　　　　　　　桃色のお砂糖

「え、今何と言ったんだ？」

　不機嫌そうなマリオの視線の先にはにこにこと笑っているカイユンがいた。

　「だから、あと一週間でお誕生日なんです。キャプテンの。」
　
　「それで・・・・？」
　
　「それで・・・・？って、お誕生会をしましょう！」
　
　夜間ワッチでナビゲーター席に着いていた爆破屋はずりっと椅子からずり落ちそうになった。
カイユンの横にいたロマノフは笑い、その逆隣りにいたソーンダイクは黙って立っている。

　「誕生会だとぉ！」

　カイユンとロマノフとソーンダイクが同時にしいっと唇に手を当てる。キャビンで眠っているジョーに知られたくはない。

　「マリオさん、嫌なんですか？」

　「嫌というかだなぁ、それぞれ生まれた惑星での一年ってやつと宇宙連邦標準時ってやつはずれているだろう。誕生日なんてのはそんなもんだ。便宜的に決めてあるだけで、絶対的なものじゃない。」

　珍しくソーンダイクが口を開いた。

　「リマン星公転周期、自転周期は共に宇宙連邦標準時の基準ですからずれは発生しません。」

　カイユンが首を傾げる。

　「マリオさんは誕生会ってやったことないんですか？」

　マリオはがしゃがしゃと癖のある黒い髪をかき回した。

　「あのなあ、俺は人工的に生産された人間だぞ。培養槽から切り離された日ってのが誕生日なんだろうが、それについて何か感慨を持てっていうのか？」

　カイユンが泣きそうになり、ロマノフが剣呑な目をマリオに向ける。
　ソーンダイクは黙って立っていたが・・・・・

　「・・・・・判ったッ！・・・・・パーティーをやるんだな。ま、俺もうまいもんが食えるのは嬉しいからな。どんどんやってくれ。あいつには内緒にしといてくれってんだろ？わかったぜ。」

　カイユンはにこっと笑った。

　「お料理の準備は僕に任せて下さい。皆さんはお部屋の飾りつけを手伝って下さいね。あ、あと、もちろんプレゼントを一つずつ！」

　またマリオがずり落ちそうになった。

　「プレゼントだとぉ！」

　また、しいっ！と三人が唇に指をあてる。

　「他の人と重なりそうなもののときは相談して下さいね。えと・・・お花はどうしましょう。」

　マリオはタメイキをつき、もうどうとでもなれと思っていた。彼の２５年間の人生の中で、まっとうな誕生会というものは実は初体験である。あんまりにもな裏道を歩いてきた彼には、ごく普通のパーティーというのを考えるだけで頭がぐらぐらとして来そうだった。

　「どんなお花がいいかなあ。」

　マリオはにやり、と笑った。

　「真紅のカーネーションってのはどうだ？」

　「カーネーションですか？綺麗ですけど。」

　「因みに花言葉は“欲望”だ。」

　ロマノフがごほん、と咳払いする。

　「駄目ですよぉ、そんなの。」

　「そうか？それじゃバラはどうだ？ブライアローズなんてのは？」

　いつの間にか椅子に座っていたソーンダイクの指がコンソールを弾き、データベースから情報を引き出した。

　「・・・・花言葉・・・・“快楽と苦痛”。」

　無表情ながら、ソーンダイクの頬が赤くなる。

　「チューベローズはどうだ。」

　「・・・・“危険な関係”・・・・」

　「シャコバサボテンは？」

　「・・・・“つむじまがり”・・・・」

　「カラスウリもぴったりだが」

　「・・・・“男嫌い”・・・・」

　「トリカブトもなかなか」

　「・・・・“人間嫌い”・・・」

　「ドクニンジンってのも」

　「・・・・“あなたは私の命取り”・・・・」

　そこでロマノフが、マリオの頭のてっぺんを殴った。ごッ！と鈍い音がした。

　「花は私が見繕って来よう。カイユン、ソーンダイク、それでいいかね。」

　・・・・どうやらこの温和なスナイパーもマリオに了解を取るつもりはないらしい。二人が頷くと、彼は頭を押さえているマリオに向き直った。

　「わかっているだろうが、あの子に投げ飛ばされるような変な贈り物をしないようにな。」

　マリオはわかっているわかっている、といいながら手をひらひらと振った。
　カイユンは“何にしようかな”と言ってはしゃいでおり、ソーンダイクはいつもどおり黙って立っている。

