そして・・・・・ 手鏡を一心に覗き込んでいた小悪魔は、泣いたり笑ったりしていたが、最後の世界を見終わると、黙りこんでしまった。 「どうしたの？」 天空人の女性が聞くと、小悪魔は女性を見上げて寂しそうに言った。 「これはおばさんの魔法のせいなんでしょう？・・・・・・・今、おいらが見た人たちは、おいらの球根を大切にしてくれた人ばかりだった。でも、おいらは知っている。世の中には球根なんかに目もくれない人もいるってことを。それだけじゃなくて踏みにじってしまう人もいるってことを！ねえ、おばさんの魔法だったんでしょう？おいらを慰めてくれるために、おばさんが、おいらの球根を大切にしてくれる人のところにだけ球根を送ってくれたんだ！ああいう風に綺麗な花を咲かせることができる優しい人のところにだけ送ってくれたんだ。」 女性はゆっくりと首を横に振った。 「そ、そんな、気を使わなくっていいんだよ。おいらは悪魔だし、ひとりぼっちだし、誰かに相手にされなくたって、どうってことないし、だから嘘なんてつかなくっても・・・・」 「私の魔法ではそんなことはできないわ。・・・・・・・・魔法をかけたのはきっとあなたよ。」 「おいらが魔法!?冗談をいわないでよ。おいら・・・・・・おいら、魔法なんて使えないんだよ？」 女性は小悪魔をじっと見つめた。 「あなたはどんなことを思ってあの球根を育てたの？」 小悪魔は少し考えてから、もじもじしながら言った。 「喜んで欲しいな、嬉しいと思って欲しいな・・・・・って思って育てたよ・・・・・・」 白い手が小悪魔の紫色の背を撫でた。 「そういうあなたの気持ちが、球根の力を必要としている人のところ、必要としている場所に球根を送ったのだと思うわ。そして花を咲かせたのはあの人たちの力だけじゃない。あなたの力も入っているのよ。あなたが思っていること、考えていることはあんなに綺麗なことなのよ。」 小悪魔はしくしくと泣き始めた。悲しくではなくて、嬉しくて泣いた。女性は勢いよく立ち上がった。 「さて！私はもう行かなくちゃ。・・・・・・・・私にも球根をくれないかしら。」 その言葉を聞くがはやいか、小悪魔は花園の端まで走っていって、おおぶりの球根を掘ってくると、急いでオレンジ色のリボンをかけて女性に差し出した。 「・・・・・・・・・・その手鏡も持っていらっしゃい。・・・・・・・・・私が呼んだらそれを見て御覧なさい。・・・・・・・・きっとあなたが一番みたいものが映っているようにするから・・・・・・・・あなたが見たいものはきっと私が見たいものでもあるから。」 それはどういう意味なの？と小悪魔が聞く前に、転移魔法によって女性の姿は掻き消えていた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ それからどれくらい時間がたったろうか。小悪魔は誰かに呼ばれたような気がして花を手入れする手をとめた。 （もしかして・・・・・！） いつも持ち歩いている手鏡を籠から取り出した小悪魔はそこに映ったものに見入った。 「おかあさ〜ん！おとうさ〜ん！はやく〜！」 金髪の可愛らしい女の子が両親を呼んだ。彼女の兄弟・・・・活発そうな金髪の男の子は広々とした花園に歓声をあげてそこいらじゅうを駆け回っている。 「本当に綺麗な場所・・・・・素敵ね・・・・・あなた。」 「ああ、こんなところがあったなんて僕も知らなかったよ。」 兄妹の両親は馬車から荷物を降ろした。大きな敷物をシーツのようにばさっと拡げ、その上に、菓子や飲み物の入った籠を所狭しと並べる。さっきまではしゃぎまわっていた男の子は、大切な友達の名前を呼んだ。 「ボロンゴ〜！おいで〜！」 鋭い牙を生やした、小さな馬ほどもあるキラーパンサーが走ってきて嬉しそうにじゃれついた。 「おい、わあっ！気をつけてよ！ボロンゴは重たいんだからさ！」 女の子が馬車に向かって叫ぶ。 「みんな〜！はやく〜！スラリーン！」 青い体のスライムが馬車から弾むように飛び出してきた。 女の子の母親も優しく呼んだ。 「ピエール！ドラキチ！ジョニー！ミニモン！皆、いらっしゃい！」 すると、何かが一斉に馬車から飛び出してきた。皆、魔物だ。・・・・そこには小悪魔そっくりの姿をした魔物もいた。大きい奴、小さい奴、人間に似た奴、似ても似つかない奴、可愛い奴、怖い感じの奴・・・・・・・・いろいろな姿をした魔物は、整然と敷物の上に座る。 「さ、ご飯にしましょ！」 紫色のターバンを身につけた、優しい瞳の青年王は馬車をここまで引いてきた白馬の首をとんとんと叩いて労った。 「・・・・・・・・・有難う、パトリシア、こんな素敵な場所に連れてきてくれて・・・・・」 白馬は嬉しそうに嘶いた。 小悪魔は鏡の中の光景をそれが薄れて見えなくなるまでずっと眺めていた。・・・・・・そして立ち上がった。・・・・・・・両手に球根を抱え、とっておきのリボンを巻く。 落下傘をつけた仄かに光る球根を小悪魔は雲のはしっこから遥か離れた世界に向かって落とした。・・・・・・・・・・彼を必要としてくれている、どこかの誰かの為に・・・・・ |
| ・・・・・・ドラクエＶが混ざりました。モンスターが仲間になるのが、当時としてはとても印象的でした。 ドラクエIV〜VIの馬車をひく馬は私の場合すべてパトリシアです。（あんなにたくさん乗った馬車を一頭で牽けるなんて只者じゃない＝実は同じ馬なのだ！）彼女が小悪魔にかけることばは、かつて小悪魔がアリーナにかけた言葉と全く同じ言葉です（覚えていていただけたでしょうか） それでは最後までお付き合いいただいて有難うございました。 |