「・・・・・」 倒れた姿勢から起き上がったジンベエは首を２・３度ふるふると振ってから立ち上がった。 文化レベルは高そうな世界であるが、あたりはごみごみとした市街。彼が倒れていたのは、集合住宅の外階段の踊り場であった。 立ち上がった拍子に、ぐう、と腹の虫が鳴いた。 無理もない。トラップを仕掛けるために、長時間熱中して作業していたのだ。どれくらい倒れていたのかはわからないが、もう空腹で限界に近い。 と、甘くうまそうな菓子の匂いが漂ってきて、彼はふらふらとその方へと歩いていった。無用心にもドアが開いており、小さなテーブルに置かれた皿の上にはチョコチップクッキーが山盛りされている。 非常時だ。一つ失敬してしまおう　　　　　ひとまずこの家の主人に声をかけよう 「は〜い！」 奥から出て来たのは、見た目が１３才くらいの可愛らしい黒髪の少年であった。大きなデニムのエプロンがよく似合い、両手には鍋つかみ用のミトンをはめている。 「何の御用ですか？」 ジンベエの目線がクッキーの方にいっているのを見てカイユンはぱちぱちと目をしばたかせた。 「お腹すいているんですか？」 返事の代わりにばったりと倒れてしまったジンベエは、しっかりしてくださいという少年の声をどこか遠くで聞いた気がした。 目をさますと部屋の中に運び込まれており、テーブルの上にはクッキーの他にウサギの形に剥いたリンゴが用意されていた。 「どうぞ。お父さんがいってましたっけ。困っている人には親切にしなくちゃいけないって。」 ぱくぱくとクッキーをほお張るジンベエにカイユンはとぽとぽと紅茶を注いだ。 「お砂糖、好きなだけ入れて下さいねｖ」 クッキーが甘いので砂糖は入れない　　　ひとまず一さじｖ 砂糖を１杯入れたジンベエはティースプーンでかき混ぜて溶かす。 こんなものだろう　　　　もう一さじ入れようｖ 砂糖を２杯入れたジンベエはティースプーンでかき混ぜて溶かす。 これでＯＫ　　　　　　まだまだ！もう一さじだ！ 砂糖を３杯入れたジンベエはティースプーンでかき混ぜて溶かす。 終了！　　　　　　　　これではまだ甘さがついたとは言えない！ 砂糖を４杯入れたジンベエはティースプーンでかき混ぜて溶かす。 これでいつもの甘さだ　　　　いや、今日は更に入れたい気分 砂糖を５杯入れたジンベエはティースプーンでかき混ぜて溶かす。 さすがにもう・・・・・　　　　　いける、いけるぞ！ カイユンは美味しそうにクッキーとリンゴを食べ、紅茶を飲むジンベエをトレイを抱え、にこにこしながら眺めていた。 「少年、何か嬉しそうだが？」 「え？僕が作ったものを美味しそうに食べて下さってるのが嬉しくって。それよりどうしてそんなにお腹がすいちゃったんです？良かったら話していただけませんか。僕じゃダメでも僕の仲間なら力になれるかもしれません。」 ジンベエが説明するとカイユンは顔を曇らせた。 「爆破に巻き込まれて軍の副官さんと離れ離れですか？心配ですよね！副官さんは銃が得意なんですね？うーん、誰に相談したらいいのかな。爆破のことならマリオさんだけど、銃のことならロマノフさん、コスモアーミーのことだったらアレックスさんなんだろうけど、ジンベエさんがここにいるってことはあんまりコスモアーミー本部には行っちゃいけないのかな？それともソーンダイクさんにコンピュータで調べて貰おうかな。ソーンダイクさんに聞くんだったらここを出発するときですね。お隣に住んでますから。キャプテンはロマノフさんと一緒にアケルナルの整備をしているからそこに行った時に会えますねｖあ、余ったクッキー、袋につめていきますね。途中でお腹すいたら食べましょうｖ」 マリオのところにいく　アレックスのところに行く　　ソーンダイクのところに行く　 ロマノフ＆ジョーのところに行く カイユンは目を輝かせる！ 「そうですよね！疲れたときには甘いのが一番ですよね！僕も甘いのは大好きですｖ」 ジンベエはがっちりとカイユンの手を握った。 「少年、君とは気が合いそうだ。名はなんという？私はジンベエという。」 「カイユンですｖジンベエさんですねｖわあ、これも何かの縁ですね、ジンベエさんみたいに格好いい人と出会えるなんて今日はいい日ですｖ」 ひとまず空腹を満たそう。　　