　（あの二人も心配といえば心配なのだが・・・・・）

　コスモ・アーミー所属シークレットチームドロップアウト内で唯一常識人の感覚を持つ宇宙連邦随一のスナイパーは深く深くため息をつくのだった。

　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊
　
　「何を見ているんだね？」
　
　三日後、ジョーが外に出ているときにソーンダイクの後ろから、彼が見つめているディスプレイに映っている内容を見たロマノフはのけぞった。

　　“誕生日の贈り物・・・彼女を蕩かす10のアイテム・・・・そして、今夜は二人だけ。”

　　適当に検索をかけてとんでもない内容がひっかかったらしい。

　　「ソーンダイク。これはその・・・・少し違う。・・・・これは恋人におくるような（更に言えば少し怪しい系の）プレゼントだ。」

　　ソーンダイクは首を捻る。彼も誕生会など初めてらしく、何を贈ったらよいのか皆目見当がつかないらしい。

　　「・・・・そうだな。自分が貰って嬉しいものを考えるといいかもしれない。」

　　情報技術者の指がコンソールを叩き、新しい画面と入れ替わった。

　　「PN-ｓ299α？・・・・」

　　パソコン用最新CPUの情報ページだった。
　　ロマノフは天を仰ぐ。

　　「・・・・・前言撤回する。君が欲しいものはジョーが欲しいものと少し違うようだ。・・・・そうだね・・・・彼女が日常に使っているもので考えてみたまえ。・・・・どうしても考えつかなかったら私が相談にのるよ。」

　　ソーンダイクはゆっくりと頷いた。
　

　　（・・・・一応アドバイスはした。）
　
　　軽い疲れを覚えながらロマノフはカイユンとマリオの部屋を覗き込む。爆破屋にはもう一度釘を刺しておいたほうがよいだろう。

　　「入るよ。」

　　「はぁい、開いてます。」

　　中ではカイユンが大きな鋏で画用紙を切っているところだった。

　　「？それは？」

　　覗きこまれてカイユンはすばやく紙を後ろに隠した。

　　「何、ってプレゼントです。駄目です。まだ内緒♪」

　　ニコニコと笑うカイユンは、贈るものについての迷いはないらしい。
　　だが・・・・
　　画用紙を使って何をつくろうというのだろう。

　　「あ・・・・もしかして、ロマノフさんも似たようなこと考えてます？」

　　「・・・・・いや、そういうことはない・・・・と思う・・・・」

　　今度23歳になる女性に贈るもので画用紙製？

　　「も一つプレゼントを考えているんですけれど、こういうのも必要かなって思って。ロマノフさん、お暇ですか？折り紙買ってあるんですが、よかったら輪飾り作っていただけませんか？」

　
　　（おそらく、害になるものではないだろう・・・・）
　
　　少し不安を感じながら、渡された折り紙を手に部屋を出たロマノフはマリオが居るという工作室へと向かった。
　　マリオはロマノフの用件をわかっているらしく、にやにや笑いながら言った。

　　「俺の場合抜かりはない。あいつがよく使うものをもう買った。実用性は高い。嵩張らず値段も手ごろだ。」

　　言っている内容はともかくこの男の表情を見てとんでもないものを買ったのだろうという確信がスナイパーに生まれた。

　　「・・・・・ジョーが殴らなくても私が殴るが？」

　　「怖い顔をするな。パーティーってのは余興だ。楽しまなくてはな。それに、女にプレゼントをした回数では、俺はあんたよりずっと上を行っているはずだぜ。ま、任せろ。
　

　　（警告はした。）
　
　スナイパーは頭の芯が痛くなってくるのを感じたが、肝心なことを思い出して嘆息した。
　（・・・・私は何を贈ったらよいだろうか・・・・・）
　妻に贈ったようなアクセサリーやインテリアの類で彼女が喜ぶとは思えない・・・・・
　もともと彼は女性にプレゼントをすることが得意な人間ではない。
　（ひとまずは町に出てみるか・・・・）
　キャビンと工作室をもう一度見、彼は外出の支度を始めた。
　
　スナイパーが外出し、しばらくしてアレックス中尉から通信が入った。手に作りかけの輪飾りを持ったままのカイユンが出て応対する。

