飛びゆく先に　　

　ミラーマの街、夕食時の酒場は喧騒に満ち、たった一人で厨房を切り盛りするマスターも、ウェイトレスも、息をつく間もないほどの忙しさだ。

　「おーい、エルミナちゃん、こっちにもう一杯頼む！」

　ほんのりと酒気で顔を赤くし、ジョッキを高くあげる常連にウェイトレスは答える。

　「はーいビール一丁！」

　注文を聞き、マスターに伝え、左手に料理を載せた大きな盆、右手には大きなジョッキを三つ。酔いでたがが外れ、腰のあたりに伸ばしてくる男たちの手を軽快なフットワークでかいくぐる。体の向きを変えるたびにスカートが翻り、艶やかな赤毛が揺れる。それはダンスのようにも見えたが、実際は剣士としての修行から習得した足裁きであった。彼女は過去『斬り姫』と呼ばれるほどの使い手であったが、今は剣を持つことはない。

　「ごちそうさん！勘定しとくれ！」

　「ちょっとまっとくれよ。ええっと。」

　ドアの開く音で新しい客が入ってきたのがわかったが、今日は特に忙しく、『いらっしゃい、』の声をかける暇もない。と、マスターが大声を出した。

　「エルミナ、とっておきのお客さんだぞ！」

　「とっておきの客？」

　外に通じるドアを振り向いて見たエルミナの目に、懐かしい三つの人影が飛び込んできた。

　「エルミナさん、お久しぶりです！」

　長い金の髪をした美しい娘がにっこり笑って会釈した。その隣で、青い髪に暗赤色の瞳の渡り鳥の青年が娘とそっくりの心からの笑顔で彼女に合わせて会釈する。二人の後ろには長い髪を無造作に日に焼けた緑のリボンで縛り、無精ひげを生やしたむさくるしい長身の男が立っていた。男は真顔でエルミナをじっと見ていたが、くしゃっと顔をほころばせるとつかつかと歩いていった。

　「よう、エルミナ、元気にしていたか！」

　そのまま腕を大きく広げ、エルミナをぎゅっと抱き……しめようとして、脇腹に強烈な肘鉄をくらわされた。

　「い・・・・ってぇ・・・おい、久しぶりの再会だってのに、あんまりつれなさすぎるんじゃないか。」

　「こっちは仕事の途中だよ！ったく。」

　男の肩にのった空色のカゼネズミがうんうん、と頷いた。

　「ザックはTPOというのがなってないからね。」

　「お前にとやかくはいわれたくねえぞ！」

　「おいらはウェイトレスさんに突進していってむしゃぶりつこうとしたことなんてないよ？」

　「るせー。ウェイトレスやってるメスネズミなんぞいないだろうが。…全く、人のことを盛りのついた猫みたいに言うんじゃねえ。こんどこそネズミ鍋にしちまうぞ！」

　毎度毎度のザックとハンペンの漫才に、セシリアとロディはくすくすと笑い声をもらした。
　エルミナは客から貰った勘定をポケットに入れ、はいはい、というとザックの真正面に立ち、彼の砂色の前髪をくしゃくしゃにした。

　「さ、お腹空いてるんだろ？すぐに用意するからね、座ってまっとくれ。」

　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　エルミナは三人が座った席にすぐやってきてザックには湯で割った酒、あとの二人には暖めたレモネードのカップを置いた。外は寒かったのだろう。三人揃って両手で包むようにカップを持ちほぼ同時に口をつけ、ふう、と満足そうな息を漏らした。

