インターミッション４
買い物天国!!ショッピングセンターの午後＜前編＞
某月某日、TFDアジト ネコが縁側で丸くなるようなうららかな午後。穏やかな空気は、突如響き渡った奇声とも悲鳴ともつかない大音声によって砕かれた。 「ああ～～～～～ッ！？」 自室でごろごろと惰眠をむさぼっていたゴン太は、その声で急速に現実世界へと引き戻された。毛皮は毛羽立ち（寝癖、ともいうが）、目の焦点が合わず、かなり間抜けな状態だ。 「ふあ？なんだっけ？ローストビーフが大爆発・・・じゃなかった、ミートソースが大激怒・・・？わかんなくなったワン」 首から上がメトロノームのようにぐらぐら揺れる。 目の下のクマとともに、昨夜から引き続いた「徹夜で白熱！賭けポーカー」の影響は色濃く残っているようだ。 と、だだだだだだっというやかましい足音を響かせながら、声の主がやってくる。自室の前で止まったかと思うと、ぴしゃっと音をたてて障子戸が開かれる。 ヒトが来たからといって特に居ずまいを正すわけでもなく、寝そべったままの格好でゴン太が見やると、普段では考えられないような形相をしたロッキーが鼻息も荒く仁王立ちしている。ゴン太同様例の「徹夜で（略）」によるクマが、彼の表情にいっそう拍車をかけている。 「・・・やられたワヒ」 「・・・うそ？」 その一言が何のトリガーになったのか、ゴン太の意識が急速に覚醒した。布団から跳ね起き、昨夜の行動を思い出すようにぶんぶん頭を振る。 「４時半ごろまでは起きてた記憶があるんだけども・・・そっからあとはぷっつりだワン。ロッキーは？」 「似たようなもんだワヒ。フランクはさっさと酒飲んで寝ちゃったし、ミッキーは負けに負けて途中でリタイア、ウォレットは・・・え～と・・・」 「・・・３時４３分１６秒に就寝」 いきなり背後から声をかけられ文字通り跳ね上がる二人を、当のウォレットは夜更かしで多少ぱさついてしまった金髪をかきあげながら不思議そうに見つめた。いつもはあまり感情の起伏が激しくない目をしきりにしょぼつかせている。 「じゃ、じゃあ犯行は午前４時半以降とみてまず間違いなさそうですね金田一先生？」 「そ、そ、そうでしょうねえ、と、等々力警部・・・ワヒ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」（目がしょぼしょぼ） 分かる人にしか分からないようなネタを続けようとする二人だが、寝不足で元気がないのと大して機転と推理力の働かないアタマのおかげで不発に終わる。むしろ肩をすくめてしょぼしょぼ目つきのウォレットのほうが耕助さんに似てる気がするんですが・・・分からない方すみません（汗） 「で、なによ？」 さっさと素に戻ったゴン太がロッキーにたずねた。新調でもしたのか、履きなれない様子のデニムパンツの尻ポケットから紙束を引っ張り出しながらロッキーが話し出す。彼が常に携行している“うんちくノート”だ。 「えっとね、まあこれがはじめてってわけじゃないんだけど？おっそい朝ごはん作ろうとして備蓄庫へ材料取りに行ったわけ。そしたら～・・・」 「からっぽだった、と。はあ～～～、今回は何？人間？魔物？野良犬？入り方で分かるっしょ」 「う～んと・・・」 ロッキーはドラマの刑事がよくやるように、手帳型の紙束をタテに開いている。しかし当然のごとく字は横に書いてあるわけで・・・慣れないことはよそうとでも思ったのかすぐ元に戻した。なにやってんのキミは・・・ 「南京錠はねじ切られてた。大型ペンチで人間がやったか、多少は考えありの魔物が手でひねって壊したか・・・野良犬じゃないのは確実」 「ふ～ん・・・そっか。