私はアイゼル ワイマール |
私の名はアイゼルワイマール。ザールブルグでワイマール家を知らない者はもぐりですわ。 え？知らないですって？ ・・・・・あなた、もぐりなんですわね？ マイスタークラスを終え、一流の錬金術師としても引く手あまただった私ですけれど、少し前までは旅をしていましたのよ。ヴィオラートという元気な女の子の住む村に滞在し・・・・・・ いいえ、もう村ではありませんわ。私の手助けもあってあそこは立派な町へと発展したのですわ。 そして、今、ザールブルグへと戻り、私は少々訳あって、この小さな工房でアイテムつくりの手伝いをしておりますのよ。 エリーのアトリエ・・・・・・・・この看板を知らない者ももぐりですわよ。え？知らないですって？ ・・・・あなた完全にもぐりですわね？ 今、私は近くの森に調合のためのアイテム採集に出かけてきたところですの。さあ、中に入りますことよ。 「アイゼル！お帰り〜！」 ああ、もう、子供みたいにたったったと駆け寄ってきて・・・・・ 「エリー、私が帰ってきたくらいで走るんじゃありませんわ！」 ま、おとなしく家で待っていたのは評価しますけど。この子ってば目を離すとモンスターがうようよいる場所にまで平気でアイテム採集に出てしまうんですから。 ・・・・・・・・・！ な、なんですの。作業台の上のコレ、この白い粉末は・・・・・・ 「エリー・・・・・・・・ここで何をやっていましたの？」 「え？べ、別に何もやっていないよ？」 「嘘をおっしゃい！これが研磨剤でなくて何だといいますの？正直におっしゃい。」 「え・・・・・・だから何も・・・・・」 「コメート原石を磨いていましたわね!?あれほどやるなと言いましたのに！」 「ごめん・・・・・・だって、コメートはいいお金になるし・・・・・・・・来週アイゼルの誕生日なのに今、お金に余裕なくて・・・・・・」 ああ、もうこの子ってば・・・・・・・・・・・ 「駄目といったら駄目ですわよ！それに・・・・・・・・・ 工房内を見渡せばそこかしこに見慣れたものの切れ端が…これは、この材料は… 「またフラムの製作を引き受けましたのね！」 「だって・・・・・・爆薬はあたしの大得意だし・・・」 「得意でも何でも駄目なものは駄目！危険なものは駄目！作っていいのは蒸留水とお菓子の類だけだと言いましたわ。そうじゃなくって？爆薬なみに得意なチーズケーキでも作っていらっしゃい！」 「うう・・・・・・・・でも・・・・・・・・・シャリオミルクの匂いって今はちょっと・・・・・・」 「・・・・・・・・・・だったら蒸留水だけですわッ！」 「でも、引き受けちゃった依頼が・・・・・・・・クラフトとかメガクラフトとかフラムとか・・・」 「そんなことは私にお任せなさいな！私も伊達にマイスタークラスを出ているわけではないんですのよ！フラムの１つや２つ」 「フォートフラムとかメガフラムとか・・・・・・」 「ちょろいものですわ！」 「ギガフラムとかテラフラムとかLｖ7うにとか・・・・・」 「…………」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・な、なんでエリーは爆薬系の依頼をこうも受け付けるんでしょう。第一依頼する方も依頼する方ですわ。騎士団が魔物討伐の旅にでも出るか、山の一つも吹き飛ばそうとしているか………… 「とにかくお任せなさい。私とて、経験は少なくとも爆薬も一通りは作れることよ。」 「あ、依頼主の注文で、品質は極端に落としてもいいから効力は最大級で・・・・・・って。」 そんな無茶苦茶危険な依頼、どうして引き受けたりしますのよ、この娘！ 「ご、ごめん。でも頼まれると嫌って言えなくって。」 わかっていますけどね。あなたのそんな性格は。 「でも・・・・・・アイゼル、毎日手伝ってくれて・・・・・大丈夫？アイゼル迷惑なんじゃないの？毎日アイゼルの優しさに甘えちゃってて、わたし、駄目な子だよね。」 ・・・・・・ 「な、何もあなたが気になってここに来ているんじゃないんですのよ。あなたにもしものことがあったらノルディスが悲しむじゃないですの。・・・・・・・・」 エリーは益々不思議そうに首を傾げる。 「でも、アイゼル・・・・・・・」 ドアを開ける音が聞こえましたわ。ほら、帰って来た。アカデミーの講師をしつつ、昼休みには走ってここまでやってくる優しいノルディスが。 「エリー、変わりはないかい。」 「あ、ノルディス。特になにもないよ。アイゼルがまた手伝いに来てくれてて・・・・・・」 ノルディスが私に笑いかける。ああ、もう、そんな風に優しく笑うから、そしてエリーもあなたと同じ様に笑うから・・・・・・ 「有難うアイゼル。いつも済まないね。」 私、腕を組んできっぱりと言ってやりますわ。 「だって私が来なかったら、エリーは力を入れなきゃいけないコメート磨きや、危険な爆薬つくりに精を出してしまいますもの・・・・・お腹に子供がいるというのに・・・・・」 エリーは小さく舌を出し、ノルディスはこつん、と拳骨で軽くエリーの額を叩く。 「エリー！自分ひとりの体じゃないってことわかってるのかい？・・・・そんなことじゃ、僕は安心してアカデミーに行けないよ？休暇を取ってずっと家に居ようか？」 「そ、そんなこと！御免ね・・・・・・」 「いいよ、わかってくれたら。」 ああ、まったく、二人の世界に入ってしまいましたわね。……と思っていたら二人揃ってこっちを向いて。全く、この人たちときたら！ 「・・・・・・さて、私はもう少しここで調合を続けますわ。あなたたちはお昼を召し上がって下さいな。ノルディス、ここで食べなかったら午後の実習授業は乗り切れませんことよ！エリーなみに手のかかる学生がうようよといるのですから！」 台所の方に行く二人を見送り、私は腕まくりをする。仲睦まじくしている二人を見ると、まだ胸は痛むのだけど・・・・・だって仕方がないのではなくて？私にとってエリーもノルディスも大切な友人なんですのよ？いくら私がノルディスのことを好きだったとしても、エリーも彼のことを好きだったんですもの。 ・・・・・・もし、私が彼のことを譲ってくれといったなら、エリーは笑ってこう言ったでしょう。 『譲るも譲らないもないよ？私とノルディスは只の友達だもん。私、アイゼルのこと、応援する。』 でもね、私はわかってしまいますのよ。だってエリー、あなたは隠すのが下手なんですもの。無理して笑って、でも顔に寂しさがにじみ出て・・・・・・・・私はそんなの嫌なんですわ。あなたが心から笑っていなくては気詰まりなんですのよ。そして、何より、ノルディスが友人としてだけではなく心から好いていたのは私ではなくてあなただったのですもの。 ・・・・・・・・・私？私なら大丈夫ですわ。 どんなに悲しくてもどんなに寂しくても、私は顔に出したりしませんわ・・・・・・・今だってわからないでしょう？ワイマール家の人間はいつでも、どんなときでも毅然としていられるのですわ。良家の子女はエリーみたいな田舎娘とは違うんですのよ。 でも見せ付けられるのはちょっとばかり口惜しいですわね。何か見返りが欲しいところですわ。 そうですわ。まだ少し先のことですけれど、これから生まれてくる子供の名付け親をすることにしましょう。感謝して貰わなくては。ワイマール家の人間が名付け親だなんて、それは誇れることですのよ！ 男の子かしら女の子かしら。 ………… 何？私の顔に何かついていますの？・・・え？私の顔が寂しそうですって？ さっきも言いましたことよ。そんなことはあるはずないじゃありませんか。 私はアイゼル ワイマール。 ワイマール家の人間が人前で寂し気な顔をすることなんて断じてあり得ませんのよ。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ それから暫くしてフラムの依頼主がアトリエを訪れた。 