贈り物　

ゲーム「風色サーフ」の二次創作です。ゲームはすべてのキャラクタールートをクリアしましたが、製作者様の独自裏設定は存じ上げませんので、オフィシャルとかけ離れております。また、ネタバレ満載ですので、ご注意くださいませ。
時期はアレックさん帰還後少したってから。「あのとき」と同じ質問から始まります。

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　「ちょっと話があるんだけど。」

　そういわれたのが、夕食を食べ終わったとき。そのまま、宿舎への回廊を歩き、中庭に出れば、“小隊の守護神”フギンとムニンのシルエットが、ユクトランドの秋の星空に浮かび上がっていた。

　「今日も元気そうですね、フギンとムニン。」

　「そうだね。」

　この二羽のワタリガラスを見るたび、エリカは、あんな風に飛べたら、と思う。飛行機の技術は発達しているが、鳥のように自由に軽やかに飛ぶところまでは人間は到達していない。
　空を見上げる娘を優しく見下ろしながら、アレックは言う。

　「それで、話なんだけど。」

　「はい、なんでしょうか？」

　あれ、なんだか前に同じような受け答えをしたことがあったような……？

　「近いうちに、補給班が備蓄基地に出発するんだ。俺も留守をすることになってね。で、今回は途中でかなり大きな町を通る予定なんだけれど、何か欲しいものはない？」

　あれ、あれ、あれれ……？

　猛烈な既視感に襲われ、エリカは目を白黒させる。確か、ロランドの空襲の前にこんなことが……………あれれ、でも……ヘンだわ。絶対にヘン。どこがヘンって……

　「アレックさん、アレックさんは航空班の隊長なのに、どうして補給班と一緒に行くんですか？まさか、ドゥニさんが倒れたとか？」

　え？と今度はアレックが目を見開き、次の瞬間に目を細めた。

　「そういうことじゃなくって……。あのね、今回は俺は補給班の荷物なんだよ。」

　荷物？と首を傾げるエリカにアレックは説明する。北部の工場で、新型の機体が完成し、ロビュ小隊に配備されることになったこと。ついては、陸路で運ぶより、パイロットが機体そのものを操縦して運搬するのが普通で、今回、アレックがパイロット役として任命されたこと。工場へは、補給班の次の任務に同行し、補給基地でジープを借りて工場に向かうのが最短経路であること。

　「ま、一緒に行く限り、ドゥニさんにはいいようにこき使われそうだけれどね。」

　と結んで、アレックは笑った。

　「で、どうかな。何が欲しい？」

　いきなり聞かれても困る。エリカはもじっとして一生懸命考えた。……目下のところ、強烈に欲しいものはあることはある。だが、それはかなり特殊な本で、大きな街の本屋でもいきなり飛び込んで買えるものではない。……それ以外のものでは……こ、こういうときに、世間一般の女の子というのは、一体どういうものをお願いするのだろう。アクセサリー？いや、子供の頃からお守りとして首から下げているネックレスとリボン以外は身につけてこなかったし、アクセサリーというものは、自分の分不相応に高価なものだろう。リボンもこの間新調したばかりだし。それともちょっとしゃれたレースのハンカチとか？……そういうものは、やっぱりきっと高価なものだし、よそ行きのハンカチは一枚持っているし、レース付きなんて、洗濯するとき気を使わなくちゃいけないし……ああああ、あんまりヘンなものを言ったらいくらアレックさんでも呆れられてしまう。あ、そうだ、シャワーを浴びるときに髪を上にあげてとめておくための大きなピンがあると嬉しい……だ、だけど、そんなもの、アレックさんに頼むのはそれこそヘン。『髪の長い女の子がシャワーを浴びるときに髪を上にあげておくのに使えるような大きなピンを下さい』なんてお店の人に言うなんて、そんなことさせられない。
実際、アレックさんから貰ったものなら何でも嬉しいけれど…………それを素直に口に出しても、アレックさんの質問に答えたことにはならないし、第一とっても恥ずかしいし……

　じいっと地面を見、ちょっと口を尖らせて必死に考えているエリカを見守っていたアレックは、永い時間の経過の後、ポム、とエリカの頭に大きな手を載せた。

　「悩ませちゃったみたいだね。……ロランド空襲の前に、君に何か買ってくるって約束したろう？あの約束が果たせないままになっていたから、今度こそって思ってね。……だったらあの時と一緒で、俺が勝手に選んできてしまうってことでいいかい？変な物になっても許してくれるかな。」

