次の瞬間、ジンベエは多くの人々で賑わう雑踏の中にいた。 文化レベルはさほど高くはなさそうだが、ジンベエはこの世界に満ちる魔力を感じた。はたはたとマントがはためく。ジンベエの装束もこの世界ではあまり違和感がないようで、道行く人々はあまり気にもとめない。いや、年頃の娘たちはやや頬をそめてちら、ちらと彼の姿を眺めてはいたが・・・ と、次の瞬間、上空から羽の生えた大型のトカゲが飛来し、通りを行く人々に襲い掛かった！ 人々はすばやく逃げたが、一人の男の子が地面の小さな窪みに足を取られて転んだ。 危ない！ 　とにかく自分の安全を確保しよう！　　　　　子供を助けるぞ！ オオトカゲのするどい爪が少年に届こうとしたその瞬間！ ジンベエの放った雷魔法が炸裂し、魔物は黒焦げになって倒れた。 「大丈夫か、少年。」 子供の手を引いて助け起こすと、男の子はぴょこりとお辞儀した。 「おじさん！ありがとう。」 「間違えてはいけない。私はお兄さん、なのだ。うむ。怪我はないな。良かった良かった。」 わっはっはと笑うジンベエの横合いから、縦じまのシャツを着、紫のフェルト帽を被った太った人の良さそうな男が顔を出し深々と一礼した。 「私はこの地で武器屋を営んでおりますトルネコと申します。息子のポポロを助けていただきありがとうございます。どうぞ私の家にお寄り下さい。」 　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ トルネコ家でネネさん特製のアップルパイをご馳走になり、至極ご満悦のジンベエを前に、仔細を聞いていたトルネコはう〜んとうなった。 「時空転移という奴が起こってしまったようですね。生憎今私の持っているアイテムにはお役にたてそうなものはありません。・・・・・・聞けばあなたはルーラ、いや、空間転移の魔法をお使いになるとのこと。この世界には嘗て私と共に旅をした仲間たちがおります。魔法や武術などを極めた人々ですから、あるいはあなたの力になれるかもしれませんよ。トルネコから紹介されたとおっしゃればきっと歓迎してくれるはずです。もちろん、あなたが心の赴くままに転移されてもそれはそれでよい結果が得られるかもしれませんが。どうぞお気をつけて。」 アップルパイを包んでもらい、ジンベエはトルネコと握手した。彼の仲間たちの所在が彼の手からジンベエの頭の中に流れ込んでくる。 さあ、副官に会うための旅の始まりだ！ 心の赴くままに跳ぶ　 　　　　　バトランドに行く　　　　　　 サントハイムに行く　　 モンバーバラに行く　　　　　　 山奥の村に行く 「？」 心の赴くままに跳んだジンベエは、四方を岩に囲まれた広い空間に来てしまった。地底の洞窟だろうか。空気は熱を帯び、嫌な匂いがする。彼はすぐさま魔法の障壁を張った。と、少し離れたところからぐはあ、と地鳴りの如き唸りが上がった。 見上げるばかりに大きな姿の剣を構えた鎧の化け物がそこにはいた。 「我が名はエスターク。我が眠りを覚まそうとするのは誰だ・・・」 あんた速攻で復活したんかい・・・・・ 怪光線がエスタークの目から発せられ、ジンベエのマントを掠めた。小さな、本当に小さな焼け焦げがマントに残った。 「おのれ！我が母の形見のマントに焦げあとなど！醜悪な存在のくせに許さんぞ!!」 超弩級の雷撃がエスタークを見舞い・・・・エスタークは速攻で倒されてしまった。 「ふう、とんだ寄り道をしてしまった。さて、どうするかな。」 バトランドに行く　　サントハイムに行く　モンバーバラに行く　山奥の村に行く バトランドの城下町に転移したジンベエは、がちゃがちゃと鎧を鳴らしてやってきた王宮戦士に目をとめた。トルネコから教えられたイメージとぴったり重なる男だ。 「お主・・・・貴殿の名は確かライアン殿であったな。」 驚くライアンに今までのことを説明するジンベエである。ライアンは射抜くような目でジンベエを見定めていたが、トルネコの名を出されて表情を和らげた。 「うむ。そうか。しかし私ではあまり役に立てそうにもない・・・・進むべき道を探しているのならばミネア殿のところに行くのが一番であろう。 ミネアというのはモンバーバラという土地にいる占い師である。 「うむ。かたじけない。ではそこに行こうと思う。」 モンバーバラに行きましょうｖ モンバーバラに着いたのは何故か夜であった。空には一面の星、それをかき消すように町にはかがり火が赤々と燃やされている。