　「料理が来るまでの間、これでも飲んでておくれ。料理はどうする。」

　「ああ、何か体があったまりそうなものを頼むぜ。」

　あのぉ……とセシリアがもじもじしているとエルミナは頷いた。

　「もちろんヤキソバもね。わかってるよ。」

　「は、はい、有難うございます。えっと…今日は少しいつもよりもお腹が空いていて…」

　言葉に合わせるようにぐう、と腹の虫が鳴きセシリアは赤くなった。

　「それじゃ一皿余分にもってくるわね。」

　…ってことは６皿か。うん、６皿だね、７皿になるかもね、と感慨深げに頷きあうザックとハンペンにセシリアは怒鳴る。

　「ザックさんも、ハンペンも、そうやっていつもいじめるんですから！今日は本当にお腹が空いて倒れそうで…」

　セシリアの服は少し煤けていた。ロディのジャケットには新しい裂け目があり、ザックの腕には、魔法で治癒したようであったが、炎が舐めたような痕があった。

　「で、首尾はどうだったんだい？相当てこずったようだけど。火を吐くような怪物だったのかい。」

　「赤子の手を捻るようだった、なんていったら嘘になるが、手こずったわけでもねえなあ。」

　ファルガイアが魔族の脅威から開放されてから４年の月日が流れた。そして、ここにいる３人こそがその立役者であったわけなのだが、周りに居る他の客たちはそのことを全く知らない。そして、素性を知られていないことは彼らにとっての幸運であった。ザックはともかく、あとの二人……1000年前の大戦時に兵器として創られ、19年前に起動されたたホムンクルスである青年と、大国アーデルハイドの王位継承権を持ち、守護獣（ガーディアン）と意志を通わせることのできる巫女……の素性が知れたなら、のどかに飲食などできなくなるだろう。ロディがホムンクルスと判れば、客は泡をくって逃げ出し、セシリアが姫だと判れば深く深く腰を折り、少し下がってから好奇の目でこちらをちらちらと眺めるのだろう。

　３人はいつもこんな風に共に旅をしているわけではない。ザックとロディは一緒に組んで仕事をしていることが多いが、セシリアは王宮で王女としての仕事をこなす毎日である。長い旅をするのは基本的に一年に二度だけである。…アーデルハイドにおいては、夏のひと月、と冬の半月代々の王族たちは摂政にすべてを任せ、離宮で避暑・避寒をするのが慣習であった。しかし、セシリアは離宮に向けて出発するのは形だけで、すぐにこの二人と合流して旅に出てしまう。目的がない旅ではない。各地には1000年前の大戦時に兵器として使われたゴーレムが眠っている。また、生き残ったモンスターたちが跳梁跋扈している地域もある。セシリアは謁見の間でまっすぐな背もたれの椅子に姿勢よく腰掛け、各地からの使者の声に耳を傾けた。彼女が自分に何が出来るのか問うたところ、戦うことが紋章魔法を操るものとしての義務だ、とすぐさま答が出たのだと言う。

　国の重鎮たちは彼女を止めはしなかった。それは、姫巫女とその仲間達に倒せないモンスターがいたとしたなら、アーデルハイドの全兵力をもってしても太刀打ちできないということを知っていたからだ。
　そして、王女が、出発する前は青白かったほどの顔を、健康的なばら色にして旅から戻ってくることを知っていたから。ガーディアンの巫女は、アーデルハイドの象徴であった。城下町の人々は、巫女姫が微笑んでいる限り、この国は安泰だ、と確信していた。そして、姫が選択することならば、それがどんなに危険なことでも、間違いはないと思っていたのだ。

　と、エルミナは、腕を組んだ。

　「お姫さまの髪が少し焦げてるじゃないかい。手こずったって認めるんだね。」

　ん、うわ、言わねえからわかんなかったぞ。なんだ、ザックは気づかなかったの？ロディはわかってたよ？大したことないです、私、髪の毛の先が焼けただけですから。とざわざわと一斉に声があがる。

　「髪の毛を長く伸ばしたりするからこういうことになるんだぜ。」

　「ザック･・・･・・あんたの方が髪は長いってば。」

　「そうだよ。それに、セシリアがまた髪をのばし始めたとき、ザックだって、『いいんじゃねえか？姫さんにはその方が似合う。』っていってたじゃないか。」

　「あれは一般的なことだ。戦うときにはザンバラ髪は邪魔だろうが！」

　また始まったザックとハンペンの不毛な口げんかを余所にエルミナはセシリアの髪を撫でていた。

　「どうする？あたしで良かったら切りそろえるかい？」

　「目立ちます？私は特に気にはしませんけれど。」

　「このままだとね。まとめればさほどでもないだろうけれど。手頃な紐でもあれば…」

　と、ロディが額にしていた紅いバンダナを外し、セシリアの後ろに回り、そっと髪を束ねてきゅっとリボン結びに縛った。ロディとセシリアは微笑みあう。そして巫女姫ははしゃいだように言う。

