| キャロ三人組の本編後の旅。ジョウイの一人称での短い話です。宜しかったらどうぞ・・・ |
| ずっと家族で |
「お昼に貰ったミルク、とっても美味しかったねｖ」 ナナミがゆらゆらと揺れる焚き火の火を眺めながら言った。 今日、僕たちは旅の道すがら秋小麦の刈り取りを手伝った。そこで昼食を振舞われ、絞りたてのミルクを飲ませてもらったのだ。それだけではなく、チーズや小麦粉やしっかりとやきしめたパウンドケーキまで貰ったので、僕や飛燕（ヒエン）の背負い袋はぱんぱんに膨れ上がっている。 「ちょっと遅くなって野宿になっちゃったけど・・・・・」 近くの領主の馬車が暴走し、それに巻き込まれて子供が大怪我をし、僕らは・・・・・正確にはヒエンは手の甲に宿した“輝ける盾の紋章”の力を使って傷を治療したのだ。農家の人たちは、僕らに泊まっていくように勧めてくれたけれど、この“真の紋章”は僕らには制御できないほどの力を持っている。それを持つ僕らと関わりあうことは不幸を招くことにもなりかねない。僕らは挨拶もそこそこに逃げるようにその場を離れたのだった。 「野宿もたまにはいいよね。」 焚き火の暖かな光にナナミの笑顔が照らされている。三人で旅を始めてから２年。僕らは少しずつ年をとって背ものびたが、変わらないものも多い。底抜けに明るい彼女の笑顔もその一つだ。 変わらないといえば彼女の料理も変わらない。・・・・・・一緒に旅して彼女は料理が下手なのではなく、「体にいいものを入れよう！」と勢いこんで薬草やらなんやらを入れるせいだとわかったが・・・・僕の好き嫌いを熟知しての上で、それを乗り越えさせようとニンジンを入れるその好意はありがたいけれど迷惑なのだが・・・・・ 「ほら、ヒエン、肩が出てるよ。そっちにもっと毛布ひっぱりなさいってば。」 二人してくるまっている毛布を少し緩めてナナミはヒエンにいう。ヒエンは少しため息をついたようだった。 「こっちに引っ張ったらナナミの肩が出ちゃうよ。」 「だいじょーぶ！お姉ちゃんは丈夫なんだから！自分があったまって弟が寒いのなんてお姉ちゃんとしちゃ失格でしょ！・・・・・そもそも、ヒエンがもっとこっちにくっついたらいいんじゃないの？」 「・・・・・・そんな、恥ずかしい。自分の毛布、荷物から出すよ。」 「なによ！二人でくるまっている方が断然あったかいし、兄弟に恥ずかしいもなにもないでしょ！あ、そうだ。ジョウイもこっちおいでよ。ジョウイの毛布もあわせて三人一緒にくるまったらきっととってもあったかいよｖ」 ・・・・・・・・こういうところも２年前と同じだ。女の子らしくなって欲しいなんて強くは思わないけれどいつまでもこういうことで大丈夫なのかな、と心配することは多い。・・・・・普通はお嫁にいってもいい年じゃないのかな。ジルだって・・・・・ううん、ジルのことを考えるのはよそう・・・・・・幸せになっていて欲しい、そう祈るだけだ。 「あーッ！二人とも私を凍えさせる気なんだ！もう！寒いの嫌いなんだからね。」 そういって無理やりヒエンをぎゅっと抱き寄せてしっかり毛布を巻きつけた。 「ほーら、こうしたらずっとあったかいじゃない？」 ヒエンは“ナナミー、やめろー”などと悲鳴をあげているけれど、いつもの兄弟げんかだ。放っておこう。 やいのやいのと口げんかする声が静まって僕は二人の方を見た。するとナナミはヒエンに寄りかかったまますうすうと気持よさそうに眠っていた。ヒエンが僕の方を見て苦笑する。 「ナナミは絶対弱音をはかないけど・・・・・・農家の手伝いだって重労働だったし、僕たちの歩調にあわせて道を行くだけでも疲れるよね。・・・・・・女の子なんだもの。」 片手でナナミの髪を梳いてからそっと体を持ち上げて横たえ、毛布をかけてやる。 「・・・・・・考えなきゃ、いけないよね。・・・・・」 星空を見上げてそういうヒエンの顔に僕はいつもと違うものを感じたけれど、ヒエンは何もいってくれなかった。