 シルとスイカ |
シルは最大級の怒りを持って砂浜を歩いていた。 穏やかな気候の惑星に着き、 「へえ、ここの海泳げるんだ。季節的にもばっちりじゃない。僕、泳いでみたいなあ。」 と言ったランに罪はない。隣で静かに頷いたロコにも罪は無い。 「そうかそうか、ならば行こう。レクリエーションの準備はおとーさんに任せなさい。」 と言ったチェイスにもこの時点では罪はなかった。 シルの頭の中でチェイスに有罪判決が下ったのは、海に着き、じゃ、着替えてくるから、と更衣室に行き、バックパックを開けたときだ。 罪状１ バッグに入れておいたはずの競泳用の地味な水着がなくなっていた。もちろん犯人はチェイスである。 罪状２ バッグに入っていなかったはずのセパレートの可愛い花柄の水着（パレオ付きｖ）がいつの間にか入っていた。 なんだよ、おっさん、スパナで殴られたいの!?と服のまま戻ってもいいのだが、あまり騒ぎたくはなかった。虚弱体質で、背中には縦横無尽に手術痕のあるランが自分から海に行きたいと言った。その気持ちは汲んでやりたい。いい日にしてやりたい。裸で出て行くわけじゃなし、このくらいの水着を着るくらいなんでも・・・・ （あるわよ・・・・ッ！） シルはセパレート水着の上だけを両手で持ち上げ怒りか恥じらいかどちらが原因かわからぬが顔を赤くした。・・・・いや、どっちもだろう。のろのろと水着を着、据付の鏡に映してみてシルは泣きそうになった。 （せめてッ！せめてッ！どうしてもっとおとなしくて地味なのにしてくれなかったのよッ！臍、出てるし、胸の谷間だってわかっちゃう） ・・・・・それは特に掟破りのデザインではなかろうが。 実際、水着のデザインはシルが思っているほどに大胆で派手でもなかったのだが、シルが身につけるとちょっと状況は違った。普段野暮ったい作業スーツを身につけ、どこから見ても美少年、といった風情のシルは、どこから見てもスタイル抜群の美少女であったのだ。 更衣ロッカーから出るとすぐ、一人で歩いているシルはハイティーン、いや、20代の男達からも目をつけられて声をかけられた。曰く「ねえ、一人？」「一緒に泳がない？」「ボートを持ってるんだけどどう？」「君、可愛いね」 それに対するシルの答えは 「二人＋α」「泳ぐのはキライ！」「こっちは宇宙船もってるわよ。」「あたしが可愛いなんて目、悪いんじゃないの。」 一方、ランとチェイス、そしてロコはレンタル屋で借りたビーチパラソルを立て、デッキチェアを並べた。 「ねえ、何、チェイス、その大きなもの。」 砂浜に置かれたスイカを見てランは傍らのチェイスに尋ねた。 「スイカだ。」 「スイカ？」 「ああ、うまいものだそうだ。これを割って食べればスイカ割り、ということになる。スイカ割りというのは夏の風物詩だ。といってもただ割ればいいというわけではないぞ。スパナを振りかぶって割ってはいかんのだ。」 そんなこんなで時を過ごしているうちにシルがナンパしようとする男たちを引き連れてやってきた。 「あ、シル！」 大きく手を振るランにシルが手を振り返すと、一人の男が言った。 「あんな貧弱な坊や、やめちゃいなよ。」 さっきから堪忍袋の尾が切れかけていたシルはこの一言で完全にキレた。 「もう一度言ってみろッ！」 腕をぐいと掴み身体を入れ替えて投げ飛ばす。男の頭はさきほどチェイスが置いたスイカに当たってスイカはものの見事に割れた。 「チェイス。ああやって割るの正解？」 ランに訊かれてチェイスは腕を組んだ。 「うーん、ちょいと違うな。こらこら、喧嘩はいかんよ。」 シルの周りにいた男たちがギン、とチェイスを睨む。 「喧嘩じゃないぜ。俺たちはこの子と話があるんだよ！」 「この子？誰のことを言っているのかな？」 気付くとシルは消えていた。テレポートしたらしい。そして、そのことに狼狽した男たちがチェイスを見ると、彼の姿も消えており、デッキチェアには体長二メートルはあるかという巨大なテディベアが寝ているばかり。 「!!!????」 不穏なものを感じたのか、彼らはわらわらと四方へと散っていった。ランはぽけっと砂に座っていたが、チェイスが人間形に戻り、シルが戻ってきたのを見、立ち上がった。 「シル、変なのにからまれちゃったね。大丈夫？」 「大丈夫。怒ってるだけ。」 「泳ぎにいこうかと思ったんだけど・・・スイカ、割れちゃったから先に食べようか。」 「そうね、食べよ！」 世間的にはどうなのか知らないが、彼らのバケーションはこれからだ。 |
| ランとシルには惚れたのなんだのの領域には足踏み入れてを欲しくないのですが。このあたりが限界でしょうか。今回はシルが投げ飛ばしていますが、本当に彼女が危機に陥ったときは、チェイスが出力最大の電撃発射して助けてくれることでしょう。 「水着書いたぞー！」というだけで疲労困憊。まだまだ道は遠い（何への？） |