　「ザックさん、見てください！ザックさんとお揃いです！」

　ザックは結ばれたバンダナを見、脱力して机につっぷした。

　「どうしました？」

　「……お揃いって……俺と揃いの髪形にしてどこがそんなに嬉しいんだ？」

　姫はブルーグリーンの瞳を大きくした。

　「え？……ザックさんは嬉しくありませんか？」

　「……そんな風に俺と同じ風にして並んで歩いて見ろ。どう見えると思う？」

　「どう…？」

　セシリアはパン、と手を打った。

　「ザックさんが私のお父様に見えるかもしれませんね！」

　またザックが机に突っ伏す。

　「何を言う。俺はあんたの親父になるほど年くっちゃいねえぞ！」

　ロディのカップからレモネードを一口飲んだハンペンがヒゲについた雫をしごき落としながらぼそっと言った。

　「…とはいいつつ、こないだついに三十路に突入したけどね…それにザックはもともとフケ顔だしさ。」

　「俺のどこがフケ顔だ！あの『自称お茶の間アイドル』みたいなこと言うんじゃねえ。」

　また、パン、とセシリアが手を打った。

　「だったら、恋人に見えるでしょうか？」

　またぼそり、とハンペンが言う。

　「恋人っていうより、拉致した男と拉致された娘っていうか…」

　「え？そんな風にみえちゃいますか？私、そんな風にみえちゃうなんて、修行不足ですね。……これから、少しは恋人に見えるよう隙がないようにします。」

　「何をバカなことを言ってる！……わかったわかった。俺と姫さんが並んでいたら親子に見えないこともない。それでいいか。だから恋人云々なんてことはほざくな。俺はヤキソバを６皿シラフで平らげる奴と恋人なんて思われたくはない。」

　またハンペンがぼそり、という。

　「ヤキソバを食べる時にシラフもなにも関係ないってば。」

　エルミナが溜まらず噴き出した。下手な芸人の漫才を聞くよりずっと面白い。

　「私、紅いバンダナを買って、いつもこんな風に結んでいるようにします。そうしたらザックさんと髪型が一緒で、ロディとは身につけているものが同じですもの。そしたらロディは私の弟に見えるでしょうか。あ、でももう背はロディの方がずっと私より高いですからロディがお兄さんに見えるかもしれませんね。」

　ヤキソバ、お待ちどう、とマスターが声をかけた。セシリアが嬉しそうに厨房の方をみやり、ザックがげんなりした顔をし、ロディは静かに微笑んでいる。エルミナは彼らの表情をぐるっと見渡し、それからヤキソバ６皿を運びにカウンターへと小走りに走った。

　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　食事の後、いつも通りにザックは一人でゆっくりと酒盃を傾けるお定まりのコースへと突入し、ロディとセシリア、そしてハンペンは月明かりの中、一足先に宿へと向かっていた。と、ロディの肩に乗っていたハンペンを背伸びして抱き上げたセシリアは自分の肩に乗せ、ロディの前に走り出るとスキップした。何のことだろう、ときょとんとするロディにセシリアは結ばれた髪の毛に手をやってみせた。

　「おかしくありませんか？」

　「ううん、おかしいだなんて。よく似合うよ。」

　「よかった。…とても気に入ったんです。こうして結んでいるとザックさんともロディともお揃いになって、いつも繋がっている気がして。明日、お店に買出しに行って似たようなものがあったら早速買いますね。」

　そしてバンダナを解こうとするセシリアの手をロディはとめた。

　「俺のお古で構わないのならセシリアにあげるよ。」

　セシリアは困ったようにロディの顔を見上げた。

　「嬉しいですけれど、それではロディとお揃いではなくなってしまいます。」

　それまで黙っていたハンペンが笑った。

　「困ることないよ。明日、セシリアがロディのバンダナを買えばいい。」

　そうですね、そうしましょう。と笑顔になった巫女姫に、ロディは頭を掻く。セシリアの金の髪を飾るには自分の使い古しではなく紅色も鮮やかな新しいものの方がよっぽど相応しいと思ったのだが。一方、ハンペンは遠まわしな方法ながらも新しい絆を自分が結んだように思えて自慢のヒゲを撫でてピンとさせた。

　「セシリアはいつお城に帰るの？」

　ハンペンに言われ、セシリアは冬の星座を見上げた。

　「あと五日のうちには。今回は考えたよりも長い旅になってしまいましたから。ヨハン叔父様と約束をした期日を破るわけにはいきません。」

　次の旅までお別れですね。いえ、アーデルハイドに来てくれれば会えますけれど。セシリアは明るくそう答えながらも、『次の旅』が果たしてまたあるものかどうか判らなかった。今と異なり、アーデルハイドの政務に専念せねばならぬ時がくるかもしれない。いや、もし、政（まつりごと）に携わることがなくなるとしても、婿をとるようなことになれば、旅にでることなど全く考えられない。
　ロディとてそれは同じだった。戦いのために作られたホムンクルスである自分がヒトと共に歩んでいってよいのか。二人とハンペンという仲間に甘え、また、コートセイムのジェーンたちに甘え、ここまできてしまったが、ヒトに非ざるものである自分は一人で歩き一人で消えて行くべきはずなのだ。

