荒地に落ちた球根
（ドラゴンクエスト４オリジナルキャラクター ちびモグラ）
ちびモグラは悩んでいた。お気楽極楽の毎日を送っている彼にしては珍しく、ぐるぐると同じところを何度も歩いてみたり、こともあろうに大好物のアップルパイの欠片が床に落ちたのに気がつかなかったり、霜柱の上をぐんぐん歩いてしもやけをつくったり、自分が掘った落とし穴に落ちてみたり・・・・・・・ とにかくちびモグラは悩んでいた。彼は彼のありったけの脳みそを使ってあることを考えていたのだが、何をどうしたらよいのか、てんでわからなかったのだ。 大の仲良しのポポロには相談できない・・・・・・ポポロはきっと言うだろう。"ちび、わかったよ。僕に任せて！”と。それは有り難いことだけれど、ちびモグラは自分自身でそのことを準備したいのだった。 トルネコさんは・・・・・・いや、トルネコさんもきっと何か考えているのだ。それに、トルネコさんも驚かせてやりたいのだ。相談できない。 ネネさんは・・・・・・・ちびモグラに悲しいことや困ったことがあるとネネさんはいつもそれを察知してつやつやした灰色の毛皮を優しく撫でてくれる。そうすると元気が出てきていい考えが浮かぶのだが・・・・・いやいや、今度ばかりは駄目なのだ。今度のことでネネさんに相談しては絶対にいけないのだ。 上の空で前方不注意状態で荒地を歩いていたちびモグラは何かが足に絡まって転んだ。むっくり起き上がると、足に絡んだのは小さな落下傘の糸で、糸の先にはリボンを結んだ仄かに光る球根があった。光り物の大好きなちびモグラは小躍りした。今胸につけている赤いリボンを通したきらきらひかるガラス玉はもちろん大のお気に入りだが、全体がぼうっとひかる球根もとても素敵に見えたのだ。お誂え向きに、球根には赤いリボンが巻かれていた。あれを使って首に下げたら・・・・・・ しかし、ちびモグラはすぐにそれを諦めた。赤ん坊の拳の大きさほどとは言っても、小さな体の彼にとっては一抱えほどもあった。首にかけたとしたら、そっくりかえりでもしない限りは歩けないだろう。・・・・ ちびモグラは少しだけ球根の皮をはがしてみた。そしてくんくんと匂いを嗅いだ。そしてほんのはじっこを囓ってみた。 苦い！ ちびモグラは球根を放り出した。 ごろんと転がる球根を睨み付ける。もうこんなものとは関わり合いになりたくない、とばかりに一度それをけっ飛ばし、荒れ地の上に転がしたまま歩き始めて・・・・・しかししばらくして止まった。 昔、洞窟のそばで暮らしていたとき、いたずらモグラの長老は言った。“種や球根を見つけたときには、必ず、何かに使うか食べるか土に埋めるかすること”・・・・それはモグラたちにとっては重要な掟だった。 ごろんと転がった球根を抱え上げる。・・・・・・・こんな荒れ地で埋めてはいけない。埋めるのならば肥えた土のところが必要なのだ。・・・・・それもまたモグラたちの掟だった。 小脇に抱えて森の中のぽっかりとひらけた場所まで運び、よさそうな場所に穴を掘って埋める。ちびモグラは前足から土をはたき落としながら、やれやれ、とんだ時間をとってしまった、と思いながらまた考え事を続けようとした。と、ちょろちょろと黒い小さな虫が土の上を歩いているのが見えた。その虫はちびモグラのよく知っている虫だった。幼虫は土の中の球根を食い荒らして育つ。その虫がさっきちびモグラが埋めた球根に向かってのたのたと歩いている。モグラは虫をつまみ上げると喜んで口の中に放り込んだ。、この虫はなかなか美味しい。虫の中では一番美味しい。・・・・・・・もちろんネネさんのアップルパイの足下にも及びはしないが。 ちびモグラは球根の傍らに腰を下ろして考え事をすることにした。またあの虫がやってくるかもしれない。ただ待っていてあの虫が手に入るのならこんなにいいことはない。冬ではあったけれど、ぽかぽかとしたお日様を体に受け、ちびモグラはそこで一日過ごした。 その次の日もちびモグラは球根を埋めたところに来た。・・・・・よい考えは相変わらず浮かばなかったが、どこで考えても同じだったし、同じ考えるのならまたあの美味しい虫に出会えるかもしれないここがいいと思ったのだ。 