こないだの列車事件で軍とか警察にもにらまれてるし、おまわりさん呼べないよね～。オレたちなんもしてないのに？」 被害者ヅラしていけしゃあしゃあとそんなことをいう隊長に、ロッキーは深～くため息をついた。睨まれてるのは列車事件でのことではなく、むしろそのあとのもろもろの問題行動からきているのだ。ニューシャンハイ連合警察当局から指名手配されていないだけまだマシだというのに・・・。 連合政府発足にともなうボーダーブロークン（国境撤去）の厄介な余波というやつで、その国で指名手配されたから国外へ高飛び、なんて考えは通用しない時代になってしまった。人類共通の軍隊、人類共通の警察、人類共通の犯罪者・・・田舎の警察署にマークされただけで全世界が敵に回ってしまうのだ。地球史上未曾有のバイオハザードだか何だか知らないが、カタギとは言いがたいハンターにとっては痛い話だ。 と、当座の問題に思考を切り換えたロッキーが話を進める。 「だからなくなったものはしょうがないとしてさ、この際食糧品だけじゃなくって足りない備品とかを補給しといた方がいいと思うんだワヒ。幸いというか資金は結構あるし」 「稼ぎ方がかなりしょぼかったけどね。よく考えたらオレたちハンター続ける意味あんの実際？今さら正義のヒーローってわけじゃないんだし・・・そこまでキレイじゃないワン」 珍しくマイナスなゴン太の言葉に、 「まっさらなヒーローなんて今どきアニメにだっていないよ。汚くたって生きてりゃ勝ちだワヒ。それが真理だよ」 ことさらふざけた様子でロッキーは言ったが、それが慣れないシリアス発言の照れ隠しなのはゴン太にはよく分かった。ま、そりゃそうか・・・ マイナスは自分のステータスじゃないな。へへっと笑っていつもの調子に戻ったゴン太は、 「よっし。じゃあ、ミッキーに頼んで足りない品物のリストでも作ってもらって～、フランクたたき起こして～、みんなでお買い物としゃれこもっか。ワンワン」 「リストならもう仕上がっているのでござる」 ゴン太、本日２度目のびっくり仰天。跳び上がった彼が着地するのを確認してから、ミッキーは手にした紙束を手渡す。右隅をクリップで留められた“盗難被害品及び不足備品リスト”と題された書類だ。ざっとした手書きだが、現場で即席に作成したにしては品目別にきっちり区分けしてあり、かなり読みやすく仕上がっている。どうやら事務系もこなせるサムライらしい。 「シゴト早いね～。なになに？ジャガイモ１０kg、ニンジン７kg、米20㎏・・・な、なんでこんな野菜がいっぱいあるの？」 「そのあとのカレー粉３５㎏と牛肉５㎏を見ればなんでか分かると思うのでござるが・・・」 横で見ていたロッキーがぽんっと手を叩く。 「前に準備段階でぽしゃった大食いカレーのときのやつだ？」 「ご名答。まったくこんなにムダな食料を買い込んで・・・その上全部盗まれたんでござるから」 「こんなにたくさん、盗んで誰が食べるんだろうね」 ロッキーが首をひねるのももっともな話だ。その他食料品と合わせると総重量は軽く１００ｋｇ以上あるのだから。しかし今回はこの謎に迫っている場合ではないのだ。そろそろ眠気より空腹がまさってくる時分、今日の夕食が食べられるかどうかはこれからの行動にかかっている。ひと通りリストに目を通したゴン太が指示を出す。 「はい、じゃ動くよ～。ウォレットはまずフランクのとこ行って素敵なお目覚めを提供、ロッキーはリストの中身５等分して各自の購入品割り当て、ミッキーは冷蔵庫から余り物でもなんでもいいから取りあえず腹に入るもの作ってきて。オレはクルマのエンジンあっためとくから。OK？」 「りょ～かい、タイチョー」 「承知いたした」 「・・・・」（うん、とひとつ頷く） 「よ～っし。