1 カイユンの誘拐
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| 宇宙には”仕事屋”と呼ばれる者たちが居る。 彼らは、惑星開発、物資輸送、科学的調査、救難作業、産業スパイ・・・・・ありとあらゆる仕事を引き受ける。そのほとんどが十名前後から成る小規模のチームであり、苛酷な状況の中を生き残っていくだけあって、多少の危険はものともせず、利益のためであれば人殺しも辞さない荒くれ男の溜り場であった。 彼らは大きな仕事が山とあり、食いはぐれることの無い開発宙域に結集してくる。 ここ、クリア・ウォーター星系もまたそんな宙域の一つであった。 クリア・ウォーター星域の中心、クリア・ウォーター星は、その名の通り美しい水をたたえたテラ型の原始惑星である。まだまだ人の手が触れていない広大な森林が、海が、人類の前に横たわっていた。 ここに妙な仕事屋が居る。クルーは六名。チーム名はドロップ・アウト。宇宙船名はアケルナル。仕事の腕は一級といって良いが、クルーのメンバーがこの上もなく変わっている。 クルーの一員（少なくとも本人はそう思っている）金髪碧眼当年取って六歳の美少年、パトリック ギダーは、クリア・ウォーター星最大の町、シエラの商店へ買い出しにきていた。商店といっても小規模でせいぜいが三階建て、裏道に入るとテント張りの店さえある。女子供の姿はほとんどなく、銃を腰にぶらさげた植民者たちが荷を抱え、右往左往していた。 そんな町でもここかしこには穏やかな生活の匂いというものが見え隠れしている。それは、人間が集団で暮らしているところには必ず存在しているものなのだ。 パトリックは果物屋の店先にある赤黒い拳程の大きさの実を不思議そうにじいっと見つめ、傍らの黒髪の青年・・・キム カイユン・・・のズボンを引いた。 「あぁ、あれはね。ミリュウって果物だよ。甘酸っぱくておいしいんだ。・・・・・でも、あれはちょっと熟れすぎだなぁ。・・・・・」 これを聞いていた店の親父は不機嫌そうにカイユンを見据えた。が、カイユンのきらきらした少年のような瞳に出会うと、逆に自分の方から目をそらしてしまった。 「でもね、今食べるならちょうどいいですよね。パット、ミリュウってのは柔らかくならないと美味しくならないんだよ。・・・・・あのぉ、おじさん、・・・・・ものは相談なんですけれど、いくらか負けて下さいませんか？」 開拓星にしては珍しい一本抜けたようなカイユンに、主人は半値でミリュウを売ってやった。どちらにせよ、あのミリュウはあの青年の言う通りに熟れすぎであったし、カイユンは子供の頃の友達の誰かに似ていた。 「さぁてっと。」 カイユンはエアバイクの物入れにミリュウを入れた。中には、色とりどりの野菜や加工肉などがぎっしり詰め込まれている。 「もう、買い忘れたもの無いかなぁ。パット。」 パトリックは頷いたけれど、カイユンの手を何かねだるように引いた。 「判った判った。そうだね。少し散歩しようか。」 カイユンは最寄りの有料駐車場にバイクを入れ、磁力ロックをした。これで心配はない。パトリックはカイユンを引っ張って走りだした。 パトリックはクルーのみんなが大好きで、とくにこうして一緒に買物に出るのが何よりの楽しみだった。 マリオ リベラと来るときは爆薬やなんだか怪しいものの買い付けをする。薄暗い路地に入って取引するのを見るのは少しドキドキする。それもまたちょっとした楽しみだ。 ケイン ソーンダイクと来る時はコンピュータ用ディスクを買う。ほとんど何も言わない男だけれども、時々店頭に陳列してあるコンピュータで遊ばせてくれる。（解説付きでだ） ユーリ ロマノフは銃器を扱う男だが、パトリックは少々苦手だった。少しでも（例えばマリオはしょっちゅうやっているような）悪いことをすると穏やかだが厳しい声で叱られるのだ。でも、大きくて暖かい手をしており、傍に居てもらうと安心できた。 