１コマだけしかすすめず、気をおとしたフィリアは次のコマに入ってびっくりした。隣といっても移動する時以外は通り抜けられない障壁があったので、何があるのかわからなかったのだ。 「なんだ？」 そのコマは随分寒く・・・いや、雪が積もっていた。目の前には家らしきものが立っているのだが、窓があるだけで入り口はない。 「もう一度聞くがこれはどういう？」 ブルーは大きくため息をついた。 「もう想像するしかありませんが、おそらくはジンベエ様が考えられた『冬を満喫するコマ』の1つかと。 「なんか・・・なんかわびしいんだが。冷えるし…この家に入れないかな。」 フィリアは覗き込んだ。中では美味しそうなご馳走が湯気を立てており、華やかに飾られたモミの木があたたかそうな部屋の隅に置かれている。 「うわ。凄いものだな。」 背伸びして中を覗き込むフィリアの横で、ブルーは雪に埋もれかけている小さな箱を見つけ、顎を落としかけた。 …確かに少し前、親愛なる司令官殿は「アンデルセン童話集」を読んで目を真っ赤に泣き腫らしていたが、こんなに思い入れが強かったとは… ひとまずブルーは箱を拾い上げた。はたしてそこにはマッチが一本入っていた。 「？？？その小さな木の棒は？」 「マッチです。」 「まっち？」 ブルーはマッチをすった。マッチはぱあっと明るくあたたかな光を発した。…この火力は暖房用トーチと同じくらいあるのだが。もちろんこれはジンベエの魔力の賜物だろう。 「うわ、こりゃ、あったかいな。まっちか。俺の世界にもこんなのがあったら便利だろうな。」 喜んで手をかざすフィリアの横、ブルーはじっとマッチを掲げていた。…魔法力を投入するならばもっと何か別のことに…と思わないでもない副官であった。 「副官の不幸度 １」 （メモを取って下さい） あまり不幸にはならなかったようです。 さあ、次に進みましょう |
「６か。ま、そこそこの数だよな？」 歩きながらフィリアは言った。移動の時だけ、次のコマとの間の障壁が消える。途中、１グループだけとすれ違ったが、彼らは以前にフィリアと会ったことがなかったチームで、いきなり片手を上げて挨拶され、随分面食らっていたようだ。（そりゃ、サンタガールの支度で袋を背負っていきなり現れたら普通はびっくりしますわね。） ６コマ進むと、そこは何かの部屋のようだった。フローリングは床暖房されているらしくほかほかと暖かい。ガラステーブルがあり、そこには飲み物が湯気をたて、茶菓子も置かれている。そして『食べるのだｖ』と水茎麗しいジンベエのメモが菓子の傍らに…ブルーは色を失った。 「どうした？」 「この…コマにだけは停まりたくなかった…」 「どうしてだ？」 「このセッティングから見てのとおり、飲食をすることがここでの課題です。」 「…いいんじゃないのか？法外な要求じゃないんだし。」 「…あの飲料はココアというものです。」 「ココアか。うん。光太郎から聞いたことがある。寒い時に飲むと体が温まっていいと教えられた。」 「・・・・あのココアはジンベエ様の好みにあわせ、砂糖が20杯入っております。」 「何だと!?」 ・・・・それはもはやココアではあるまい。 「そして…横のチョコレートケーキには…」 その詳細なレシピを聞かされ、うわぁ、シーマも真っ青!?とフィリアも頭を抱えた。 「もしや、あんたは甘いもの苦手か？」 「・・・・度を超したものは・・・あのココアは許容範囲を超えています。」 「・・・・俺も似たようなもんだ…（シーマ…あのケーキどうすんだよ。こいつ、甘党じゃないぞ・・・どうやって食わせる積りだよ！）」 「どうかしましたか？」 「いや、こっちの話。なあ、これ、喰わないとどうなる。」 「…完食せねば一回休み扱いとなります。」 「それは嫌だな。」 「頑張ります・・・」 無理にココアを流し込む副官からフィリアは途中でカップをもぎ取った。 