僕は“そうかもしれないね”と言うだけにしておいた。今日の焚き火の番はヒエンが初め、次が僕、最後がナナミだ。僕はおやすみ、とヒエンに声をかけ、目を閉じた。 次の日、僕の目を覚ましたのは、悲鳴のようなナナミの大声だった。 「何で！何でそんなことをいうのよ！」 そしてばたばたと走っていく足音。僕は飛び起きてナナミの声がした方に走った。はるか前方を全速力で遠ざかっていくナナミの後姿が見える。足には自信があるがそれでも追いつくまでには時間がかかった。彼女は大きな木の幹に寄りかかってぽろぽろと涙を零していた。 「ナナミ・・・・」 ナナミは僕が来たのに気づくと涙を拭って無理に笑おうとした。しかし、その努力もそこまでで、僕に顔を向けたまま泣き出してしまった。 「一体どうしたんだい。・・・・・ヒエンになにを言われたの？」 ナナミは答えなかった。 「・・・・・・・言ってご覧よ。・・・・・・僕ら、いつでも・・・・・この旅が始まってからは隠し事なんか一切してこなかったじゃないか。」 あの戦争の時、僕は二人に大きな隠し事をしていた。その思い出が胸を貫いたが、それでも僕はそう言った。実際、旅が始まってからは、三人で一緒に笑い、泣き、ときには喧嘩もしたが、隠し事だけはしなかったのは確かだ。 ナナミは必死で泣くまいとしながら話し始めた。 「ヒエンがね・・・・・・無理しなくていい、っていうの。疲れたときには疲れたっていえばいい。ナナミは頑張りすぎだって。・・・・・・そしてね。ナナミは僕の本当の家族じゃないんだから、『お姉さんだから』という義務感なんか感じなくっていいんだ・・・・って。」 ・・・・・・・・ 「私は・・・・・・私はヒエンのこと、家族だって思っているのに。血のつながりがなくたって、世界にただ一人の弟だって思っているのに。・・・・・・・・あの戦争のときはまだ我慢できた。反乱軍の軍主になってしまって、まだ子供なのに沢山の大人から期待を背負わされて・・・・・あのときはヒエンは私の弟である前に軍主なんだ、って自分を納得させられた。忙しくて殆ど喋れなくても、出撃の時、私を加えてくれなくっても・・・・・・・・あのね、ジョウイ。・・・・・・あの戦争の時、ヒエンは私に、兄弟の縁を切ろう。っていったことがあるんだよ。」 それは初耳だった。ナナミも、ヒエンもそんなことは断片さえも話題にしてはいなかった。 「・・・・・・そのとき、私、悲しくて、怒っちゃって、ヒエンをパーンとひっぱたいちゃったんだけど・・・・・あの時は私のことを思ってそういってくれたんだとあとでわかったから・・・・・軍主の姉、なんて、敵にとっては格好の標的だものね。そして、私がヒエンのことを弟としてあれこれかまってたら軍のひとたちの士気にも影響するものね・・・・・実際、私が無理にお願いしてヒエンとティントから抜け出そうとして、ハウザーさんは死んじゃうことになったし、私がロックアックスで死に掛けた時、ヒエンはもの凄く怒って冷静な判断を欠いちゃった。・・・・・確かに私はお荷物だった。だからあの時は我慢できたの。でも、今は戦争じゃないんだよ。平和になったんだよ。ヒエンは軍主なんかじゃないんだよ。なのにどうして？・・・・・・ジョウイ・・・・・私、今もヒエンのお荷物なのかな。」 僕はナナミの頭にそっと手を載せた。 「お荷物なんてことないよ。きっとあの戦争のときにもお荷物なんてヒエンは思っちゃいなかったはずさ。僕は小さなときから君達と一緒だった。・・・・・・当事者のナナミにはわからないかもしれないけど、ヒエンは絶対ナナミをお荷物なんて・・・・ 「じゃあ、さっきのヒエンは！」 僕の言葉に割り込んで叫んだナナミはとても悲しそうだった。 「私のことを思ってくれているのはわかる。でも・・・・・・・本当の家族じゃない、なんてどうして言えるの？私はヒエンのこと、本当の弟だと思っているのに。