ジョセフィーヌ ルノーはチームのリーダーである。機械類を買う。チンピラとやり合うところは女性とは思えない。パトリックは抱きあげてもらったことがあるが、何だかくすぐったくって笑ってしまう。ジョーも一緒に笑う。 そして、カイユン。食料、雑貨を買いにくる。パトリックの大のお気にいりだ。肩車をして走り回ってくれたり、二人で棒付きキャンディーをなめたり（後で必ず歯磨きさせられるけれど）、蝶々を追い掛けて森まで探険に行ってくれるのはカイユンだけだった。 「今日は特にいい天気だなぁ。散歩日和だね。・・・・・たくさん買ったねぇ。パット。お土産まで買ったし。あれ、可愛いよね？あれで、“きゅっ”って髪の毛縛ったら似合うよね。」 カイユンに言われてパトリックはカイユンが一時間かけて決断し”キャプテンのために”買ったパステルカラーの花柄スカーフを思い浮べた。それは確かに可愛かったが、ジョーもそう思うかについては若干の疑問があった。 「わあっ ありがとう！可愛いっ！」 そんな声を上げてジョーが小躍りする日、それは宇宙の終わりの日だろう。 パトリックの顔を覗き込んで、考えていることを察したカイユンは、少年を肩に担ぎ上げると声をたてて笑った。 「パットは判らないかもしれないけれど、キャプテンは本当はとっても優しくって女らしい人なんだよ。」 「・・・・・そうかしら。」 とても考えられない。お料理に、洗濯に、お掃除に、縫い物に、夜寝る前のお話・・・・・全部カイユンがやっているじゃあないか・・・・パトリックは首を捻って、カイユンにそれらのことを言ってみた。 「・・・・・そりゃあ・・・・・もし、キャプテンがやってしまったら僕の仕事がなくなっちゃうだろう？僕はキャプテンみたいに宇宙船の操縦や整備はうまく出来ないんだもの。だからさ・・・・・」 言いながら、カイユンも首を捻ってしまったのだから、ジョーの家事遂行能力の程度が知れるというものである。 その時、ぼんやりしていたカイユンは前方から歩いてきた少女とおもいきりぶつかってしまった。地面に倒れた少女は、鮮やかな黄色い半ズボンに付いた土をはたきおとすと、必死に謝るカイユンに”いいんです”と微笑して走っていってしまった。 もしも、カイユンではなくロマノフやマリオやジョーだったなら、少女に何か胡散臭いものを感じ取ったであろう。（ソーンダイクは除く）パトリックですらちょっと気になって振り返って少女を捜したが、彼女はすでに人込みの中に消えた後だった。 「さぁ、パット。どこへ行こうか？また海に行くかい？」 パトリックは小声で言った。 「この間約束したところ・・・・・」 「ああ、そうか。おやつをご馳走するって言ったけね。よーし。何がいいかな？ケーキ？アイスクリーム？僕が作るのよりずっと美味しい奴だぞー。」 大声でいとも楽しそうに話すカイユンに人々の視線が集まった。 パトリックは笑いながらも、少女が消えた方を気にしていた。 「あーあ。しけてやがんの。」 少女は路地裏の奥の薄汚れた壁に背をもたせ、カイユンのポケットからすり取った財布の中身を数えていた。 「隙だらけで楽だったから仕方ないか・・・・・ここみたいな開拓星の大通り歩くならもうちょっと用心しなきゃあね。普通の神経してたら暮らしていけないんだもん。」 そして、紙幣をズボンのポケットにねじこむと、外側は地べたにポイと投げ捨てた。 その財布を音もなく忍びよってきた人物が拾い上げた。エア・バイク用のヘルメットをかぶり挑みかかるように片手を壁について通りへと通じる道を塞いでいる。少女は、無理遣りに脇を擦り抜けようと突進した。ヘルメットの人物は左手一本で少女の腰を捕まえるとそのまま抱き上げた。足をばたばたさせ、少女はわめいた。 「やめろってんだよ！何しようってのさ！あたい、まだ十二だよ！」 ヘルメットの人物は半分呆れたように頭に手をやった。少女は尚も暴れる。 「ねぇ。お願い！乱暴だけはやめてよ！」 