フィリアとスイカ

魔道学院の中庭で、フィリアは自分のまわりにゴロゴロと転がっているスイカという果物を珍しげに見回した。パン、と平手で叩くと中々よい音がする。光太郎は嬉しげに、学校の子供たちを呼んできてスイカ割りをしよう、と白金ことファルに言い、さきほど出て行ったばかりだ。 　「スイカ割り、か。あまり固そうじゃないが、これを割るのか。」 　白金はうむ、と頷く。 　「実際に割っているのは私も一度しか見たことがないのだが・・・」 　「一体どうやるんだ。」 　「・・・ある程度広い場所・・・例えば海岸のようなところにスイカを置く。」 　「うん。置いたとしよう。」 　「・・・スイカを割る人物を決め、スイカから少し離れ目隠しをする。」 　「目隠しか。」 　「・・・ああ。そして目隠しをした者を十回ほど廻す。」 　「・・・・・・・・・・目が回るな。それで。」 　「ふらふらになったところでスイカを割りにいく。」 　格闘娘（ちょっと前までは見かけは青年）はぎっと奥歯を噛んだ。 　「そりゃあ、無茶苦茶難しいじゃないか。視界は遮られている。目は回っている。そんなこと、可能なのか。」 　「・・・子供らがやっているときには、周囲の人間が声をかけて誘導していた。本当に小さな子供にははじめのぐるぐるまわしを省略していたように覚えている。」 　「そうか。そうだよな。・・・・子供には無理だ。」 　「ああ。・・・・私は目隠しと皿などを準備しにいくが。フィリア、お前はどうする。」 　「俺はここにいる。」 　「そうか。」 　白金が行ってしまってから、フィリアはスイカの1つを持ち上げ、花の鉢を1つ動かしてスタンドの上にスイカを置いた。目を閉じ、いやだというのにシーマに巻かれたヘアバンドを髪から外し、まぶたの上からギュッと巻く。そしてゆっくりと時計回りに10回、回転を始めた。 　（くっ、予想以上にふらつくものだな。・・・しかし、このようなことを娯楽とするなど、光太郎が居た世界は皆、超人的な力を持っているのか？・・・よほど集中しないとスイカの気が読めないぞ。） 　そうか、スイカ、気を発していたのか・・・ 　（む・・・・そこか！スイカ、そこに居るのか！外見からは予想もつかない紅のオーラが心眼に見えるぜ。） 　にや、とフィリアは笑う。 　（さあ、あとは割るだけだな。） 　しかしフィリアはそこで構えていた手をおろした。 　（なんてこった。肝腎なことを忘れていた！） 　白金が目隠しの布と皿、光太郎が子供たちを連れて戻ってきた時、フィリアは彼らの気配を感じ、叫んだ。 　「光太郎！スイカは縦割りか！それとも横割りなのか！」 　「え？縦だよ普通。」 　「そうか！それだけを聞きたかった！」 　フィリアは手刀を光の速さで縦に振り下ろした。彼女の動きが止まる。スイカは何の変化も見えなかったが、数瞬後、音もなく左右にぱかりと割れた。切断面は刃物で切ったように滑らかだ。 　「フィリア・・・・お前はスイカで居合いをやるのか・・・？」 　白金の呟きは、子供たちに取り囲まれているフィリアには届いていなかったようであった。

でもって、次に副官と再会したとき、「スイカ割りで勝負だ！」なんてことになると面白い。