いや、更に砂糖を一気に１０杯ほど・・・ カイユン少年と連れ立って隣の家を訪ねたジンベエは、コンピュータを前にひたすらコンソールを叩いている青白いひょろりとした青年を見つけた。 「ソーンダイクさん！お願いがあるんですけど。」 カイユンが事情を話すと、ソーンダイクは無言で検索を開始する。・・・・・十数分後、画面に “宇宙連邦内に該当者なし” という語が点滅する。肩を落とすジンベエの手をカイユンがきゅっと握った。 「大丈夫大丈夫！コンピュータにひっかからないこと、いくらでもありますから！さあ、次に行きましょう。」 マリオのところに行く　　アレックスのところへ行く　　ロマノフ＆ジョーのところに行く。 マリオを捜して下町に出た二人だが、目的の人物には一向に会えなかった。 しかし、ジンベエは遠くからでもよく目立つらしく、何人もの荒くれ男たちや怪しげなお姐さんたちが声をかけてくる。 「兄さん、あんた女泣かせの顔をしてるじゃないか。ここらで働く気はないかい？すぐに一財産できるぜ。」 「？女性を泣かせるのは悪いことだぞ。それに今の私には労働をしている暇はないのだが。」 「まあ、可愛らしい坊やを連れているねえ、その子と遊ぶのもいいけどあたし達とも遊ばないかい？」 「うむ。この少年が可愛らしいのは私も認めるが、遊んでいるわけではないぞ。彼は私の為に探索を実行してくれているのだ。」 「兄さん、いい薬があるんだが、どうだい？」 「現在私は極めて体調良好なのだ。お気遣いだけありがたく受け取っておく。」 ・・・・・・・・知らないということは幸せなことである。 「あ、エレーヌさん！」 カイユンが大きく手を振ると柔和な顔の女性が小さく手を振りかえした。カイユンがだーっと走っていって何事か話をし、やがてしょんぼりしてジンベエのもとへ戻ってきた。 「マリオさん、今日はここらへんでは見ていないんですって。どうしましょうか。」 ジンベエは笑った。 「案ずることはない。他の手を捜せば良いだけだ。さあ、少年、はぐれないようにしっかりと私の手を握っているのだぞ！」 アレックスの所に行く　　　　ロマノフ＆ジョーの所へいく コスモアーミー官舎に到着し、カイユンは面会届けにさらさらと記入した。ここにくるのは初めてではないらしく手馴れたものだ。 「良かった！中尉さん今日は非番なんですって！面会できますよ！」 しばらくして面会室にパールイエローの髪にアイスブルーの瞳のアレックスが軍服を着て現れた。 カイユンを見て微笑んだ中尉は、ジンベエに目を移して表情をひきしめる。 「カイユン、そちらの方は？」 「ジンベエさんです！」 その呼び方に“この人はいい人なんですよぉ！”という声まで一緒に聞こえたような気がした中尉は少し警戒を解いて、ソファーに向かい合わせに座った。カイユンは二人を代わる代わるみながら、（わあ、お二人ともステキだなｖ）とひたすらに喜んでいる。 ジンベエから話を聞いたアレックスは首を振った。 「そのような軍規を持つ軍を私は知らない。少なくともあなたは宇宙連邦内のどの正規軍の士官でもない。」 ・・・・・ギャラクティックジョーズ内の軍規を聞いて実は心の中で目を白黒させていたアレックスだったが、さすがは筋金入りの軍人、顔には現れない。 「・・・・・、あなたが連邦以外の星系の司令官だと知られれば、きっと政府から拘束されるだろう。この場から早く離れた方がいい。」 カイユンはことさらに元気そうにいった。 「じゃ、ひとまずキャプテンのところに行きましょう！きっと力になってくれますよ！」 アレックスはカイユンに囁いた。 「彼と一緒に居ると君も危険になるかもしれない。」 カイユンは笑う。 「ジンベエさんはいい人なんです。そして困っているんです。助けてあげなくっちゃ！」 ジンベエの手をひいて去っていくカイユンの様子をアレックスは静かに見送った。 ジョー＆ロマノフのところに行きましょうｖ カイユンがジンベエをつれてアケルナルに来た時、ロマノフとジョーは機体整備を行っていた。 「キャプテーン！」 機体背面に上って作業するジョーに手を振ると、ジョーは手の甲で汗を拭い、それからジンベエを見て怒鳴った。 「そのド派手な紫色の男はいったい何なの!!」 