　「は、はい！」

　エリカは元気よく返事した。


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　翌日、昼食後の食堂で、上機嫌で鼻歌など歌っているドゥニの横にアレックが座った。

　「ご機嫌ですね、ドゥニさん。」

　「おう、アレックか。いやいや、今回も『店』が繁盛でよ。」

　『店』というのは、補給班が途中に立ち寄る街で、ロビュ小隊の面々から依頼されたあれやこれやを購入してくるシステムをいう。正確に言えば、軍規違反であるが、クラウスもそれなりに感知してはいても目こぼししているらしい。むろん、善意で購入してくるのではなく、足代は取る。そのため『店』を開けば、ドゥニの懐も少しは潤うと言うわけだ。

　「今度通る街は何が名産なんでしょうね。」

　「んー？お前はこのルートで行くのは初めてだったな。何か買い物するってか？ま、このリストをみろや。……燻製が名物だぜ。たくさんの奴が頼んでんだろ？値段が安くてしかも旨いのはチーズの燻製だ。酒の肴にもうってつけだ。ちょいと贅沢したい奴は、燻製ソーセージだ。結構日持ちもするし、こいつも酒の肴にイイ。…………あとは、ほれ……実は、あの街には特別な書店があってよ、かなーり際くて一発で鼻血が噴けるようなピンナップが載った雑誌が売られてて……ほれ、若い連中がこぞって注文して……」

　「……そういうのではなく……工芸品とか……食べ物でも、お菓子とか……そういった名産品はどんなものが……」

　なんだ、そりゃ、とドゥニはいい、ねちねちと質問してきて、遂に、エリカへのプレゼントを考えているのだが、どうにも思いつかなくて困っているのだと聞き出してしまった。

　「何とか、彼女が喜ぶようなものを、と考えているのですが、……俺は彼女よりずっと年上ですし、今時の若い子が何を喜ぶのかわからなくて……。彼女は、誰かから贈り物をされたら、それがどんなものでも喜んでくれると思います。でも、無理して喜んで欲しくはありませんから……」

　はあ……なんかまた難儀な思考回路に突入してやがるな、とドゥニは頭をポリ、と一回掻き、その後、楽しげに、アレックの背中をどーん、と一つ叩くとにかっと笑った。

　「そういうこたぁ、妻帯者のドゥニおじさんに相談すれば一発解決だ！」

　それがあんまり大声だったもので、たまたま食堂に居たコリンが、さささっと寄ってきた。

　「なんですか、ドゥニさん。妻帯者って、何の話ですか？」

　「おう、コリンか。実はなぁ〜」

　ぺらぺらとドゥニは喋ってしまい、アレックはまた面倒なことになったと、小さく一つ息をついた。

　「エリカちゃんにプレゼントですか！アレックさんもやるじゃないですか！どーして真っ先に俺に相談してくれないですかぁ？女の子へのプレゼント回数はロビュ小隊随一の俺がいろいろ伝授しますってｖ」

　「まあまあ、コリン、ここは二人で協力してアドバイスしてやろうじゃないの？……オホン、まずはな、『ひらひら』がキーワードだな。」

　「『ひらひら』ですか……？」

　コリンはうんうんと頷いている。

　「リボンやスカーフのようなもののことですか。」

　訝るアレックの鼻先でドゥニはちっちっち、と人差し指を振る。

　「いやいやいやいや。もっとひらひらしたものだ。……いいか……ひらひら、ってのは、女の子の夢なんだぜ。日常にはないものを女の子は欲してる。だがなー、実際に買い物するときには、ひらひらがついているとそれなりに高いもんで、ひらひらの無いのを買っちまうんだ。だから、そういうひらひらがついているものは持っていない可能性が濃厚だ。すくなくともエリカちゃんは確実に持っていないと俺はみている。だからこそ贈り物として最適だ！なあ、中尉。」

