史生姉さんの事件簿

「ただいまー！」 　正岡　優作が中学から帰ると、玄関先に、ロングブーツが置かれていた。 　(大きさからして男の人のブーツだよな。で、すげえ色なんだけど。) 　「姉ちゃん、誰かお客さんが来て……」 　ダイニングキッチンに入って、優作が固まる。そこには、テーブルを挟んで向かい合って座っている、姉と、無茶苦茶怪しい風体の紫色のガイジンさん(←実際は宇宙人)がいた。 　しかし、優作は落ち着いていた。姉のところには、様々なお客が訪れるのだ。いちいち驚いていたら身がもたないし、第一お客さんに失礼だ。 　(しかし、コスプレイヤーの人は初めてだよなあ。……俺、ああいうキャラクターは知らないけど……女子が好きなゲームとかに出てくるキャラなのかな？) 　奴がもし乙女ゲキャラだとしたら、それはゲームが乙女ではなくギャグにカテゴライズされるんじゃないかと思うが。 　(あの服よーっくできてるよなー。派手派手だけど、ペナペナじゃなくって、重厚感感じるっていうか。お金もかかっていそう。) 　そりゃあ、惑星一の仕立屋の仕事だからな。 　「あ、失礼しました。いらっしゃいませ。」 　史生は、ペコリと頭を下げた優作を手招きして呼び、傍らに座らせた。 　「？？」 　テーブルの上には史生手作りのオセロ盤が載っている。それを前に、ジンベエは唸っていた。 　「……えっと、あの、弟の優作です。」 　(なんでコスプレイヤーな人がここでオセロをしているんだろう) 　「ああ、優作、今、この人はオセロのことで頭が一杯になっているからきっと聞こえていないと思う。この人は、ジンベエ=フォン=シャークスコッチ、宇宙戦艦ギャラクティック・ジョーズの艦長にして司令官。帝国の第四皇太子でもあるそうだ。」 　「……そ、そういうキャラ設定なんだ？？」 　「この世界の10周年アニヴァーサリーを記念して各ジャンルを訪問し、手ぬぐいを配って歩いていた。が、話し込んでいるうちに、この部屋にあるものにいたく興味を示したようで……今はオセロに熱中しているが、その前はベーゴマ回しやヨーヨーに興じていた。…………中々筋がいい。私も教えがいがあった。」 　ベーゴマやヨーヨーについては、名人級の腕をもつ史生が言うのだから、この見知らぬ人はどんなものでもこなす腕を持っているのだろう。 　(コスプレイヤーで、更に、児童館の子供たちのリーダー候補のガイジンさん……とか？ジャンル？10周年？何のことだろう？姉ちゃんはわかってるみたいだけど) 　「カードゲームについても知りたいというので、オセロが終わったらお前から説明してあげて欲しい。私は近頃のカードゲームについては疎いからな。」 　と、盤を睨んでいたジンベエはわはは、と笑った。 　「どうやら、私の負けのようである！史生殿は、『おせろ』にもまたよい腕をもっているのであるな！……しかし、単純でありながら実に面白いゲームである！我が艦のレクリエーションにも取り入れようではないか！……盤もそうであるがこの円形の駒は、手作りであるようだが。」 　「ああ、それは私が子供の頃に牛乳瓶の蓋の片側をマジックで黒く塗って作ったものだ。」 　「そうであるのか！……了解した！我が艦でこの競技を行うときにも、この地でのならわしに従うこととしよう。……こうしてはおれぬ。史生殿、おせろ、べえごま、ようよう……貴殿の教授法は厳しくも効果的であったぞ！弟御よ！」 　え、俺？と優作は自分を指さす。 　「かぁどげえむ、についてはまた後日教えを乞いに伺いたい。今は一刻も早く、おせろ、を我が乗員に紹介したいと思うのである！では！」 　ばさっ、と紫紺のマントを翻し、ジンベエは次の瞬間に消えた。 　テーブルの上にあった手ぬぐいを広げた優作が、姉ちゃん、これって同人グッズとかいう奴??と聞くと、史生は、アレは本物だ、と笑った。そして、はらり、と薄紫色の紙がフローリングの床に落ちた。そこに書いてあったのは…… 『宝物庫への招待状： Ｙ 』 ……余談であるが、その日からしばらくの間、絶滅危惧種である紙ブタつき牛乳を販売している店舗を探し当てては腰に手をあててごきゅごきゅと牛乳を飲む、ギャラクティック・ジョーズ乗員のの姿が、日本各所で見られたという。

彼女もまた「水島大学グループ」の一員。そして、サイト内でも最強の部類に入る人格の持ち主です。 そういえば、紙ブタの牛乳を最後に見たのはどのくらい前でしょうか……(物産展……だったかもしれません) 秋○原駅のミルクスタンドは各種のびんいり飲料が並んでいますが、紙ブタはほぼ絶滅してしまったようです…… ブラウザバックでお戻り下さい