ナナちゃんとスイカ

民宿の縁台に腰掛けたリヒトは、珍しく浴衣を着ていた。白地にいげた模様。勿論色はグリーンである。今日は少し遅いがこの地方のお祭日。連れのいない娘たちがリヒトの容姿に惹かれて声をかけてくるのに気持ちのよい返事を返していたが、彼の横にちょこなんと座っている羽の生えた小さな人形を見るとちょっと退いた。あまつさえ、リヒトがその人形ににこやかに話しかけているのがわかると10歩ほど退いた。 　「ナナちゃん、浴衣を着て来たんだね。とっても似合っているよ。」 　「えへへー。これはくるみさんに特注で縫ってもらったのですー。その代わりにこんど何とかフェスとかいうものにくるみさんといっしょにいくのですよ。そこでコスなんとかとかいうもののお手伝いをするのですー。といってもナナは可愛いお洋服を着て、くるみさんの肩に乗っているだけでいいのですー。だから、ナナの方がずっと得をしているのですよー。」 　・・・くるみ、何をやらせる気だ。 　「おまつりですねー。賑やかですのー」 　「そうだね。」 　リヒトはうちわでナナに風を送ってやりながら微笑む。 　「こっちの世界でもおまつりはたのしいものですねー。」 　「へーえ、ナナちゃんのいたところにもおまつりはあるの？」 　「はいー。ナナが生まれたところでは、森の奥のほこらで、丁度今くらいの季節に妖精達が集まってドンジャラホイと踊るのですー」 　「ど、ドンジャラホイ？」 　ナナはしかつめらしく頷いた。 　「はいー。ドンジャラホイ、なのです。踊り方が難しいのです。リヒトおにいちゃんには特別に教えてあげますー。」 　ナナはくいと右腕をあげた。 　「こう、こんな風にドンジャラ、と踊るのと」 　ナナはまたくいと右腕をあげた。 　「こう、こういった風にドンジャラ、と踊るのでは意味が違うのですー。」 　リヒトにはその違いがさっぱりわからなかったので曖昧に笑った。曖昧な笑み。それこそがリヒトがここニッポンで身につけた新たなスキルの1つであった。 　ナナはしばらくドンジャラホイ、ドンジャラホイ、と踊っていたが、『疲れました〜』と足を投げ出して座った。 　「喉も乾いているのじゃないかい？ほら、スイカを食べるといい。」 　リヒトは逆側に置いてあった大きなお盆を差し出した。小ぶりだがスイカ丸ごと1つが食べやすいように三角に切ってある。 　「うわー、おいしそうですのー。でもー、ナナは小さいから半分しか食べられないですー。」 　「ナナちゃんが残したぶんは僕が食べてあげるからね。大丈夫だよ。」 　妖精は顔を輝かす。 　「リヒトおにいちゃんと半分こですねー！」 　「そう、半分こだよｖ」 　この直後、リヒトは倒れそうになった。なぜなら、ナナは、スイカ丸ごとの半分を瞬く間に食べ切ってしまったからだ。固まるリヒトにナナは遠慮はいらないのですよー、どうしたのですかー、としきりと話し掛け、リヒトはなんとか自分を取り戻して 　「フロイライン。いっぱい食べて早く大きくなろうね。」 　と笑顔を維持していったという。 　できれば、自分たちと同じ大きさで止まりますように、身長57ｍなんてことにはなりませんように。

やってることは壮絶なんですが、このコンビ（？）もけっこう好きです