　「ええ。表通りはともかく、ちょろっと裏通りにいくと、俺たちが買いやすいようなシステムの店もあるしー。」

　「黒か？それとも白か？……俺は断然『黒』派なんだが。」

　「俺もですけどー。個人的にはエリカちゃんには『白』から始めて欲しいんですよねー。黒は、白の次でいいじゃないですか、ドゥニさん。」

　「……あ、でも、サイズがわかんねぇか。じゃ、ネグリジェでいいか。んー、ベビードールってのがサイコーに可愛いんじゃね？」

　「いやいやいやいや、初心者にアレはハードル高すぎますって。むしろきっちり首までボタンでとまってて、かっちりした形の方がいいですって。ボタンを一個ずつ外していくのものロマンでしょ。布地は透けるか透けないかギリギリがお勧めー。」

　ボコ、と鈍い音をさせ、アレックがドゥニを殴った。

　「いってぇなあ。……コリンだって同じことをいっただろうが、なんで俺だけ。」

　「……命に関わること以外では部下は殴らない主義です。」

　「………………なんだよぉ、お前だって、少しはあはーん、とかうふーんとか想像してただろうが、ほれ、頬が赤くなってる。……あのなー、お前らちゃんとつきあってんのか？…………俺たちも心配してるんだぞ。」

　「そーですよ。エリカちゃんは二年も待った。キスより先のあんなことやこんなことや、口じゃ言えないもっともっと凄いことだって気合入れて待ってるはずですってー。」

　「アレックよぉ、身に着けるものを贈ったら、『これを身に着けたあなたが見たい』って言ったことになるのよ、世間一般じゃ。だから、そういったものを贈ったら、エリカちゃんがもじもじして、“今夜あたしの部屋に来てください”……ってなことをいってくるはずだから、そこから先はもうそりゃめくるめく……」

　また、ボコ、と鈍い音がした。

　「いてっ！オジサンの脳細胞をどこまで痛めつけるつもりだよ！」

　「……とにかく、却下です。」

　コリンは笑っていたが、真顔になった。

　「でも、アレックさん。真面目な話、まともに付き合ってるんだったら、贈るほうも見返りもとめていいって俺は思いますよ。好きな子を幸せにして、こっちも幸せになる。それが理想の形でしょ？……んー、俺だったら、口紅とか贈りますよ？なんなら、流行(はやり)の色とか教えましょうか？」

　「……コリン、それが、どうして見返りを求めることになるんだい？」

　「……見返りっつーか、エリカちゃんが口紅つけてきたら、ちょっとずつ自分で回収するっていいますか。」

　コリンの言う意味がわかり、アレックは咳払いする。

　「……彼女は紅を塗らないし、化粧もしていない。……普段使わないものを贈っても、こちらの意図を押し付けるようで心苦しいだけだよ。」

　「そうかなぁ。エリカちゃんだって、たまには薄くお化粧したっていいんじゃないかと思いますけどねえ。まあ、化粧なんてしなくってもエリカちゃんは可愛いですけどー。……だったら、無難なところでペンダントとかそういったものじゃ？」

　「彼女はいつも小さな鍵をペンダントとして身につけている。あれはお父さんから貰ったお守りだと聞いたよ。……それを彼女の胸から追い出すような真似はしたくないからね。」

