風色サーフ

「誰か、居るであろうか？居るのならば伝えたいことがあるのである。」 　ロビュ小隊のドックに朗々と響いた見知らぬ男の声に、コクピット内に屈んで作業していたオズウェルは、その丸い頭をひょこっともたげた。 　「おお、そこにいたのであるか。」 　オズウェルは強烈な違和感を感じた。……整備中のオオルリは台車の上に乗せられている。そして、声はその斜め上方から聞こえ、実際自分も視線を斜め上にしてその男を見ている。……つまるところ男は宙に浮いている、ということになる。 　「！！…………お前！どうやって浮いている!?」 　そこかい!? 　すると、ジンベエは一度床に降り、首を捻った。 　「どう、と言われると、説明しにくいのであるが…………特に何をするというわけでもなく」 　そして、浮く。 　「このように浮けるのであるが。」 　さしものオズウェルも冷静ではいられず、不機嫌な表情はいつものままだが、口をパクパクさせている。 　「ん？どうした？口で呼吸しているとは、鼻がつまりきっているのか？もしもそうなら飛騨の山奥の御老人より頂戴した秘薬を持っているが。」 　「そんなことじゃあない！人間が浮くはずがない！浮くはずがないんだ！物理法則を勝手に捻じ曲げるな！……こ、これは夢だ。悪夢だ。そうに違いない。」 　すると、そこにエリカが入ってきた。オズウェルは怒鳴る。 　「おい、お前、そこに人間が浮いているように俺にはみえてしまっているのだが、これは夢だな。そうなんだろう？夢だと言ってくれ！」 　すると、エリカは、マントをはたはたとはためかせているジンベエを、きらきらとした瞳で見つめた。 　「すごいです！浮けるなんて！オズウェル、これは夢じゃないわ。確かに信じられないけれど、びっくりしている場合じゃないわ。事実はきちんと受け入れなくちゃ。どうして浮けるのか、この方に伺って解明しないと！」 　と、そこに小さな人影がエリカに続いてやってきた。 　「むぅ、その仰々しい装束は、どこぞの頭がいかれた大シュレス主義の貴族のボンボンであるかの？……人を訪問する時には地に足をつけておくがよいぞ。」 　ジンベエは降りてきて、ひざまずいた。 　「これは失礼をした。確かに、『上から目線』というものはよろしくないものであった。ひとまずこれはアニヴァーサリーの記念品なのである。お納め願いたい。」 　床の上に手ぬぐいを積み上げるジンベエ……一番上には「目録」。どうやら、この場に居る者の分だけではなく小隊全員とロランドの人々にも行き渡るよう手ぬぐいを用意しているようである。 　「わかればよいのぢゃ。ふむ、そこの丸頭は随分と動転しているようじゃが、この程度のことで慌てていては大きな人間になれぬよ。川が海から逆流し、日が西から上るとも、我らは冷静に対処せねばな。丸頭よ、おぬしもまだまだ若いのぉ。のぅ、金髪のエース殿の嫁御よ。」 　すると、ナカジマの笑い声が響きわたる。 　「こりゃあ確かに凄いもんを見ちまったな。大陸大戦を経験したものでも、中々すっとは受け入れられねえだろうさ。オズウェル、気にするこたぁねえ、エリカや公女さんが無暗に肝が据わってるちゅうことだ……で、どうなんだ、紫色の若ぇの。実際のところ、どうやって浮いてるんだ？」 　「うむ。そう質問されると、なんとか理論だてて説明するのが筋であろうな。貴殿らの知識欲に拍手を、知恵の女神からの祝福を！ハレルヤ！」 　マントをはためかせ、華麗なポーズを決めるジンベエ、目を輝かせてジンベエの話を待っているエリカ。うむうむ、と何やら頷いているエルネスティーネ、上機嫌なナカジマ。オズウェルはコクピットに潜り込んだ。 　(俺は何も見なかった。人間は浮いたりしない。絶対しない！これは夢だ、夢なんだ！) 　しかし、その手にはしっかりと紫色の手ぬぐいが握らされており、それは、いつも使っているタオルより丈夫で吸水性もよさそうで……物凄い存在感があった。そして、手元にひらりと舞い込む、薄紫色の紙。 『宝物庫への招待状：　Ｒ　』

2009年6月から開始………………なのに既に短編が63。 世間的にはマイナージャンルですが、私にとって記念碑的な作品です。まだまだ書かずには終われないネタがいくつも…… 需要なくとも突っ走ります!! ブラウザバックでお戻り下さい