| 寂しい誰かに（プロローグ) |
キラキラと輝いていた夏の大きな太陽が、海に沈んで行きます。広い広い砂浜にひとり座り、イナバさんは大陸の向こうで今日一日の疲れを癒すお日様に向かって白いほわほわした前足をゆっくり振りました。一日ご苦労様、朝が来るまでおやすみなさい。 イナバさんはウサギの姿をしていますが、ずうっと前からここで暮らしている神様です。この場所のことも、ここにいる全ての生き物のこともそのくりっとした黒い瞳で見守って来たのです。 この国の夏はとても暑くてイナバさんのひげもたるん、と下を向いてしまうこともありますが、こんなじりじりとした季節も、イナバさんの背丈の５倍以上も雪の積もる冬も、花の季節も落ち葉の季節も、イナバさんは大好きでした。今も、熱気を帯びた空気の中、イナバさんは目を細めて夕陽が消えていくのを微笑みながら見送っています。 と、イナバさんはぴくっと肩を動かして、長い耳をピンと立てました。何か聞こえます。そして、それは普通の物音ではありませんでした。懐かしくて空のように大きくて海のように深い声……イナバさんは耳を横に寝かせ、鼻先を上に向けてそっと目を閉じました。 ……本当に大切なことは耳から入ってくるものではありません。体の内側にじんわりと伝わってきて、しっかりと聞こうとすれば、心の真ん中まで優しく、しかし真っ直ぐにやってくるものなのです。 声は言っていました。 ―――人ならざる者のところへ行きなさい。寂しき者に幸を――― イナバさんはコクンと頷きました。どこかに寂しい誰かがいるのです。きっと自分に近い所に。……だったら行かなくてはいけません。少しは力になれるかもしれませんもの。 後足で立ち上がり、前足で頭の天辺の毛を抜いてふうっと吹くと、海からさあっと涼しい風が突然吹いてきて、そのあと突然垂直に向きを変えて絹糸のような毛を天の高みにまで吹き上げました。……やがて、空から昼間のお日様のようにまばゆく光る小指の先程の珠がゆっくりと降りてきます。イナバさんは一つ一つ大切に前足で受けて、まるで奇術師のおじさんのように、珠を普通の人ではわからないどこかにしまっていきます。最後の一個をしまってから、イナバさんは、いつも持ち歩いている大きな白い袋の口を開きました。そして、手を合わせて何かをお祈りしていましたが、ピョンと袋の中に飛び込みました。イナバさんは消え、イナバさんが飛び込んだ袋も消えてしまいました。 さっきまでイナバさんが座っていた鳥取砂丘は、お日様が完全に沈んで砂は一気に冷え、薄墨色の空には星が輝き始めました。 砂丘にはもう誰もいません…… |
| 120000ＨＩＴクスノキさんからのキリリク「人外大集合」 人外キャラ入り乱れての話は力量が足りないのと、矛盾が生じそうなので、こういう形になりました。（集合していません…クスノキさん、すみません(>_<) このあと3回続きます。(1回目：二次創作 2回目：現代日本 3回目：その他 の予定です） |