　　「・・・・・それは何なんだろう。」

　カイユンははしゃいで鋏を振り回す。

　　「もうすぐキャプテンのお誕生日なので飾りを作っているんです！あ、アレックスさんもパーティーにいらっしゃいませんか？」

　　そのあといろいろと言葉を尽くして誘われた中尉だったが、首を振った。

　　「残念だが行けない。私は監視者なんだよ。」

　　しょげるカイユンに中尉は微笑んだ。

　　「そうだね。プレゼントだけは送らせてもらおうかな・・・・君は何を贈るの？」

　　少年は嬉しげに自分が贈るつもりのものを告げた。
　
　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　一週間というものは結構速くたってしまうものである。

　「な、何よ、この仰々しいのは・・・・・」

　輪飾りとモールで飾り付けられた部屋に迎えられたジョーはまさにあっけに取られた表情をしていた。
　カイユンがにこにこして言う。

　「今日はキャプテンのお誕生日でしょ！だからお誕生会です！」　

　ロマノフが花束を差し出す。スイートピーにガ－ベラ、スミレにカスミソウ・・・・・可愛らしい感じのブーケだ。
　テーブルにはクリームシチューにローストチキン、マカロニサラダにシューマイ・・・・・
過去にカイユンが作って好評だった料理がところせましと並べられている。

　「あたしの・・・・誕生日・・・・・・・・？あ、すっかり忘れてた・・・・」

　ポーッとして胸のところでブーケを持ったまま呟く。
　ロマノフがカイユンの後ろに立って両肩に手を置く。

　「企画はカイユンだよ。準備も彼がほとんど一人でやった。」

　くすぐったそうに笑うカイユンは照れたのか、ケーキを持ってきますといってキッチンへ消えた。

　「・・・・・朝からキッチンが騒がしいと思ってたけど・・・・この準備だったの。」

　くすっと笑ってジョーがロマノフに目をやるとスナイパーは頷いた。

　「朝三時に起きて、スポンジケーキを焼いていたよ。内緒にしなけりゃいけないって。君の妹のアンナさんの言うとおりにしたらスポンジがしぼまずにすんだと、とても喜んでいた。」

　「・・・・ソーンダイクが今日に限って一緒にコンピュータの点検をやってくれっていってきたのも怪しいといえば怪しかったわね。」

　　ソーンダイクは無言で咳払いした。

　　「・・・・・キッチンに入ろうとしたあたしに向かって暴言吐いて投げられたのも故意？」

　　マリオは“そんなわけないだろうが、”というようにそっぽを向いた。

　　「さ、お嬢さん、席について・・・・」

　　ロマノフに椅子を引かれてジョーは素直に座った。

　　「はい、お待ちどうさま！」

　　大きなケーキをカイユンはテーブルに置いた。クリームがたっぷり塗ってあり、苺が飾られ、チョコスプレーが薄くかけてある。そして・・・・真ん中から放射状に桃色の砂糖で書かれた名前に気づいて一同はカイユンの顔を見た。そこには“キャプテン”という字のほかに“ロマノフさん”“ソーンダイクさん”“マリオさん”と四人の名前があった。

　「あ、皆さんのお誕生日、過ぎちゃったからせめてケーキには・・・・って思って。キャプテン、ロマノフさん、ソーンダイクさん、マリオさん・・・・皆さん今まで出来なかった分まとめてお誕生日おめでとうございます！」