大きな劇場からは楽の音と拍手や笑い声が聞こえる。 「おお、なかなかに賑やかなところであるな。」 劇場に入ってみる　　　　通りをぶらぶらと歩いてみる 劇場に入ると、褐色の肌をした美しい踊り子が一人、舞台に飛び出したところだった。 「マーニャーッ！」 「こっち向いてくれ〜ッ！」 指笛の音、歓声、マーニャはウインクをして見せてから大きくジャンプしてくるりと回転した。ジンベエは彼女の踊りに釘付けになった。 「な、なんという踊りだ！芸術の女神よ。彼女に幸いあれ！」 踊りに賛嘆しつつ、ジンベエの足は音楽に合わせてリズムを取り始める。 「もう我慢してはおられぬ！」 紫紺の装束に身をかためたジンベエが転移魔法でいきなり舞台上に現れてぎょっとしたマーニャだが、彼の踊りに目をみはった。 男が踊るなどと前代未聞の事態だが、しきりと野次を飛ばしていた男たちもやがて口をあんぐりとあけ黙りこんでしまう。 はたはたと華麗にはためくマント、どこをどうやればできるのかわからぬがひとまずやっている５回転ジャンプ。バレエの男役の踊る演目をウルトラＥ級にしたような踊りに人々は魅了され、踊りが終わるとやんややんやの喝采が巻き起こる。マーニャがやってきてジンベエを抱擁する。 「凄いわ！悔しいけど、あたしには真似のできないステップもあったわ！自分以外の人間の踊りにこれほど感動したのって初めてよ！」 そばから団長も声をかける。 「君、どうかね。この劇場で踊ってみないか？うんといってくれれば世界一の男の踊り手として大々的に売り出そうじゃないか。」 うん、と言う　　　ミネアの居所をマーニャに聞いてそこへいく 通りをしばらく行くと、人々が長蛇の列を作っており、その先には、神秘の光を紫水晶の瞳に湛えた占い師が水晶玉を前に座っていた。ジンベエは素直に最後尾に並んだ。 やっとのことで順番がまわってきて、ジンベエは彼女と向かい合って座った。 「旅の方。何のさだめを知りたいのでしょうか。」 「うむ。少々面倒に巻き込まれてな。とるべき道を教えてくれないか？」 わかりました、とミネアはコントラルトの声で言い、水晶玉に念を集める。 「あなたの行く手に光が見えます。今はまだ小さな光ですが導かれ集い・・・・あら？」 「ど、どうしたのだ？」 「い、いいえ。なんでも。（強い運命の力を感じるわ。それこそ世界の均衡を破りかねない不思議な力を・・・・）・・・・・・あら？・・・・・あなたの捜しているものは空の上にあると出ましたわ。変ですね。」 「空か・・・・・うむ。礼をいうぞ。」 さて、空に行きますか・・・・ 転移した先は、サントハイムの城の屋上であった。 白猫のミーちゃんがフーッ！と毛を逆立て、いいスライムが驚いて跳びはね・・・・見張りに立っていた兵士たちは当然構えていた槍をジンベエに向ける。 「おお、すまん。いきなり城内に現れるつもりではなかったのだが。」 騒ぎを聞いてかけつけてきた筆頭宮廷魔術師ブライは、ジンベエから只ならぬ魔力が発せられているのを感じ、宝玉の嵌った杖をくるり、とまわし言い放った。 「お主からは邪悪な気配は感じられぬ！しかし、この世のものではない気配も感じるぞ。」 一方、ジンベエもブライから発せられる魔力のオーラをひしひしと感じていた。 ブライは小さく笑った。 「戦うというのならこのわしが相手じゃ！」 お手合わせ願おう　　　無益な戦いはしたくない 戦う意志がないことをはっきりと告げたジンベエであるが、背後から可愛らしい声が物騒なことを叫んでいるのに気づき肩をすくめた。 振り向くと、黄色いチュニックを着た少女が嬉々として戦闘の構えをしており、その横で緑の神官服を着た青年が困ったような顔をしていた。 「じい！その人が侵入者なの？あたしに任せて！結構その人強そうじゃない！いい？あなたの相手は私よ！正々堂々と勝負しなさい！」 妙に嬉しそうな少女の様子にジンベエはぽりぽりと頭を掻いた。このようなタイプの女性は初めてである。 「さあ！いくわよ！」 望むところだ　　神官に助けてくれと目で懇願する 「これでどうじゃ！」 ブライの氷結魔法が炸裂！ジンベエはシールドを作ってやり過ごす。 「おお、ご老人、やるではないか！しからば私も！」 ジンベエの雷撃がヒット！・・・・したかに見えたが、ブライがマホカンタしており、跳ね返された雷撃でジンベエは後方に飛ばされた。 「さあ！反撃じゃぞ！」 「なんの！これしき！」 