それが思いやりならわたしは要らない！」 嗚咽しながらまた木の幹に額をくつけて肩をふるわせるナナミに、僕はそれ以上声をかけることができなかった。・・・・・・ヒエンと話をしなければいけない。何かの勘違いならそれを正さなければならないし、もしもヒエンが本気でそんなことをいったのなら・・・・・・・一つ殴ってやらなければならない。 僕が焚き火の傍にもどってくると、ヒエンが呆然としてつったっていた。 「ナナミのところに行ったの？」 「ああ・・・・」 「どうしてた・・・・・？」 「泣いていたよ。家族じゃないって言われたって。・・・・ヒエン、本当にそんなことを彼女に言ったのかい。」 「ああ・・・・・」 僕はパン、とヒエンの横面を平手で叩いた。 「紋章の力を発動させなかっただけ感謝して欲しいな。・・・・・・何をいまさら言っているんだ？少し辛いかもしれないけれど、ナナミは彼女自身の考えで僕らと行動を共にしている。そんな彼女にかけていい言葉ではないはずだ。」 ヒエンは張られた頬に手をやり、寂しそうに微笑んだ。・・・・・何を考えているんだ。 「ジョウイ・・・・・・ナナミは途中で走って行っちゃったんだ。そんな風に誤解するなんてナナミらしいけど・・・・・笑わないで聞いて欲しい。言葉も挟まないで。・・・・・・・確かに僕はナナミに『本当の家族じゃない』 っていったさ。でも・・・・続けるつもりだったんだ。『本当の家族じゃないから、これから家族になろう』って。」 初めはなんのことを言われているか僕にもわからなかった。 「今のままでも・・・・・と思わないでもなかったけれど、僕の姉さんで居る限り、ナナミは結局強がり言っちゃうし・・・・・・・それにその・・・・・」 「なんだい。はっきり言えよ。」 「ナナミのこと、誰かに盗られたくないし・・・・・」 あの壮絶な料理とあの壮絶な三節棍の一撃を眼前にさらせば盗ろうとする人間はあんまりいないと思うけど・・・・・・って・・・・・おい それって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!! 僕はにやっと笑ってヒエンに背を向けた。 「おい、ジョウイ！」 「わかったわかった。僕はナナミの誤解をといてくる・・・・おや？」 ナナミがこちらに向かって歩いてくるところだった。もう泣いてはいない。いつもの笑顔だ。・・・・・まったくヒエンでなくともこういう無理をするところが放っておけないんだ。僕の後ろでヒエンが腕をわたわた振って僕が何か言うのを阻止しようとしているようだが、素早くナナミの傍により、言ってやった。 「ナナミ、こいつはさ。一度ナナミと家族の縁を切って・・・・・また新しく家族になりたいんだって。そして新しい家族を増やしたいんだって。」 ナナミの顔がぱあっと明るくなる。 「わあ！さっすが我が弟！お姉ちゃん嬉しいな！」 ん？なんだ、この反応は？ 「・・・・・・・ヒエン、ジョウイのこと気になってたんだよね。そうだよ。私達小さな頃からずっと一緒だったものね、ヒエンとジョウイと私と。私達だけが兄弟なんておかしいよ。」 そしてナナミは僕の体を左腕で抱き寄せ、強引にひきずっていくとヒエンの体を右腕で抱く。 「そうだよね！三人揃って私達は家族だよね！兄弟だよね！」 ナナミに抱きしめられながらヒエンの顔を見た僕は彼の顔の情けなさに思わず笑ってしまったけれど、それでもヒエンはとても幸せそうで・・・・ 「よーし！問題解決！はーあ！すっきりしたらおなか空いちゃったよ。水くんでくるね！弟達、二人ともお留守番よろしくー」 弟二人・・・・・って僕も弟なのか？せめて兄さんってことには・・・・・・ ヒエンに負けず劣らず情けない顔になった僕の耳にヒエンは囁いた。 「今はこのままでいようよ。・・・・・・ナナミが気づいてくれるまで、僕も待つから。」 やれやれ、それはいつのことになるやら。