そしてあなたに会いに行く

　ふんふんふん♪・・・・・

　鼻歌混じりにケーキ作りの手を動かす美しき稀代の魔道士総帥（←本人談）ことシーマ=オーカーをぼうっと見つめながら、フィリアはぽり、と頭を掻いた。シーマが露出度の高いド派手な衣装の上から着ている、レースのフリル付きの真っ白なエプロンが…妙に似合わない。
　カリスマ総帥シーマ=オーカー。彼女の個性に負けないエプロンといったら、魔力を付与させた妖しい輝きの宝石を縫い付けたきらびやか～なエプロンくらいのものだろう。

　シーマは迷うことなくケーキを作り続ける。一週間かけて考えたレシピは今やすべて彼女の明晰な頭脳の中に完全インプット済みである。

　砂糖の結晶が表面で固まってキラキラ輝いている砂糖漬けの果物をざくざくと刻み、バタークリームの中に突っ込んで練り、薄くカットしたココア入りのスポンジケーキの上にごってりと載せ、その上から氷漬けのマンモスも驚いて一万年の眠りから覚めるというほどの甘さ（それって一体どういう甘さだ？）のカスタードクリームをぶちまけ、その上にまたスポンジケーキを載せ、下の段に染みとおるほどたっぷりと蜂蜜を塗り、イチゴの薄切りを固く泡立てた生クリームに入れて載せ、三枚目のスポンジケーキをのせてたところに、湯煎で溶かしただだ甘ミルクチョコレートをかけてコーティング。これで終わりか、と思ったがさにあらず、仕上げに生クリームをケーキナイフで塗りつけ、丸のままのイチゴを載せ、器用に食紅で色をつけた飴を細工して作ったハートの飾りを設置する。

　「ふぁー、やっと完成か！」

　パンパン、と拍手するフィリアに、シーマはちっちっちと人差し指を横に振って見せた。

　「ノンノン、最後の仕上げがまだですわッ！」

　彼女は小さな製菓用の茶漉しを持ってくると、桃色の粉砂糖を入れて、ケーキの表面をささささ、と化粧させる。

　「ふふふ、これで完成ですわ！ゴージャスかつデリシャス！徹夜で素材に私の魔力を付与させた究極のクリスマスケーキ！」

　魔力付与、って…それって何かの呪いでしょうか…

　椅子の上であぐらをかいた姿勢で、フィリアは更に頭を掻いた。

　「ところでそのクリスマス、ってどういうものなんだ？前に光太郎に聞いたところじゃ、弱い人々を救った救世主の誕生を祝う宗教的な行事ってことだけど。」

　シーマはにっこりと微笑んだ。

　「確かにそういう側面もありますわねッｖでも、クリスマスという行事はもっともっと奥が深いのですわｖこの日にプレゼントを交換して思いを確かめ合った恋人は身も心もそれは深く深く結ばれるのですわッ！きゃッ！フィリアってば何をいわせるんですのッ！」

　てれてれしつつシーマの平手打ちがフィリアに向かって飛ぶ。武闘家としての天才的野生のカンをもったフィリアはすんでのところでかわした。…恋する乙女の平手打ちはドラゴンをも昏倒させる威力をもっている。いや、嘘ではない。シーマの平手打ちは、物理的威力は低くとも、魔力が無闇に高まっているため、核爆弾級の危険度があるのだ。
　・・・・シーマさん、しかしそういう話をどこで仕入れたんだか。少なくとも光太郎はそんな風には解説しなかったと思うのだが…

　曲解したな？

　あなた、自分に都合がいいように曲解したな!?

