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　「は～～～っ」

　冒険の仲間が集まった部屋に戻ってきたマーニャは心底疲れたように息を吐いた。天空の防具の1つ、兜を手に入れ、一同はスタンシアラで骨休めをしている。

　どうしたんです、マーニャさん、とアレクが心配そうに訊ねると、マーニャと一緒に入ってきたミネアがうんざりしたように肩を落とす。

　「迷いました。……姉さんってば何か面白そうなものが見えると、今がどこで、方角がどっちかなんて考えずにずんずん突き進んでいっちゃうんですもの。……今に始まったことじゃないけれど。」

　部屋に入ってきたときには少々反省の色をみせていなくもなかったマーニャは、ミネアに嫌みったらしく言われてカチンときたらしい。

　「人間、好奇心を失ったら終わりでしょ～がッ!!それに、ここの構造が悪いのよ。水路がむちゃくちゃ入り組んでるし、分かれ道がやたら多くて、しかも同じ様な白い柱がだーっと並んでいるきりで立て札とか全ッ然ないじゃない!!お客への配慮がたりないわ。」

　ミネアはぺしゃっと自分の額に掌をあてた。

　「姉さん、ここはモンバーバラ大劇場じゃないのよ。お城よ、お城なのよ！お城に立て札たててどうするの!?それにこの部屋はスタンシアラの王様が私達のために提供して下さったお部屋じゃない。感謝しなくちゃ。」

　……劇場では「入り口」だの「出口」だの「団員控え室」だの立て札は多いが、ミネアの言うようにここは娯楽施設ではない。劇場やカジノや宿屋のような看板は似合わない……というか合ったらヘンだろう。

　アリーナが首を捻る。

　「確かに複雑だけれど、迷うことはないのじゃない……？」

　「お姫サマは長年大きなお城で暮らしてるからそういうことが言えるのよ。ま、ここの柱廊はどっちに行っても危険なことなんてないからいいけど。……」

　冒険の最中に、分かれ道で選択を間違えて魔物の巣に突っ込んでしまいそうになったこともありましたね、とトルネコが穏やかに言い、ライアンが頷く。ブライもくるりと魔道士の杖をまわした。

　「そうじゃのぉ。右か？左か？なんて随分迷ったことも今までには何度もあったのぉ。宝箱が右に見え、じゃが右に行ったらたどり着けなかったことなどザラじゃ。」

　ブライに椅子を勧められて座ったミネアもあいずちをうつ。

　「……人間、どちらに何があるかわかっていても選択には悩むものですからね。そして、選択したあとに後悔することがあるのもまた人間の性(さが)かもしれません。」

　あたしはミネアみたいにうじうじ悩まずスパーっと決断しちゃうけれどね、とカラカラと笑うマーニャを占い師はジロっと睨む。

　「柱廊に分かれ道があったとして」

　「え？あったとして？」

　「左に無料で飲める美味しいお酒、右にカジノがあったら姉さんはどっちに行くのかしら。」

　「美味しいお酒とカジノ……？」

　マーニャの視線が上を向きしばしの静寂が訪れる。

　「そりゃ、究極の選択…………」

　仲間達の視線が自分ひとりに集まっているのに気付いた踊り子はいつも携帯している舞い扇でバシンと机を叩いた。

　「ちょっとぉ！何を選択させてるのよ!?」

　「姉さんこそ、そんなのが究極の選択だなんて、妹として恥ずかしいったらないじゃない!!」

　「あんたはお酒の味もカジノの楽しさも知らないから……ッ!!はぁ～～、まあいいわ。」

　自分が話のネタにされているのが嫌になったマーニャはぴしいッ、とアリーナに指を突きつけた。

　「さあ、お姫サマ、究極の選択よ！どっちか答えて!!……ある日、旅先で長い柱廊を歩いていくことになりました。気付くとあなたはいつの間にか一人きり。すると突然分かれ道に仙人が現れって右か左か選べっていうわけ。『右に行けば武闘の究極奥義が得られるだろう左に行けば、はぐれた仲間が待っている。さあ、どちらに行く』なーんていっちゃって。で、左右を眺めると、ぼーっとかすんだ様な先に右にはなんか巻物みたいなものが鎮座している祠があって、左にはバカ神官の朧な姿がみえるわけ。さーッ、どっち？右？左？」