僕としては辛抱しきれなくなってヒエンがナナミを押し倒しでもしない限りは進展しないと思うけど・・・・・・・押し倒しても無理かもしれない。絶対にナナミは新しい技の練習だと勘違いするぞ。 「ジョウイが僕の兄弟なら・・・・・・ジルさんやピリカちゃんも家族だね。」 ああ、といって僕は朝焼けの空を見る。 遠いところに居る大切な人。 離れていても心の距離は直ぐ近く、と思ってはいるけれど・・・・・・ 今はまだ会えない。会えないのがもどかしい。 ひとまずは、今、僕の近くに居る二人の家族と共に歩もう。 平和になった大地に立ち、僕は幼馴染と肩を組みながら、水をくんで戻ってくるナナミに向かって手を振った。 |
| はい・・・・・幻想水滸伝２です。ひっそりひそやかサイトアップですので、いつになったら気づかれるのか時限爆弾のようなものですね。（どきどき）（←実はこの文は初め、管理人プロフィールのページからだけ飛べるようになっていてしっかりとした更新情報も載せていなかったものなのでした) お話をしらない方の為に簡単に説明しますと、この三人は幼馴染で、ヒエン（ゲーム中では主人公）とナナミはゲンカクさんという嘗ての英雄に育てられた孤児で拳法の使い手です。実際の年齢はわかりませんが、ナナミが一方的に「私がお姉ちゃんよ！」と宣言しています。ジョウイは町の有力者の息子でしたが、出生に暗い部分があり、母以外の家族から疎まれて育ちました。・・・・彼らが大きくなったとき、戦が起こり、ヒエンとジョウイはひょんなことから“真の紋章”を手に宿すことになり、歴史の嵐に翻弄されていきます。ヒエンは反乱軍の名主に祭り上げられ、ジョウイは彼の信ずる手段で戦いを終わらせるため、ヒエンの敵の一員となり争いあいます。ジルとはそのときにジョウイと結婚した皇女様の名前。ピリカちゃんは、まだヒエンと袂を分かつ前にジョウイが助けた小さな女の子の名です。 結局戦はヒエンたちが勝利しますが、ジョウイは昔「必ず戻ってくる」と約束を交わした地でヒエンを待ち、武器を構えて雌雄を決しようとします。皇女と結婚し、強大な力を持つ紋章を宿した自分を放っておいては新たな火種を残す。そして二つの紋章は一つに合わさってこそ真の力を持つ・・・・と。しかしヒエンはジョウイと戦うことができず、倒れた彼を介抱します。そして・・・火種となるとばかり思われていた紋章の力の力が二人を救い、戦いの中で命を落としたと思われていたナナミが二人を故郷で出迎えます。自分がいてはヒエンの足手まといになる、と思ったナナミは軍医に懇願して自分が死んだことにしてほしいと言い残して姿をくらましていたのでした。 新しい国の王になって欲しいという周囲の願いを振り切りヒエンはジョウイとナナミと共に旅に出ます。・・・・・・というのがほんとうにかいつまんだあらすじです。 管理人は「つっぱりしだしたらとまらない爆走暴走、だけど強くて優しい一本抜けたお姉ちゃん」のナナミが大好きです。お姉ちゃんが自慢する弟のヒエン君にも愛情を注ぎ、気づけば・・・・・「二人で幸せになってほしいなあ・・・・」と。 いろいろありましたが、ジョウイも好きです。なんといってもお姉ちゃんの信頼する幼馴染ですから。 つまりはお姉ちゃんが幸せならよいのです。 と、いうことで、ひとまず完結。 どなたかが何か言ってくださるというようなことがない限り、このコンテンツは増えませんのでご承知おきのほどを・・・・ 書くとしても妙なものになりそうです。お姉ちゃんｖｓ炎の魔術師ザムザ先生とかお姉ちゃんとハイ・ヨーさんのある意味無謀な決戦とか、青さんと赤さんとお姉ちゃんの全然かみ合わない会話から始まる悲劇とか。青雷さんがお姉ちゃんに振り回されてクマさんが大笑いする話とか・・・・（すみません。ゲームやっていない方にはわからないですよね。） おいおい、ヒエン君の幸せはどうでもいいのか・・・・・・ |