　・・・ま、それはともかくとして

　「そ、そうなんだ？で、どうしてケーキを？」

　シーマは完成したケーキが載った皿を誇らしげに両手で掲げた。

　「このケーキも『クリスマスの奇跡』の一アイテムですわ。甘い甘いケーキは、恥かしがりやさんの心を嘘のように蕩けさせるものなのですってよｖ」

　・・・・あの・・・・たぶんそれも曲解で誤解。

　フィリアはへぇ～、と言ってから天井を見上げた。光太郎が育った世界には妙な行事があるものだ。

　「で、俺が着ているこの服は一体どういう・・・・」

　シーマは少し残念そうにフィリアの衣装を眺め、襟元の白いふわふわした毛皮をそっと撫で、びしいッ！と友人の鼻を指差した。

　「それこそが、恋人の心を結び合わせるために夢と希望と愛の詰まった白い大きな袋を背負って全世界の夜空を魔法の橇で翔るという『サンタ』という聖人の衣装ですわッ！」

　「こ、これが聖人の衣装!?」

　深紅のベルベットのワンピースは腰のところできゅっと細くなり、ミディ丈のスカートはゆったりしたフレアーとなっている。裾と袖口、襟元は白いふわふわの毛皮で縁取られており、肩に羽織られたワンピースと同色のケープを結ぶリボンの先にはまん丸の白い毛皮のぽんぽんがついていた。

　「で、どして俺がそれを着なけりゃならんわけ？」

　シーマはくすり、と笑った。

　「可愛くて素敵ですわよ？私がじきじきに型紙を作っただけのことはありますわッ！」

　うわぁ、相変わらずの自画自賛・・・

　「そもそもクリスマスカラーというのは深紅と翠だそうですのよ。あなたの髪が翠でなくてちょっと残念だけれど（だからといって翠ならいいかというと…カナンがサンタの衣装を着たら似合わないこと核爆発の如しだろう←管理人談）、濃い蒼の髪もとっても似合っていますことよｖあ、あたくしには全然似合いませんでしたのに・・・・」

　いや、本当に似合ってるよ・・・胸キュン（←死語？）モノですよ？

　「そうじゃなくて、どうして、嫌がる俺に無理矢理着せるわけ？」

　総帥の瞳がすうっと細くなった。

　「フィリア、あなた以前、私を『あの方』のところにまた連れて行くって約束して下さいましたわよね？」

　「あ、あ？ああ！」

　「確かあの時は、魔力を使いすぎて回復までには時間がかかるから、半年は休養させてくれ、というお話でしたわｖ」

　フィリアはぽりぽりぽり、と頭を掻いた。

　「あ、ああ、そうだったかな。うん、シーマがそういうならきっとそうだったんだろうな。あはははは。」

　シーマはフィリアの笑い声に合わせて笑った。そして微笑みつつ言った。

　「うふ、もうあの日から半年経ちましたわｖｖｖ」

　フィリアの顔が蒼ざめた。・・・・も、もう半年過ぎたのか!?…慌てて更新履歴を調べるフィリア（←あんた、何をやってる、っていうかどうやって調べておるんだ？）

　「ほ、本当だ。…2004年、６月６日に更新・・・・」

　「うふふふふふｖ半年どころか、半年と20日経っていますことよｖはやる気持ちを抑えるのに、わたくし、もうときめく胸がパンクしてしまうかと思うほどでしたわッ！もうフィリアの魔力も完全回復してバッチリ空間渡りが可能になっていますわよねｖ今宵はクリスマス。光太郎が育った場所と『あの方』がいらっしゃる場所は同じ時空にあるとか。その場所の慣わし、クリスマスに則った方法で『あの方』に思いを伝えるためにも、あなたには『伝説の聖人』の役目を担って欲しいのですわｖねッｖフィリアｖあなた応援してくださるんでしょうｖｖｖｖ」

　フィリアはあぐらを組んだまま考えた。

　あの副官にも「半年くらいは間をおく」と宣言してきたが、もう半年はたったのだし、この「ドキがムネムネする」ような状態にどっぷりつかっているシーマの様子は（ちょっとこわくて）不憫だし…避けて通れぬ道ならば、今、ここで行くしかなかろう。それに、また奴と手合わせができるというのはなかなかに楽しみだ。うん、今はなんとかこちらの政情も安定しているし、ファルの後ろを守るのにさほど気をつかう必要もないし・・・