今日は買い物天国だあっ！！」 ゴン太のやる気十分な声が午後の空に響いた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ゴン太が運転、その他四人は荷台、車体後部のウィンチに連結した買い出し用のタイヤ付き追加荷台を引きずるオンボロトラックが土煙を上げる。 「あぁ～・・・アタマいてえ～・・・」 トマトジュースの缶を片手にうめいているのはフランクだ。まだ昨夜のアルコールが抜けていないと見え、ときおり胃からこみ上げる不快感にうっとなっている。もう片方の手に握られた自分の担当購入品リストなど目に入っていないようだ。 「ミッキー今日はなんかおしゃれだねえ？どうしちゃったの？」 と、そのミッキーが作った即席レタスフィッシュサンドにかぶりつきながらロッキーが言った。見ればなるほど、先ほどまでいつもの着物姿だったサムライは、上は以前作ったTFDロゴ入りTシャツ、下は無駄にポケットの多い迷彩柄のアーミーパンツ。おまけに急いでいたせいもあってか青白チェックのエプロンをかけたままになっている。 ミッキーは慣れない服装にもぞもぞしながら、 「拙者だって好き好んでこんな格好をしているわけじゃないでござる。料理するときに和服は裾がひらひらして小回りがきかないんでござるよ。着替える間もなく出発したもんで・・・う～」 「へっへっへ。着とけ着とけ、たまにゃいいだろ？写真撮ってやろうか？」 二日酔いと寝不足でまずいことになっているカオで悪乗りするフランクがポケットから引っ張り出した使い捨てカメラでミッキーを狙う。 と、そこへロッキーがおれもおれもと割り込んできた。 「あっ、こら！そんな片方に寄ったらクルマがひっくり返るでござるよ！」 「え～？いいじゃんいいじゃん、ほらウォレットもそんな隅っこにいないでさ？タイチョー、タイチョーも映る？」 そう言われてゴン太が乗らないわけがない。運転席の窓から身を乗り出し、後ろを向いてにっこり笑う。荷台では四人がひとかたまりになってそれぞれポーズを取る。ミッキーとロッキーが肩を組み、フランクはウォレットの頭にわしわし手をのせて自分も写ろうとカメラを逆に構え、腕を伸ばして片手でピース。 「あっはっは！ほらもっと寄らなきゃ入んないって！詰めた詰めた！」 「もう！こら！ひっつくなというのにっ！！」 「おいおいウォレット、もっとニッて笑えよニッてよお。こう、牙をだすようにするんだ」 「・・・・・」（ニッと笑う） 「みんな入ったかな～？そろそろ後ろ向きで運転するのきついよ～？」 「ほらっ、撮るぜ！？ハイ、チィーズ、っと！！」 かしゃっ。 そんなこんなの五人を乗せ、オンボロトラックが突っ走る。目指すは、この辺境地帯へ進出してきた超大型複合ショッピングセンター『ビッグラウンド』。そこで待っている妙な出会いなどまだ知るよしもなく、アタマの芯から楽しそうにバカ騒ぎをしている彼らに、午後の日差しが眩しく降り注いでいた。 後編へ続く |
| お買い物ッ！お買い物ッ！ クスノキさん、いつもお話をありがとうございます！お買い物という言葉には何かこう、幸福な響きがあるものですが、彼らが買い物に行くとなるとなんだかこう物凄いものが待っている気がしてなりませんね。本編後のお話ということですが、本編が終わっても彼らが元気で相変わらずなことがわかって嬉しい限りです。 超大型複合ショッピングセンター『ビックラウンド』。…中をファンシーな列車が走ってたり屋上に観覧車があったり、あまつさえコースターがあったりあちこちでイベントが行われていたりするのでしょうか。ひとまず「後編を待て！」ですね！クスノキさんよろしく！ |