「他人にだけ辛い思いをさせるのは俺の主義じゃない。幸い用意されていたのは一人分だ。砂糖10杯飲こみゃあいいんだろ。俺が半分手伝う。」 「それは飲みかけです！」 「いーから！俺、胃は結構丈夫だからまかしとけ。」 そのまま苦虫を噛み潰したような顔をしながらフィリアはココアを飲みきった。そしてなんとかチョコレートケーキも平らげた。ケーキではなく生チョコの塊のようなものであったが・・・間に挟まっていただだ甘のオレンジママレードが爽やかな味に感じられたくらいだから、その甘さたるやいかばかりか。 ・・・クリアしたが、胸焼けしそうである。 副官の不幸度５（メモしてください） ちょっとだけ不幸だったみたいです。 さて、次は・・・・？ |
「おー。20だ。自分の強運に嬉しくなっちゃうな。」 ブルーの手首をぐっと掴み、ほぼスキップで移動する。移動のときだけはコマとコマの間の障壁が消えるようにできているらしい。 あたりまえだが、この双六には他の参加者もいる。そして、20などという馬鹿でかい数字を出してしまうと、何人もの人間を追い抜くことになってしまったのだった。 ７つめのマスあたりで、彼らは「副官直属チーム」の中の４人にぶつかった。 「ああ、あんたらか！久しぶりだな！」 フィリアに声をかけられ、一瞬驚いたものの、そこはそれ、さすがは副官直属である。すぐに普段の顔にもどると、フィリアが上に上げた手にハイタッチした。 「いらっしゃるのならばご連絡を戴けばそれ相応の支度をしてお迎えいたしましたものを。」 「いや。連絡ができれば苦労しないんだがな。」 「今日はまた鮮やかな緋色のお召し物で。これから副官殿とどこかにお出かけですか。」 「いや、これは…なんというか伝説の聖人の衣装なのだそうだ。」 そんな会話が交わされる中、部下の一人がブルーに囁いた。 （やはり副官殿も隅に置けないですな！） （「ち・が・う」） （いや、照れずともよいのですよ。我ら一同、半年前から、陰ながら応援しようと誓いを立てております。） （「違う、と言っている・・・・（涙）」） ああ、きっと何を言っても誤解されるのだ… 「じゃ、な。もしも時間があったら手合わせして欲しい。」 「自分らもフィリア殿と拳を交えることは至上の喜びであります。是非に!!」 友と語り合って余計にうきうきしたフィリアはブルーの手首を掴んだまま次のコマに移動した…また…またそこには顔見知りが… 「やあ、フィリアさんではないですか！今日は副官殿に会いに？」 （だから…違うというのに…） 結局、通算して30人ほどとすれ違い、ブルーは疲労困憊していた。落ち着いた先は畳敷きでコタツが置いてあった。のろのろとそこに足を突っ込む。…見事に堀ゴタツである。（どうやって掘った!?） 「うわー、これはあったかくっていいや。何ていうものだ？」 向かい合って座ったフィリアがコタツ板を叩きながら言った。 「コタツです・・・」 「…へえ。これなら故郷に戻ってからでも作れそうだ。小さな熱の魔法を何かに宿らせて入れればいい。この黄色い実は果物かな？食べていいのかな・・・」 「ええ…」 置いてあったミカンに皮ごとかぶりつき、満足そうな顔をするフィリア。コタツの横では三毛猫が欠伸をしていた。そのうちどたっと言う音がした。フィリアが仰向けに居眠りしている。プレキャストだったとはいえ、魔力を使ったのだ。疲労していたのだろう。・・・・サンタガールの衣装を着た若い娘が可愛い微笑を浮かべてうたた寝している・・・ ・・・そうこうしているうちにいくつかのチームがそのコマを通過していき、ブルーはニヤニヤ笑いに晒されることとなった。 （だから！何度も言うようだが違うのだ！） 副官の不幸度９ （メモして下さい） 相当不幸になったらしいです さて、フィリアも起きたみたいですから次、行きましょう |