドゥニさんのところあたりに顔を出しているのじゃあないかと思います。そして「四の五のいわず、お前自身の目で確かめてぇ来いッ!!」と背中を蹴られて送り出されたんじゃあないかな、と。実際、オズウェルとエリカがどうにかなっていても、この人はきちんと心からの笑顔で祝福したと思いますが(私の中ではアレックさんはそういう人です)。 ヴィジュアルファンブックで詳細が明かされたら成り立たなくなる文だな、と思い、書きかけて放置していたのですが、この部分には特に触れられておらず、むしろ「二人はエリカちゃんに対しては盟友」という表記がはっきりありましたので、仕上げてアップしました。 後方支援ルートでアレックさんとオズは折角あれだけのやりとりをしたのですから、ＥＤ後は整備とパイロットとしての名コンビにもなって欲しい。 アレックさんの機体のチューンをオズとエリカちゃんが争って、アレックさんが微笑ましく見ているなんてドックの日常があるといいなあ。 ……ということで今回も夢見がちです。優しいオズ、大好きです。 でもって、またしても恋愛はどっかにふっとびました。 乙女ゲーム二次で恋愛主眼じゃない話続出ってどういうサイトですかここは!? すみません、とことんそういうサイトなんです。ここ。<(_ _)> そして、この後書きの長さ、いったい何者!? |
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