と、ウサギが一羽、じっと球根を埋めたところをみていた。そこには埋めたのが僅か一日前なのに、そしてこんな寒い季節に芽をだす植物などそうそうないはずなのに、もう小さなうす緑色の芽が顔をのぞかせていた。ウサギは・・・・あからさまにそれを囓って味見しようという気まんまんのようだった。冬枯れの森の中、季節違いに土からでてきた若芽はそれが初めて見るものだったとしても、動物たちにとっては格好の食べ物に違いない。しかし、ちびモグラがキイッ！と威嚇の声を上げると、ウサギは逃げていった。 ちびモグラは昨日と同じように腰を下ろした。一生懸命考えたけれどまだよい考えは浮かばない。・・・・・・・ウサギはもう一度やってきた。しかし、そばにちびモグラがいるのを見ると、そのまま森の奥に跳ねていった。 その次の日からちびモグラは球根のところに来続けた。美味しい虫ははじめの一匹以外やってこなかったが、来るたびに成長する球根を見るのが楽しくなったのだ。ちびモグラはみずみずしい葉についたアブラムシを手で払ったり、まだしつこくやってきていたウサギを追い払ったりした。 何日も何日も時がたった。ちびモグラはしょげかえっていた。明日までになんとかしなくてはいけないのに、よい考えはちっとも浮かんでくれなかった。自分はちびすけの魔物でしかない。人間のようにお金でものを買うこともできないし、何かをつくろうにも前足は土を掘ることにしか能がない。とぼとぼと歩いてきた彼は小さな小さな丸い息を吐いた。そしたゆっくりと目をあげた。 彼は黒いビーズのような目を一度めいっぱい大きくするとにこにこと笑った。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ トルネコ家の食卓には所狭しとご馳走が並べられていた。青と白の縦縞シャツの上からエプロンをつけたトルネコが甲斐甲斐しく二つのグラスにワインを、一つのコップとそのそばのおもちゃのようなコップにはジュースをつぐ。 「ママ！お誕生日おめでとう！」 ポポロが差し出したのはいろいろな色合いの木の実にひもを通して作った腕輪だった。素朴だがそれはネネによく似合っていた。 「私からはこれだよ。」 トルネコが一面に刺繍が入っている暖かそうなショールを肩にかけた。 「ありがとう！本当に素敵な誕生日だわ！」 ポポロを抱きしめ、トルネコのほおにキスする。と、ちびモグラがだーっと部屋から飛び出していった。 「どうしちゃったんだろ？ちび。」 ポポロが訝ったが、ちびモグラはすぐに戻ってきた。手には蘭に似たうす紅色の大輪の花を持っていた。そのまま走ってきてネネに差し出す。 「・・・・・・・・冬に、こんな綺麗なお花が？ありがとう！ありがとう！ちびちゃん！」 抱き上げられて頬ずりしてもらい、目を細めるちびモグラは本当に幸せだった。 「よし、よっと・・・・・・・これでどうかね？」 トルネコがネネの髪にその花をとめるとそれは本当によく似合っていた。ポポロがママ、綺麗だよ！お姫様みたいだ！と言うと、トルネコがエプロンを外し、芝居がかった調子でお辞儀をし、手を差し出す。 「それではお姫様、ダンスを踊っていただけませんか？」 ネネがトルネコの手をとるとトルネコは調子っぱずれのでたらめの歌を歌い始め、それに併せて二人は踊った。父親の歌にあわせて拍手するポポロの肩に乗ってちびモグラも拍手した。そしてこう思った。 今度光る球根が落ちていたら、囓ったり睨んだり蹴飛ばしたりせずにすぐきちんと土に埋める、と。 尚、その後、森の球根は、花を咲かせるやいなや待っていましたとばかりにちびモグラがネネさんのところに持っていき、花に栄養がまわることなく、地面の下の球根を太らせるため、年を経るに従って、ますます花は大輪となったという。 |
| DQ4とは言っていますが、だいぶオリジナル設定を入れてしまったこのサイトのDQ４長編に登場したトルネコ家に居住するちびモグラの話です。 何気ない日常の一コマを予定調和で。しかし、囓ってみて美味しかったら全部食べちゃってたと思います。はい。 |