「何ですか、依頼主というのはダグラスでしたの？全く何も考えていらっしゃいませんのね。まだ期日にはなっておりませんわよ。この通り調合中ですわ。」 「あ？何だ？俺が何か悪いことをしたのか？俺は依頼をしただけ……」 「・・・・・・・妊婦に爆薬を依頼するというのは非常識なのではありませんこと？」 青い鎧を纏った騎士はぽりぽりと頭を掻いた。 「そっか。毎日お嬢がここに来るっていってもエリーの奴が調合することもあるんだもんな。じゃ、何を注文すればいいんだ？」 「何を・・・・って。あなた、あなたが聞いてどうしますの!?必要なものがあるから依頼に来るのじゃなくって!?あなた私たち錬金術師を馬鹿にしていますの？……あなたがエリーのことを好いていたというのは知っていますわ。でも、エリーはもうノルディスと結婚したのですから、あまり構わないでいただけないかしら？」 ダグラスはぽりぽりと頭を掻きつつあさっての方を向いたままこう言った。 「そうじゃなくてだな・・・・・・・・俺はお嬢に会いに来てるだけだから・・・・・・・・」 アイゼル ワイマール・・・・・・・・・いつも冷静で毅然としているはずの彼女が、手にしていた調合中の“品質は極限まで落としているが効力最大級のフラム”を取り落とし・・・・・・・・ダグラスがアイゼルを庇い、しかしフラムは爆発してしまい・・・・・・ ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 私はアイゼル ワイマール。 断じてこのがさつな男に心惹かれているわけではありませんのよ。ただ・・・・・ ………… ･･････そうですわ！ 儀礼、儀礼ですわ。私を庇ってくれたお礼をしているのですわ。ワイマール家の人間は礼の心をどんな場合にも誰に対しても忘れないものですのよ。え？それにしては気合のはいった最高品質のアルテナの傷薬だ・・・・・ですって？・・・・・・当たり前ではありませんこと？・ワイマール家の人間が最高品質のものを使わなくて誰が使うというんですの？見くびらないで頂戴な。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「お嬢・・・・・・・俺が勝手に庇ったんだ。あんたはそれを重荷に思わなくていいんだぜ。毎日見舞いに来てくれなくても・・・・・」 ベッドの上からダグラスが言った時、アイゼルは鼻の上にちょっと皺をよせ・・・・・・・・ 「貴方ときたら何もわかっていない真性のバカですわね！」 と言って彼の額にキスをした。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 私はアイゼル ワイマール。 いいえ・・・・・・少し前から、アイゼル マクレインですの。 だって、仕方がありませんでしょう・・・・・・お話の終わりはいつもハッピーエンドでなくてはいけないのではなくて？・・・・・・・ワイマール家の者がそんな簡単なことを理解していないとお思いかしら。……ね、あなた。 |
| 随分前に書いたものでいろいろお世話になっているマイスター様に読んでいただいたのが初出でした。今回はそれに手を入れてあります。特に内容はありませんが、ほのぼの目指して……。アイゼルは最初どうしても仲良くなれなくて印象が悪かったのですが、何度もプレイしているうちに「可愛いツンデレさん」として好きになってきたキャラクターです。が、やり方が悪いのかもしれませんが、ノルディスとアイゼルの二人ともに仲良くなることはできませんでした。いつも三角関係のようになってしまって…「錬金術師同期トリオエンド」があったらよかったのになあ。 ちなみに、この話のエリーと同じく、私は爆薬系はそれなりに極めましたが、究極のチーズケーキは作ることができませんでした。……いろいろやることが多くて難しくかつ遣り甲斐のあるゲームでした… |