ユクレスの樹
メイトルパの同胞達が暮らすユクレス村。その中央に青々とした葉を茂らせるユクレスの樹を見上げ、小さな二つの影が座っている。 「メイトルパってどんなところなのかな。お父さん達に聞いたら、走っても走ってもなかなか端っこまで着けないくらいの草原が広がっているんだって。本当？」 パナシェが訊くと、テコは 「みゃぁ。」 といって深く一回頷いてみせた。 「そうなんだ！僕はあんまり走るのは速くないけれど、行ってみたいなあ。そこを思いっきり走ったら気持ちいいだろうなぁ。」 「みゃあみゃあ！」 テコは同意するように二回頷いた。 パナシェはユクレスの樹を見上げる。 「ユクレス様にお願いしたら、僕達いつかメイトルパに帰れるかな？」 テコはこれには答えられず、みゃぁ・・・・と啼いて首を傾げた。 「ごめんごめん。君にはわからないよね。…ヤッファさんにだって、帰り方がわからないんだものね。…ね、あのね、僕、ユクレスの木の根っこは土の中のずっと遠くまで延びていて、もしかしたらメイトルパに繋がっているんじゃないかってスバルに話したことがあるんだ。スバルには笑われちゃったんだけど・・・でも、それを聞いてたヤッファさんが 言ったんだよ。 『確かめた奴は誰もいねぇんだ。確かめた奴がいねぇってことは繋がっていないって断言できねぇってこった。ひょっとするとひょっとするかもしれねぇぞ。』 って。 ……君はどう思う？僕はね、ここでこうやってユクレスの樹を見るたびに、繋がっている気がしてしかたがないんだ。そして、ずっとずっと見ていると、なんだかお祈りがしたくなってくるんだ。…いろんなこと。弱虫なところを直して下さい、とか、怖いことがこれ以上起こらない様にして下さい、とか。でもね、そうやってお祈りをしていると、スバルが来ていうんだ。お祈りをするよりも、自分でがんばって、強くならなくっちゃいけないって。神様に助けて貰おうとする前にやれることはたくさんあるんだぜ、って。…僕もそうだと思う。…でも、僕はやっぱりここにくるとお祈りしたくなるんだ。特別なお願いがないときでもお祈りをしたくなるんだよ。」 風がさあっと吹いてきてユクレスの木の梢を揺らした。そのざわざわという音は、メイトルパの草原を吹く風の音に少しだけ似ていた。テコは目を閉じて耳を時々ぴくり、と動かしながら風の音に聞き入った。 懐かしいメイトルパ！大きく拡がる青い空があって、お日様がまっすぐに照っていて、草原に寝転ぶと湿った土と青い草の素敵な匂いがして… テコが目をあけると、パナシェは肉球のついた両手をぴったりとあわせ、お祈りをしていた。 「ユクレス様、ユクレス様。今日もお祈りをさせてください。…お願いします。みんなのお願いがきっと叶いますように。」 パナシェの隣でテコが真似をして手を合わせた。 ユクレス様、ユクレス様、どうか願いを聞いてください。この小さな子供たちが、明日もまた貴方の前で祈りを捧げることができますように。母なる大地、メイトルパから切り離されたこの小さな島で、生き生きと生命（いのち）をまっとうできますように。 |
| パナシェについては、もうそこに居てくれるだけでいいです。祈るだけなら簡単、なんて思いますけれど、一生懸命に優しい気持ちで祈るって難しい。…少なくとも管理人には無理です。 |