「あほっ！気色悪い！そんな趣味あるもんかっ！」 ヘルメットを取ると、黒いジャンプスーツの上に豊かな栗色の髪がこぼれおちた。 男だとばかり思っていた人間が女だったので少女は少し安心して息を付いた。女は少女を地面におろした。少女は皺になったＴシャツの兎の柄を引っ張って直した。 「お金目当てなんだ。いいよ。有金全部あげる。」 先ほどカイユンから取った札を少女は差し出した。ポケットに無造作に突っ込んだためくしゃくしゃだ。女は首を横に振った。 「じゃ、何が目的よ！」 「・・・・・この金を・・・・きちんと財布に入れて、さっきの阿呆に気づかれないように返してやってもらいたい訳。」 少女は前にのめった。妙な注文だ。八歳の時からスリをしているが、こんなことは初めてだった。 「さっきの黒い髪した子連れの若い奴に？・・・あんたあいつの何よ？」 女は、・・・ジョセフィーヌは・・・くっくと笑った。 「・・・・ま、保護者・・・・ってとこかな。船の部品買い付けにきた序でにちょっと様子を見ていたら、あんたがあいつの財布をすったじゃない？・・・・・あたしが預かっていってもいいけど、あいつ、とっても気にするたちなのよ。さあ、あんたにとっちゃ朝飯前のことでしょう？あいつ、非常用に首から別の財布かけているから困っていないとは思うけれど・・・・・」 ジョーはレーザーガンを右手でぐるっと回した。 「逆らうことなんて無いわね？お嬢ちゃんお利口だものね。・・・・・あんた、名前は？」 少女は唾をゴクリと飲み、震えながら言った。 「セリナ」 「そう。じゃ、セリナ、行きなさい。あの二人はどこかの喫茶店に入っているわよ。」 セリナは脱兎のごとく走って明るい空間へと飛び出して行った。 黄色い半ズボンが雑踏のなかに消えるとジョーはため息を付いた。頬にかかる自分の髪を無意識に人差し指に絡める。 「全く・・・・・・・・手間のかかる坊やなんだから・・・・・」 カイユンとパトリックが入った店は、この辺りでは健全な店だった。・・・・・といっても、”一般人が入っていける店”という程度のことで、奥の方では昼日中から酒浸りになった男たちがカードに興じていた。二人は、店のなかでもっとも明るい場所である入り口付近のカウンターに並んで座った。パトリックは高い止まり木の上で足をぶらぶらさせ、至極ご機嫌そうだった。 店の主人がやってきて、メニューを配り注文を取った。 「クリームソーダ二つお願いします！」 カイユンの元気のよい爽やかな声に、数人が目を向けた。主人はグラスを置くと、珍しげに二人を代わる代わる見た。 「兄さんたち、初めての顔だね。・・・・技術者・・・・・かね？どこの星系からこのクリア・ウォーターへ？」 カイユンは、パトリックがストローでソーダ水をかき混ぜるのを見ながら答えた。 「僕は技術者ではなくて、あ！パット、ストローでぶくぶくしちゃあ駄目だよ。きちんと飲みなさい！・・・・すみません、技術者ではなく、仕事屋なんです。」 主人は丸椅子を動かすと、カイユンに向きあって座った。 「仕事屋!?・・・・冗談言っちゃいけないよ。クリームソーダを飲む仕事屋なんか初めてだ。」 「そうですかぁ？」 カイユンは、長いスプーンでアイスクリームをつついた。 「それを言うなら、僕たちここへ来る前に三つの開拓星に立ち寄りましたけれど、クリームソーダのある酒場を見付けたの、ここが初めてですよ。」 主人は笑って、こつこつとカウンターを叩いた。 「今はこうなっちゃあいるが、行く行くはファミリーレストランにしたいんだよ。この星はごたごたしているが、開発の中心的存在のカイエさんがきっと政情を落ち着かせてくれるさ。・・・・・どうも血の気が多いのは苦手でねぇ。奥の飲んだくれではなく君達のような仲の良い兄弟ばかりが客ならいいんだが。しかし、・・・・待てよ。」 カイユンは、パトリックの頭を撫でつつ、兄弟ではないと言った。 「そりゃあいいんだが。