　素早くシャンパンを注ぐ。そしてマリオの前にはクラッキングダイナマイトのビンをトンッと音をさせて置く。

　「・・・・・おい、俺にまで気を使うな。俺の誕生なんて祝う必要ない。」

　カイユンは、下を向いた。

　「だって、僕は皆さんに生まれてもらって嬉しいんですもの。マリオさんが生まれなかったら僕、マリオさんと会えなかったもの。僕、お祝いしたいんです！」　

　大きな声だった。マリオは、酒瓶の蓋を開けながら大笑いした。

　　「お前は幸せな奴だ。」

　　「・・・・・というよりは・・・・」

　　爆破屋の言葉をジョーがひきとった。

　　「カイユンは見ているとこっちが幸せになるような子よ・・・・」

　　　２３本のロウソクを立て、部屋を少し暗くする。

　　「さあ、願い事をして、一気に吹き消して・・・・」

　スナイパーに言われ、“子供みたいだわ”と笑いながら、ジョーはすべてのロウソクを一息に吹き消した。
　パチパチとマリオを除く三人が拍手する（爆破屋はすでに酒瓶に口をつけていた・・・・・）
　乾杯、と声が上がってシャンパンとジュースの入ったグラスと、クラッキングダイナマイトのビンがカチャンと打ち合わされた。
ケーキが５等分に切り分けられ、桃色の砂糖で書かれた自分の名前の部分が各人に配られる。名前のないカイユンのケーキにはさり気なくロマノフがイチゴを一つ余計に載せる。
　食べて、飲んで、よく笑った。ひねくれものの爆破屋でさえ、料理と酒で和んだのか、終始笑顔を見せていた。彼がその場で即席に作ったクラッカーは少々威力が大きすぎたが・・・・（壁が凹んだ・・・・）

　「さあ、そろそろプレゼントの時間かな。」

　ロマノフが小さな包みをジョーに差し出した。

　「え？・・・・・」

　他の３人は注視している。
　品の良い包装紙を開けて出てきた箱を開けると、深い青い色をした髪留めが出てきた。目を近づけてよく見ると小さな花の彫刻があるが、遠目には全くわからない。

　「作業をするとき、紐で髪をしばっているだろう。こういう方が素早くしっかりと留まって邪魔にならない。」

　「ありがとう・・・・ロマノフ。」

　この人はよくわかってくれている・・・・この人の前では余計な心配をしなくていい。それが嬉しくてジョーはにっこりと笑った。
　その横からソーンダイクが大きめの箱を差し出した。
　・・・・・思いっきりダンボール箱なのだが・・・・・カイユンにでも言われたのだろうか。蓋に赤いリボンが申し訳のように貼り付けられている。
　蓋を開けると・・・・・・

　「？」

　まず、洗顔タオルが出てきた。

　「？？」

　タオルを外に出すと、その下には歯ブラシと歯磨きペーストが入っていた。

　「！」

　パターンが判明したジョーは一つずつ品物を並べていった。靴下、ハンカチ、ティッシュ、ヘアブラシ、爪きり、ペン、スプーン・・・・・
　“日常生活グッズ”というかなんか・・・・
　ロマノフのアドバイスに従い、彼はジョーが日常使っているものを思い出してプレゼントしたのだった。
　いや、悪くはない。選んだものは非常に機能的であったし、それになにより、ジョーが確実に使用するものだ。
　最後に出てきた安眠用のアイマスクを手にし、しばらくジョーは何事か考えていたが、ロマノフのときと同じようににっこりと笑った。

　「ありがとう、ソーンダイク。大切に使うね。」

　内心ジョーが“なんとかしてあげなきゃ”と危機感を持っていたことは微笑まれて幸せな気分になっているコンピュータ技術者は知らない・・・・・

　「んじゃ、俺の番かな？ほれ、」

　小さな洒落た柄の紙袋を放る。ジョーが袋を開けると白いレースが口からはみ出た。

　「あ？僕のと同じかなぁ？」

　カイユンの言葉にぎょっとしながらジョーは爆破屋を睨む。
　マリオは怯まない。

　「必需品だろうが？それに結構イイ品物だぜ！中に黒い奴も入っているから、状況に応じて使い分けろ。心配するな。俺は外から見ただけでサイズは百発百中・・・・」

　思わずタグを見て、まさにサイズがぴったりだったのに唖然としながらもジョーは彼を壁に叩きつけようと左手を爆破屋の腕に伸ばしていた。
　マリオは素早く逃げ、何か四角い箱を彼女に投げた。反射的に受け取る。
　ずっしりと重い。