ジンベエは恭しく一礼する。 「ご婦人、私はジンベエ・フォン・シャークスコッチという。ド派手な男、ではない。」 ジョーは素早く地面に降り、機内にいたロマノフも異変に気づいて出てきた。カイユンが事情を説明する。 「・・・・だからジンベエさん、とっても大変なんですよ！」 腕組みをして聞いていたジョーは前髪を掻き揚げた。 「だからって言ってカイユンが協力しなけりゃいけないってこともないと思うけど。・・・・どう？ロマノフ。ガタイのいい灰青の髪のスナイパーなんて心当たりある？」 「いいや、シークレットとなってから、以前にもまして情報収集はしたつもりだが、そのような青年に心当たりはない。」 「・・・・・しょうがないわね。また面倒を背負い込んで・・・・・」 「え？じゃ、ジンベエさん、アケルナルでお世話していいんですか？」 ジョーは苦笑する。 「仕方ないじゃない。追い出したらカイユン泣くんでしょ？ただし本当にやばくなったらあっさり見捨てるかもしれないわよ。詳しい話は全員が揃ったときに改めて、ってことで。中に入っていて。仕事を終わらせてしまうから。」 ジョーは重そうな金属のパイプを左手で掴もうとした。 かよわい女性が持つにはあんまりなものだとジンベエは思った。 自分が持ってあげよう　　　　　　魔法で動かしてあげよう さっと歩み出てパイプを持ったジンベエはそのあまりの重さによろけた。（ジョーなら特別製の義手の力でよろけなどしなかったろうが） 「ととととととととッ！」 ジンベエを支えようとしたジョーは、倒れるジンベエにぶつかって結局地面へと押しつぶされてしまった！ 「何やってるんだ？」 若い男の声がした。 まだ腕がじんじんするのでしばらくこのままでいよう　　　状況把握のためすぐに起き上がろう 魔法でパイプを持ち上げたジンベエであったが、しっかりとパイプを握っていたジョーはそのまま浮かび上がってしまい、驚いて手を離して落下し、盛大にしりもちをついてしまった。 「痛ッ！」 「何をやっているんだ？」 若い男の声がした。 ご婦人が怪我をしなかったか心配だ。走り寄って抱き起こそう　　　　声の方を見てみよう 「お前！何そいつの上に乗ってんだ！爆薬で吹き飛ばされたいのか！・・・・・・俺を差し置いてそういうことをするな！」 素早く起き上がったジョーがマリオを投げ飛ばす。 「痛！少しは手加減しろ！で、そいつは一体なんなんだ？」 マリオに一礼する　　　　　　　　いきなり電撃！ 「お前！何そいつを抱きしめてんだ！爆薬で吹き飛ばされたいのか！・・・・・・俺を差し置いてそういうことをするな！」 素早く起き上がったジョーがマリオを投げ飛ばす。 「痛！少しは手加減しろ！で、そいつは一体なんなんだ？」 マリオに一礼する　　　　　　　　　　いきなり電撃！ マリオはカイユンからジンベエのことを聞いてチッと舌を鳴らした。 「全くお人よしというかなんというか。全く仕方のない奴だ。・・・・・ところであんた、俺たちに何を期待しているんだ。」 「うむ・・・・・・貴殿、爆薬がどうの、とさっき言っていたな？」 「ああ、俺は爆破屋だからな。それがどうした。」 「うまくいくかわからないのだが、私が飛ばされた原因は誤爆によるものであった。またここで同じようなことをすれば・・・・・爆薬を譲って貰えないだろうか。」 マリオがうええという顔をする。 「本気か？下手すりゃ、爆死だぞ？俺はスプラッタな爆破は趣味じゃない。」 「・・・・・大丈夫だ。いざとなればシールドを貼るまで。それに私は帰らねばならないのだ。私を待っている者がいるのだからな。危険だからといって避けて通ってあとから後悔することが世の中多いものだ。」 ジンベエの言葉に一同は頷いた。マリオが背負っていたバックパックからありったけの爆薬を出して手渡す。ジンベエは魔方陣を描き、その図形の頂点に爆薬を配置する。 「ジンベエさん！」 カイユンが叫ぶ。 「何だ？少年」 カイユンはクッキーの入った袋を差し出した。 「僕、ジンベエさんのこと忘れませんから！」 ジンベエは微笑んだ。 「私もだ。」 魔方陣が光り雷撃が爆発物を直撃してまばゆい光が辺りを満たした。 さあ、副官の所に帰りましょうｖ