狭間
狭間の領域に行くと、いつもマネマネ師匠とのダンスバトルに振り回される。初めはアティが挑戦し、彼女の生徒である冷静な少年は『いい大人が何をやっているんですか』とどちらかというと冷淡な目でみていたのだが、今や彼の家庭教師以上に熱をこめて挑戦している。 単なる遊びであるはずだが、どうやら咄嗟の判断力も向上するようである。 この頃、ファルゼン、いや、ファリエルもその様子を見に来て、声援を送ったり笑ったりとマネマネ師匠の住家は賑やかだった。ファリエルが来れば、霊界サプレスから召還された、ファリエルの護衛獣である天使、フレイズもそれほど離れていないところにその純白の羽を畳んでそっと腰掛けている。 ダンスバトルに対するこの天使の見解は、ウィルのものより辛らつで、『天使らしからぬ』毒舌をその整った顔の艶やかな唇から紡ぎだされてアティは仰天したものだが、ファリエルがアティと打ち解けるに従って、ここに来ているとき彼の顔も少し穏やかになっていた。いや、アティやウィルの動作にくすっと穏やかな笑いすら漏らすようになったのだ。笑ったフレイズは、しかしすぐに、笑ってしまったことを恥じるように鼻のあたりを少しだけ桜色にし、ついで自分の主人である少女の顔を見る。そして、ファリエルが楽しそうに微笑んでいるのを見て、先ほどとはまた違った透明な笑みをその端整な顔に浮かべるのだった。 （メイトルパからの小さな同胞。君はどう思う？） テコの頭の中でいつかの声が響いた。 「みゃ？」 （妹は…ファリエルは一度命を落とし、しかし、護人となることで、この世界に留まっている。妹は生きている間、ずっと私のそばにいた。だからわかるのかもしれないが・・・妹の人間としての存在は希薄になっているように思うのだよ。…本質は変わっていないのだけれど、どんどん魂が透明に近くなっているのではないだろうか。） テコには難しいことはわからなかった。でも、彼は優しいファリエルのことが大好きだった。いつだったか、テコを撫でてくれようとした手は幽体のそれであったからテコの体を素通りしてしまったけれど、何か暖かい感じがしたし、慌ててファルゼンの鎧を着て撫でてくれた手は重量感たっぷりで少女のものとは思われなかったがそれでも気持ちは伝わってきた。 （そしてね。私はフレイズのことも気がかりなのだよ。彼は天使だ。その点、融通の効かないこと甚だしい。以前から、彼の主であるファリエルの言うことしか頑として聞こうとはしなかった。） 「それが天使というものなのだ」 と頭の中の声は苦笑した。 （しかしね、彼は人間に近くなって来たように思うんだよ。…いつか彼が羽を捨てる日がやってくるかもしれないと、そんなことすら思うのだよ。そしてね、これは虫のよい考え方なのだけれど、ファリエルとフレイズが同じ場所に・・・人間と天使の丁度中間の位置に並ぶようにならないかと願っているんだ。…ファリエルは私のたった一人の妹だからね。…同じ場所で護ってくれる存在に居て欲しいんだ。…ああ、兄馬鹿だね。今は肉親のことを心配している時ではないとわかってはいるんだが、それでも・・・） 気づけば、ダンスバトルは終了していた。そしてアティとフレイズが語気荒く言葉を交わしている。 「ファリエル様をそんなな危険な目にあわせるわけには参りません！」 「フレイズ、止めて！私は私にできることをやりたいの。いくら危険があろうと、私は剣を手にして戦います。」 「しかし！」 「フレイズ！私のことを考えてくれるのは嬉しいです。でも、私のことだけしか考えてくれないあなたは嫌いです！」 「ファリエル様！」 そのとき、美貌の天使はテコにポカリ、とわき腹を殴られた。 「？？？？？？？」 （このままでは本当にファリエルに嫌われてもれても知らないぞ？……どちらが天使なのだか疑いたくもなる…） 小さなオレンジ色の色の獣からそんな声が聞こえてきたような気がして、フレイズは首を傾げた。 「さあ、もう帰るよ、テコ。」 ウィルに言われ、テコは狭間の領域から帰途についた。 一歩洞窟から外に出れば、そこはもう陽光降り注ぐ世界。 人間の住む世界と、天使の住む世界は、それほど離れているわけではない。 |
| フレイズに関しては「何だ、お前は一体!!」と叫びたくなり、仲間になんかしてやるもんかとすら思いましたが、まだ発展途上の人（いや、天使だが）だと思えば許せるか、という悟りの境地でプレイしてました。でも、きっとファリエルに対しては唯一無二の存在なんだろうな、ということで・・・ |