　「・・・・何よ・・・・」

　「見てわからないか。」

　「わかるけれど・・・・・・」

　それは工具セットだった。しかし何故？使い込んだセットをもうもっているのに・・・・蓋をあけ、一つの工具を手にとってみてジョーははっとして爆破屋の顔をまじまじとみた。彼はにやにや笑っていたけれど、その表情の下には真面目な顔が見え隠れしている。・・・・宇宙船整備用の工具は大人の男用に作られている。・・・・しかし、今、彼女の手の中にある工具は、ぴったりと彼女の手の大きさに合っていた。・・・・・・特別に作ったのだろう、彼が自分の手で・・・・・

　「予備だからな。今のが壊れたら使えよ・・・・・」

　「うん・・・・・」

　妙に静かになったジョーとマリオを見比べながら、カイユンはとことこと一度部屋から出て大きな箱と小さな袋を持って戻ってきた。

　「えっと・・・・喜んでもらえるかわからないけれど、前から絶対似合うって思ってたんです。それに、改装セールでとっても安かったんです！そうじゃなけりゃ、僕、買えませんでした。」

　厭～な予感がジョーを捕らえた。あの箱についているマークには見覚えがある。
　おそらく、多分、絶対・・・・・・ゆっくりと蓋をあけると・・・

　・・・・・やっぱり・・・・・・

　箱からは小花模様がプリントされた木綿地の可愛らしいワンピースが出てきた。

　「あのねッ！カイユンッ！」

　何をどう言おうか迷いながらひとまずジョーは叫んでみた。悪気はない。カイユンに悪気はないのだ。一生懸命考えたのだ。

　「サイズのことなら大丈夫ですよ。初め、お店のお姉さんたちに、身長だけで他のサイズがわからないのだったらプレゼントにするのは危険だっていわれちゃったんです。だけど、お店の人に協力してもらってなんとかなりました。」

　「協力？」

　「はいｖ前にキャプテンがミラに潜入したときにドレスを着ましたよね。あれがアケルナルに送られてきたとき、マリオさんが無理に僕に着せましたよね。あのときの胴回りの緩み具合、覚えてましたから。」

　「・・・・・・どういうこと・・・・・」

　「だから、ちょっと着せて貰って・・・・・」

　・・・・・・・可愛い系ワンピースの頂点に立つブランド店でこの少年は自分で試着をしたらしい・・・

　「お店の人も、次から次へ持ってきてくださって・・・・本当に親切なお姉さんたちでした。」

　何着も着るのが必要なことだったとは思われない。・・・・・・着せ替え人形にされたに相違ない。・・・・・ちょっとだけ店員の気持ちもわかる。前にマリオが女装させたとき、そんじょそこいらの少女より、いや、かなりの美少女よりこの少年は可愛らしかったのだから。

　「胸周りの方は、ほら、僕が前に間違えてキャプテンの下着を洗濯しちゃったことがあったでしょう？あのときの記号を不思議だなって思って覚えてて、お姉さんたちに胸のほうは“下着のサイズだったら○○の○です！”ってはっきり説明できました。お姉さん達、貴方がプレゼントをする相手の人ってスタイルがとってもいいのね、って褒めてくれました。褒められて僕も嬉しかったです。」