戦いは長く長く続いた・・・・・二人の魔法使いは精神力の限界がきて、折り重なるようにして倒れた。 「お若いの・・・・・中々やるのぉ・・・・・」 「ご老人こそ・・・・・」 青春ライバル対決モードに移行してしまった二人に先程から観戦していた神官が駆け寄り治癒魔法をかける。彼のそばには暴れられなかったのが不服なこの国の王女が少々むくれ顔で立っていた。 「ほう・・・・部下の所にもどりたいとな？わしの知識をもってしても、具体的な方策はこれといってないのじゃが・・・・モンバーバラのミネア殿のところにいってはどうであろうか。彼女ならば、行く道を指し示すことができると思うぞ。」 モンバーバラに行きましょうｖ 「さあ！行くわよ！」 アリーナが目にも留まらぬはやわざでジンベエの首筋に蹴りを入れた。 ジンベエは首をさすりながら困ったように言う。 「私は格闘は苦手であるが、魔法を使ってよいのか？」 アリーナはにこにこしながら頷く。 「もちろんよ！私は武人でも魔法使いでも強い人となら誰とでも手合わせしたいんだから！」 ・・・・・この異種格闘技はあっという間にケリがついた。・・・・・・ジンベエがこの元気な少女の力量を過小評価してしまったからである。殆ど煙をあげて倒れているような彼に神官のクリフトが優しく治癒呪文をかける。 「大丈夫ですか？」 「う、うむ。なんとかな。」 クリフトに事情を話すと彼はしばらく考えてからこういった。 「そういうことならモンバーバラに行くのがよいでしょう。ミネアさんならばあなたの行くべき道を教えて下さると思いますよ。」 モンバーバラに行きましょうｖ ジンベエに目で懇願されたクリフトは、アリーナの体をぐいと腕で抱きとめた。クリフトにも初対面の相手に手合わせしたがる姫の行動が正しいものとは到底思われない。 「放して！手合わせするんだから！いい機会なのよ！だってサントハイムには私よりも強い人なんて誰もいなくなっちゃったじゃない。」 じたばた暴れる姫を抑えながら神官はタメイキをつく。 ジンベエは二人を代わる代わる見、首をかしげた。 「貴公ら二人はきょうだいなのか？」 「え？いいえ。」 「では婚約者とかそういったものなのか？」 アリーナはきょとんとし、神官の顔は真っ赤になった。 「そそそ、そんな恐れ多い！何故そんなことを！」 ジンベエは首を傾げたまま言った。 「いや、そんなにぎゅうぎゅうと抱きしめて親しげであったので、ちょっとな。」 神官の腕の力が緩み、アリーナは彼から逃れてジンベエから事情を聞いた。 「それならミネアさんに相談するのが一番だわ！ね！じい、クリフト！」 モンバーバラに行きましょうｖ 山奥の小さな村に降り立ったジンベエは、ばら色の髪をした少女に出会った。 「失礼、私の名は、ジンベエ・フォン・シャークスコッチという。トルネコ殿に聞き及んで来たのであるが、この集落にアレク殿という青年はおられるかな。」 少女は、アレクなら私の夫です、と答え、自分たちの家へと案内した。アレクは庭先で薪を斧で割っていたが、ジンベエを見るなりシンシアと目で会話した。 （悪い人じゃなさそうだね） （ええ、あの人の周りからは清浄な空気を感じるわ） 手作りの木の椅子に座ってお茶を振舞われたジンベエは今までの事情を事細かに説明した。アレクは翠の瞳を一杯に開いて話を理解しようとしたが首を捻った。 （サイト、とかホームページってなんのことなんだろう。僕らの知らない世界がまだまだこの世の中にはたくさんあるんだな。いつかそういったことも学ばなくてはいけないな。） アレク・・・・別に知る必要はないと思うぞ。 「お話はよくわかりました。でも、今の僕たちには力になれることはなさそうです。モンバーバラにいるミネアさんに聞くといいと思いますよ。彼女は占い師で、これから進むべき道を示してくれるはずです。」 アレクにそう言われ、ジンベエは元気がでてきた。 モンバーバラに行きましょうｖ 漠然と「空に」と念じて転移したところ、天空城に着いてしまったりするあたり、この男只者ではない。 「おお！空に聳える白亜の城！・・・・・う〜む。華やかさに少々欠けるところが玉に瑕であるな。」 その“少々”をあんたの思うとおりに補填するととんでもないことになると思うぞ・・・ ジンベエは雲の端から遥か下の海面を覗き込む。 「紺碧の海よ・・・・・心なしか悲しげに見えるのは行方のわからぬ副官を思う我が心を写しているのだろうか？」 