・・・・・兄さん。私は商売柄人間をよく見ているんだ。・・・・・お客さん少し体つきに特徴があるね？特殊な環境の星の出身かい？」 「はい。生まれが高重力星なんです。あ、でも体つきの特徴はそれだけではなくって、僕、混血なんです。水棲亜人間の血がが混ざっているんです。ほら、僕の耳の後ろに、はっきりとエラ穴の名残があるでしょう？」 近くに座っていた人々が全員三センチほど飛び上がった。亜人間は人の形をした人でないもの、動物である。混血などということは通常考えられないことなのだ。何となく、気まずい空気が辺りにたち篭めた。 その雰囲気を和らげるべくカイユンは何か言おうとしたが、店の奥からの大音響によって遮られた。奥の酔いどれどもが五六人で喧嘩を始めたのだ。 グラスの割れる音、テーブルが壊れる音、罵り喚く声が店じゅうに満ちた。カウンターの客のうち三人が金を置き、急いで外に出て行った。誰も、巻き添えになりたくはないのだ。 主人は、上を向き、諦め顔で祈りの言葉を唱えていた。 ガチャン、ガチャン 壁に並べてあったボトルが砕け散った。ショックガンを使っている馬鹿者が居るらしい。 弾丸はカウンターにまで飛んできた。カイユンは咄嗟にパトリックの頭を下げさせた。パトリックに怪我はなかったが、弾はパトリックのクリームソーダを引っ繰り返した。 ソーダ水は、カウンターの上で情けなさそうにじわじわ泡立ちながら広がって行った。 パトリックは、悲しかった。折角カイユンとソーダ水を飲みにきたのに・・・・・それは今、はっきりした怒りに変わった。さっきまできゅっと握っていた右の拳を広げ、ちょっと離れたところに座っている男に飛び付いて、腰のレーザーガンを失敬すると、暴れている男たちに威嚇の意味で天井に向けて発射した。 頭に血の昇っている男たちのこと、それで静まるはずがない。パトリックを睨み付けた。 「パット！やめろ！」 カイユンが叫んだが、パトリックは冷静に銃を構え、狙いを付け、撃った。ひとりの男のスペースジャケットをレーザーが焼いた。 「止めろ！」 カイユンは声を張り上げた。パトリックは、軍人として最高の遺伝子を持ったクローン人間だ。感情を爆発させればとんでもないことが起こる。 「パット！喧嘩しちゃあだめだっ！皆さんも落ち着いてください！喧嘩なんか止めてください！物壊さないで！」 男達は、構わずにパトリックとの間をつめてくる。 「止めてください！止めてっ！あーっ！来ちゃあだめっ！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 五分後、店の中には、壊れた家具と、割れたグラスと、気絶している男達と、店の床に正座しているパトリックと、パトリックの前に正座してお説教しているカイユンの姿があった。 「いつも言っているだろう！銃は使ってはいけないって。銃はとっても危ないものなんだ！」 パトリックは涙ぐんでいた。自分が悪いことをしたとは考えられなかったのだ。 「ほら、いつだってそういう目をする。・・・・・どうしたって駄目だ。銃はパットの使うようなものじゃない。」 「・・・・」 主人は片付けるのも忘れ、カイユンたちを眺めていた。 「あの兄さん、言っていることと行動がどうも合わんな。”止めて”とか言いながら全員素手でのしちまった。」 「ほんと。すごぉい。・・・多少目の辺りにあざができてるけど。」 いつのまにかやってきていたセリナは、どさくさ紛れにカイユンの飲みかけのクリームソーダのグラスを手にしてくい、と飲んでいた。 「・・・・・カイユンだって！カイユンだって喧嘩したじゃないか！」 「喧嘩をしたんじゃないんだ。あれは護身術だよ。・・・・・その・・・・・少し力が入ったのは認めるけれど・・・・・・いいかい！僕は喧嘩は嫌いだ。喧嘩はね、人を傷つけるし、他の人にも迷惑をかけて、心配をかけて、少しもいいことはないんだよ。喧嘩なんかする子は大っ嫌いさ。」 