| 特命部隊 隊員Bの場合 |
寒い・・・・・・。 弱音は吐きたくないが、寒いものは仕方がない。 隊員Aの報告を受け、私がこの酷寒の地に派遣されてもう何日たったであろうか。確かに私は母星では寒い地方の出身である。隊員の中で私に白羽の矢がたつのは必然のことであった。 しかし、このような寒さに私は生まれて初めて遭遇したのだ。 司令官殿じきじきに整えて下さった装備は目だけをだして顔を覆っている。しかし、寒さは容赦なく私の体にしみ込んでいく。 横殴りの吹雪・・・・・これはブリザードというのではないだろうか。腰まで雪に埋まり、ラッセルしながら前に進む。・・・・・・・ターゲットと赤いご老人の居住する場所は見当たらない。いや、私の四方はすべて見渡す限りの雪原だ。 迷わぬうちに転送機の設置された場所に戻るべきではないだろうか？ いや！うう、弱気になってどうする。われらは与えられたミッションを遂行するために存在している。ターゲットを確認するまでは引き返すわけにはいかない。 この白い大地、極付近に広がる広大な雪と氷の大陸・・・・・スコット大尉もアムンゼンも白瀬中尉も無謀と言われながらこの大陸に挑んだというではないか。この南極大陸に。 ん？ んん？？ 南極・・・・・・は・・・・・南、だよなあ・・・・・・ ターゲットの暮らす村は本当にこちらでいいのか！？ 指令官殿は胸をはり、得意げにおっしゃった。 「これをもっていくがいい。方位磁針というのだ。『１００円ショップ』という場所で格安で購入したのだ。この針の向きで北と南がわかるのだぞ！単純な構造ながら、なんという優れた機能だ！この、黒く塗ってある方がN極といい、北を意味するのだ。NはSにひかれるのだとくるみから教えてもらった。貴公は北に旅立つのだったな。北はN極なのだからSが指す方に向かえばいいのだｖ間違えるのではないぞ。」 （汗・・・・・・） ジン様・・・・・・・私にはなんだか間違っているように思えますが。 ああ、にわかに眩暈が。寒さと疲労が一気に襲い掛かってくる。・・・・・・ああ、もう一歩も歩けない・・・・・・・眠い・・・・・・はッ！眠ってはいけない。 私の記憶は混濁し、目は霞み・・・・・・・ そして私は不思議な影を見た。 二本足で立つ大きな影・・・・・・ターゲットではない。彼らは４足歩行の筈だ。彼らのマスターでもない。・・・・・影は赤くなかった。それは黒く・・・・・まるでスーツを着ているように見えた。・・・・・・ああ、もはやこれまでか。幻影が見えている。 大きな影は私をひょいと担ぎ上げたようだった。そして、みし、みし、と雪を踏む音がし、私の体は上下動されながら運ばれていったのだった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「おお、気がついた気がついた！」 私はベッドに寝かされ、暖かい部屋で数人の男性に囲まれていた。どうやら彼らに助けられたらしい。 「一体どうしたんですか。・・・・・・・観光ツアーで来られて迷ったとか？いくら今は真夏だとはいえ、極点のそばは危険ですよ！それにその服は一体・・・・・もう少しで見落とすところでした！」 ・・・・・・・ジン様じきじきに下さったシノビ装束（雪原地帯で保護色となるよう白生地で作成）確かに見落としやすいだろう。 「すまないことです。・・・・・・・私を助けて下さったのはどなたでしょう。ここまで担いできて下さって御迷惑をおかけしました。」 私を囲んだ人々は顔を見合わせた。 「あなた・・・・誰かに助けられたのですか？」 「どんな人に・・・・？」 む？彼らが助けてくれたのではないのか？ 「いや、かなり体格がよい方で・・・・朦朧としていたのでよくわかりませんが、まるで黒いスーツを着ているように見えました。」 顔を見合わせあった人々はひきつった笑いを浮かべ、“出たのか？”“やはり実在したんだ”と小声で囁きあっている。むむ。いったい何だというのだ。 「あの、一体何が・・・・・・？」 一番年配の男性が答える。 「あなた、ペンギンを御存知ですね。」 「え、ええ。」 一応、この星に住む生物にはチェックを入れている。しかし、ペンギンがどうしたというのだ。 「アデリーペンギン、王様ペンギン、皇帝ペンギン・・・・・・しかし、一般の人々には知らされていませんが、もう一種類幻のペンギンといわれているペンギンがいるのです。」 「幻の・・・・・ペンギン・・・？」 「いや、一種類、というより、ただ一羽、なのかもしれません。身の丈２メートル以上、南極のビッグフットなどと報告されもしました。・・・・・・・彼はペンギン界の『キング・オブ・キングス』と呼ばれているのです。」 ここで男性は声を顰めた。 「その名も・・・・・・・」 ごくり、私も思わず息をのんでしまう。 「その名も・・・・・大王ペンギン」 「大王・・・・・・」 男性は私の手を引いて立たせると外に連れ出した。他の男性と共に小走りに雪の上を進む。 「あなたが倒れていたのはここです・・・・・・・あ、ああ！やはり！」 男性が指差す雪の上には４０センチを超える大きさの足跡（水かきつきｖ）が歩幅１メートルくらいで刻まれていた。 侮れぬ・・・・・・・大王ペンギン・・・・・・ 男性は突然何かに気づいたように目を見開くと私を見つめた。 「キング・オブ・キングスは人間を助けることもありますが、その際必ず代償として何かを奪って行くそうです！何かなくなっているものはありませんか！」 私は懐に手をいれた。な、ない！！ジン様に特別支給されたアレが！中に何が入っているかはわからないが『遭難したときに開封するのだ、きっと役に立つ』といわれた直方体の箱が！おのれ、大王ペンギン、もしも今度会うようなことがあったらそのときにはきっとあの箱を奪還するぞ！・・・・・・そして助けてもらったお礼も言わなくてはならぬな。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 隊員Bがこのように息巻いている頃、『キング・オブ・キングス』は氷で作られた彼の気持の良い住居のソファーに腰掛け、奪った四角い箱を開封していた。銀のラッピングを器用に開け、現れた茶色の固体を口ばしでぱくりとやり、目を糸のように細くして微笑む。 ・・・・・・間違いなく虎屋の羊羹だ。・・・・・・この前これを食べたのは昭和基地の隊員を助けた時に基地から奪ったときだから・・・・・・もう随分と前になる。 巨大なペンギンは一口だけ齧った羊羹を丁寧に包みなおし、サイドテーブルに置かれたレターセットからびんせんを一枚取り出してペンを走らせた。 “聞いてくれ。また虎屋の羊羹を食する機会に恵まれたのだ。うらやましいだろう？、仕事が終わったらちょっとこちらに寄ってくれ。積もる話もある。茶を飲みながら羊羹を食おうではないか。では待っている。 ルドルフへ 君の友より。” |
| あまりの馬鹿さに管理人、憤死中<(_ _)> |