　「んじゃ、用意してくるわ！」
　（↑女言葉ではないイントネーションでどうぞ）

　「・・・・用意？って何ですの？」

　「いや、こんなカッコじゃ武闘なんてできないからな。服を・・・」

　「フィリア、あなた、私の話を聞いていらっしゃいましたのッ!?」

　その言葉の持つ威圧感にフィリアは震え上がる。

　「い、い、いや、わかってる。冗談だ。今すぐ行こう。うん、うん、それがいい。」

　「うふふｖでもちょっと待ってくださいましねｖケーキをラッピングしなくてはなりませんし、勝負用の準備もアレコレありますことよｖ」

　フィリアはぽかんとした。

　「シーマ。シーマもあいつと勝負するわけ？」

　フィリアが３秒も経たないうちに怒鳴りつけられたことはいうまでもない。

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　一方、宇宙戦艦（←この頃前にも増して『戦艦』としての存在意義が希薄）ギャラクティックジョーズでは、レクリエーションルームに設置された巨大なモミの木を仰いでジンベエがゆったりと微笑んでいた。バカラクリスタルの透明感溢れるガラス製オーナメントに、青色発光ダイオードの光が煌く隣で、舐めたら舌が真っ赤になるほど着色料を入れた飴でコーティングされた『林檎飴』が自己の存在をしっかりと主張している。枝先に潤んだような控えめな橙色を灯しているのは、人の手で手間隙かけてつくられた大きなあんぽ柿だ。遠めに雪のように見えるのは、焼きしめたメレンゲであったり、吹雪まんじゅうだったり。ツリーをぐるりと取り巻く飾りは、安売り店で購入した某チ○ルチョコが連なったもの。銀色の四角い飾りはよくよく見れば封をきっていない羊羹であったし、枝の間からは、漁村に派遣された乗組員が送ってくれたスルメが「こっちにいらっしゃーい、」というように軽く手招き（…手が何本で足が何本だろう）しているのが見えた。
　堂々たる根元には、南大門の金剛力士像のごとくに、信楽焼きの巨大な狸が二匹、とっくりをぶら下げて両脇に鎮座している。

　ジンベエは、彼の有能な副官がやってきたのに気づくと、今一度ツリーを見、深く一度頷いてから向き合った。

　「ジン様。こちらの書類にご署名を。」

　「うむ。」

　ジンベエはすっと書類に目を走らせると、どこから取り出したか鵞ペンを掲げ、流麗な飾り文字でさらり、とその場でサインした。

　「ブルーよ。今年のツリーの出来、貴公はどう思うか？」

　「は。昨年もそうでありましたが、他のどこにもない、唯一無二のものであるかと。」

　・・・・・遠目に見れば壮麗かもしれないが、オーナメント一つ一つを観察するとあらゆる意味で凄い。

　「そうであろ。そうであろ。・・・・このツリーは他の誰にも真似できぬものとして私がデザインしたのだからなｖおお、貴殿、パティシエに伝言を頼まれてくれぬか。こう伝えて欲しい。『先日手に入れた、“究極の和三盆”を惜しみなく使え。あの砂糖は、貴公のような菓子職人に使われてこそ幸せなのだ』と。それから、『頼んでおいた砂糖菓子のオーナメントは出来次第もって来るように』と。」

　ブルーは眉根の皺を深くした。

　「ジン様…今年は以前にも増して食品系のオーナメントが多いように思いますが。」

　ばさり、とマントを翻し、ジンベエは不敵に笑う。

　「途中で栄養補給をせねば体が持たぬゆえにな。」

　ツリーの周りでは、ジンベエ直属の部隊「レクリエーショングループ」が黙々と何やら作業をしていた。天井からは巨大モニターが吊るされ、床に・・・何か升目らしきものを無数に描いている。そして、ツリーの前には大きなコントロール板が据え付けられ、その横に大判のトランプのような大きなカードが伏せて置かれていた。手を伸ばそうとするブルーをジンベエは微笑んで制止した。

　「ブルーよ。楽しみは後にとっておくものであるぞｖ」

　ここで、行われようとしていることは何なのか、そして、総帥は思いを遂げられるのかッ！

　to be continued・・・・・・（うわ、年越しッ！）
　