トッパーの冒険(1) |
| 最初の話し手 カイユン |
「ねえ、今日もお話して！」 パジャマのボタンをかけおわり、カイユンに折れた衿を直して貰いながらパトリックは言いました。 デニムのエプロンをかけたままのカイユンはにっこり笑って少年をベッドに入らせます。 「お話が終わったらすぐに寝るって約束できるかい？」 こくこくと頷くパトリック。 カイユンはベッドの傍らに椅子をひいて座ると、どんなお話がいいかな？と尋ねました。 「あのね！海のお話！そして冒険のお話！」 パットがねだるのはいつだって冒険の話です。そして、不思議で面白い海の話をカイユンから聞かされているせいか海が大好きでした。 カイユンは少し考え、話し始めました。故郷では近所の小さな子供達の世話をしていた彼にとって、こういうことはお得意の１つだったのです。 「わかった。海で冒険する話だね。・・・・・・昔ある星に、トッパーという元気で勇敢な男の子が住んでいました。」 |
トッパーが住んでいたのは、海に向かって突き出した山の麓にある小さな村で、青い青い、広い広い海が家から一目で見渡せました。 トッパーは村での暮らしが大好きでしたけれど、ステキなことを捜すのも大好きでした。 ある日、トッパーは村の人を手伝って大きな魚を捕まえたあと、山の上に上って水平線のずうっと向こうを眺めました。 丸い丸い水平線の向こうには大きな陸地があって、人がたくさん住んでいるんだよ、と村の人たちに教わったことがあります。そして、こうやって水平線を見ていると、トッパーはそこに行ってみたくてたまらなくなるのでした。 「どんな人たちが住んでいるんだろう！どんな場所なんだろう！あそこまでいったら新しいお友達にも会えるかな！」 トッパーは山をいっきにかけおりると、さんばしまで行って友達のイルカ君を呼びました。 「ルイ！ルイ！いるかい！」 海で遊んでいたルイはすぐにやってきて言いました。 「トッパー、何か用があるの？」 |
「へえ！トッパーはイルカとお話ができるんだね！」 「うん、そうだよ。二人は友達なんだよ。」 「ふうん！それじゃ、トッパーはカイユンみたいなんだね！お料理が上手で、優しくて、髪が黒くて。ええっと・・・・・とにかくカイユンそっくりな子なんだね！うん。絶対そうだ！」 「え・・・・・・・・・・・・・・・」 （パットにそっくりな子のつもりだったんだけどな。普通、ちいちゃな子って主人公になりたがるものだから・・・・・まあいいか。） 「そ、そうだね。・・・・・お話の続きをするよ。イルカのルイの鼻面をポンポンと優しく叩いてトッパーは言いました。」 |
「ルイ、海の向こうに行ったことがある？、どんなところかなあ。」 ルイは胸びれでぱしゃぱしゃと水面を打ちました。 「あのね、あんまり遠くまで行ったことはないんだ。でもね、少し遠くにいったとき、大きな船を見たことがあるよ。高い柱が立っていて、そこに布が張られていてね、風を受けて走るんだよ。」 そのとき、ルイのそばにぽっかりと黒くてつやつやした生き物が顔を出しました。トッパーとルイの友達、アシカのシアです。 「船なら、僕もみるよー。おなかが空いて海に浮かんでぼんやりしているときに時々もの凄い速さで走って行くよー」 トッパーは尋ねました。 「ルイ、大きいってどの位？」 ルイはくるりと海に向かって泳ぎだしました。 「あのね、ここから・・・・・」 そしてずうっと遠くまで行って叫びます。 「ここまでくらいだよ！」 それは、トッパーが100人乗っても大丈夫なくらいの大きさでした。 「シア、速いってどの位？」 シアは全速力で泳ぎだし、大きな丸を描いて戻ってきました。 「これの２倍、いや３倍、いや10倍くらいだよー！」 |
「凄いね！きっとコスモ・アーミーの巡洋艦より大きくて速いんだね！」 「うーん。うん、うん。そうだね。」 （・・・・・・・・・・あああ、どうしてパットはすぐにコスモ・アーミーの巡洋艦のことなんか思い浮かべちゃうんだろうなあ・・・・・） |
| トッパーはふうっと息をつきました。 「見てみたいな、行ってみたいな。・・・・でも、そんなに遠くには僕、泳いでいけないもの。」 ルイとシアは顔を見合わせると、声を揃えて言いました。 「だったら一緒に行こうよ！」 トッパーは目をまんまるにしました。 「行こうよ。僕らと一緒だったら大丈夫だよ！僕の背びれにつかまっていけばすぐたよ。」 ルイがいうと、 「うん。行こうよ。おなかが空いちゃうかもしれないけれどそうしたらトッパーの分のお魚も捕まえてあげるよー。」 トッパーは嬉しくなって海に飛び込んで、右腕でルイ、左手でシアを抱きしめました。 |
「シアは食いしん坊なの？」 「うん。いつもおなかが空いた、っていってるんだ。でも、お魚を捕まえるのがとっても上手なんだよ。だからトッパーはご飯の心配をしないでもいいんだね。さて、トッパーは次の日、とうとう冒険に出かけたんだ。」 |
トッパーが出かけた日は、良く晴れた日でした。海も、空も、真っ青です。トッパーはルイの背びれに捕まらせて貰って海の上を泳いでいきます。風も優しく吹いて、カモメものんびりと飛んでいます。 しばらくして後ろを振り向くと、村はもう見えなくなっていました。どこもかしこも水平線です。でもトッパーは怖くはありませんでした。ルイもシアも何もなくても方角がわかるのです。 |
「すごい！アケルナルに乗っていてもらったら、空間座標把握装置なんて必要ないんだね！」 「・・・・・・・・・・・・」 |
「ここらへんにね、時々船が来るんだよ。」 ルイが言い、シアも頷きます。 「ふうん・・・・・・・」 トッパーはあたりを見渡しました。すると、いままで静かだった海がうねって膨れ上がっていました。 「ねえ、あれが大きな船？」 シアがぶんぶんと首をふります。 「違う！何かヘンな匂いがするよ！食べ物じゃないけれど生き物の匂いだよ！大きな大きな生き物がこっちに来る!!」 生き物の起こした波でトッパーの体は上下に揺れ始めました。 どんどん大きな生き物は近づいてきます。３人は体を寄せ合いました。 |
「続きは明日。」 パトリックは目をこすりながらも、もっともっととお話をねだります。 「駄目、約束だよ。・・・・・・寝る時間だし、パットの目はもう眠たい眠たいって言ってるよ。明日パットがいい子にしてたら必ず続きを話してあげるからね。」 カイユンが毛布で肩を覆いなおしてやると、パットは青い瞳でしっかりとカイユンを見つめました。 「約束だよ。・・・・・ちゃんといい子にするからね。」 「うん。約束。」 カイユンは明かりを消しました。 （大きな生き物が、お母さんとはぐれてしまったクジラの子供だっってわかったらパットはどういう顔をするかなあ。・・・・・このあとクジラのお母さんを探して冒険するんだけど・・・・・・パットはお母さんを知らないから、どう話せばいいかな。・・・・でも、お母さん、ってどういうものかわかって欲しいから。・・・・・・・・話し方、考えなくちゃね。・・・・お休み、パット。 |
そして、結局カイユンは約束を守れなかったのでした・・・・・ 更に、次回の話し手は「大きな生き物」が「仔クジラ」だとは夢にも思わず・・・・ 物語は混迷の度合いを深め、間違った方向へと流れていくわけです・・・・ しかし、カイユン、君のネーミングセンスは一体・・・・・ |