　本当に、難儀な奴、とドゥニが呟くと、アレックはくすっと笑った。

　「ドゥニさんだって、もしも娘さんがドゥニさんに貰ったアクセサリーを身に着けていて、ある日突然それをやめて、男から貰ったものを身に付け始めたら嫌でしょう？」

　そりゃそうだがよ、とドゥニは小さな声で言い、コリンから、ああ、忘れてたけどドゥニさんは『お父さん』でしたっけね、と大声で笑われた。


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　―――本当に何を買おう―――

　結局何を買うか決めないままに、小隊を出発し、街に出たアレックは、ぽつねんと歩いていた。華やかなショーウィンドーには、流行の服や小物が並べられていたが、アレックにはやはりエリカへの贈り物に相応しいとは思えなかった。過去に約束したとき……二年半前であったなら、小さな髪飾りでも買って贈り物にしたかもしれない。しかし、あのときの彼は、頑張り屋だが小隊になかなか馴染めない少女を純粋に心配して声をかけたのであり、今のような恋慕の情を抱くようになろうとは髪の毛の先程も思ってはいなかった。今は違う。形がどうであれ、生きている限り、ずっと彼女の傍らにいるのが、自分の望みである。だからこそ、彼女が心から喜んでくれるものを贈りたかった。
　多くの人で賑わっている大きな菓子店で、可愛らしい箱に入ったチョコレートの詰め合わせを買ってはみたが、これだけで済ますのも何か違うように思えた。……やはり、アクセサリーや化粧品が二十歳前後の若い子には無難なのだろうか、と、化粧品も置いてある薬局に足を踏み入れたものの、もともと気乗りがしないものを店員に相談するのも億劫で、買い物はしたが、およそ『しゃれた』という修飾語からは程遠いものを購入してしまった。目的もなく、通りを歩いていると、あまり人は入っていないが歴史のありそうな大きな店が目にとまった。そして……おそらくエリカが喜んでくれそうなものが、そこにはあった。ただ、あまりにも色気のないもので、コリンやドゥニが苦笑する姿も容易に思い浮かべられた。が、アレックは躊躇なく、重い木の扉を押して店内に入った。

　「すみません。贈り物をしたいのですが…………」


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　アレックが新型機を駆って小隊に戻った日、すべての仕事を終えてから、二人は中庭で会った。まず、可愛らしい模様のついたチョコレートの箱を貰ったエリカは、アレックに勧められて一個口にし、美味しいですとにっこり笑ったあと、この箱もとても素敵で、食べ終わったあと、ボタンや綺麗な紐をいれるのに使いますね、と喜んだ。そして、次にとて小さな箱を渡されてエリカは躊躇した。……これはリップスティックというものではないだろうか。“今までの紅と違って、細長く固めた形になっていて、刷毛が無くても塗れて便利なものよ。これが都会の流行ですって。”と雑誌を見せてくれながらカレンが教えてくれたけれど、私、口紅なんて塗ったことないのに。やっぱりアレックさんは口紅くらい塗ってほしいのかな、だったら……考えなくちゃいけないけれど。

　「それは俺とお揃いなんだけれどね。」

　「え？アレックさんとお揃い？口紅……がですか？」

　いや、それはね、と、アレックは自分の胸ポケットから細長いものを取り出した。

　「これなんだけれど。……唇の荒れを防いだり治したりする固形の軟膏なんだよ。俺たちは上空の寒気で肌を荒らすから、軍医殿からいただいた軟膏を塗っているんが、飛行手袋を外さなくてはいけなくて難儀してたんだ。これなら、外さないでいいからね。君も、ちょっとだけだけれど、唇の端が荒れていたからいいんじゃないかと思って。開けてご覧。そう、蓋を抜いて、本体の底の方を捻る。……ああ、あまり長く出すと折れやすいということだから、少しだけね。そう、それで唇に直接塗る。」

　エリカは唇に塗り、容器を面白そうに二三度捻ってみて、また、もう一度塗り重ねた。

　「少し、すっとします。」

　「それが効くらしいよ。……実は航空班全員の分をお土産に買ってきたから、俺だけでなく皆とお揃いっていうことになるね。」

　有難うございます、とエリカは整備服の胸ポケットにリップクリームを箱にしまって入れる。

　「そして……はい、三つ目のお土産。」

　アレックに差し出されたのは、皮でできた箱だった。宝石箱より薄くて細長いが、宝石箱のように持ち上げて開くような蓋がついている。手をかけたエリカに、開けていいよ、というようにアレックが頷く。

　「わあ！」

　そこに入っていたのは、製図用の鉛筆であった。きちんと几帳面に一方の端が削られ、軸につやつやと黒光りする塗料が塗られ、刻まれたアルファベットは、ユクトランドでよく知られた文具会社のロゴだった。

　「何を贈ろうか散々迷ったんだが、お店でこれを見かけたときに、君の顔が浮かんだんだ。」

　エリカは鉛筆を一本取り上げる。名の通ったメーカーのものであるだけでなく、最上級の製品だった。いつも使っている鉛筆は、とにかく書ければいい、という軍の支給品で……彼女は早速物入れからメモ用紙を取り出して、鉛筆を走らせ、その書き心地にうっとりとした表情をする。そして、彼女は、軸の端に白いくっきりしたエナメル書きで“エリカ”という名をみつける。