その時、彼の肩に大きな手が置かれてカイユンは顔をあげた。黒のサングラスにしっかりした縫製の黒いジャケットが目に入った。 「君・・・・・私達を助けてくれないかね？」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・と、いう訳で、僕はその人についていくことにしました。何をするのかは言ってくれませんが、良い仕事で、しかも僕にしか出来ない仕事なのだそうです。 詳しいことは、また後で連絡します。心配しないでくださいね。 金 開運 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・で、のこのこくっついて行っちまったのか。」 森林帯、依頼を受けて修理している宇宙船の傍に止めてあるアケルナルの中でマリオは呆れた。 「知らない人についていくな、とパトリックには散々言っていたのに本人が行くとは・・・・・」 ソーンダイクは、手紙を持って一人で帰ってきたパトリックを濃茶色のサングラスを通して見つめた。 「もうそろそろ通信機で連絡してきそうなものですが。・・・・それとも、カイユンは誘拐されたのでしょうか。」 「あの子さらって何になるのよ。」 買ってきた部品のチェックを続けつつ、ジョーはぼそりと言った。 「ここには大金なんか無いわ。」 「金銭目当てというよりは”人身売買”のほうかと。そこそこには高く売れそうです。」 常人の五十倍の筋力を秘めたジョーの左手で部品がぐしゃっと潰れた。 「冗談すな。・・・・・いやぁ、本当に困った子よね。・・・・・この間も街で見付けた迷子の母親捜して三日の間連絡抜きでふらふら歩いていたし、その前は、頼んだ半導体落としたって言うんで四日間捜し回っていたし・・・・・今度も三四日中には帰ってくるでしょうよ。パトリックの話じゃ、カイユンに話し掛けてきた男は大して危ない奴ではないようだしね。」 尚も、部品チェックを続ける。落ち着いたものだ。 「・・・・。もう少し、心配した方が良いのじゃないのかね？」 ジョーに手渡された部品をリストと照らしあわせていたロマノフは、あまり強い口調ではなかったがそう言った。今年四十歳。一度は子供を持った（そして死なせてしまった）身としては、放っては置けぬのであろう。 「ま、あんた、冷たい女だからな。」 こう言ったのはマリオだ。 「だってねー。」 ジョーは、回路計の針の振れを読み取った。 「・・・・・よし。結構いい品物だわ。・・・・・えーと、何だっけ・・・・・カイユンは幼いとはいえもう二十歳過ぎよ。自分のことは自分で責任を取らせなければ。マーリナ２では男は平均十七歳で第三次性徴期を迎え、すぐ結婚。二十歳では平均一・六人の子供を持っている。そういうことからすれば、あの子はあたし達よりずっと成熟しているはずよ。」 マリオが、いつになく真面目に言い返した。 「だがな。あいつは半分亜人間だ。カイユンの知能は並みの人間を遼かに上回っているが、精神構造として、あいつはガキ以外の何者でもないぜ。マーリナ２が”皆さん、一緒に仲良くやりましょう。”てな事を了解していないと生き残っちゃぁ行けねえ劣悪環境の星で、住民揃って人がいいということに加え、あいつは第三次性徴が二十歳でやっと始まったおくてだ。・・・・・まだまだ俺たちが世話を焼いてやらなくちゃむりだ。」 「・・・・・あんたが思っているほどじゃないかもよ。少なくともあの子は自分が何をやっているかくらいは判ってるわ。・・・・・しっかしマリオ。あんたカイユンの事となるとマジになるわね。」 爆破屋は、胸を張った。 「あいつのことについちゃあ本気にならざるを得ねぇだろうが？」 「どうしてよ？」 「・・・・・あいつは、チームの中でまともな料理が出来る唯一の人間だからだ。」 その、マリオの鼻先に、ソーンダイクがあみだくじを突き付けた。 「善は急げ。ひとまず今日の夕食当番を決めましょう。」 |