街道沿いに落ちた球根
（幻想水滸伝２ 幼馴染三人組）
「あー！見て見て！あれ、あそこ！何だろう！」 街道を歩いていたナナミは、青い空にぽっかりと浮かんだ白い落下傘を見つけ、言うが早いか駆け出していた。僕とヒエンも後を追うが、背負っている荷が割と軽めで（といっても通常ナナミくらいの年の女の子が背負うには驚異的な重さの）、俊足のナナミには追いつけない。途中で追うのをやめて大きな木の根元でナナミが戻ってくるのを待った。 僕らはあれからずっと旅を続けている。どこにいくという強い目当てのない旅だが、僕ら三人はこの前の戦のときに巡った町や村をすべて訪問することをひとまずの目的としていた。戦の時には馬を使い、わき目もふらずに先を急いで戦ってきた。・・・・少なくとも僕はそうだった。同じ戦いの場にありながら、ヒエンやナナミは僕が見ていなかった・・・・・見ようともしなかったことをいろいろ見てきたようだ。旅の中で二人はそれを僕に教えてくれる。僕が帝国軍に属していた時、二人の敵となっていたときに体験したこと、出会った人々、考えたこと。・・・・・・・僕はそれを聞いて、心が痛くなることも多い。彼らの仲間には、帝国軍によって命を落とした者もいるのだから。しかし、彼らから聞く話の多くは僕の心を温かくし、安らかな気持ちにしてくれる。 “これから何をするかはゆっくりと考えようよ。” 二人はそういってくれる。 穏やかなヒエンも、元気印のナナミも最大限に僕を気遣ってくれている。支えてくれる。僕も・・・・・二人を支えているだろうか・・・・ そんなことをふと考えていたが、けたたましいナナミの声が僕を現実にひき戻した。 「ねえねえ！見て！こんなのがついてたよ！」 ナナミが掲げ持った白い落下傘にはピンクのリボンが巻かれた球根がぶら下がっていた。 「・・・・・・・これって、育てて下さい、ってことだよね？」 ナナミが弟の顔を覗き込むとヒエンは頷いた。 「たぶんね。でも不思議だなあ、どうして空の上から？ジョウイはどう思う？」 「高い山に登って谷底に投げたら気流にのって長距離とぶってことがあるかもしれないよ。」 「ふうん、そうか、そうよね！」 そして僕はナナミの次の台詞が容易に予測できた。 「ようし！拾ったのも何かの縁よね！やっぱりこれは」 ほらほら・・・・ 「お花、咲かせてあげなくっちゃね！」 このとき、僕の頭には、大きな植木鉢に植えられた球根を背負い袋の上にくくりつけられて歩いているヒエンの姿が咄嗟に浮かんだ。どうやらヒエンも同じようなことを考えたらしく、僕ら二人は顔を見合わせて苦笑した。 「ようし！そうと決まれば（誰が決めた？）準備ね！ん〜、と。」 ナナミはあたりをぐるりと見渡すとたたたた、と走っていった。ああ、ナナミはいつでもこうして走っている。そして僕らはずっと彼女のあとを追いかけている。 ヒエンと僕が追いつくと、ナナミは柔らかな草で覆われた小高い丘の日当たりのよい斜面にしゃがみ、彼女の武器である三節棍の先で土を掘っていた。 「あれ、ここに埋めてしまうのかい？」 僕がいうとナナミはきょとんとした。 「埋めないでどうやって花が咲くの？」 「・・・・だって、ここに植えたら、芽が出て花が咲いても僕らにはわからないよ。」 ナナミは可笑しそうに口に手をやった。 「ジョウイったらまっさか、植木鉢に入れて持っていこうとか思ってたの？」 ・・・・・・・・・・・・・・これはいささか心外だ。僕もヒエンも自分ではそんなことは思わないが、ナナミは絶対にそう思っていると確信していたのだから。ナナミからだけは言われたくない。 「・・・・・・・植木鉢なんかじゃ咲くものも咲かないかもしれないでしょ。