　「その場で書いてもらえる、というので、名前を入れて貰ったよ。……店の人に、念を押されたけれどね。いいんですか、これは製図用の鉛筆ですよ。エリカというのは女性のお名前でしょう？絵を描くための鉛筆ならもっとずっと柔らかいものですよ、って。だから俺は、いいんです。俺の知っている女性は、国中の他のどんな女性より、製図用鉛筆をうまく使えるんですって答えたよ。……どうかな、気に入ってくれるかな……？」

　エリカは、はい、何よりのプレゼントです、と言って、アレックに飛びついた。

　「ああ、よかった。気に入ってくれたのか。」

　「はい、私が欲しいものだし、おそらく私に一番必要なものでもあります。……有難うございます、アレックさん。」

　「…………いや……これでやっと二年以上前の約束が果たせたね。……ああ、…………」

　それきり言葉の途絶えたアレックを、エリカは見上げる。と、アレックはそっとエリカの髪を撫でた。

　「悪い……君に贈り物をしたつもりが、何だか俺の方がずっとたくさんの幸せをもらっちゃったみたいだ……」

　そういうアレックに、いいえ、私の方が一杯貰いました。いいや、俺の方が、と二人は言い合い、やがて二人して笑った。



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　それからしばらくして、見せたいものがある、とエリカがアレックの部屋にやってきた。どうしたの、と訝るアレックに、エリカは机の上に設計図を広げて説明をしてみせる。

　「やっとオズウェルに一度で合格点を貰った設計図なんです。ねえ、アレックさん、この図面はアレックさんから貰ったあの鉛筆で書いたんですよ！……オオルリβは、元となる設計図は私のものでしたけれど、オズウェルの助言がなければ完成できませんでした。でも、この設計図は、初めから最後まで私一人でやった仕事です。親方さんからも『こいつはちゃんと飛べる機体だ』って太鼓判を押して貰えました。…………まだまだ未熟ですけれど、いつかアレックさんの機体をアレックさんに合わせて私一人で改造してみせますね！この設計図と同じように、アレックさんに貰った鉛筆でもって図面を引いて！」

　ドゥニやコリンは、贈り物に見返りを求めていい、といい、アレックはそれは正しくないと思っていたが、どうやら最大級の見返りを自分は求めてしまい、また得たのかもしれない。そして、はしゃいだように喋り続けるエリカを見る限り、見返りを求めることは間違っていなかったのかもしれない。



　ならば、もう少し欲を出してもいいのだろうか？



　いや、それはどうだろう、いい大人が感情を制御できなくてどうする、と自問し、見つめた視線がエリカの視線とぶつかり、自分の内なる声に負けて、ええい、ままよ、と声をかけてみる。

　「薬は効いた？」

　「はい、もうすっかり。あのお薬、使いやすいし、とってもよく効……」

　そこまで喋ったとき、口を男に塞がれてしまったので、続きは言えなかった。アレックは、うん、すっかり治ったみたいだね、と囁いてから、もう一度今度は薬効を検証するためでなく愛しさのあまり抱きしめて優しく接吻した。
ゲーム内で宙ぶらりんになっていた「約束」の話。アレックさんのことだから、いつか何らかの形で約束を果たすに違いない、と思いつつあれこれ考えてみました。ヴィジュアル・ファンブックでは、帰国早々婚約指輪が「贈り物」になっていましたが、うちの「帰国しても何かと悶々としてしまう」アレックさんではそれはない。そして、エリカちゃんはどんなものでも喜ぶだろうけれど、「小さな頃からエンジンが友達の女の子」のハートのど真ん中を打ち抜くような贈り物は何かな、と考えていって、こうなりました。台詞は特典CDの「誕生日に」から一部転用させていただいております。
プレゼント内容はドゥニさん&コリンのいう方向性もアリだと思いますが、男のロマンであまりにも見返りを求めすぎですし(余談ですが、ドゥニさんからの結婚祝いは白&黒&ひらひらネグリジェです)、化粧品やアクセサリーではうちのエリカちゃんはあんまり喜ばない。でもって、色気の全く無い贈り物となりました。
　リップスティックは実際の世界では第一次大戦後あたりに出回ったみたいですが、リップクリームは調べてもわからず、「ええい、風色は架空戦記(ああ、架空ってステキ)なんだから何でもアリだ！」ということで、出しちゃいました。……うちの航空班はみんなしてリップクリーム愛用してます。はい。

相変わらず、甘いのが好きなけれど書くのが苦手な管理人ですが、下手なりにたまには……ということで……

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