　ジョーはテーブルに額をつけた。
　悪気はない、悪気はないのだ。

　「え？キャプテン、どうしました。」

　「いや、ありがとう。大変だったのね。」

　カイユンは胸をはった。

　「全然！キャプテンのためですもの！あ・・・・でも、マリオさんともう一つのは重なっちゃったかな・・・・・リボンなんですけど・・・」

　マリオが笑う。

　「大丈夫だ。被ってないぞ。」

　それを聞き、笑顔になったカイユンは袋を差し出した。

　「はい！リボンです。あ、でもそれ、アレックスさんからってことで。色と模様を指定してくれたのアレックスさんなんです。とっても似合っていたから、って。」

　ジョーはリボンをひっぱりだした。チクリと胸が痛んだ。
　そのリボンは、家出した彼女がしていたリボンにそっくりなベージュ色の花柄レースのリボンだった。アレックスに初めて出会ったときにヘアバンドにしていたリボン・・・・・消せるものなら消してしまいたいあの地獄のような日々に髪を飾っていたもの・・・・・・
アレックスにとってはよい思い出の象徴なのだろう。しかし、ジョーにとっては・・・・・
　（・・・・・・・・こんなことでびくっとしていちゃ情けないわね・・・・）
　自嘲気味に彼女は笑った。そのひじをちょいちょいとカイユンがつつく。

　「？」

　「あの・・・・これ、オマケです。」

　彼女の視線の先には長方形に小さく切った画用紙に穴を開け、赤いリボン・・・・ソーンダイクのダンボール箱を飾っていたのと同じものだ・・・・を通して結んだものがあった。画用紙には“なんでもやります”と印字してある。

　「何か特別にやってほしいことがあるときに使って下さい。10枚あります。使用期限はありませんから。家事とか普通の仕事じゃなくて特別なことのときにお願いしますね。・・・・・僕に絶対無理なことは駄目ですけど、ほかの事はがんばってやりますから。」

　ジョーは柔らかく笑った。こんなプレゼントを貰う事があるなんて、五人が出会う前には考えたこともなかった。

　「カイユン・・・・・とっても嬉しい！・・・・・ね、もう一回乾杯しましょう？ね？」

　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　それから少しして、カイユンが突然ばたん、と床に倒れた。

　ロマノフが抱き起こすと赤い顔をして激しく息をしている。三人は一斉にマリオを見た。

　「何だ？ほんのスプーン一杯ジュースに混ぜただけだぞ？」

　ジョーはマリオの腕を左手でひっつかみ、本気で締め上げた。

　「カイユンはアルコール耐性が無いに等しいんだから！絶対に悪戯したら駄目よ！」

　ロマノフがカイユンにアルデヒド分解薬を飲ませ、冷たい水に浸したタオルで顔を冷やしているうちにカイユンはぼんやりと目を開けた。

　目を擦る彼の前でジョーもロマノフもソーンダイクも心配そうに顔を覗き込んでいた。マリオは、面倒臭そうに部屋までカイユンを抱いていった。
　彼の腕の中でまだ半分酔っているカイユンはとても心地よさそうだった。

　さて、次の朝、カイユンは昨晩のことを思い出し、急いで飛び起きた。
　後片付けをするのは自分の役目だと思っていたからである。
　ところが、綺麗にテーブルの上もキッチンの上も片付けられていた。

　冷蔵庫の中を覗くと、彼が食べかけのまま残していたケーキにラップがかけておいてあった。

　そして、

　”カイユン”

　と、桃色のお砂糖で書いてあった。

Ａｋｉさんの2000ＨＩＴキリリク。ジョセフィーヌさんのお誕生日にみんながプレゼントを持って集まる話、です。
ロマノフさん、さすが常識人です。（他が非常識すぎるのか）
ソーンダイクは少し可哀相でしょうか。
そしてなんだか今回は爆破屋が得をしているかも。
カイユンは・・・Ａｋｉさん！お酒飲ませましたよ！ワンピースも着せましたよ！中尉も出しましたよ！
（ぜいぜいぜい・・・・・サービス、サービス）

元ネタはお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、クマのプーさんです。

誰が桃色のお砂糖で名前を書いたのか、とか、
マリオに贈られたもののうち、どうしようもない方はどうするのか、とか、
ワンピースとリボンはどうなるのか、とか、
「何でもやります券」の使用用途は、とか

管理人にもわからないことだらけで（何を言ってるか）
どなたか考えて下さいませんでしょうか（滝汗）・・・・