ヒエンは覚えてるよね？キャロの町の家で、私たち、ゲンカクじいちゃんと一緒に裏庭で野菜を作ってたの。ジョウイも見たことあったよね？」 そういえば・・・・・ナナミとヒエンに得意そうにネギだのニンニクだのの自慢話をされたっけ。そしてよりによって僕の大嫌いなニンジンの束を押し付けられもした。・・・・あれはわざとだと思う。 「ゲンカクじいちゃんは、野菜の世話をしながらよくこういってた。“人間も野菜も似ているところがある。良い土に巻かれたものはよく育つ。いくら良い種でも、痩せた土では育たない。・・・・・よく覚えておきなさい。おいしい野菜を育てようと思ったら、日当たりの良い場所に良い土を用意し、水を絶やさず与えることだ。あとは野菜そのものが持っている育っていく力に任せるしかない・・・・”って。そりゃ、私も葉が出て蕾ができて花が咲くのをずーっと見られれば楽しいな、って思うわ。でも、植木鉢は球根にとって決して“良い土”じゃないよね。・・・・・・この場所なら日当たりもいい。土もいい。私はここに埋めるところまでしかお手伝いできないけれど・・・・あとはきっとこの球根が頑張って花を咲かせてくれるわ！」 ヒエンの方を見ると、彼は、うん、うん、と頷いていた。 「それにね。私、この球根の花が咲くの、見られるかもしれないって思ってるよ？」 顔を見合わせる僕ら二人にナナミは目を細めていった。 「この街道は、キャロの町に帰るときに必ず通る道でしょう？季節が合えば、きっと花を見られるよ。」 僕らの故郷、キャロ・・・・・思い出したくない思い出が沢山つまった町。僕は父の血をひいていないということで母を除く家族から疎まれ、ヒエンとナナミは孤児であることと“臆病者”のゲンカクの養子であるということで苛められ・・・・戦の始まりのとき、“味方を敵に売り、その結果多くの死者を出した”という濡れ衣を着せられて連行される僕とヒエンに町の人々は罵声を浴びせかけ、石を投げるものさえいた。僕たちを助けようと奮戦したナナミも、きっとひどく辛い目にあったことだろう。 それでもナナミはキャロの町を嫌わない。 “辛いこともあったけれど優しい言葉をかけてくれた人がいた。自分を思いやってくれた人がいた。そしてなによりゲンカクじいちゃんが自分たちを育ててくれた場所だから。ヒエンと、ジョウイと出会えた場所だから、私はキャロが大好きだよ。” と彼女は言って、そこが帰って行く場所だと信じて疑わない。 「何年先になるかはわからないけれど・・・・・・キャロに戻るときに必ずここに寄ろうね！」 僕は曖昧に頷いたが、ナナミの笑顔を見ていて、きっと自分はいつの日にか彼らと一緒にキャロに戻っていくのだろうな、と漠然と思った。 「よ〜し、これでOK！」 球根を植え、水筒から形ばかり水をかけ、ナナミは立ち上がった。 「それじゃぁしゅっぱ〜つ！」 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ それから随分長い時間がたったあと、僕らはこの場所を再び通ることになった。・・・・・・・そこには一つの茎に小さな白い花が三輪ついた植物が丘を埋めるように咲き乱れていた。 |
| 幻想水滸伝２の３人組です。本当の彼ら（特にジョウイ）はもっと暗く重たいものを抱えていると思うのですが、私が文を書くとずっと幼い感じになってしまいます。・・・・そして何故かいつもジョウイの一人称・・・・よく考えると一人称で書いている話って幻水だけですね。 彼らの旅の結末はゲームでは明かされていませんが、キャロの町に戻ってゲンカクじいちゃんの道場を再興させて欲しいです |