命令
「隊長…自分は文字通り隊長のただ一人の部下となってしまいました。が、自分は最後まで隊長についていきます。自分は…自分は命に代えてもあなたを護ります・・・・アズリア隊長…自分は…あなたをお慕いして…」 大柄な帝国軍人は、傷の治療の為に寝かされていたベッドから立ち上がり、そう呟いた。と、“みゃあ”という声がして足元を見ると、小さなオレンジ色の猫に似た召還獣が翠のまんまるな瞳でこちらを見上げていた。 ギャレオの骨ばった厳つい顔が朱に染まった。 「お前、今のを聞いていたのか!?」 大きな手で抱き上げられ、テコはギャレオの顔を真正面から見ることになった。 「みゃあ、ミャ！」 確かにしっかりと聞いていたので、テコは大きく頷いた。 「…聞かなかったことにしては貰えないか。」 でも聞いてしまったのだ。この男がいったいどうしてあたふたしているのかテコには理解できなくて小さな召還獣は首を右へ、左へ、交互に傾げてみせた。 「い、いやなのか？しかしそれでは困るのだ。頼む。」 抱き上げられたまま上下に振られ、テコは面白くてミャアミャアと歓声をあげた。 それを聞きつけて入ってきたのは同じくここで静養している彼の隊長であるアズリアであった。 「ギャレオ、どうした。」 生真面目でいつも凛とした表情を崩さないアズリアは、ギャレオに抱き上げられているテコを見て相好を崩した。 「ほう。ネコか。きさまがネコ好きだったとは知らなかったぞ。」 「い、いえ、隊長、これは。」 「ん？違うのか？」 テコが少し口を開けたのを見て、ギャレオは反射的にテコの口を塞いだ。 「…世話をしてやる暇がないということで犬やネコは飼ったことがないが…私もネコは嫌いではないぞ。実家では下働きのものたちがネコを飼っていてな。白い綺麗なネコだった。結構愛想もよくてな。…そうだ。故郷に帰ったら一度屋敷に寄ってもらえるといい。毎年子猫が生まれるのだが、貰い手を捜すのが大変らしいからな。」 ギャレオは少々情けない表情になったが、すぐに固い表情になる。 「自分はこの前の戦いでもこのような重傷を負ってしまいました。隊長の足手まといとならぬよう力を尽くしますが…隊長、お願いがあります。隊長は自分に攻撃が集中したとき、自分と敵の間に入って下さいました。あのようなことは止めて下さい。隊長に護られるようでは部下として失格です。」 アズリアは快活にこともなげに言った。 「却下だ。」 「しかし・・・」 「これは命令だ。口ごたえは許さん。」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「ギャレオ。このあと何が起こるのかはわからん。どのような決着がつくのかも、な。しかし、これだけは言っておく。私の生死に関わらず、お前は何があっても生き抜け。」 「隊長・・・・それも命令ですか。」 アズリアはふっと笑った。 「いや、これは命令ではない。…ただ、約束して欲しい。−−−何にしてもまだ先のことだ。今はゆっくり休め。邪魔をしたな。」 アズリアは去っていった。ギャレオは再びテコに話しかける。 「・・・・とにかく絶対に隊長には言わないでくれ。」 テコが首を傾げると、巨漢の軍人は先ほどのアズリアのような微笑を浮かべてぐりぐりと片手でテコの頭を撫でた。 「約束、だぞ。」 |
| 当初は思いっきりギャグのはずだったんですが…どこでこういう話になったんだか。 |