　クリフトの方を向いてにやつくマーニャにクリフトはまたか、とタメ息をつく。と、アリーナは不思議そうに答えた。

　「それって究極でもなんでもないわ。左でしょ？」

　マーニャはある意味勝ち誇ったようににたぁりにたぁりと笑った。

　「そうよねーえ、やっぱりそうよねぇ～～。」

　「そうよ、だって、命より大切なものはないでしょう？主戦力の一人の私が抜けている間にクリフトやじい達に何かあったら大変だし、アレクやライアンさんにも負担かけちゃうし。……それに正直、そんなときに一人では合流できる自信ないし。」

　マーニャは顎を落としかけた。いつの間に皆で冒険している設定になっていたのだろうか。

　「でも、お姫サマだったら『究極奥義』ってそそられるものがあるのじゃないの？ね？ね？」

　すると、アリーナはくすくすと笑った。

　「マーニャさん、奥義っていうのはね、誰かに貰うものじゃないのよ!!自分を磨いて生み出すものなの!!!!……いくらそれがどんなに凄い技だとしても、何もせずに手に入れるのなんて舞闘家の風上にも置けないわ。……少なくともロン先生には叱られてしまう。……マーニャさん？どうして疲れた顔をしているの？柱廊でそんなに長い間迷って疲れちゃった？」

　「……も、いい。あんたに振ったあたしがバカだったわ。」

　クリフトは満足そうに頷いている。

　「……姫さまは、聖典に書かれた『道の選択』のたとえ話を理解しているようで嬉しいですよ。」

　そんなたとえ話あったかしらと首を傾げる姫に、クリフトはピンと人差し指を天に向かってたてて話し出す。

　「神様は、旅人の前に道を2つお示しになりました。『私はお前のために道を用意した。選んで歩め。』右の道は花が咲き乱れいかにも歩きやすそうな道でした。左の道は石がところどころに転がり、険しい坂道が続いています。さて、どちらが正しい道でしょうか……というお話ですよ。思い出しましたか？姫さまが小さいときに何度かお話しましたよね？」

　アリーナはにこにこし、自身たっぷりといった風に頷く。

　「もちろん左よ。」

　クリフトもにこにこと頷く。

　「はい、その通りですよ。理由はどうしてでしたっけ。」

　「そういう険しい道の方が、強い魔物が一杯住み着いていて修行になるからでしょう？」

　「そんなわけがないでしょうが!!」

　「？？違った？？え、えーと、どうしてだったかしら？？少なくとも、私は昔からこういう風に思ってたのよ？」

　「違います!!」

　姫も神官も大真面目にやり取りをしているのだが、この噛みあわなさっぷりは如何様なものか。

　笑いを堪えていたアレクが爆笑し、トルネコが笑い、ミネアが笑い……結局『神よ、姫さまの至らなさを……いや、導けなかった私の至らなさを含めて……』と祈るクリフトと、どうして神官が祈っているかわからないアリーナを除いて一同大笑いしたのであった。

　

Xystは「散歩道・遊歩道」という意味もあるので、そちらでいこうかと思ったのですが「散歩道をおとなしく二人で歩いている図」というのがどうしても想像できなくて、なんともはやな話になりました。スタンシアラは「柱廊」というイメージは薄いですが、ゲーム上の水路マップはともかく、なんだか複雑な廊下がありそうでしたので、場所として設定させてもらいました。

アリーナにとって本当に迷う選択があるとしたら、「右にピンチに陥っているクリフト、左に助けをまっている村人」というようなものだと思います。で、彼女が選択するのは左。なぜなら、村人達は自分がいかなければ闘うすべを持たないから……『クリフト、なんとか持ちこたえて頂戴ね!!』と一声叫んで村人救出に向かう……それがこのサイトのアリーナ……でもって、そういう固いお話を書きこなすだけの力量がありませんので、ここでは軽く流させていただきました……

しかし「並木道でうふふあはは」というのもいつかは書けるようになりたいものです。