だから、行方不明なのはあんたであって副官ではないってば・・・ さあ、ここでこのまま海面見物をしている場合ではない。 マスタードラゴンのところに行く　　　　　いや、もう少し散策しよう 魔法で“この城の責任者の所へ！”と念をこめて転移したところ、大きな龍の前に出てしまった。しかしまったくひるむことなくジンベエは一礼する。 「いきなりで失礼する。私はシャークスコッチ家第四皇太子ジンベエ・フォン・シャークスコッチと申すもの。おお、この城の主は龍殿であるのか。」 驚いたのはマスタードラゴンである。何でも知っているはずの彼だが今回のジンベエの来訪は予期していなかったことであり、しかも、勇者たちが「魔」を倒した現在でさえ結構危うい光と闇との均衡を（ふか〜くタメイキをつきたくなるようなどうしようもない方向へ）崩し兼ねない魔力を秘めたこの男の存在はこの世界にとって危険すぎた。 なので、いろいろと言いたい事はあったが、マスターは金色の瞳でじっとジンベエを見つめるとこういった。 “私にはお前を元の世界に送り届けてくれる者が誰なのかわかる。・・・・前庭へと戻れ。そこに居ればお前の前に道は開けるだろう。” 前庭に行きましょうｖ しばらくぶらぶらと前庭の花壇のあたりをうろついていると紫色した小悪魔が如雨露片手にとことこと歩いていた。 「なんと！貴殿の体のその色はなんと上品で美しいのだろう！」 初対面の人間に目をキラキラさせて褒められて悪い気はしなかったが、それよりも“なんなんだろ、この人”という気持ちがまさって小悪魔はゆうに１０歩ほどあとずさった。この天空の城まで上がってくる人にそうそう悪人はいないはずだが・・・ 「あ、ありがとう。でも、おいら、おいらのことより育てた花のことを褒めて欲しいな。どう？この花壇。」 ジンベエは目を細め、こくこくと頷いた。 「そうか。貴殿がこの花々を・・・・・うむ。素晴らしいぞ。空の青に映えて揺れる花々・・・・・わが艦にこの花園を持ち帰りたいほどだ。いや！いかん！この美はこの場にあってこその芸術なのだ！・・・・・鋼鉄の閉鎖空間に閉じ込めようなどと一瞬でも考えた私が浅はかであった！・・・・・ふっ、まだまだ修行が足りんな。」 自己完結しているジンベエを不審な目で見ながら小悪魔は一つの種を放って寄越した。 「ここの花を褒めてくれた人へのサービスだよ！雲に埋めてごらんよ。」 素直にジンベエが種を雲に埋めると小悪魔は如雨露で光のシャワーを降らせた。みるみるうちに育って開いた花は・・・・・・ 可愛らしいスイートーピーだった　　　　　　あう、なんというか 「素晴らしい！これは私の思い人のイメージフラワーなのだ・・・・うむ。可憐な・・・・」 小悪魔は首を捻る。 「何か違うなぁ、お兄さんの咲かせる花はこんな花じゃないはずだよ。」 小悪魔が別の種を放って寄越す。 ジンベエが埋め、小悪魔が如雨露を使うと・・・・・ 花が咲きましたが・・・・ 花開いたのは紫紺の薔薇であった。 「・・・・・・」 はしゃぐジンベエの横で小悪魔が表情を凍りつかせる。 「どうした？」 「これって間違っているよ！青い薔薇っていうのはね、世界中の人たちが追い求めているんだよ！これは日本に住んでいる小林さんが４０年もかけて育てた青い薔薇よりずっと青いじゃないか！小林さんはね、地道にかけあわせを続けることによって、大企業が遺伝子操作技術を使ってつくりあげた青いばらよりずっとずっと青い薔薇を育てたんだ！それをお兄さんが一瞬でやっちゃうなんて！なにか間違っているよ！」 語気荒く言われ、ジンベエが恐縮する。 「そうなのか？それは小林さんに失礼なことをしてしまったな。きっと貴公のいうように間違いであったのだろう。」 小悪魔が新しい種を寄越し、ジンベエが埋め、小悪魔が如雨露を使い・・・・・・ 十数回同じことを繰り返したが、咲いた花はすべて紫紺の薔薇であった。 小悪魔はやれやれというようにため息をついた。 「・・・・・・間違いじゃあなかったみたい。きっとその花がお兄さんそのものを表しているんだよ。」 「・・・・気品高く、美しい、ということか。」 「（・・・・・ていうか、何か間違っていてとても珍しいってとこだと思う）う、うん。その花、きっと役に立つよ。お兄さんが一番強く願っていることがきっと叶うから！」 ジンベエは一番初めに咲かせた紫紺の薔薇一本を右手に握り、あとを左腕で抱え、戻れ、戻れと強く念じた。 さあ、副官の所に戻りましょうｖ