　でも、しかし、三人と一匹で歩む時間が永遠に続けばよいと思っていたのも事実であった。

　二人はどちらともなく手を握った。ホムンクルスであるロディの手は、ヒトと同じように暖かだった。

　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　深夜をまわり、酒場も店を閉じた。洗い物をし、店の中をざっと片付けたエルミナは、マスターに挨拶をすると前掛けを外して外に出た。すっと頭を巡らせただけで、彼女は捜していた男を見つけた。『水の都ミラーマ』の名の通り、縦横に巡らされた水路に掛けられた橋の欄干にザックは凭れかかり、呑気に鼻歌など歌っていた。

　「酔い覚ましかい。ザック。」

　「ひでえな、あんたが出てくるのを待っていたっていうのに。」

　「口説き文句としちゃあ、今一歩だね。」

　エルミナはザックの隣で同じように欄干に凭れた。男の長い腕が女の肩を抱き寄せ、女は肩にかけていた大きなショールを拡げむき出しになっていた男の首筋にかける。ザックは空を見、エルミナは水面に映った月の光を見つめる。

　「ちょっと気になったことがあるんだけれど、質問してもいいかい？」

　「ああ、答えられるかどうかわからねえがな。」

　「……入ってきたとき、セシリアとロディは笑顔だった。だけど、ザック、あんたは少しも笑っちゃいなかった。怯えたような顔をしてあたしをしばらく見ていた。あれはどうしてだったんだい。」

　そんなことか、とザックは口の端をあげて笑った。

　「あんたは俺が意気地なしだってことは重々承知してるだろう？…ちょとばかし、怖かっただけさ。」

　きょとんとしたエルミナにザックはガリガリと音をたてて頭を掻いた。

　「……酒場のドアをあけたとき、あんたがいなかったらどうしようか、なんて一瞬だが思っちまった。…俺がアークティカであんたと別れたあと、もう一度あんたに会えたのは奇跡だった。…長い間、あんたを永遠に失ってしまったと思っていたからな。時々白昼夢を見る。あんたがいきなり消えちまう夢を。」

　エルミナはザックの革のコートに頬を寄せた。

　「人を雪みたいに言わないでおくれよ。あたしはいきなり消えやしない。そんなにヤワな人間じゃないよ。」

　「そりゃあわかってるさ。……そうだな、あんたが消えるっていうより、あんたに置いていかれる気がしてならないんだ。アークティカでもそうだった。城から脱出し、真っ白な雪原にさ迷い出てぶっ倒れたとき、俺はあんたに取り残されたと思ったんだ。実際には置いていかれたのはあんただったのに。」

　おかしなことをいうね。とエルミナは笑った。

　「あたしもあんたも、取り残されるはずはないじゃないか。」

　空を見ていたザックが視線を落としてエルミナの横顔を見る。

　「あんたはここに居て、俺に置いていかれているって気持ちにはならないのか。」

　女はぶんぶんと頭を横に振った。

　「『置いていかれる』っていうのは、どっちかが止まっていてもう一人がそこから離れていくっていうことじゃないか。あたしは場所こそこのミラーマって町に留まっているけれど、だからといって凍り付いているわけじゃないよ。働いて、色々なお客と話をして、近所の人たちと近場に出かけたりもする。笑いもすれば泣きもする。生きている限り、止まっちまうことなんてないのさ。渡り鳥のあんたからみれば、あたしなんて止まってみえるのかもしれないけれど、そうじゃないんだよ。」

　「寂しくないか。」

　「『寂しい』って言って欲しいのかい？」

　「俺をおちょくってるのか？」

　「どこの誰かが言っていたよ。渡り鳥っていうやつは荒野を歩くことを辞めたら死んでしまう、ってね。冬鳥が夏に戻ってくるなんて不自然なことはあたしも望んじゃいないよ。時期が来たなら戻って欲しいけれどね。…それに、翼があるのなら、いつでも出会えるじゃない。あんたとお仲間たちのようにね。本来重なるはずもない細い糸のような飛行の軌跡がぴったり重なり旅をしている。家族みたいに、恋人みたいに、いや、それ以上の繋がりをもって。……凄いよ、それって。あたしとあんただっていつだって会えるさ。二人が同じ一点に向かって歩きさえすればね。一方が一方を追うだけじゃいけない。一方が逃げたら距離は縮まらないからね。」

　「そんなもんかねえ。…俺たち三人もいつまで一緒に旅ができるものか…これが最後の旅かもしれねえといつだって思っている。」

　「この間この町にきたときにお姫さまが言っていたよ。アーデルハイドの王女は代々『涙のかけら』を受け継ぎガーディアンの声を聞く巫女の役を果たしてきた、と。色々悩んだんだろうねえ。代々の王女について調べたらしいよ。結婚しなかった王女はいなかったのか。王女が生まれなかったことはなかったのか。……結果的に、正式な結婚をしなかった王女はいたらしいけれど、それでも必ず女の子を産んでいたって。調べてみて余計に逃げ場を失ったらしくてお姫さまはしょげてた。だから、あたしはこう聞いてみた。『あんたのありのままを受け入れてくれた男は家族以外に今まで誰もいなかったのかい』ってね。そしたら、お姫さまは即答したよ。『それならザックさんとロディです』って。」

　ザックは吹いた。

　「慌てなさんな。一応『ザックはやめておきな』って言っといたから。もっともお姫さまには何のことかわからなかったらしいけれどね。おや、あんたの相棒が来たよ。」

　テテテ、と走ってきたハンペンは、ザックの足から肩に駆け上った。首になにやら紅い布を巻いている。

　「なんだ？そいつは？」

　「おいらもちょっとばかり『お揃い』が欲しくってさ、バンダナの切れ端を貰った。」

　「……それを見せびらかすために俺たちの邪魔をしにきたってわけか？」

　「なーんか、あっちに居る方がお邪魔虫って感じがしたからさ。」

　一歩を同じところに向かって踏み出したのかもしれないね、とエルミナが言い、ま、奴らがくっつくんなら、三人揃うのに手間が省けて助かるな、とザックが笑った。が、こともあろうに話題の二人が走ってきた。

　「何だ何だなんなんだ！お前たちまで俺の邪魔をする気か!?」

　「え？いえ、宿で待っていたのにザックさんたちが帰ってこないので心配して、一応様子を見に。」

　「雪も降ってきたしね。」

　見上げれば白い粉雪があとからあとから地上へと落ちてきていた。

　「エルミナさん、宜しかったら宿にいらっしゃいませんか。幸い泊り客は私たちだけのようですから。少し話をしても大丈夫と思います。」

　エルミナはちら、とザックを見てから答えた。

　「そうね。じゃ、今日は女同士で語り明かそうかね！」

　殺生な、久しぶりだっていうのに！夜はまだ始まったばかりなんだぞ、何が殺生なんだい？と年長組が言い合う中で、年少組はもと来た道を引き返していく。

　「さあ、追いかけないと！」

　走り出したエルミナをザックは追う。その肩にハンペンはしがみ付く。

三人と一匹、それに、彼らと強い縁（えにし）で結ばれた嘗てのフェンリルナイトの女騎士は粉雪の舞う中、同じ場所へと走っていった。

　
４周年記念としてそらまめさんよりリクしていただいたWA話です。「WAの3人組＋ハンペン（可能ならエルミナ姐さんも入れて）で冒険後のほのぼの日常話」ということでしたが、
３人＋１匹＋姐さん！好きだ！好きだ！書くぞ〜！と気合いを入れて書き始めましたが好きなのと書く力があるのは別物で、愛情だけが空回りして、消化不良この上ない文になってしまいました。
　時間軸としては冒険後４年後（一応サイト４周年記念なもので）のつもりなのですが、セシリアは子供っぽいしザックは相変わらずだし、エルミナ姐さんもおそらく記憶がもどったあとでしょうに、その片鱗すら行動や言葉に現れていないですしッ！こ、ここら辺は非常に深く心情を掘り下げたな文や漫画をお書きになっている方々がネット上にいらっしゃいますので、そちらで補給してくださいませ。

　と、とにかく、３人＋１匹は永遠に！

ってことで纏めさせて下さい！もう３人＋１匹で命ある限りファルガイアの上で渡り鳥を続けていって下さい!!
4周年記念部屋へ　WAトップへ